2019年11月27日水曜日

子どもの「指しゃぶり」 やめさせた方がいいの?

Source:https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20191123-00010001-yomidr-sctch
11/23(土) 、ヤフーニュースより
坂本昌彦 「教えて!ドクター」の健康子育て塾
 子どもの「指しゃぶり」はさせていいのか、やめさせた方がいいのか。「おしゃぶり」はよくないのか。診察室で聞かれることは多くありませんが、出前講座に行った先で相談されることは結構あります。

 「病気じゃないので、病院で聞くのも……」と思うのかもしれません。しかし、医療者が思っている以上に、不安に思う保護者は多いのでしょう。ネットで調べると、色々な意見が出てきて、余計に迷います。

 この問題については、以前から、「自然に改善するから様子を見てよいのでは」という小児科医と、「歯並びに影響が出るから、極力、早めに対応しなくてはいけない」という歯科医でアドバイスに温度差がありました。そのため、保護者が相談しても、より混乱してしまうと言われてきました。

 そこで2003年、小児科医と小児歯科医の意見を調整する場として「小児科と小児歯科の保健検討委員会」が発足し、以来、共同で小児科医と小児歯科医の総意としての見解を公表してきました。その成果をまとめた「子どもの歯と口の保健ガイド」(※1)が09年に作られています(2019年に改訂)が、その内容は、あまり一般の人に知られていません。

 今回はおしゃぶりや指しゃぶりへの対応について、この保健ガイドの内容を踏まえてお話しします。
正常な発達の一部
 赤ちゃんの指しゃぶりは、お母さんのおなかの中にいる在胎24週頃からみられることが知られています。超音波エコーなどで、しゃぶっている様子を産婦人科の先生に教えてもらった方もいるかもしれません。生まれてすぐに母乳を飲むための準備ともいわれており、これは正常な発達の一部ともいえます。

 正常な発達の一部とはいえ、デメリットもあります。それは、前歯が前に出る(いわゆる「出っ歯」)ことや、開咬(かいこう)(口を閉じても上下の前歯の間に隙間ができる)など、 歯並びに影響が出る可能性があることです 。口呼吸、舌足らずな発音などの要因になる可能性も指摘されていて、指を吸う頻度が高かったり、長期間にわたる場合などでは、より影響が出るかもしれません。

 また、汚れた指をなめることで、「感染症になりやすいのでは?」と思われるかもしれません。指しゃぶりで爪周囲炎など、 指に感染症を起こしたという報告 はありますが、調べた限りでは、指しゃぶりをしている子が胃腸炎や肺炎にかかりやすいという報告はなさそうです。
3歳までは見守りの姿勢でいい
 「うちの子、まだ指しゃぶりしている、どうしよう!」と思っている人がいるかもしれません。でも、ご安心ください。指しゃぶりの頻度は、年齢とともに下がっていくことが分かっています。1歳半で指しゃぶりをするお子さんは約30%ですが、3歳児では20%、5歳になると10%というデータがあり(※2)、自然に改善することが多いのです。減っていく理由ははっきり分かりませんが、「子どもの歯と口の保健ガイド」には、指しゃぶりをしていると、「つかまり立ち」「伝い歩き」「一人歩き」などの発達過程がスムーズにいかないためではないかという記載があります。

 幼児期以降になると、昼間の指しゃぶりは減っていき、眠いときや退屈なときのみになっていきます。この傾向も、積み木を積んだり、人形を抱っこする行為が指しゃぶりの卒業と関係しているのではないかと考えられています。

 このように、指しゃぶりは通常4~5歳になるとかなり減るとされていて(※3)、「子どもの歯と口の保健ガイド」でも、3歳までは基本的に見守りの姿勢でよいとしています。4~5歳を超えても続く場合には対応を検討します。6歳以降も頻繁に指しゃぶりしている場合は、自然に消失しないことも分かっており、小児科医・小児歯科医・臨床心理士に相談した上で積極的に対応することになります。
無理にやめさせようとしない
 では、どうすればよいのでしょうか。基本的には「やめさせる」のではなく、「やめようという気持ちを育むこと」が大切です。

 指しゃぶりは「不安や緊張を取るための行動」でもあるとされており、親が気にし過ぎると余計にひどくなるケースもあります(※4)。また、無理にやめさせようとすると、他の癖に置き換わってしまったり、心理的なトラウマになったりする場合もあります。まずは、「指をお口に入れちゃダメ」ではなく、「この指が大好きなんだね」という現状を受け入れることがスタートライン。そうすることで、子どもは心理的に解放され、少しずつやめようという気持ちが育っていきます(※5)。その上で、以下のように対応を進めます。


