2020年5月14日木曜日

10万円給付で「殺されかけた」、外国人悩ます“丁寧で正確な”お役所言葉 欲しいのは「敬語より情報」

Source:https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200509-00000001-withnews-sci
5/9(土) 7:00配信
withnews
新型コロナウイルスで政府から支給される現金10万円の特別定額給付金は、さまざまな場所で日本の社会を支えている「外国人」も対象です。ところが、実際、手続きをしようとすると、“丁寧で正確な”お役所言葉に阻まれることに。日本に暮らして12年。「日本が大好き」というネパール人研究者が漏らしたのは「これは、魂の殺人です……」という言葉でした。ウイルスで不安な日々を送る「外国人」をさらに悩ませる苦労を聞きました。(withnews編集部・松川希実)

【イラスト解説】「特別定額給付」の申し込み、誰でも分かりやすい失敗しない方法、やさしく教えます
役所の人はとても優しい、だから……
【話しを聞いた人】
ジョシさん。ネパール出身。
留学生として2007年に日本に来ました。立命館アジア太平洋大学(APU)、国連大学大学院(UNU)を卒業し、今は東京大学大学院の博士後期課程で学んでいます。


ジョシさん 
〈私は日本で12年間、住んでいます。
日本政府が「1人に10万円をくれる」というサポートを発表しました。日本人、外国人関係なく、全員が、サポートをもらえる。心強いメッセージだと思いました。
私は学生で、アルバイトをしています。そのアルバイトが、コロナウイルスのせいで、なくなってしまいました。頼りにできる家族もいません。とても、不安だったので、日本政府には「ありがとう」と言いたいです。

でも、10万円をもらうために、外国人がどれぐらい困っているかも、みなさんに分かってほしいと思いました。
私はこの間、10万円のことについて聞くために役所に行きました。そして、困りました。日本で長く生活している私でも困るぐらいです。日本に来たばかりの人、日本語が苦手な人はどのぐらい困っているんだろうと、とても心配になりました。〉

――ジョシさんは日本語がとても上手ですよね。何に、困りましたか?

ジョシさん 
〈私は、これまでの勉強や仕事は、英語を使ってきました。日本語も少し勉強しましたが、中国など漢字圏から来た人と違って、漢字は苦手です。だから、日本語を読んだり、書いたりするのは、難しいです。

まず役所では、カウンター(窓口)を見つけるのが大変です。案内を見ても日本語だけでした。〉
なぜ漢字にするのでしょう
ジョシさん 
〈私は、「私が10万円をもらうことができるのか」ということが知りたいと思いました。
ニュースでは「4月27日時点の住民基本台帳に登録されている人」は、みんなもらえると言っていました。

私は在留カードを更新しているところでした。4月27日は、まだ手続きが終わっていませんでした。27日に役所で聞きましたが、10万円をもらえるかどうか、分かりませんでした。
4月28日に新しい在留カードができました。28日にまた役所に行きました。

役所で働いている人は、「とても優しい」ですね。ネパールだったら、乱暴な言葉を使う人もいます。日本の役所の人はとても優しくて、丁寧。
そして、私が外国人か日本人かどうかは考えないで、「いつも通りの」丁寧な日本語で話します。

役所の人は「書類を拝見致します」と言いました。でも、私は敬語が苦手で、分かりませんでした。「拝見致します」ではなくて、「見せて下さい」なら分かります。

在留カードを更新したので、マイナンバーカードも更新しなければいけませんでした。
役所の人は「郵送申請と電子申請があります」と言いました。郵送申請は「手紙を送ります」と言ったら分かります。「電子申請」は「PCかスマホで申し込みます」なら分かります。なぜ漢字にするのでしょう?

マイナポータルでやってください」と言われました。それ、何ですか? マイナポって何語ですか? マイナンバーの略? 日本語は、自動販売機を「自販機」って言うこともある、略が多すぎ。難し過ぎます!〉
「丁寧」よりも「情報」がほしい
――ジョシさんの言う方が、日本人にとっても分かりやすいですね!私もつい、「失礼ではないか」と考えて、敬語を使っていました。

ジョシさん
〈私たちは情報がほしいです。役所の人が、どれだけ「敬語」で話してくれたかをカウントして、評価はしません。丁寧かどうかより、「情報が分かるかどうか」、相手を見て、考えてほしいです。〉

――ほかにも、困ったことはありますか。


ジョシさん
〈日本は、「100%完璧でないといけない」ところが、良いところでもありますが、こういうときに困ります。

私が「私は10万円もらうことができますか?」と聞いたとき、役所の人は「まだ何も分かりません」「私たちには国から情報が届いていません」と言いました。ニュースではいろいろな情報が出ていたのに。
私は不安で、役所に行きました。でも「上の人に確認します」と言われて、長い時間待って、何も分かりませんでした。

100%の情報でなくても良いです。「もしかしたら、来週ぐらいに、もらえるかどうか分かるかもしれません」というだけでも、何かポジティブな情報をもらえたら、少し心が落ち着きます。〉
言葉に殺される
ジョシさん
〈手紙(書類)は、もっと大変です。

