Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/2d1f6fe25ac8274e240f5eec7857cc64b5a6df63
入管は「コロナ対策」として何の準備もないまま被収容者を放り出した
事件は4月25日に起きた。東京入管に収容されている大勢の女性被収容者たちが、入管に対して“抗議の帰室拒否”を行ったことが、大事件へと発展していったのだ。
世界中が新型コロナウイルスの脅威にさらされている昨今、日本もまた例外ではない。当然、入管もコロナ対策は無視することのできない大きな問題だ。
4月14日の森まさこ法務大臣は閣議後会見で「新型コロナウイルス感染拡大、緊急事態宣言を受けての対策ということでございますが、今般の事態を踏まえて、仮放免を柔軟に活用することとしております」と答弁している。
被収容者や現場職員がコロナにかかることを考えれば、それ自体は決して悪いことではないのだが、その仮放免のやり方に対して不満が噴出した。
東京入管では、帰国の意思のある者のみを職権で仮放免した。本来、仮放免は保証金・保証人・住居の3点をそろえたうえで申請しなければ解放されることはない。
しかし今、帰国意思のある人たちはコロナで飛行機が飛ばないため帰れない。そういう人たちを、入管はなんの準備もないまま放り出したのだった。住まいも決まってないまま、行き場がなくて困っている人もいると噂されている。
その一方で、どうしても帰国できない人たちもいる。難民申請者や、日本に家族がいる人たちだ。彼らは何年も収容され、仮放免申請を出しては却下される、の繰り返し。2年、3年待っても解放のめどがない。5年間収容されている女性もいるという。
集団要求した女性被収容者たちに複数の男性職員が襲いかかり、暴力的排除
今回のことで怒った女性被収容者たちが4月25日、ついに行動を起こした。
10時頃~13時過ぎ、16時30分頃~17時過ぎの2回にわたって集団要求は行われた。一致団結した女性たちは部屋の外に出て「自由がほしい」と書いたTシャツや紙を掲げ、ただ立っていた。
彼女たちの要求は「なぜ不公平な仮放免のやりかたをするのか、ボス(説明のできる責任者)と話し合いがしたい」という1点だけ。それがかなうまでは部屋には戻らないというものだった。
しかし責任者は姿を現すことはなく、職員に部屋に戻るように言われるだけだった。それでも戻らないでいると、ヘルメットを装着し、盾を持った大勢の男性職員が女性ブロックに突入してきた。
女性1人に対して複数の男性職員が襲いかかり、暴力的排除が始まった。自分の部屋ではではない、近くの部屋に乱暴に押し込められた。集団要求とは関係なくシャワーを浴びていた人もいたが、男性職員がシャワー室に入って「早く出ろ!」と怒鳴り、下着姿のまま連れて行かれた。
体をつかまれ、服を強引に引っ張られ、ブラジャーをしていなくて肌が露出してしまった人もいる。この大惨事以来、多くの女性たちはフラッシュバックに悩まされるようになった。
最後まで部屋に帰るまいと抵抗した数名は、保護室(懲罰房)に閉じ込められた。それ以外でも結局、帰室拒否を行った・行わないにかかわらず、すべての女性たちが土曜の夕方から月曜の朝まで部屋に閉じ込められた。シャワーを浴びることも、外部に電話することも叶わなかった。
「(男性職員が)首を絞めて、あれは殺す気だったのかと……」
筆者は、南米出身の女性被収容者の夫(定住者)に、この時の話を聞くことができた。
「25日の騒ぎがあった日、妻から電話があったのは17時過ぎが最後でした。それから月曜の朝にやっと電話があって、ひどいありさまだったことを聞きました。妻は早く部屋に戻ったので、幸いなことにケガはありませんでした。
私は、4階の総務課と7階の処遇部門に『なぜ女性たちにそんなひどいことをするのか』と抗議をしました。しかし7階の職員は『暴力など振るっていない、女性たちが嘘をついている』というようなことを言っていました」
この行動には参加せず、その光景を見ていた女性にも話を聞くことができた。
「あんなに(男性職員が)首を絞めて、あれは殺す気だったのかなと思ったほど……。私は泣いて見ていることしかできなくて、みんなも泣き叫んでいて、私はあの日のことがトラウマになってしまった」
最後まで抵抗し、懲罰房に連れていかれたコンゴ難民の女性は、興奮して電話越しで泣き叫んでいた。
「私は女のコなのに……男にあんな酷い目にあわされて……。私の人生何なの!? 助けて!助けて!」
彼女は難民申請が認められず、2年以上も収容されている。
男性職員が女性被収容者の顔を床に叩きつけた!?
同じく懲罰房に連れて行かれたネパール難民の女性は、比較的落ち着いた様子で語ってくれた。
「私たちが暴れたりしたのなら制圧されても仕方がないと思えるけど、私たちはただ部屋に帰らないで静かに立っていただけ。ただ話し合いを求めただけだった。入管はやりすぎだと思う」
彼女もまた、2年近く収容されている。制圧時は男性職員に顔を床に叩きつけられ、そのショックで微熱と頭痛が毎日続いたという。
騒ぎから2日後の4月27日に仮放免が許可され、解放されることになった女性が3人ほどいた。しかしその3日後に、入管から代理人弁護士のもとに電話が来て「仮放免をいったん止める」と言われたという。その理由は「違法行為があった」としか告げられなかった。
代理人弁護士たちも入管のやり方を批判
代理人弁護士たちは、このやり方に憤りを見せる。
「自分が知る限り、仮放免をストップさせるケースなどなかった。いちど決まったものを下げるのは不当だ」(駒井知会弁護士)
「違法ではないが不当。これも入管の裁量が大きすぎることに問題がある」(尾家康介弁護士)
「本人や家族の精神的ショックが大きい。残酷な仕打ちと言える。帰室拒否の件は説明し、話し合えばこうはならなかったのではないだろうか。説明を求めただけなのに、やり方に疑問を感じる」(高橋ひろみ弁護士)
入管側は「規則にそっただけ」と回答
5月15日、立憲民主党の石川大我議員を中心とした議員有志による「入管施設内における新型コロナウイルス対策の実態及び警備官による女性被収容者への暴力事案等に関する省庁ヒアリング」が参議院会館で行われた。
この場で、出入国在留管理庁の岡本警備課長はこの事件について聞かれ「詳細は答えられないが、時間になっても戻らなかったので、被収容者処遇規則にそっただけ」と答えている。
入管の被収容者に対する暴力事件はいっこうに後を絶たない。いつまでも入管の裁量のもと自由にさせていて良いものだろうか。第三者機関による監視が必要なのではないだろうか。
文・写真/織田朝日
【織田朝日】
おだあさひ●Twitter ID:@freeasahi。外国人支援団体「編む夢企画」主宰。『となりの難民――日本が認めない99%の人たちのSOS』(旬報社)を11月1日に上梓
ハーバー・ビジネス・オンライン
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