2020年5月14日木曜日

13万円一律給付以外にも、ここまでやるアメリカの緊急経済対策─アメリカニュース解説

Source:https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200426-00000005-courrier-int
4/26(日) 17:00配信、ヤフーニュースより
クーリエ・ジャポン
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大を受けてロックダウンがおこなわれているアメリカ。

経済的損失を補う救済措置として、成人の国民全員に1200ドル(およそ13万円)が支給されることは日本でも大きく報じられた。

だが、個人や企業を対象としたアメリカの緊急経済対策はこれだけではない。多種多様な制度をニューヨーク在住のジャーナリスト秦隆司氏が解説する。
外出禁止のニューヨークで
この原稿を書いている4月18日時点ですでに自宅にこもり4週間目。外に出るのは朝のコーヒーを買いに、持ち帰りのサービスだけを提供しているファーストフード店に出かけるのと、スーパーマーケットに食料など買い出しにいくだけ。コーヒーは家で入れてもいいのだが、そうすると1日どこにも出かけなくなるので、気晴らしと運動をかねて店までいく。しかし、それでも15分程度。あとはずっと家を出ない生活となっている。

私には息子がいるが、現在高校3年生(アメリカでは12年生)の彼の学校は3月末から全休となり、知事と市長の政策の違いはあるが、そのまま学期も終わることになるようだ。つまり、彼は3月末から、入学した大学が始まる9月までは学校が無くなることになる。6月の卒業式もインターネット上でおこなうという。
クオモ知事の人柄がにじみ出る会見
家を出ない生活で、毎日、昼近くから開かれるニューヨークのクオモ州知事の現状報告会見をテレビでよく観る。会見ではニューヨーク州がおこなった検査件数、全感染者数や死者数、入院者数、ICU入院者数、退院者数、当日を含む最近の1日の死者数、感染者の多い他州の感染者や死者の数字、人工呼吸器を必要とする患者数の情報などが伝えられる。

しかし、そんな生の情報や州の今後の対策だけではなく、家族と一緒に食べたミートボールスパゲティの思い出や彼の人生観など、人柄がにじみ出る会見となっているので、彼の会見に心を癒されるニューヨーカーも多い。
しかし、伝えられるニューヨークの現状は厳しい。

4月11日、アメリカでのコロナウイルスによる死者が2万人を超え(4月20日現在では4万3000人)、イタリアを抜き世界のなかで最も多数死者が出た国となったと伝えられた。その時点でのイタリアの死者数は1万9468名。国民全体で見ると人口10万人に対し32名の死者のイタリアに対し、アメリカは6名だ。

アメリカのなかでもニューヨーク市の状況が特にひどく、4月10日付けのニューヨーク・タイムズはニューヨーク市では1万8000人が入院しており、1日800人以上が死亡していることを伝えた。死者は今も1日500人を超え、これまでに1万3000人近くがコロナウイルスの犠牲になっている。

このコロナ影響下の生活で、多くの人や企業が収入面で窮地に陥っているが、これまでの政府が打ち出した救済策をみてみよう。
1200ドルの一律給付
まず、政府が成人の国民全員に1200ドル(およそ12万8000円)を給付する救済策。これは日本でも大きなニュースとなっている。こちらでの報道は、給付を受けられるのは「米国民」と記されている時もあり、「納税者」という言葉が使われる場合もあった。

アメリカには「ソーシャル・セキュリティー」という個人に振り分けられた社会保障番号があり、給付が国籍によりなされるのか、この社会保障番号をもとになされるのか分からなかったが、報道をよく読むと年収7万5000ドル(およそ800万円)以下の納税者には1200ドルが給付されるとのことだ。

年収7万5000ドル以上の納税者には上限額を100ドル超えるごとに5ドルの減給付となり、年収9万9000ドルに達すると給付がなくなる。さらに17歳未満の子供には500ドルが給付される。すでに多くの納税者がこの給付を受け取っている。

この1200ドルの給付のほかにも、連邦政府やニューヨーク州、ニューヨーク市はさまざまな救済策を発表した。
週600ドルの失業補償
連邦レベルでの大きな救済策は、連邦パンデミック失業補償(Federal Pandemic Unemployment Compensation)というものがある。これは、通常の失業保険を受け取る者には補償額のほかに週600ドル(およそ6万4000円)が追加で給付されるというもの。

また、自営、フリーランス、独立業務請負人にもこの補償が適応される。現在、連邦パンデミック失業補償は7月31日まで継続されることになっている。現在、アメリカの失業保険申請者は2200万人を超えている。

週600ドルというと、時給15ドルで週40時間働いたのと同様の額だ。現在の連邦レベルの最低時給賃金は7.25ドルなので、最低賃金の2倍を超える額となる(ただし、ニューヨーク市などの最低時給賃金は15ドル)。期間的制限はあるものの、大きな助けとなっている。

次もまた、これも連邦レベルだが、失業保険融通性(Unemployment Insurance Flexibilities)という制度を打ち出し、以下の人々も失業保険の対象となり得るとしている。

