2019年11月27日水曜日

「特定技能外国人」が日本に来ないワケ〈週刊朝日〉

Source:https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20191122-00000011-sasahi-pol
11/25(月) 、ヤフーニュースより
 安倍政権の肝いりで、採決を強行した改正出入国管理法(入管法)に基づき、4月に新設された在留資格「特定技能」。人手不足を解消するため外国人に単純労働を認める就労ビザだが、取得者は初年度想定の3%未満。何が起こっているのか。
 求人誌に広告を出しても、切羽詰まった日本人の若者から「日払いでお金がもらえますか」と電話があっただけ。ハローワークに求人票を出しても、応募者は50代以上の未経験者ばかり。そんな時、誘いがあった。

「4月に申請を出せば、5月には人材を送れます」

 関東の建設会社社長(40代)は2月、知人を介して出会った人材紹介会社の提案に二つ返事で飛びついた。

 4月に新設された在留資格「特定技能」で、元技能実習生のカンボジア人2人と、ベトナム人1人を送り込めるという提案だった。建設会社社長は3人分の採用コンサルティング料として180万円を支払った。しかし、待てど暮らせど人材はやってこない。

「国の制度が不十分で、まだまだ時間がかかります」

 人材紹介会社の担当者はそう言い訳するばかりだ。8月に「技能実習生をとりますか?」と代案を示されたところで建設会社社長の不信感は頂点に達し、キャンセルと返金を申し出た。

 しかし、人材紹介会社は「国の制度の問題で時間はかかっているが、採用しないわけではない。キャンセルの場合は4割の返金しか認めない」と、言い張っているという。

 単純労働分野で働く外国人労働者の在留資格を14業種で認め、5年で最大34万5150人の受け入れを目指す特定技能。

 4月の制度開始から半年が経つが、受け入れがまったく進まない。ビザが交付されたのは732人で、初年度想定の3%に満たない。衆院17時間15分、参院20時間45分。改正入管法は国の将来を左右する重要法案でありながら、拙速審議で昨年末の臨時国会で成立させた結果、冒頭のような混乱が起きている。自民党関係者が話す。

「参院選を睨み、人手不足に悩む財界に恩を売るため、日程ありきで決めた法律。新制度を作ったからといって、諸外国が『はい、わかりました』とすぐに受け入れてくれるわけではない」

 政府は当面、特定技能での受け入れを9カ国(ベトナム、フィリピン、カンボジア、中国、インドネシア、タイ、ミャンマー、ネパール、モンゴル)からとしているが、送り出し国の法令、手続きが定まっているのは現時点でカンボジア、インドネシア、ネパールの3カ国のみ。特定技能外国人は日本語と業種別の技能試験に合格する必要があるが、10月までに日本語試験は4カ国、技能試験は6カ国で開催されたに過ぎず、開催回数も少ない。技能試験が実施されていない業種も多く、日本企業は人を受け入れたくても、受け入れられない状況が続く。
 最大の誤算は、技能実習生最大の送り出し国であるベトナムの態勢が整わないことだろう。今や技能実習生全体の半数を超える約16万人はベトナム人。特定技能でもその人材供給国としての期待が大きい。なぜ受け入れが進まないのか。ベトナム政府に近い送り出し機関幹部が舞台裏を話す。

「日本政府は送り出し機関を通さない形での受け入れを目指しましたが、それではベトナム政府の利益はない。日本に限らず、ヨーロッパ諸国からも人材を求められるなか、送り出し国として譲歩はできません」

 技能実習制度では、人材の送り出しにベトナム政府機関の推薦状が必要になる。送り出し機関は、納税はもちろん、ときにはわいろなどを払って蜜月関係を保っている。人材の送り出しは「国のビジネス」であり、日本企業が直接「国の商品」である労働者を雇用するなど、認められるものではない。ベトナムでは10月、特定技能における手続きの一部が公表されたが、技能実習生同様、送り出し機関を通して派遣する形になる。

 送り出し機関は現状、技能実習生から送り出しにかかる費用として平均7千~8千ドル(約75万~90万円)を徴収しているのが実態だ。その構造は特定技能でも変わらない。特定技能における徴収額のルールはいまだ公表されていないが、先の幹部によれば、日本の受け入れ企業から入国前教育費を含め2800ドル(約30万円)、そして、特定技能労働者から給料の最大2カ月分以下を徴収できるとするガイドラインがまもなく公表されるという。仮に特定技能外国人の給与を月収25万円とすると、2カ月分で50万円。日本の受け入れ企業から徴収できる2800ドルを加えれば、技能実習生と同等の収益を確保できる。

 ただ、この幹部は、特定技能での送り出しが可能となっても「希望者は少ない」と見ている。

 その理由は、「ベトナムの若者にとって重要なのは、すぐに稼げるかどうか。特定技能は試験があり、日本語はN4レベルが求められる。一から勉強すれば、最低半年はかかる。無試験で日本に行ける技能実習という道がある以上、わざわざ、難しい道を選ぶ人はいない」

