2020年5月14日木曜日

かけ声倒れの「特定技能」 活用低迷に加え中間搾取排除も転職の自由も骨抜き〈AERA〉

Source:https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200422-00000011-sasahi-soci
4/24(金) 9:00配信、ヤフーニュースより
AERA dot.
 2019年4月1日からスタートした新たな在留資格「特定技能」の受け入れが想定の1割未満にとどまっている。技能実習制度で課題とされていた中間搾取排除、転職の自由という狙いも想定通りに機能していないという。AERA 2020年4月27日号では、2年目を迎えた特定技能の現状に迫った。

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 4月3日、少子化で学生数が減少し続ける中、埼玉県が3年ぶりに設置を認可した専門学校「新洋国際専門学校」(さいたま市)で入学式が開かれた。新型コロナウイルスの感染が拡大する中、入学オリエンテーションを兼ねた簡易的な式は保護者や来賓の参加が見合わされ、参加を自粛する入学者もいた。

 同校は政府が2019年4月に新設した在留資格「特定技能」で働く外国人労働者を管理する人材の育成を目指す。限られた募集期間だったが、定員の80人を超える145人が受験した。入学生は65人。ベトナム人が26人、ネパール人が19人と、大半は日本語学校を卒業した外国人が占めた。

 特定技能は、単純労働分野で働く外国人の在留を初めて認めた在留資格で、介護や外食業など14業種が対象だ。資格の取得には、日本語と業種別に実施される技能試験に合格する必要があり、在留期間は5年間。一方、専門学校を卒業し、特定技能の労働者を管理・支援する側になれば、ビザの更新や家族帯同が認められる「技術・人文知識・国際業務」の在留資格を取得することができる。

 入学者には、国内で実施された技能試験に合格し、特定技能外国人として働く道もありながら、同校への進学を決めた者も少なくない。ネパール出身の新入生ゴレ・ラフルさん(24)もその一人だ。

「期限付きで、単純労働しかできない特定技能には魅力を感じません。日本で生活した経験を生かし、特定技能外国人をサポートする仕事に就きたいです」

 同校では、労働基準法、出入国管理法などに関する教育が行われ、卒業後は特定技能外国人の生活支援を目的に国が認定する「登録支援機関」で働くことを想定している。理事長の任都栗新(にとぐり・しん)さんはこう話す。
「政府は5年で約35万人の特定技能外国人の受け入れを見込んでいます。その生活支援を受け入れ企業にだけ求めるには限界があり、支援業務を受託できる登録支援機関が担う役割は大きい。通訳だけではなく、入管業務などに精通した人材の需要が増えていくと考えられます」

 ただ、その特定技能外国人の受け入れが進まない。政府は初年度だけで3万2800~4万7550人の受け入れを見込んでいたが、制度開始から約1年たった20年2月末時点で、日本に在留する特定技能外国人は2994人(速報値)だ。想定に遠く及ばない理由には、海外での試験実施体制が整わなかったことや、前出のように期限付きビザに人気が集まらなかったことなどが挙げられるが、議論すべき点はほかにもある。

 3月27日、ベトナム政府は特定技能での海外派遣に関するガイドラインを発表した。ベトナムは制度本来の理念とは裏腹に単純労働の受け皿となっている「技能実習制度」で全体の53%を占める最大の送り出し国で、特定技能でも期待は大きい。

 現状の技能実習制度では、実習生は送り出し機関やブローカーなどに手数料や教育費などの項目で合計100万円近いお金を払い、来日している。多額の借金を背負う者も少なくなく、それが失踪者増加の原因にもなっている。そのため、特定技能ではこれらの仲介機関を置かず、日本企業が直接労働者を採用することで、中間搾取を排除するはずだった。

 ところが、ベトナム政府のガイドラインによれば、特定技能でも技能実習制度と同様に送り出し機関を通すことになっている。舞台裏を知るベトナムの送り出し機関幹部はこう説明する。

「ベトナムに限らず、途上国では人材の送り出しが外貨獲得の大きなビジネスだ。人材は商品であって、日本企業にただで売り渡すなんてことはできない。最終的に送り出し機関を通す形で日本サイドも納得したが、ガイドラインの発表までに時間がかかったのは、そのためだ」
 ガイドラインによれば、送り出し機関が徴収できる手数料の上限は給料の最大3カ月分で、そのうち最低1カ月分以上の給料と教育費を日本企業が負担する。給料が仮に20万円とすれば、手数料の自己負担は40万円。ベトナムの農村部の月収は1万~2万円だ。技能実習生が負担する額よりは少なくなるが、「特定技能で日本を目指す若者は少ない」と先の幹部は説明する。

「ベトナムの若者にとって重要なのは、すぐに稼げるかどうか。特定技能には技能試験があり、日本語能力も求められる。一から勉強すれば最低半年はかかる。無試験で日本に行ける技能実習という道がある以上、わざわざ難しい道を選ぶ人はいない」

 もう一つ、特定技能のうたい文句となっているのが、「転職の自由」だ。技能実習制度が奴隷制度などと国内外からの批判を受けたことに配慮した。

 ただ、この転職のハードルが相当高い。受け入れ企業や外国人労働者の生活支援を行う登録支援機関には転職支援の義務があるが、あくまで受け入れ企業の人員整理や倒産など「外国人の責めに帰すべき事由によらないで特定技能雇用契約を解除される場合」に限られる。「友人と働きたい」「より給与の高い会社で働きたい」といった自己都合で転職する場合、受け入れ企業や登録支援機関は転職支援をする義務はない。

 企業や支援機関の支援無しに転職する場合でも、特定技能は受け入れ企業にひもづいた在留資格なので、勤務先を変更する場合は「在留資格変更許可申請」を入管に届け出る必要がある。この申請は、日本人でさえ10万円程度を払って行政書士に依頼するような作業だ。日本語能力が不十分な外国人が一人で行うのは難しい。

 しかも転職活動のため辞職することはできず、変更許可申請には転職先に関する資料も必要なため、働きながら転職先を見つける必要がある。飲食料品製造業など、業界内で転職させる「引き抜き行為」の禁止を申し合わせている業界まである。(ジャーナリスト・澤田晃宏)

※AERA 2020年4月27日号より抜粋

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