Source:https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200513-00627339-shincho-soci
帰国もアルバイトもできない
GWの連休中、ベトナム人の“駆け込み寺”として有名な「NPO法人日越ともいき支援会」(東京都港区)では、朝から晩まで、緊急物資の仕分けと配送の対応に追われていた。
寄付で集まった米や野菜などの食料ほか、マスクなどを、要望のあった1600人以上に届けるという。宅配便の配送料だけでもかなりの額になるはずだ。
「主な送り先は留学生や技能実習生です」と言うのは代表の吉水慈豊さん。コロナ禍でアルバイト先や実習先での仕事を失った留学生や技能実習生が増えているのだ。「中には突然の解雇を言い渡されて泣きながら電話してくる子もいますし、授業料が払えずに留学ビザが切れてしまい、帰国もできず、アルバイトもできずに困っている元留学生もいます」。
物資の送り先リストには、全国各地の住所と名前が並んでいた。多くは一人暮らしのようだったが、中には、同じ住所に8人、9人で共同生活している人たちもいた。
物資の配送の作業に当たっていたのは、職を失って保護されている技能実習生やボランティアとして手伝いにきていた留学生だ。
その中のひとり、ホーチミン出身のファン・ホァイ・バオ君(19)は、来日して約1年、東京・両国の日本語学校に通う留学生である。
「アルバイトはココイチとソバ屋さん。ふたつしていましたが、コロナでソバ屋さんが休みになって、働けなくなりました。仕方ないです」
留学生は「基本的に週に28時間まで」というアルバイトの時間制限があるが、バオ君はこれまで2店舗を掛け持ちしながら時間の調整をしていた。
「ココイチで働く時間を少し増やしてもらいましたが、お金は半分になっちゃった。(月額で)だいたい5万円」
この状態が続くとキツいと漏らすが、「留学生も10万円(の給付金を)もらえますから、仕事がぜんぶなくなった人よりはいいです」。
ベトナムは、今回の新型コロナウイルス感染症による死者数がゼロという珍しい国だ(5月11日時点)。現地の両親は東京で暮らすバオ君を心配している。だが、彼自身は留学を続けるつもりだ。
「専門学校か大学か、まだわかりませんが、もっと日本で勉強したいと考えています」
寄付で集まった米や野菜などの食料ほか、マスクなどを、要望のあった1600人以上に届けるという。宅配便の配送料だけでもかなりの額になるはずだ。
「主な送り先は留学生や技能実習生です」と言うのは代表の吉水慈豊さん。コロナ禍でアルバイト先や実習先での仕事を失った留学生や技能実習生が増えているのだ。「中には突然の解雇を言い渡されて泣きながら電話してくる子もいますし、授業料が払えずに留学ビザが切れてしまい、帰国もできず、アルバイトもできずに困っている元留学生もいます」。
物資の送り先リストには、全国各地の住所と名前が並んでいた。多くは一人暮らしのようだったが、中には、同じ住所に8人、9人で共同生活している人たちもいた。
物資の配送の作業に当たっていたのは、職を失って保護されている技能実習生やボランティアとして手伝いにきていた留学生だ。
その中のひとり、ホーチミン出身のファン・ホァイ・バオ君(19)は、来日して約1年、東京・両国の日本語学校に通う留学生である。
「アルバイトはココイチとソバ屋さん。ふたつしていましたが、コロナでソバ屋さんが休みになって、働けなくなりました。仕方ないです」
留学生は「基本的に週に28時間まで」というアルバイトの時間制限があるが、バオ君はこれまで2店舗を掛け持ちしながら時間の調整をしていた。
「ココイチで働く時間を少し増やしてもらいましたが、お金は半分になっちゃった。(月額で)だいたい5万円」
この状態が続くとキツいと漏らすが、「留学生も10万円(の給付金を)もらえますから、仕事がぜんぶなくなった人よりはいいです」。
ベトナムは、今回の新型コロナウイルス感染症による死者数がゼロという珍しい国だ(5月11日時点)。現地の両親は東京で暮らすバオ君を心配している。だが、彼自身は留学を続けるつもりだ。
