Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/fde593fdd16525ef3bee4cdeb1608ccc5d375ca9
NPO法人“Mother’s Tree Japan”の活動を支える坪野谷知美さんは、オンライン相談会や保育士、産前産後ケアセラピストの経験から、外国人、なかでもアジアの国のお母さんのおおらかな子育てに触れることがあるといいます。それは、一貫して他者と比べることなく「私は私でいい」というある意味の自尊心をもっているからだといいます。一方日本人のお母さんの多くは、「いい母親像」に縛られ苦しんでいるように見えると話します。 産前産後期の外国人のお母さんをサポートすることから始まった“Mother’s Tree Japan”の活動が次にめざすのは、「多文化共生子育て」。「笑顔で生きてくれてさえいればいい」とおおらかに子育てしている文化の国のお母さんと日本で子育てをするお母さんの交流です。 【画像】Mother’s Tree Japanのサポートで無事に赤ちゃんを産んだ外国人ママ 後編「日本で暮らす外国人のお母さんと日本人のお母さんの『多文化共生子育て』をめざして」では、外国人と日本人のお母さんの子育てに対する考え方の違いを中心に話を聞きます。
日本人のお産や子育てのあり方を押し付けられ、傷つく外国人のお母さんたち
――― “Mother’s Tree Japan”の具体的な活動を教えていただけますか? 坪野谷知美(敬称略、以下坪野谷):産前産後や子育てのスタート期である1歳ぐらいまでの時期に特化して、日本に住む外国人のお母さんたち一人ひとりに寄り添って、通訳や病院などへの付き添いサービス、オンライン相談等を提供している団体です。情報提供はもちろんですが、特に文化理解に基づいた寄り添いを大切にするようにしています。現在は日本語のほか、英語、中国語、タイ語、ミャンマー語、ベトナム語、ネパール語の6言語に対応しています。 スタッフは、保育士や看護師、助産師、産前産後ケアセラピスト、産後ドゥーラ、元JICAの職員など、さまざまな資格や経験をもっています。 ―――お産に対する考え方も、日本と外国では違うのでしょうか? 坪野谷:いいか悪いかは別問題としても、例えば、アジアの国、タイやミャンマーでは、思っている以上に女性の権利が守られていますから、自然分娩か無痛分娩か帝王切開かというチョイスができるんです。 一方で日本は、良くも悪くもまずは自然分娩、帝王切開はその次という順番になります。もちろん、自然分娩の方が予後はいいからなのですけれど、外国人のお母さんたちが最初に戸惑われるのはそこですね。「チョイスがないの?」って、皆さんびっくりしています。 次が体重制限の厳しさ。基準が変更されても、外国人のお母さんたちのなかにはまだまだ体重制限に悩まされている人はいます。●キロ以上増えちゃいけないと言われて悩んでいる人もいます。お母さんたちが運動不足だったり、西洋人に比べて骨盤が小さかったりという理由があってのことなのですが、それを説明せずに「●キロに抑えて」とか、「甘いものは食べないで」とか、それだけを伝えてしまうと、皆さんすごく戸惑われるようです。 ――― “Mother’s Tree Japan”のオンライン相談会ではどんな話題が出るのでしょう? 坪野谷:最近のオンライン相談会での話ですが、同じベトナム人と結婚されているお母さんはベトナム式の子育てをしていて、「子どもがサツマイモを好きだから離乳食もサツマイモをあげていたよ。保育園に行くようになったらちゃんとサポートしてくれるからあまり神経質にならずに子育てをしていた」と話していました。それに対して同じベトナム人でも日本人と結婚されいるお母さんは、マニュアル通りに離乳食をあげているうちにノイローゼぎみになってしまったそうです。でも、同郷のお母さんに励まされて、とても明るい笑顔になっていました。 最近は「赤ちゃんは自分に必要なものをちゃんと食べる」といわれていますから、まず食べることが楽しければいいんじゃないかと、私も思います。 ――― 日本人のお母さんのなかにも、「こうしなくてはいけない」とがんばっているかたはいますよね。 坪野谷:そこなんです。日本のお母さんたちは外国のお母さんのおおらかな子育ての話を聞くことで、「こんなに頑張らなくていいんだ」と、ある種の「理想のお母さん像」から解放されるだろうなと思っています。 私たちのタイ人のメンバーは、子どもが歩きながら食べていても全然怒りません。テーブルに座って食べなくても、一応「ダメよ」と声はかけますが、おもちゃで遊んでいるすきに口に突っ込んでいる(笑)。「生きていて、元気で、笑顔でいてくれればいいから」、そう言うんですよ。 日本のお母さんを見ていると、周りと比べて「きちっとした母親にならなければ」という呪縛にとても苦しめられているなって感じます。加えて社会や周りから無言の圧力をかけられることもあってすごくつらく見えることもあります。 ――― 日本人と外国人のお母さんの悩みの種類が違うのでしょうか? 坪野谷:ずっと日本人のお母さんたちのカウンセリングをしてきた私は、外国人のお母さんたちのカウンセリングを始めたとき、日本人のお母さんと同じような悩みをもっているのかなと思っていましたが、実は違うんです。 外国人のお母さんは、文化的な自尊心を傷つけられるとすごく悲しむんです。だから、日本人のお産や子育てのあり方を押し付けられたとき、本当は「違う」と心の中で思っているんです。 でも、「私は私でいい」という意味での自尊心を皆さん持っているので、他者と比べるということはありません。周りのお母さんに比べて自分を責める人はすごく少ないなと感じます。でも、日本のお母さんとなかなか友達になれないと思っているんですね。だから、これからは日本のお母さんと外国のお母さんが交流する場を作ることに積極的に取り組んでいこうと思っています。