1. コロナウイルス蔓延により事業者が一時的に営業を休止し、勤務ができない従業員

2. コロナウイルスにより隔離され、隔離終了後にその企業に復帰が決まっている従業員

3. コロナウイルス感染の恐れで雇用を離れた者。あるいはコロナウイルスで家族の面倒をみるため職場を離れた者

つまり、連邦の指導要綱ではコロナウイルスで仕事を辞めなくとも失業保険および上記の連邦パンデミック失業補償は受け取れることになる(アメリカでは、州の力が強く州によって異なる場合がある)。
企業に対するさまざまな救済措置
個人についての救済措置は今のところ、このような現金給付と失業保険の拡充だが、企業に関しても次のような措置が取られている。

1. 経済的傷害災害融資プログラム(Economic Injury Disaster Loan Program)
対象は従業員数500名以下の企業。融資枠最大200万ドル(およそ2億495万円)。利子は年率3.75%。返済期間:最大30年間

2. ニューヨーク市従業員保持補助金プログラム(NYC Employee Retention Grant Program)
対象はコロナウイルス蔓延により25%以上利益損失があった6ヵ月以上事業をおこなっている従業員1~4名の中小企業。従業員給与の4割を2ヵ月間補助

3. ニューヨーク市中小企業連続性貸付金基金(NYC Small Business Continuity Loan Fund)
対象は、コロナウイルス蔓延により25%以上利益損失があった従業員数100名以下の企業。融資枠最大7万5000ドル。利子は年率0%
借りたお金の返済が不要になる連邦給与保護プログラム
これらに加え、一番最近に発表された救済措置としては連邦給与保護プログラム(Federal Paycheck Protection Program)がある。

これは、従業員500名以下の企業が対象(個人事業主も含まれる)、月の全人件費の2.5倍を貸し付ける内容。8週間継続して従業員を解雇せず給与を支払えば、ローン全額の返済が免除されるというもの。免除されるための条件は借入金の75%を給与の支払いに充てること、その他はオフィス家賃、公共料金支払い、抵当利息などに使ってよいことになっている。

このプログラムは1000万件を超える申請があり、予定していた予算をすでに使い切り、さらなる予算承認を待っている。

この連邦給与保護プログラムを受けない、あるは受けられない雇用主にはコロナウイルス援助・救済・および経済安全保障法(Coronavirus Aid, Relief, and Economic Security Act)が用意されている。これは、雇用主に従業員の雇用(給与支払い)を援助するもので、従業員数に関わらず以下の雇用者が対象となる。

1. 新型コロナウイルスの影響に伴う、政府機関の命令により、業務を全面的または部分的に閉鎖しなければいけなかった雇用者

2. 2019年の該当四半期と比較して、2020年の同期間中の売上が50%減の場合(前年の四半期と比べ総収入が8割を超えた場合、次の四半期から適用対象外となる)

という条件を満たせば、従業員1人に対し、2020年3月13日から2020年12月31日までに支払われた「対象となる給与(健康保険プランなど一部の福利厚生費を含む)」の50%をクレジット(税務控除)として受理可能(従業員1人の年収につき、1万ドルが上限となる為、最大5000ドルの税務控除を受けることが可能)となる。

対象となる給与は、2019年に従業員数が平均100人以下の企業については、適用される四半期、閉鎖期間中に全ての従業員に支払われた賃金。2019年の従業員数が平均100人以上の企業では、企業や会社の閉鎖により影響を受けた自宅待機や一時解雇の従業員への賃金などに限定される。

現在、政府は中小企業にはさらなる救済が必要として、予算の成立を目指しているが、そこには共和党と民主党との戦いがあり、最終的な形は見えていないが、追加の救済策が打ち出されることは間違いないだろう。

紹介した救済策のなかで最も影響力があるのが、失業保険に週600ドルを上乗せする連邦パンデミック失業補償と、企業が借りたお金の返済が不要となる連邦給与保護プログラムだろう。

4月8日付のウォール・ストリートジャーナルでは百貨店のメイシーズやオフィス家具メーカーのスチールケースなどの大手企業が、この週600ドルを上乗せするプログラムを意識して、従業員の一時解雇に踏み切っているというニュースを伝えている。

また、給付には直接関係がないが、4月11日、労働省と財務省は指導要綱を発行し、民間の健康保険に加入しているアメリカ人が、新型コロナウィルス診断テストと、その他の特定の関連医療を、受けられるようにした(無料での抗体検査を含む)。 これは、ウイルス蔓延を防ぐために、金銭的問題がある人でもCOVID-19検査と医療サービスを受け、抗体検査ができるようにするための取り組みだ。

救済策によっては、緊急に作り上げた一方で、申請が膨大な数に上りまだ上手く機能していないものもある。
本当の死者数はもっと多い
とまあ、コロナ影響下の救済策のことを書いてきたが、ニューヨークの生活の状況はかなり悲惨だ。

4月10日付のニューヨーク・タイムズは「ニューヨークのコロナウイルスによる死亡者は本当は何人か(How Many People Have Actually Died From Coronavirus in New York?)」という記事で政府からの発表では見えない危機を伝えている。

