2020年5月14日木曜日

コロナで延期される乳幼児健診、受けなくて大丈夫?…子どもの発育を自宅でチェックするポイント

Source:https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200511-00010001-yomidr-sctch&p=2
5/11(月) 19:12配信、ヤフーニュースより
読売新聞(ヨミドクター)
「教えて!ドクター」の健康子育て塾
 新型コロナウイルス感染症の影響で不安が増す中、子育てを頑張っている保護者の皆さん、本当にお疲れ様です。ただでさえ子育てが大変なのに、外にも満足に出られず、お子さんも保護者も、心身の負担は大きいことでしょう。感染症の心配もありますが、小児科医としては、今の環境がお子さんや保護者にどのような影響を及ぼすのかも気になっています。
 実は、日本小児科学会では、短期間で以前の生活に戻れる見通しも立たないまま、予防接種や乳幼児健診を回避するデメリットは大きく、可能な限り保護者と実施者が協力して予定通りに実施すべきであると明言しています 1) 。また、実施にあたっては、極力、集団健診を個別健診に切り替えたり、電話による保健指導などの工夫をしたりしてください、とも述べています。それでも、多くの自治体で乳幼児健診が延期となっているのは、個別健診や電話での保健指導などの体制整備の余裕がないからかもしれません。
子育て相談だけの場ではありません
 ただ、今回の乳幼児健診にからむニュースを見ていて、「やるなら不安な人だけ行けばいい」という声があることに少し引っかかりました。乳幼児健診は、子育ての相談をするだけの場ではありません。ふと、「乳幼児健診の目的は、意外とわかりにくいのかもしれないな」と思いました。目的がイメージできないまま、2~3時間ほどかかるとなると(結構しんどいですよね)、健診はもはや、やり過ごすための儀式と化し、「果たして優先して行うべきもの?」となるのも理解できます。その一方で、保護者の中には、このまま健診を延期し、家でお子さんを見ていて大丈夫なのかと、心配な方もいらっしゃるのではとも思います。

 そこで今回は、健診の目的について、あらためて説明するとともに、家にいてもチェックできる簡単なポイントや、よくある質問についてお伝えしようと思います。なお、私たち「教えて!ドクタープロジェクト」では、生後3~4か月、6~10か月、10~12か月、1歳半、3歳の健診におけるチェックポイントをまとめた フライヤー を制作しましたので、詳細はそちらを参考にしてください。
発達の遅れ、病気をスクリーニング
 まず、乳幼児健診は何のために行うのでしょうか。目的は主に2点あります。一つは、発達の遅れがないか、病気が隠れていないかをスクリーニングすることです。これは全員に対して行います。その理由は、保護者が気づいていない問題を見つけ出すことが目的だからです。保護者自身に心配ごとがなくても、健診を受ける必要がある理由はそこにあります。

 もう一つの目的は、気になることの解消です。特にきょうだいがいる場合や、他のお子さんと一緒に遊ぶ機会などがある場合、どうしても発達などを比べてしまいがちです。「この子は発達が遅れているのではないか」と心配になるかもしれません。そうでなくとも、特に最初のお子さんなどでは、色々と気になることはあるものです。健診はそのような心配ごとを相談して不安を解消し、場合によっては病院受診につながる機会となっています。

 なお、健診を行う時期は、市町村では1歳半、3歳と決まっています。生後3~4か月での健診を行う自治体も少なくありません。加えて医療機関でも、生後1か月、6~8か月(10~12か月のことも)に行うことが多いです。なぜ、これらのタイミングで健診が行われ、どんなことがチェックされるのでしょうか。1か月健診については以前お話ししました(https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20190821-OYTET50015/)ので、今回は、それ以外について書こうと思います。
<3~4か月児健診>先天性股関節脱臼がないか
 生後4か月を過ぎると、眠っているか泣いているかだった赤ちゃんも、笑ったり、表情が豊かになったりします。昼には起き、夜には眠るサイクルができるなど、急速に人間らしさが出る時期で、発達のチェックにふさわしい時期とされています。