「専門学校か大学か、まだわかりませんが、もっと日本で勉強したいと考えています」
祖国のロックダウン中にビザが失効
ベトナム人以外でも助け合いの輪は広がっている。「グローバル ホーム ネットワーク」(東京都新宿区)という不動産店を営むネパール人のシヴァ・パウデルさんは、生活に困窮しているネパール人に無料で米や豆、マスクなどの配送をはじめた。
「大使館やNRNA(海外在住ネパール人協会)にも相談していますが、今のところは私のポケットマネーで対応しています。とりあえずは30万円。今あるお金はすぐになくなってしまうでしょうが……」
ネパールの大学を卒業して、高校教師として数学や物理を教えていたパウデルさんが留学生として来日したのは2005年。28歳のときだった。すでに結婚していたが、日本語を覚えて日本で働きたいと思った。日本語学校や専門学校に通いながら、クリーニング店やスーパーのチルド工場、レストランなどでアルバイトをした。その後、不動産店に勤め、2015年に独立。経営は順調だった。
例年であれば、春先は不動産店としても稼ぎ時だ。「毎日35人とか40人とかお客さんが来て、月の売り上げも500万円くらいありますが、今年はぜんぜんダメ。100万円もいかない。仕事はヒマ。でも、今はボランティアとか、寄付とか、自分ができることをやらなければならないときですね」
すでに100件近く、米やマスクなどの物資を送った。
部屋探しの問い合せが減った代わりに、アパートの更新料の支払いに関する問い合わせが増えた。
「コロナで働けなくなってお金がないです、どうしたらいいですか、と。もちろん、アパートの大家さんもビジネスですから、無理にお願いはできませんが、支払いをすこし待ってくれる、割り引きしてくれるという場合はそれを連絡します。そのほかにもいろんな相談があります」
不動産とは関係のない「ビザが切れてしまった」という相談も受ける。顔が広いパウデルさんを頼ってくる人も多いのだという。
「ネパールは3月末からロックダウンしていますが、その間、ネパールに帰れず、ビザが切れちゃった人もいる。入管で滞在延長はしてもらえますが、延長期間は働くことができない。だから仕方なく部屋に引きこもっているが、明日から食べるものがない。そういう人から連絡がくればお米だけじゃなく、小額ですが、お金も送るようにしています」
コロナ騒ぎがいつまで続くかわからないが、「今、自分にできることをやるだけです」
「大使館やNRNA(海外在住ネパール人協会)にも相談していますが、今のところは私のポケットマネーで対応しています。とりあえずは30万円。今あるお金はすぐになくなってしまうでしょうが……」
ネパールの大学を卒業して、高校教師として数学や物理を教えていたパウデルさんが留学生として来日したのは2005年。28歳のときだった。すでに結婚していたが、日本語を覚えて日本で働きたいと思った。日本語学校や専門学校に通いながら、クリーニング店やスーパーのチルド工場、レストランなどでアルバイトをした。その後、不動産店に勤め、2015年に独立。経営は順調だった。
例年であれば、春先は不動産店としても稼ぎ時だ。「毎日35人とか40人とかお客さんが来て、月の売り上げも500万円くらいありますが、今年はぜんぜんダメ。100万円もいかない。仕事はヒマ。でも、今はボランティアとか、寄付とか、自分ができることをやらなければならないときですね」
すでに100件近く、米やマスクなどの物資を送った。
部屋探しの問い合せが減った代わりに、アパートの更新料の支払いに関する問い合わせが増えた。
「コロナで働けなくなってお金がないです、どうしたらいいですか、と。もちろん、アパートの大家さんもビジネスですから、無理にお願いはできませんが、支払いをすこし待ってくれる、割り引きしてくれるという場合はそれを連絡します。そのほかにもいろんな相談があります」
不動産とは関係のない「ビザが切れてしまった」という相談も受ける。顔が広いパウデルさんを頼ってくる人も多いのだという。
