2020年5月14日木曜日

3密の「外国人収容所」で今、何が起きているのか

Source:https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200513-00349845-toyo-bus_all
5/13(水) 5:20配信、ヤフーニュースより
東洋経済オンライン
 晴天に恵まれた4月25日の午後、「東京出入国在留管理局(東京入管)」で収容されている外国人の解放を要求するデモは、最終目的地に近づいていた。品川のはずれにある入管である。

 政府は声高に新型コロナウイルスの感染予防を訴えているが、収容施設は「3密」そのものである。近年、難民申請を行っている人を含めた非正規移民をめぐる環境は厳しくなっており、収容施設から一時的に釈放する「仮放免」の許可数も劇的に急減。デモはこうした環境悪化を受けたものでもあった。
■女性1人に対して警備員7人が暴力

 東京の最も人通りが多い中心地から都合よく離れた入管の周囲には主に倉庫が立ち並ぶ。この地域は週末にはたいてい無人となる。行進中の約150人のデモ隊の叫び声は、水を打ったような静けさに迎えられた。

 しかし、デモ参加者が入館前の歩道に着いた時、奇妙で抑えられない音が上がった。クジラの声のように、近くにいる巨大で目に見えない動物の嘆きを連想させた。

 それは、入管に収容されている人たちがデモ参加者に応える声だった。
 この時、東京入管内では緊張感が高まっていた。状況を知る複数の弁護士によると、新型コロナについて質問をしていた女性の被収容者が武装した10人以上の男性警備員に取り押さえられた。弁護士の1人によると、ネパール人女性はその後連れ去られ、7人の警備員に暴力を振るわれたという。

 日本での非正規移民を取り巻く環境は厳しい。多くの国とは異なり、日本では入国管理当局が、非正規移民を無期限に収容できる体制になっている。実際、「送還可能なときまで」というほかに収容期間をめぐる法的規定はなく、何らかの事情で送還できなければいつまでも収容できる仕組みになっているのだ。あるアフガニスタン出身者は、国に送り返されるまで8年以上収容されていた。現在の最長収容者は6年以上収容されているという。
 こうした中で、新たに被収容者の脅威となっているのが、新型コロナウイルスである。

■8畳に最大5人が住む環境

 「日本では、『3密』(密集、密閉、密接)基準が発表されると、収容所がこの条件をすべて満たしていることが明らかになった」と、牛久入管収容所問題を考える会を率い、茨城県・牛久にある同収容所を25年にわたって訪問する田中喜美子氏は話す。「牛久の居室は平均8畳の広さで、そこに最大5人が住む。ベッドとベッドとの距離は数センチしかない」。
駒井知会弁護士も、「今に至っても、多くの人が同じ部屋に住むという環境は変わっていない。また、外から出入りしている職員からの感染懸念もある」と話す。

 収容所の医療体制も問題があることが以前から指摘されている。約10年前から非正規移民と医療施設を仲介するNGO北関東医療相談会の長澤正隆氏は、「私が最も懸念するのは、そもそも糖尿病や高血圧などを患うが収容中に適切な対応を受けられていない人々のことだ」と話す。糖尿病や高血圧による動脈硬化が新型コロナの重症化要因として指摘されていることは知られている。
 現在の非正規移民の収容環境に対する危機意識は政府も持っている。入管庁は「入管施設感染防止タスクフォース」を設置して、「入管施設における新型コロナウイルス感染症対策マニュアル」を発行した。

 入管庁は、同マニュアルにおいて仮放免を積極的に活用する方針を明確にしており、駒井弁護士によると、4月1日から5月7日までの間に約70人が牛久収容所から、40人が東京入管から解放された。

 もっとも、仮放免の決定は完全に出入国在留管理庁の手に委ねられているため、実際にどのような基準が適用されているのか、あるいは基準自体がはたしてあるのか明確ではない。「品川では多くの非正規移民が一時的に仮放免されたが、基本的に母国に戻る意思を示しているかどうかによるようであり、収容期間が長すぎるといった人道的理由からではない」とこの問題に詳しいある弁護士は語る。
 これまでのところPCR検査を受けた被収容者はおらず、その結果陽性とされた例も見つかっていない。出入国在留管理庁は、発熱等の新型コロナ感染症が疑われる症状がある被収容者は、分離して収容しており、陽性者が出た場合は、その人物を隔離し、医師の指示にしたがって必要があれば入院させるとしている。だが、支援者によれば、発熱などの症状がある被収容者は1カ所に集められているという。

 現在、収容施設では弁護士と外交官を除き「感染を防ぐため」面会が原則的に認められなくなっている。そのため、通常は認められない外部から被収容者への電話も認められているものの、時間や回数などは、極めて制限的だ。すでに苦痛な収容生活は一層厳しさを増しており、当局に対する不信感と不安は高まる一方だ。
■収容の在り方を見直す時だ

 新型コロナはハンコや満員電車といった日本における悪しき慣習を是正する役割を果たすかもしれない。非正規移民の収容もそうだ。「3密」を避けることが求められる感染予防と、非正規移民は原則として収容するという考え方は相入れない。

 「これまでのところ、入管当局は、難民申請者を含む非正規移民の収容を回避する信頼できるシステムを開発する努力をしていない」と非正規移民の収容問題に詳しいある弁護士は訴える。が、新型コロナによって新たな収容方法などが必要になっていることは明らかだ。
 国連の入管収容代替措置に関するワーキンググループは、新型コロナは収容案を見直す絶好の機会だとしている。同グループは4月末、今回を機に非正規を含む移民の収容環境を見直した16カ国をリストアップした報告書を発表した。驚きはないものの、悲しいことに、そこには日本は入っていなかった。

 多くの国は、収容期間を短縮した。一方、日本はさらに厳格化する方向へ進もうとしている。入国管理局は35億円の予算を獲得し、収容施設の拡充を図ろうとしているのだ。このパンデミックのときに。
レジス・アルノー :『フランス・ジャポン・エコー』編集長、仏フィガロ東京特派員

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