2020年5月14日木曜日

感染者数が東京の72倍、ニューヨークは何が悪いのか

Source:https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200430-00060351-jbpressz-n_ame
4/30(木) 8:00配信、ヤフーニュースより
JBpress
 新型コロナウイルスの感染者と死亡者が世界で最も多い米国。その中でもニューヨーク州が抜きん出て多くなっている。いったい何が起きているのか。

 日本でも人口の多い東京都が都道府県の中では感染者・死亡者が最も多いが、ニューヨーク州の数字とでは比較にならない。

 ちなみにニューヨーク州の人口は約1950万人で、感染者は4月27日までで約29万人。東京都は人口が約1395万人で、感染者は28日時点で4000人を超えたところだ。

 人口の差異を考慮しても、ニューヨーク州の数字は大きすぎる。

 なぜこれほどまで同州の感染者・死亡者は増えたのか。複数の米メディアから、同州の感染の現場を眺めてみたい。

 感染者の比率が特に高い場所は、やはりニューヨーク州ニューヨーク市で、その中でもブロンクス区やクイーンズ区の低所得者向けの共同マンションである。

 日本では新型コロナウイルスの感染率は年齢や性別、所得の高低によって違いが出ているわけではない。

 だがニューヨーク市では低所得の市民たちの間で感染率が高くなっていた。

 ニューヨーク・デイリーニュース紙が取り上げた、ある家族の事例は多くの方の目を見開かされるかと思う。
 極端であると同時に、大都市ニューヨークの現実が表出している。

 同市マンハッタン区の北部にワシントンハイツという地区がある。

 そこにドミニカ共和国出身のヨリー・サンチェスさん(46・女性)の一家が住んでいる。2LDKの共同マンションには家族と親戚、合わせて11人が暮らす。

 3月下旬、サンチェスさんの義兄が発熱した。PCR検査をすると陽性結果が出た。

 家族の何人かはドミニカから米国に来てまだ日が浅く、帰国するつもりだったが、すでに国外への渡航は制限されてかなわない。

 11人は今後も同じマンションにいるという選択肢しかなかった。

 日本の典型的な2LDKのマンションよりは床面積が広いと思われるが、11人による共同生活の中で義兄だけを隔離することは不可能に近かった。

 幸いにも、義兄はすぐに入院できる病院がみつかったが、直後にサンチェスさん本人に新型コロナウイルスの初期症状が出た。

 そして同居していた甥、叔母、続いて自分の息子の順で陽性が判明した。
もう4人が入院やホテルに移ることは金銭的に難しかった。

 感染した女性2人と男性2人、2つのベッドルームでそれぞれ寝起きし、残り6人はリビングルームで寝ることになった。

 家族でルールを決め、部屋の移動やトイレを使用した後は徹底的に除菌作業を行う。

 また感染者が部屋を出る時には、スマホで別の部屋の家族に電話かメールで伝えて、注意を喚起する生活となった。

 サンチェスさんは10日ほどして熱が下がり小康状態が続いている。ニューヨーク・デイリーニュース紙は後日談を載せていないので、その後の様子は分からない。

 ただ同紙は、ニューヨーク市ではサンチェス一家の境遇は決して珍しくないと書いている。

 またゴーサミストという米ニュースサイトは、クイーンズ区に住む54歳のネパール人男性の新型コロナ感染を伝えている。

 男性は1LDKのアパートに妻と娘2人の4人で住んでいた。

 男性の陽性が判明してからは彼だけがベッドルームで生活し、女性3人はリビングルームで寝起きするようになった。
 同サイトに、「私がトイレを1分間使ったら、そのあと10分は除菌作業をします」と伝えている。

 ニューヨーク市ではいま、およそ5人に1人がベッドルームを共有するのが現実であるという。家賃の高さなどの理由で、1人1部屋がかなわない。

 そして同市保健局は新型コロナウイルスに感染しても軽症であれば入院ではなく自宅待機をアドバイスしていることにより、密集型の住環境での感染が拡大することになっている。

 さらに、隔離を行いたくとも実質的に感染者を収容する病床が足りないこともある。同市保健局職員が語っている。

 「保健担当者の増員も必要。予算も足りていません。何よりも感染者を隔離するための部屋が不足しています」

 「民間のホテルを活用しなくてはいけません。少なくとも8万部屋」

 アンドリュー・クオモ・ニューヨーク州知事は23日、3000人の州民を対象にした抗体検査で13.9%が陽性だったと発表した。

 この数字をもとに州内の感染者を推計すると270万になる。

 この抗体検査は州内40カ所で行われた簡易検査だったこともあり、正確さに欠けるとの声もある。
クオモ知事も「暫定値に過ぎない」としたが、それでもウイルス感染が予想以上に広がっていることは確かだろう。

 ニューヨーク市では3月中旬まで、1日500万人ほどが地下鉄を利用していた。

 ドナルド・トランプ政権の初動の遅れとソーシャル・ディスタンシングの実施の遅れ、さらにマスク着用の不徹底などが重なり、感染者が拡大した。

 こうした複合要因に加えて、所得の低い市民の住環境が重なって、ニューヨークでは感染者が増えたわけだ。

 ただ全米の新たな感染者の推移に目を移すと、「プラトー現象」に入りつつあることに気づく。

 日々の感染者数が高原(プラトー)のように高い位置で推移しているのだ。

 特に3月31日に全米で約2万5000超の感染者が出てからの約4週間は、連日2万5000以上の感染者を記録したままだ。

 これは全米で行われる1日の検査数がほぼ決まっているためでもある。

 4月27日になって、ようやく2万5000人を割ったが、安心できる数字とは言えない。

 そうしたなか、南部・中西部の諸州で現在発令中の外出禁止令を解除する動きが出ている。

 テキサス州グレッグ・アボット知事は4月30日に解除予定であると述べたし、アラバマ州(30日)、オハイオ州(5月1日)、アイオワ州(同1日)なども解除へと舵を切る。

 経済活動の沈滞も憂慮すべき課題だが、新型コロナ感染の第2波、第3波を許して万単位の生命が奪われることを防止することの方がはるかに重要なはずだが、いかがだろうか。
堀田 佳男

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