「ネパールは3月末からロックダウンしていますが、その間、ネパールに帰れず、ビザが切れちゃった人もいる。入管で滞在延長はしてもらえますが、延長期間は働くことができない。だから仕方なく部屋に引きこもっているが、明日から食べるものがない。そういう人から連絡がくればお米だけじゃなく、小額ですが、お金も送るようにしています」
コロナ騒ぎがいつまで続くかわからないが、「今、自分にできることをやるだけです」
外国人留学生の日本離れを食い止めるには
全国的にマスクが不足していた4月半ばに、中国出身の卒業生から5千枚ものマスクが寄贈された日本語学校がある。
「ちょうどマスクが足りない時期だったので、本当に助かりました。マスクももちろんですが、卒業生の皆さんの温かい気持ちが何よりうれしかったです」と言うのは、岡山市内にある「岡山外語学院」の森下明子・副理事長だ。
「同窓会の中国支部から『母校加油! (母校がんばれ! )』『遠く離れていても同じ空の下』というメッセージとともに送られてきたのですが、在校生たちもとても喜んでいました。日頃お世話になっている町内会と医療機関にも寄贈させてもらいました。他にも岡山で起業している中国出身の卒業生がマスクや消毒液を寄贈してくれ、本当に感謝しています」
岡山外語学院は、定員は436名だが、現在はその半分の200名程度しか学生がいない。なぜかといえば、すでに4月入学予定者に発給された留学ビザを日本政府が感染防止対策として効力を停止したことによる。
「4月入学予定の120名のうち3名しか入国できなかったのです。4月入学予定で入国できた学生がゼロという学校も多いと聞いています。来日できず国で待機している学生のモチベーションを保つためにはどうすればいいのか頭を悩ませ、オンライン授業や動画配信を試行錯誤しながらはじめました」
また、今後、入国できない状況が長期化したり、学費を払う親や経費支弁者がコロナで失業などしてしまった場合、「留学を諦めざるを得なくなる学生も出てくるのではないかと危惧している」と森下さんは言う。
別の日本語学校にも話を聞いた。
「当校は、次回の授業料の支払いが6月なので、経済的に差し迫っている学生がいるという話はまだ聞こえてきません。ただ、支払い日が近くなってくれば、そういう相談も出てくるでしょう」。そう話すのは、日本語学校「MANABI外語学院 東京校」の東谷信一郎校長だ。
現在、すべての生徒に対してオンライン授業を行っているが、春休みに帰国したまま日本に戻れなくなっている学生も30名ほどいるという。
「実は、彼らの中からすでに『退学を考えたい』『別の国への留学を考えている』という連絡が来はじめています」
留学生の日本離れが始まっているのだ。その理由を、彼らは中国や韓国や台湾と比べて、日本のコロナ対策がお粗末だと考えているから、とする のは拙速だろうが、完全に否定することもできないだろう。
「緊急事態宣言が5月末まで延長されると発表した日に、安倍さんはこれからは『新しい生活様式』に切り替える必要があると言っていましたが、今後は日本語学校としても学生さんにも『日本で勉強したい!』と思わせるコンテンツや日本の魅力を積極的に発信していかなければならないと思っています」
今後、コロナ禍がいつ収束するかはわからないが、世界各国と同様に、日本も不況になることはまず間違いない。そこからどれだけ早く脱出できるか。そのカギはどこにあるのだろうか。
哲学者で作家のユヴァル・ノア・ハラリ氏は、コロナ禍を乗り越える方策として、「グローバルな団結を」と説いた。だが、現状を見ると、それは容易ではない。近年、日本に限らず、むしろグローバリズムへの反動が見られており、それをコロナは加速させている、というのが一般的な見方である。人の行き来も当分、以前のようにスムーズにはいかないだろう。
しかし、だからこそ日本は、意欲ある優秀な若者たちにとって、「学びたい国」「働きたい国」になる努力を怠るべきではないと著者は考えている。ここで紹介したような助け合いの輪が少しでも大きく広がるように、自分にできることがあれば率先して行いたい。
私自身は吹けば飛んでしまうようなフリーランスだが、願わくば、このコロナ危機をなんとか生き延びて、新しく生まれ変わった日本のことについても記事を書きたいと思っている。
芹澤健介