すべて、漢字で書いています。漢字圏の人でないと、フォント(文字)を見るだけで、頭がいっぱいになります。

「私1人では書けない」と、悲しくなります。ふりがなもないので、辞書で調べるのも大変です。

使っている漢字がまた、すごい言葉ばかり。私は「たましいの殺人」だと思います。〉

――たましいの殺人……。

ジョシさん
〈そうです。読み方が分からないので、「これはどういう意味ですか」と聞く事すらできない。その苦しさは、心を殺されるようです……。

政府は「日本のすべての人に10万円」と言いましたが、みんな、まだまだ不安だと思います。留学生や、技能実習生、家族を呼び寄せた人はどうなるのでしょうか。
外国人には、たくさんの種類のビザ(在留資格)があります。
「フルタイムで働いている人しかもらえない」といううわさもあります。〉


【解説】
住んでいるところの役所に、住所などを登録している人は、お金をもらうことができます。
あなたは日本に来たときや、新しい町に引っ越したときに、役所に行きましたか?
もしあなたが、役所に住所を登録することを忘れていたら、役所に行って、「私は4月27日にここに住んでいました」と言ってください。あなたは、役所に住民登録をして、10万円をもらうことができます。

10万円をもらうことができないのは、3カ月より短いビザ(短期滞在)で日本に来ている人、そしてビザ(在留許可)がないのに日本に住んでいる人(不法滞在の人)です。

留学生も、技能実習生も、家族と日本に住んでいる人も、みなさんもらうことができます。役所は、働いている時間や、貯金は調べません。だから、安心してください。
申請書も難しい
――申請書の見本があります。同じような申請書が、5月から6月に、家のポストに届きます。ホームページで申請書をダウンロードできる役所もあります。


ジョシさん
〈生年月日は「明治、大正、昭和、平成」。日本のカレンダーですね。
私は12年日本にいても、全然覚えられません。
ネパールには、ネパールのカレンダーもあります。西暦とも違います。

日付を書くところもたくさんあって、困ります。〉


――いまは令和2年です。日付は西暦で書いても、大丈夫です。


――ほかに分からない言葉はありますか?

ジョシさん
〈世帯主……。これも分かりません。まず、「世帯主」という考え方がありません。〉
ロジックが分からない
ジョシさん
〈「給付金の受給を希望されない方はチェック欄に×印をご記入ください」

これは、本当に分かりません。みんな困っているから、申し込むんですよね。お金を断るロジック(論理)が分からない。日本は、本当に複雑ですね。



書類を書くためには、日本人のアシスタントを1人、お願いしないといけないです。〉


【解説:申請書のむずかしい日本語、やさしく言い換えると……】
申請日=お金をもらうための手紙(申請書)を書いた日
生年月日=あなたがうまれた日
世帯主=家族の代表の人。家でおもに生活のためのお金を払っている人。世帯主の名前は住民票に書いてあります。
続柄=あなたが、世帯主とどんな関係なのかを書いてください。
長期間入出金のない口座を記入しないでください=5年ぐらいお金を入れたり、出したり、使っていない口座は書かないでください。
右詰めでお書きください=口座番号が枠の数より少ないときは、右側に寄せて書きます。
「給付金の受給を希望されない方はチェック欄に×印をご記入ください」=お金がいらない人は、×を書きます。
自動翻訳では心配
――総務省にはホットラインもあります。


ジョシさん
〈そうですね。でも10回電話しても、つながりません。
もしつながったとしても、役所でのやり取りを繰り返すだけだと思っています。

とても丁寧で、でもとても難しい言葉で……。〉


――Google翻訳など、今はいろいろ、便利なものもあります。それでも書類は難しいでしょうか。

ジョシさん
〈本当に大切な書類です。もし、Google翻訳を使って、訳が間違っていたらどうしよう、と心配になります。

私は日本の友達に聞く事もできます。でも、それができない人もたくさんいます。〉


――どんな情報だと分かりやすいですか。いろいろな国の言葉で説明を作るのは、時間がかかりそうです。

ジョシさん
〈できることはあると思います。
最低でも、英語にしてもらえたら、英語が分かる人の負担は減ります。

会話は敬語はいりません。簡単な「やさしい日本語」にしてほしいです。

絵を使ったり、動画にしたりすると、目で見て分かるので良いです。

私はYouTubeで、10万円をもらうためにどうしたらいいか、英語で教えている動画を見つけました。これなら、目で見てわかります。英語だけど、日本語に比べると50倍ぐらい分かりやすいです。〉
本当の「多文化共生」って?
ジョシさん
〈コロナウイルス(Covid-19)で困っているのに、日本語が苦手だと、さらに言葉で困ります。1週間ぐらい、ずっと書類について考えています。とてもプレッシャーを感じます。

いま、日本にはいろいろな背景の外国人が暮らしています。
「多文化共生」という言葉があります。すてきな言葉ですが、本当にそういう社会になると良いと思います。「となりの人はどういう人か」と思ってほしいです。

私は日本が大好きです。でも、難しい日本語が嫌いです。
言葉の壁は、少しずつ、減らしてほしいです。〉

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