 いち早く政府間で特定技能の協力覚書を締結したフィリピンでも、混乱が起きている。介護業界は4月から毎月フィリピンで試験を実施。すでに100人以上の合格者が出ているが、フィリピン国内のガイドラインが示されないために手続きができず、足止めを食らっている。そのため、

「介護事業者が合格者に入社祝い金などを払い、奪い合う動きがある一方、手続きが進まないからと日本を諦め、中東など他国へ働きに出る人も現れています」(フィリピンの送り出し機関の日本担当者)
特定技能の対象14業種のうち、技能実習制度での受け入れがない外食業界では、法改正以降、危機感が強まっている。コンビニやファストフード店などで外国人を見ることが増えたが、彼らは技能実習生ではなく、留学生として日本に滞在し「資格外活動」として週28時間という制限のなかでアルバイトしている人が多い。そして人手不足の日本にとって貴重な戦力だった彼らが、特定技能の新設と同時にいなくなってしまっている。日本語学校の業界団体「全国日本語学校連合会」の荒木幹光理事長は言う。

「入管法の議論が始まった昨年秋から、留学ビザの交付が厳しくなっています。東京を中心にアルバイト目的で留学する学生が問題になっており、そうした学生は特定技能で来てくださいということでしょう」

 大量の留学生が失踪した東京福祉大学の問題は記憶に新しい。こうした問題を受け、アルバイト目的の「出稼ぎ留学生」へのビザは出なくなったのだ。

 同連合会の調べによれば、日本語学校への4月入学生のビザ交付率を2018年と19年で比較すると、ミャンマー人は83.7%から4.3%、ネパール人は47.8%から2.3%、バングラデシュ人は68.8%から0.8%(すべて東京入管分)などと、一部の国の留学生への交付率が激減している。

 留学生の穴を埋めるべく、外食業では国内、国外ともに技能試験が実施され、これまでに1546人が合格している。しかし、特定技能の取得者は37人に過ぎない。外食業の業界団体「日本フードサービス協会」の石井滋常務理事は言う。

「在留資格申請の審査が遅れ、現時点での取得者が少ない状況になっています。その大きな理由として、外国人留学生の国民年金の未納があります。日本の社会保障制度は、国籍に関係なく、日本人と同等に適用されるため、外国人留学生にも国民年金の支払い義務がある。留学生が特定技能を取得するには、未納金の問題を解決する必要がある」

 内定を出した企業が入社祝い金を出し、未納分を払わせるなどの対応がとられているという。

 試験を受けて特定技能を目指す外国人がいる一方、当初から受け入れがスムーズに運ぶと見られていたのが、元技能実習生や技能実習から特定技能に移行するパターンだ。条件をクリアすれば、試験は免除される。

 だが、こちらも問題が山積している。その一つが、履歴書の偽造だ。日本を目指す技能実習生は、日本で従事する業務と同種の業務を海外で行った経験が求められる。そのため、申請時に海外の所属機関からの証明書を求められるが、「1件100ドル程度で偽造書類の作成を請け負う会社があるほど、職歴の偽造は常態化している」(前出のベトナム機関幹部)。
厄介なのは、偽造された職歴を技能実習生本人が知らない、または、覚えていないことだ。特定技能の申請時に履歴書の提出が求められるが、技能実習時に提出した履歴書と職歴が違えば、はじかれる。技能実習生受け入れを行う監理団体などのコミュニティーサイトを運営する国際人財支援機構の高井修一社長の解説。

「監理団体には技能実習終了日から1年間、履歴書を保管する義務がありますが、なくしてしまったと言われれば、過去の履歴書を確認する術はありません」

 実務面でも壁がありそうだ。来年2月に『特定技能制度の実務』を出版する山脇康嗣弁護士はこう話す。

「提出書類が多く、申請書類は1人あたり150枚を超えます。制度自体も難解で、同じ建設業でも技能実習制度では認められたとびが特定技能では認められないなど、受け入れ可否の判断からして複雑です」

 進まない受け入れに、業界団体も声を上げ始めた。

 日本商工会議所は10月、外国人の受け入れに関する相談機能の強化・拡充や対象職種の拡大を求める要望を発表。日本商工会議所の担当者は話す。

「特定技能の交付・許可件数が少数にとどまる一方、これまで外国人材を受け入れたことがない中小企業から、何をすればいいかわからないという声が多く寄せられています」

 受け入れ態勢が整わないベトナムに代わり、他国へシフトする動きもある。

「1日最大8社の視察が入るなど、注目が集まっています。ベトナムの次を探す動きが加速しています」(送り出し機関「ミャンマー・ユニティ」事業責任者の大澤夕子さん)

 制度開始から半年。人手不足は解消されない一方、拙速審議のツケは、現場が払わされている。(ジャーナリスト・澤田晃宏)

※週刊朝日  2019年11月29日号

0 件のコメント:

コメントを投稿