1973(昭和48)年、沖縄県生まれ。横浜国立大学経済学部卒。ライター、編集者、構成作家。NHK国際放送の番組制作にも携わる。長年、日本在住の外国人の問題を取材してきた。
デイリー新潮編集部編集
2020年5月13日 掲載
「ちょうどマスクが足りない時期だったので、本当に助かりました。マスクももちろんですが、卒業生の皆さんの温かい気持ちが何よりうれしかったです」と言うのは、岡山市内にある「岡山外語学院」の森下明子・副理事長だ。
「同窓会の中国支部から『母校加油! (母校がんばれ! )』『遠く離れていても同じ空の下』というメッセージとともに送られてきたのですが、在校生たちもとても喜んでいました。日頃お世話になっている町内会と医療機関にも寄贈させてもらいました。他にも岡山で起業している中国出身の卒業生がマスクや消毒液を寄贈してくれ、本当に感謝しています」
岡山外語学院は、定員は436名だが、現在はその半分の200名程度しか学生がいない。なぜかといえば、すでに4月入学予定者に発給された留学ビザを日本政府が感染防止対策として効力を停止したことによる。
「4月入学予定の120名のうち3名しか入国できなかったのです。4月入学予定で入国できた学生がゼロという学校も多いと聞いています。来日できず国で待機している学生のモチベーションを保つためにはどうすればいいのか頭を悩ませ、オンライン授業や動画配信を試行錯誤しながらはじめました」
また、今後、入国できない状況が長期化したり、学費を払う親や経費支弁者がコロナで失業などしてしまった場合、「留学を諦めざるを得なくなる学生も出てくるのではないかと危惧している」と森下さんは言う。
別の日本語学校にも話を聞いた。
「当校は、次回の授業料の支払いが6月なので、経済的に差し迫っている学生がいるという話はまだ聞こえてきません。ただ、支払い日が近くなってくれば、そういう相談も出てくるでしょう」。そう話すのは、日本語学校「MANABI外語学院 東京校」の東谷信一郎校長だ。
現在、すべての生徒に対してオンライン授業を行っているが、春休みに帰国したまま日本に戻れなくなっている学生も30名ほどいるという。
「実は、彼らの中からすでに『退学を考えたい』『別の国への留学を考えている』という連絡が来はじめています」
留学生の日本離れが始まっているのだ。その理由を、彼らは中国や韓国や台湾と比べて、日本のコロナ対策がお粗末だと考えているから、とする のは拙速だろうが、完全に否定することもできないだろう。
「緊急事態宣言が5月末まで延長されると発表した日に、安倍さんはこれからは『新しい生活様式』に切り替える必要があると言っていましたが、今後は日本語学校としても学生さんにも『日本で勉強したい!』と思わせるコンテンツや日本の魅力を積極的に発信していかなければならないと思っています」
今後、コロナ禍がいつ収束するかはわからないが、世界各国と同様に、日本も不況になることはまず間違いない。そこからどれだけ早く脱出できるか。そのカギはどこにあるのだろうか。
哲学者で作家のユヴァル・ノア・ハラリ氏は、コロナ禍を乗り越える方策として、「グローバルな団結を」と説いた。だが、現状を見ると、それは容易ではない。近年、日本に限らず、むしろグローバリズムへの反動が見られており、それをコロナは加速させている、というのが一般的な見方である。人の行き来も当分、以前のようにスムーズにはいかないだろう。
しかし、だからこそ日本は、意欲ある優秀な若者たちにとって、「学びたい国」「働きたい国」になる努力を怠るべきではないと著者は考えている。ここで紹介したような助け合いの輪が少しでも大きく広がるように、自分にできることがあれば率先して行いたい。
私自身は吹けば飛んでしまうようなフリーランスだが、願わくば、このコロナ危機をなんとか生き延びて、新しく生まれ変わった日本のことについても記事を書きたいと思っている。
芹澤健介
1973(昭和48)年、沖縄県生まれ。横浜国立大学経済学部卒。ライター、編集者、構成作家。NHK国際放送の番組制作にも携わる。長年、日本在住の外国人の問題を取材してきた。
デイリー新潮編集部編集
2020年5月13日 掲載
0 件のコメント:
コメントを投稿