記事によると4月の最初の5日間、ニューヨーク市内の家庭内での死者が1125名を数えた。これは昨年の同時期に比べると8倍以上の死者数となる。これらの死がコロナウイルスによるものどうかは不明だという。

クオモ知事の会見で発表される州レベルでのコロナウイルスによる死者数は、感染が確認され、それ以後、病院で死亡した人の人数で、病院からのデータだ。家庭での死者数を入れれば州の発表よりもずっと高い数字になると疫学者やニューヨーク市職員は語っている。
死者への対応も崩壊寸前に
そして、その死者数の多さから、家庭での死者に対する対応が崩壊寸前だという。例えば半年前なら、家で死者がでた場合、救急車を呼び、救急救命士が死を宣告するか、救急救命士が病院に運び医師が死を宣告する。死に不審な点がない場合は検死はおこなわれず死体は遺体安置所か葬儀場に送られる。同時に監察医か医師により死亡証明書が発行される。

コロナウイルスのパンデミック状況の現在、医師は死亡証明書の発行に追われ、不審死の検死に関わるはずの監察医局員は死体の受け取りや仕分けに忙しいという。

現在、救急救命士は、脈が確認されなければ、死体を病院ではなく直接、病院の遺体安置所か、病院の横に並んでいる冷凍トラックに運ぶ。冷凍トラックは、病院の遺体安置所では処理できない数の死者が運び込まれるため、緊急に用意されたものだ。
また、遺体安置所の約120名の従業員と援助に駆けつけた米国陸軍の兵士や空軍州兵はレンタカー店からバンを借り、多いときには日280の死体を家から運び出している。

また、コロナウイルスにより死亡した場合、葬儀でも故人には近くことができず、参列者同士も2メートルの距離を置かなければならない。そうして、次に同じ場所で葬儀がおこなわれる場合、家具や装備品など全てを消毒しなければならない。
より厳しい移民や貧困層の状況
また、4月10日付けのニューヨーク・タイムズはニューヨーク市内で暮らす移民や貧困層の現状を報告している。

記事は感染が広がるクイーンズ地区の状況を伝える。コロンビア出身の44歳の男性は発熱し、その発熱のさなか一緒に住んでいる人々から部屋を出ていくように求められた。

また、バングラディシュ出身の女性は3人のルームメイトのうち2人にコロナウイルスの症状があり、自分にも感染るのではないかと心配している。彼女たちは今、仕事がなく、一日1食で生活している。「お腹が減っているけど、病気になるほうが怖い」と彼女はいう。

ネパールからの移民にも多くの感染者がいるという。コロナウイルス蔓延前から、糖尿病や高血圧などの持病を持っていた人々は症状が重く、感染者の妻や夫、それに子供も感染してしまう。

また、ニューヨーク市のコロナウイルスの状況は人種によっても異なる。調査によると、コロナウイルスからの死亡者はヒスパニックと黒人が多く、ニューヨーク市健康精神衛生局の発表によると人口10万人あたりの人種別死者数は、ヒスパニックは22.8名、黒人は19.8名。これに対して白人の死者は10.2名、アジア系は8.4名となっている。
また、ニューヨーク・タクシー労働者協会(The New York Taxi Workers Alliance)はこれまでに28名のタクシー運転手が死亡したと発表している。その多くがクイーンズ地区に住む移民たちだ。地域の指導者たちは、貧困、過密住宅、政府の無策がこの惨状に繋がっているとした。

地域指導者たちから非難を浴びた形となったニューヨーク市政府は、移民や移民の多い地区を見離してはいないと反論している。市はコロナウイルスについてのファクトシートを15の言語で作成し、複数言語の公共広告を地下鉄内で展開し、社会的距離(Social Distancing)の重要性やコロナウイルスの現状をエスニックメディアから伝えているとしている。
過密住宅で暮らす、感染者や感染の疑いがある人々は、部屋を出ていくことを同居人や大家から要求される。また、アメリカでは医療保険を持たない者も多く、それらの人々は直接、救急救命室(ER: Emergency Room)を訪れる。その結果、救急救命室は機能を失う可能性がある。

私は、ほとんどどこへも出かけず、1日を家で過ごし、これらの記事を読んでいる。コロナウイルス蔓延により空いた道路をレースサーキットのように使う車やバイク。コロナウイルス影響下の刑務所の状況。約50万の仕事が失われ、今後の財政危機が見込まれるニューヨーク市など、ひとつひとつすべて伝えることは私にはできないが、読んでいる記事はどれも厳しい状況を深く追ったものが多い。

ひと気がなくなった通りを窓から眺め、ニューヨークの現状に恐怖を感じる。しかし、一方で、地域、政治、世界など連日さまざまな角度からニュースを追うジャーナリズムの確かさも感じることができる。

コロナウイルスの影響はまだまだ続くようだ。家族のためにも感染を避けて暮らしていかなければならないと思っている。
 
Takashi Hata

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