「笑顔で生きてくれてさえいればいい」。おおらかに子育てする異文化の国のお母さんたちと交流して
――― “Mother’s Tree Japan”では、外国人のお母さんのお産のときに使う「指さしお産ボード」を開発されたそうですね。 坪野谷:はい。「指さしお産ボード」を開発するとき、何人かのお医者さんや看護師さんに相談したんです。でも、「Google翻訳で伝わるからいらない」って言われてしまいました。でも、お母さんたちの言いたいことや聞きたいことが、翻訳機で伝わるなんて思えなくて、これが日本の現状なんだと思いました。外国人のお母さんたちの「自分の言いたいことが伝えられないことが苦しい」ということはやはり理解されていないと思って、悲しかったです。 先日、コロナ陽性になったミャンマー人のかたが緊急帝王切開になりました。そのときは幸いにもミャンマー語の通訳がたまたま空いていて即時サポートに入ってくれました。彼女たちは、通訳がいなければ誓約書の内容すらわからないんです。何にサインしているのかわからないまま緊急手術の準備が進んでいきます。病院側もそんななかお母さんの不安な気持ちを丁寧に聞いて答えてあげられるような余裕ありませんからね。お母さんはトラウマになっちゃうと思います。 ――― 言葉が通じないかなと思うとなかなか気軽に話しかけられないのですが、外国人のお母さんが近くにいたら、私たちはまずどうしたらいいですか? 坪野谷:「どこの国の人なんだろう?」「何語を喋るんだろう?」などは考えずに、「こんにちは」とだけ日本語で声をかけてあげてください。それだけで「この人は自分のことを奇異な目で見ていないんだな。気にかけてくれているんだな」ということが伝わりますから。「こんにちは」と声をかけてもらうだけで本当にうれしいと皆さんおっしゃいますよ。 ――― “Mother’s Tree Japan”として、坪野谷さん個人として、今後めざし指していきたいことはありますか? 坪野谷:今はコロナ禍で難しい状況ですが、外国人のお母さんと日本人のお母さんの「多文化共生子育て」に取り組んでいきたいと考えています。 歯がためひとつにしても、まじめな日本人のお母さんは、「木製がいいですか? プラスティックではダメですか?」と気にします。でも同じアジアの国のお母さんは「パンの耳をカリカリに焼いてしゃぶらせておいた」「キュウリを四つ切りにしてくわえさせておいた」なんて話しています。国や人によって違いはあるにせよ、そういう考えや子育てを知ることで、日本人のお母さんはそれまでの緊張感がパラパラと溶けていくと思うんです。また、赤ちゃんを囲んで世界の子守歌をみんなで歌って脈々と続いてきた文化のなかで子どもが育っていくことが実感できれば、いろいろな意味で自分の心を苦しめてしまっていたものが溶けていくと思うんですよね。 悩んでいる日本人のお母さんに、「笑顔で生きてくれてさえいればいいんだ」とおおらかに子育てしている文化の国のお母さんたちとぜひ交流してほしいし、そういう場所を提供したいと思っています。 取材・文/米谷美恵 写真提供/Mother’s Tree Japan 最近、地下鉄の中で見た光景です。二人の子どもを連れたお母さん。座席は全て埋まっていて座る場所はありません。間もなく3歳くらいの子どもが、「座りたい」とぐずり始めたのです。赤ちゃんを抱っこしているお母さんはどうすることもできず、周りを気にしながら「静かにするのよ」と子どもに言う声がだんだん大きくなっていきました。すると、親子の前に座っていた80代くらいの女性が、「おばあちゃんが抱っこしてあげる」と声をかけたのです。一瞬キョトンとしていた子どもはスッとおばあちゃんの膝の上に乗りました。その様子を見ていたお母さんも戸惑いながらなんだかうれしそうです。外国人でも日本人でも困っている人がいたら、まずは「こんにちはと声をかけてください」と話す坪野谷さんの笑顔を思い出しました。 ●記事の内容は記事執筆当時の情報であり、現在と異なる場合があります。
坪野谷知美さん
PLOFILE 幼少期を香港とイギリスで過ごす。 早稲田大学史学科を卒業後保育士になり、主に乳児保育と子育て支援に携わる。その中で産後ケアの必要性を痛感して産前産後ケアセラピストに転身。お客さんとして訪れる在日外国人ママたちの声を聞き、サポートの必要性を感じて2020年NPO法人Mother’s Tree Japanを設立。
たまひよ ONLINE編集部
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