 この時期は、まず体重が増えているかを確認します。週に1回、自宅の体重計でも測定しましょう。週に200~300グラム増えているかどうかが目安です。また、首がすわっているかどうかも確認します。お子さんを縦抱きにして、首を自由に動かせるかを確認します。首を無理に振ったり、揺さぶったりしてはいけません。目を合わせることができるか、目で物を追うことができるかもチェックします。

 そしてもう一つ、3~4か月児健診で大事なのは、先天性股関節脱臼がないかを確認することです。これは赤ちゃんの足の付け根が外れる病気で、股関節の開き方に左右差があったり,硬かったりしないかをチェックします。ただし、医師の診察でも判断が難しいことがあります。女児や家族歴がある場合にリスクが高いとされますが、スリングで包み込んで左右の太ももが接するようにすると、股関節脱臼のリスクが高くなるなど、生まれたあとの環境も影響します。気になる場合には、医療機関を受診してご相談ください。
<6~8か月児健診>「寝返りできているか」「離乳食を始めているか」…
 次は6~8か月、もしくは10~12か月になります(地域によって異なります)。

 生後6~8か月は、寝返りができるようになり、お座りも始まります。姿勢が大きく変化する時期で、本人の見る景色がガラッと変わりますので、発達の進み具合を確認します。また、離乳食がうまく始められているかをチェックすることも大切な目的です。この時期には、「寝返りできているか」「近くにあるおもちゃに手を伸ばしてつかむか」「テレビやラジオの音の方向を見るか」「離乳食を始めているか」について確認しましょう。お座りもできるようになりますが、生後6か月の目安は「両手を前について支えて座ること」、7か月では「手を離して背を伸ばして座ること」が目安です。「横になった状態で、顔にタオルやハンカチを掛けると、自分で取ることができるか」も、この時期の発達の目安になります。

 この時期によくある質問は、「離乳食を食べてくれない」「湿疹が気になる」「夜泣きがひどい」「指しゃぶりが気になる」などです。寝返りをしない、湿疹がひどいといった場合には、病院を受診して相談しましょう。
<10~12か月児健診>行動範囲が広がり、事故のリスク増
 生後10~12か月になると、つかまり立ちや伝い歩きが可能になり、行動範囲が広がるため、事故のリスクが増えます。事故予防の注意点を保護者に伝える機会になります。健診では、一人歩きや言葉が出始める前段階の評価をします。この時期には、「意味のない言葉( 喃語(なんご) )を話す」「ダメ、おいで、だっこなどの意味が分かる」「つかまり立ちができる」「伝い歩きがまずまずできる」「指先でものをつまめる」などをチェックします。

 この時期によくある質問は、「1歳を過ぎたら断乳した方がよいか?」「歯が生えてこない」「ハイハイしない。つかまり立ちしない」などです。ちなみにハイハイを経ずに、おしりをつけて座った状態からつかまり立ちをし、歩き始めるお子さんが時々います(医学用語で「シャフリング・ベビー」と呼びます)。このようなお子さんは、脇を抱えて降ろしても足をつけようとしない、腹ばいを嫌がるなどの特徴があります。歩き始めが1歳半から2歳以降と遅いこともありますが、歩き始めれば、その後の運動発達は問題ありません。気になる場合は医療機関でご相談ください。
<1歳6か月児健診> よくある質問「言葉が出ない」
 1歳半になると、言葉を話し、自分で歩き始めます。赤ちゃんから幼児に変わっていく時期と言えます。この時期に健診を行うのは、発語や歩行などを確認するのが目的です。「一人で歩くことができるか」「積み木を2~3個積めるか」「鉛筆でなぐり書きできるか」「スプーンで食べられるか」「意味のある言葉をいくつか話せるか」「興味のあるものを指さしして示すか」などを確認しましょう。よくある質問は、「言葉が出ない」です。言葉が出ていなくても、言葉の理解ができていて(例:「ワンワンどれ?」に対して指をさせるなど)、表情が豊かで、他人への興味も育っている場合には、2歳頃までに言葉が出てくることが多いです。一方、言葉が出ないだけでなく、言葉の理解を含めた遅れがあったり、対人関係やコミュニケーション、行動面で気になる点があったりする場合には、小児科の受診をお勧めします。