1)子どもにストレスや不安の原因がないかを考え、あれば取り除く

2)指しゃぶりをしなかった記録をカレンダーにつけ、しなかった日に大いにほめるようにする(正の強化方法)

3)小児科や小児歯科を受診し、カウンセリングを受ける

4)必要に応じて、指しゃぶりを物理的にできなくする矯正器具を装着する。場合によっては、本人が嫌がる味のものを指に塗る(負の強化方法)


 15年の研究 でも、このように正や負の強化方法を用いたり、矯正器具を使用したりすることで、指しゃぶりを効果的に中止できるだろうと報告されています。悩んでいるなら、まずは小児科や小児歯科にご相談ください。
「おしゃぶり」は長期化しやすい
 では、おしゃぶりを与えることについてはどうでしょうか。

 そもそも、おしゃぶりを使っている赤ちゃんは、どれくらいいるのでしょう。その頻度を調べた日本の研究は探した限りでは見当たりませんでした。 海外で6歳以下の子どもの親に行ったアンケート調査 では、63%が「使ったことがある」と答えています。

 おしゃぶりには「精神的な安定」「泣きやみやすい」「入眠がスムーズで母親が助かる」などの効果があるとされています(※6)。その一方、指しゃぶりと違って手が自由になることから、伝い歩きなど発達が進んでも自然になくならないため、放置しておくと長期化しやすいと指摘されています(※1)。

 おしゃぶりのデメリットとしては、指しゃぶりほどでないにせよ、 開咬に影響を与えるリスクが高い とされています。その他に 中耳炎の発症リスクが上がること などがあります。

 「おしゃぶりをすると虫歯が増えるのでは」と心配する人もいるようですが、 特に関係はなさそうです 。なお、以前からあった「おしゃぶりが鼻呼吸や下顎の発達を促す」という意見については、特に医学的な根拠がありません。
4歳を超えて使うと噛み合わせに影響も
 では、おしゃぶりの使用をやめるタイミングはいつがよいのでしょうか。

 卒業の目安としては、1歳を過ぎたらおしゃぶりのホルダーを外して、常時使用しないよう工夫をし、2歳半くらいまでに使用をやめるようにするのがよいとされています。4歳を超えておしゃぶりを使っていると、 噛か み合わせなどにより大きな影響が出るという研究結果があります 。したがって、4歳過ぎでもおしゃぶりが取れない場合には、小児科医に相談するとよいでしょう。

 以上をまとめると、次の表の通りです。

 今日は指しゃぶりとおしゃぶりについて書きました。参考になればうれしいです。悩んでいる場合にはお近くの小児科もしくは小児歯科でご相談くださいね。


参考文献(本文中にリンクがあるものを除く):

(※1)小児科と小児歯科の保健検討委員会.子どもの歯と口の保健ガイド第2版,2019.

(※2)小児科と小児歯科の保健検討委員会.指しゃぶりについての考え方,2006

(※3)Augustyn M, Frank DA, Zuckerman BS. Infancy and toddler years. In: Developmental-Behavioral Pediatrics, 4th, Carey WB, Crocker AC, Coleman WL, et al (Eds), Saunders Elsevier, Philadelphia 2009. p.24.

(※4)高橋昌司.子どもの歯(指しゃぶりをしている子どもへの対応).チャイルドヘルス21.60-62,2018

(※5)田中英一.習癖(特に指しゃぶり)についての相談にどう答えるか.歯界展望128.294-297,2016.

(※6)丸山進一郎.歯列と咬合の異常(おしゃぶりの使用).小児科臨床71.2235-2240,2018.
坂本昌彦(さかもと・まさひこ)
 佐久総合病院佐久医療センター・小児科医長
 2004年名古屋大学医学部卒。愛知県や福島県で勤務した後、12年、タイ・マヒドン大学で熱帯医学研修。13年、ネパールの病院で小児科医として勤務。14年より現職。専門は小児救急、国際保健(渡航医学)。日本小児科学会、日本小児救急医学会、日本国際保健医療学会、日本国際小児保健学会に所属。日本小児科学会では小児救急委員、健やか親子21委員。小児科学会専門医、熱帯医学ディプロマ。現在は、保護者の啓発と救急外来の負担軽減を目的とした「教えて!ドクター」プロジェクトの責任者を務めている(同プロジェクトは18年度、キッズデザイン協議会会長賞、グッドデザイン賞を受賞)。

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