2019年11月13日水曜日

「留学生を買った」日本の責任とは?

Source:https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20191110-00010000-wedge-soci
11/10(日) 、ヤフーニュースより
 法務省入管当局が、留学生の違法就労への監視を強めている。今年3月に東京福祉大学で起きた「消えた留学生」問題が影響してのことだ。留学ビザの更新時に「週28時間以内」を超える就労が見つかり、母国への帰国を余儀なくされる留学生も増えている。

 ブータン人留学生のダワ君も、7月に在留期限を迎えた留学ビザの更新が不許可となった。もはやブータンに帰国するしかないが、その前に在籍する上野法科ビジネス専門学校(千葉市)に対して要求があった。入学前に支払った初年度の学費65万円の一部を、返還してもらいたかったのだ。

 日本への留学時に背負った借金は、まだ60万円以上も残っている。しかも母国に戻っても仕事が見つかる当てはない。たとえ一部でも学費が戻ってくれば、借金返済の助けにはなる。

 ダワ君が学費の返還を求めた気持ちもわかる。学校には3カ月ほどしか在籍していないのである。しかし上野法科ビジネス専門学校は、学費の返還に応じようとはしなかった。入学前にダワ君が署名した「誓約書」を盾にしてのことだ。確かに「誓約書」には、こんな一文がある。

 「法律違反等により在留期間更新不許可になった場合、学費の返金は一切求めません。」

 誓約書は、ダワ君が在籍していた日本語学校に送られてきた。そして日本語学校の職員から十分な説明も受けず、ダワ君は言われるままに署名していた。

 たとえ説明があっても、彼は署名していたことだろう。借金返済のためには、進学先を確保したうえで、アルバイトを続ける必要があった。

 ただし、こうした一文の存在からして、上野法科ビジネス専門学校が留学生のビザ更新不許可を想定し、予防線を張っていたとも受け取れる。同校は東京福祉大と同様、多くの“偽装留学生”の進学先となっている疑いがある。
 上野法科ビジネス専門学校には「情報ビジネス学科」「日本語教師学科」「日本語学科」という3つの学科がある。ダワ君の在籍する「情報ビジネス学科」のクラスは、27人全員が留学生だった。同学科は全部で6クラスあるが、他のクラスにも日本人がいる様子はなかった。

 専門学校や大学の授業を理解するには、最低でも日本語能力試験「N2」レベルの語学力が必要だ。しかし、ダワ君によれば、クラスに「N2」合格者は1人もいない。クラスメイトの出身国は約半数がネパールで、他にもベトナムやウズベキスタンなど“偽装留学生”を数多く送り出している国が並ぶ。しかも1人のネパール人留学生は学校から失踪し、加えてベトナム人の女性留学生はビザが更新不許可となって帰国したという。

 上野法科ビジネス専門学校が設ける「日本語学科」は、日本語学校に相当するコースだ。こうして学校内に日本語学校を設置し、留学生を内部進学させるビジネスモデルは、専門学校や大学で広まりつつある。あの東京福祉大もそうだった。“偽装留学生”の急増でバブルに沸く日本語学校業界にあやかろうしているのだ。
留学生の割合5割ルールの撤廃
 もともと専門学校は、留学生を自由に受け入れられたわけではない。以前は留学生の割合を定員の5割以下とするよう規定があった。しかし、そのルールは「留学生30万人計画」が始まった2年後の2010年、文部科学省によって撤廃された。以降、日本人の学生不足に直面する学校では、留学生頼みが加速していく。

 『読売新聞』(2018年10月8日朝刊)によれば、在校生の9割以上が留学生という専門学校は全国で少なくとも72校、全員が留学生という学校も35校に上っている。こうした学校の大半は、“偽装留学生”の受け入れで経営を維持していると見て間違いない。

 しかも問題は専門学校に留まらない。私立大学の半数近くは定員割れの状態だ。学力や日本語能力を問わず留学生を受け入れ、経営維持を図ろうとする大学は全国各地に存在する。そして留学生の失踪や学費の返還請求といった問題を抱えているのも、東京福祉大や上野法科ビジネス専門学校に限ったことではない。

 ダワ君に関しては、上野法科ビジネス専門学校が入学前に彼の経済力を精査していれば、学費返還のトラブルも避けられた。だが、精査すれば留学生は集まらず、学校経営に支障が出る。そのため経済力など軽視して留学生の入学を認め、とりあえず1年分の学費を徴収した可能性がある。先に学費さえ取っておけば、留学生のビザが更新されず帰国となっても学校側に痛手はない。違法就労にしろ、留学生の責任として言い逃れできる。

 こうして弱い立場の留学生につけ込むやり方に、嫌悪感を覚えるのは筆者だけだろうか。上野法科ビジネス専門学校には、学費の返還問題や留学生の選考方法、受け入れ実態などについて回答を求めたが、一切の取材は拒否した。

 借金漬けの“偽装留学生”の受け入れは、日本語学校から専門学校、大学へと拡大していく一方だ。そんな現状にメスが入る日は来るのだろうか。

 東京福祉大での問題発覚を受け、法務省出入国在留管理庁などが対策を打ち出した。日本語学校に対しては、留学生の出席率やアルバイト時間をしっかり管理するように求め始めている。また、除籍や退学、所在不明者を多く出し続けた大学や専門学校には、留学生の受け入れを停止させる方針だ。しかし、すべては「対処療法」に過ぎない。
まさに「マッチポンプ」
 根本から問題を解決することは簡単だ。“偽装留学生”に対し、入管当局が入国時のビザ発給を拒めばよいのである。本来、留学ビザはアルバイトなしで日本での生活を送れる外国人に限って発給される。その原則に立ち返り、ビザ取得時に“偽装留学生”が提出する書類を精査する。親の年収や銀行預金残高の捏造など、入管行政のプロであれば見破ることは難しくない。

 ただし、それを実施すれば、留学生の受け入れは大幅に減るだろう。日本語学校の過半数は経営が行き詰まり、一部の専門学校や大学も経営面で大打撃を受ける。そんなことは政府が「留学生30万人計画」の旗を掲げる限り、起きはしない。だから入管庁も問題を十分に認識しながら、学校側に留学生の管理強化を求める程度しかできない。

 その陰で、留学生の違法就労への監視が厳しくなっている。入管当局は、留学生が「週28時間以内」のアルバイトでは日本で生活できないとわかって入国を認めてきた。そうして受け入れておきながら、実際に違法就労したからと母国へと追い返すというのは、まさに「マッチポンプ」に他ならない。

 そんなご都合主義が生んだ不幸の1つが、日本で食い物になったブータン人留学生たちの姿なのである。彼らはブータン政府が進める失業対策によって、「留学生」として日本へと売られた。詐欺同然の留学制度を進めた連中の罪は、やがてブータンで明らかになっていくだろう。一方で、彼らを買った日本側の責任が問われる日は来るのだろうか。
出井康博 (ジャーナリスト)

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