 「一人歩きしないが大丈夫か?」もよく聞かれる質問です。1歳6か月になっても一人歩きしないお子さんは時々います。一人歩き以外に気になる点(意味のある言葉を話さない、手が不器用など)もある場合には、発達を詳しく見る必要がありますので、受診をお勧めします。つかまり立ちまでできている場合には、家で立つ練習、歩く練習を、遊びの中で行っていただくことをお勧めします。なお、歩行器は事故の原因にもなり得るため、小児科医としてはお勧めしていません。
<3歳児健診> おむつ外れは個人差が大きい
 3歳児健診の目的は、虫歯がないかのチェックと、発達の遅れがないかの確認です。チェックするのは、「名前が言えるか」「年齢が言えるか」「視線が合うか」「丸を描くことができるか」「階段を一人で上れるか」「3語文が出るか」「大小や色が分かるか」「虫歯の有無」「ままごとで役を演じられるか」といったところです。よくある質問に「おむつが外れないのが心配」があります。たしかに、他のお子さんができているのに自分のお子さんができていないと不安になることが多いですよね。ただ、おむつ外れは個人差が大きいので、焦らなくても大丈夫です。失敗しても怒らない、成功したら褒めながら、ゆっくりやっていきましょう。

 「落ち着きがないけど発達に問題がないか?」もよく聞かれます。この時期は、通常のお子さんでも好奇心が強く、落ち着かない子は少なくありません。言葉の遅れがなくて、指示を理解して行動できる場合や、特定の場面でのみ落ち着きがない場合などは、心配ないでしょう。また、「少食・偏食」もよく相談されます。お子さんが食べないと、栄養など、将来の発達に影響があるのではないか、気になると思います。でも、基本的に、子どもが元気で順調に発育していれば、それほど心配する必要はありません。食事は、楽しい場であることがもっとも大切です。無理強いせず、親の期待通りに食べなくても落胆せず、焦らず気長に見てあげれば大丈夫です。

 今回は、最近、延期や中止が相次いでいる乳幼児健診についてまとめました。保護者の皆さんの不安の解消に少しでも役に立てればと思います。同時に、感染症が落ち着き、少しでも早く、乳幼児健診が通常体制に戻ることを心から願っています。
参考文献:1.日本小児科学会「新型コロナウイルス感染症に関するQ&A」(2020年4月12日現在)
2.原朋邦(編).乳幼児健診のコツ.治療2017;99:2.
3.伊藤保彦,河野陽一,中西敏雄他(編).乳幼児健診 診察のポイント&保護者の疑問・相談にこたえる.小児科2017;58:9.
4.福岡地区小児科医会乳幼児保健委員会.乳幼児健診マニュアル 第5版:医学書院,2015
5.石和田稔彦,井田博幸他(編).乳幼児健診Q&A.小児科診療 2012;75:11.
6.平岩幹男「保護者の方に伝えたいこと」.平岩幹男ホームページ(http://rabbit.ciao.jp/long.pdf)(参照2020/5/3)
坂本昌彦(さかもと・まさひこ)
 佐久総合病院佐久医療センター・小児科医長
 2004年名古屋大学医学部卒。愛知県や福島県で勤務した後、12年、タイ・マヒドン大学で熱帯医学研修。13年、ネパールの病院で小児科医として勤務。14年より現職。専門は小児救急、国際保健(渡航医学)。日本小児科学会、日本小児救急医学会、日本国際保健医療学会、日本国際小児保健学会に所属。日本小児科学会では小児救急委員、健やか親子21委員。小児科学会専門医、熱帯医学ディプロマ。現在は、保護者の啓発と救急外来の負担軽減を目的とした「教えて!ドクター」プロジェクト(https://oshiete-dr.net/)の責任者を務めている(同プロジェクトは18年度、キッズデザイン協議会会長賞、グッドデザイン賞を受賞)。

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