Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/d4aac24f6957c363b695989f6eb96c9eec3598a8
一病息災
有名人に、病気や心身の不調に向き合った経験を聞く「一病息災」。今回は、元自民党総裁の谷垣禎一さん(77)です。 【写真3枚】2012年9月、自民党総裁選で安倍晋三さんと握手する谷垣さん
障害者として、政治の舞台に戻ろう――。リハビリ専門病院に入院中、何度もそう思い巡らせた。周りの期待も感じていた。 衆議院事務局と国会内での車いす移動などについて相談していた時期もある。だが、リハビリを続ける中、身体面だけを考えても、復帰は「かなり無理な話」との思いに至った。 自転車事故から1年あまりが過ぎた2017年9月、政界引退を発表した。 「(国会議員は)好きだからやる、という仕事とは違いますからね。公務ですから、それなりのことができないと……」 ただ、障害がある政治家だからこそ、気づけたことがある。例えば、「自助」の大切さだ。 自助を基本とし、共助・公助はそれを補う――。野党時代の自民党総裁だった12年に掲げた党の基本原則だ。後に、菅義偉前首相が、政策の基本理念に「自助・共助・公助」を打ち出し、政治家が自助を真っ先に挙げるのは「弱者の切り捨て」と批判された。 「でもね、『自助』とは『これをしたい』という意欲や目標を持つことで、けがをして改めて何より大事だと思いました。いきなり保険制度を案内されたら、自発性はしぼんでしまいますから」 ささやかな「自助」でもよいと思う。「長命寺の桜餅が食べたいとか、もう一回、菊五郎の芝居が見たいとか。でも、実際に車いすで出かけるのは、なかなか大変ですけれどね」
腹筋のトレーニング 体を起こすと視線の先に見えるもの
自宅リビングの壁に、岩山の頂で、力強く片手をあげる男性の写真を飾っている。登山家の故・今西寿雄さんが1956年、ネパールのヒマラヤ山系マナスルに、世界初登頂した姿だ。 できるだけ毎日、1時間弱のトレーニングをする。電動車いすの背もたれを倒し、腹筋を鍛えるため、体を起こすと、視線の先にはあこがれの人がいる。眺めては、初登頂までの厳しい道のりを想像する。 「相当きつかっただろうと思うと、『よし自分もがんばろう』となるものです。今西さんというレジェンドからの励ましが、私のリハビリには欠かせません」 マナスルだけではない。50~60年代、世界中の8000メートル峰が次々に踏破されていった。その快挙に影響を受け、麻布中高、東大では山岳部に所属。大学では授業より登山に熱中し、卒業まで8年かかった。 「いつか未踏の頂に挑戦したい」との願いはかなわなかった。弁護士2年目の83年、急逝した父の後を継ぐため、衆院選に立候補して以降12回の当選を重ね、休む間はなかった。 2021年夏の東京パラリンピックでは、バリアフリー施策を検討する東京都の有識者会議の名誉顧問を引き受けた。 「障害を持つ人にとって、選手がレジェンドになるのではないか。活躍を目の当たりにすれば、『自分にも何かできる』という意欲につながる」。自宅でテレビの画面越しに声援を送り、そう確信した。
お酒を飲む動作も、できることは人によってさまざま
自転車事故で頸髄(けいずい)を損傷し、首から下にまひが残った。あれから6年、リハビリの場などで多くの仲間と出会った。 ある日、手にまひがある友人と、天ぷら店に行った時のことだ。とっくりを傾け、日本酒を杯についであげると、「その動き、僕はまだですね。次に会う時までに、できるようになりたいな」と言われた。 脚の細いワイングラスを口元まで運ぶ、焼酎の瓶のふたをひねって開ける――。お酒を飲む動作一つとっても、できることは人によってさまざま。「頸髄損傷」や「手足のまひ」などの共通項があっても、誰一人同じ状況の人はいない。 「みんな違うけれど、『負けていられない』という気持ちもある。お互いに刺激しあう仲間なんです。一人だったら、頑張り続けるのは難しいでしょうね」 7月、尿路感染症による高熱で寝込んだ。食べないでいると体重が減り、苦労して鍛えた筋肉が落ちてしまう。以前より、取り戻すのに時間がかかった。 それでも週3回、病院やジムでのリハビリは続けるつもりだ。最新の機器を使った歩行訓練にも取り組み、支えがあれば、少しずつ歩けるようになった。「大それた目標は持ちませんよ。歩ける距離をちょっとでも伸ばしたい。ここからのリハビリは、寄る年波との競争ですね」(影本菜穂子)
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