2019年11月27日水曜日

上智大の外国人元助教が訴える「不当解雇」、抗議の署名サイトに1500筆 ポスト得られず滞在も困難に

Source:https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20191121-00000005-withnews-soci
11/23(土)、ヤフーニュースより

上智大学の元助教が、准教授へ昇進できなかったのを理由に雇用契約を打ち切られたのは、「審査に問題がある」などの不当な措置だとして、大学を運営する学校法人上智学院を相手取り、地位の確認などを求める訴訟を、東京地裁に起こしました。元助教は韓国系アメリカ人です。学生の中には大学側の対応に抗議する留学生もおり、ネット上では1500人以上の署名が集まりました。元助教の雇用契約打ち切りから、外国人研究者の活用、ポスドクなど「高学歴ワーキングプア」の問題について考えます。
何が起きたのか
訴えているのは、9月まで上智大国際教養学部の助教だったクッキ・チューさん(48)です。専任教員を求める上智大の公募で採用されたチューさんは、2014年9月から、助教として任用されました。「グローバリゼーションと文化政策」「アジア横断的メディアの流れ」「大衆文化におけるジェンダーと身体」などを専門分野としています。

訴状などによると、チューさんは採用時に雇用契約書とは別の覚書を大学側と交わしていました。覚書では、助教の任期を「5年以内」とし、「この期間に准教授以上に昇任できない場合は、任用を解く」と定められています。大学側はこの覚書に基づき今年7月、助教だったチューさんに雇用契約の満了を通知。任用から5年となる9月に契約は終了となりました。

この間、チューさんは4回、昇任審査を申し立てましたが、昇進は実現しませんでした。弁護側は「資質、業績、勤務態度などが正当に評価されず、適正な審査が行われたとはいえなかった」としています。

特に2017年7月に申し立てた3回目の昇任審査については、11月の国際教養学部人事教授会で「准教授への昇任推薦人事が承認された」にもかかわらず、翌年2月に同じ教授会でその決議が撤回されたと主張。「理由があいまいで、到底納得できない」としています。

また4回目は申し立てをしたものの、審査が開かれず「門前払い」に。「昇任が実現できなければ身分を失うかもしれないチューさんに対して、審査を拒否したという事実には合理的理由を見いだせない」と訴えています。
大学側の主張は
チューさん側は先行して今年8月、チューさんの地位保全を求めた仮処分を東京地裁に申し立てています。この争いの中で大学側は3回目の審査について、「准教授への昇任審査は、教授会後の常務会や理事会での審議を経て決定されるので、大学として准教授の承認をしたことは一度もない」。4回目についても「研究業績が3回目と有意な変更がなかったため、申し立てを否決した」と反論しています。

また、チューさんの雇用について大学側は、覚書などに基づき、任期付きの契約であったと主張。解雇ではなく、任期を満了したものだとしてます。これに対して弁護側は、チューさんが採用された専任教員という立場は「期間の定めのない契約」だとし、「大学側は期間の経過をもって、契約の終了を主張することはできない」と争っています。

今回の件に関して、大学側は取材に対し次のような回答をしました。

「当法人としては、法令、諸規定、個別契約等に則り、本件を適正に対応しております。本件につきましては、現在、法的手続が継続しており、当法人の主張は同手続において明確にしておりますので、個別・具体的な回答は差し控えさせて頂きます」
学生に人気だった「チュー先生」
チューさんが契約を打ち切られた9月20日、上智大学の北門では、大学側の対応に抗議するデモがありました。所属する労働組合「全国一般労組東京南部」のメンバーとともにマイクを握ったチューさんは「5年間で4回も昇進を申請したにもかかわらず、大学は認めなかった。学部から受けたハラスメントのせいだ」などと訴えました。

チューさんの横には「上智大学はハラスメントによる不当解雇を撤回しろ!」「上智大学国際教養学部のハラスメントを隠蔽するな」などの横断幕。夏休み中だったため、留学生が多い国際教養学部では多くの学生が帰省中でしたが、それでも、チューさんの訴えを見守る教え子の姿がありました。

バイトの休み時間を利用し、デモの応援に駆けつけてきたネパール人女子学生は、「チュー先生が一番好きで、尊敬する先生」と話しました。

「好いところと悪いところを、はっきりするタイプ。女性としても、強くていい」

この日は上智大の夏の卒業式の日だったこともあり、チューさんの授業を受けたことがある卒業生たちも訴えに足を止めていました。

台湾出身の留学生は「非常に正直な態度を取り、まっすぐな性格」とチューさんを評しました。ネパール人の学生は、「授業は情熱的でパワフル」「授業内容が面白く、勉強になる」。例えば、初心者にはわかりにくい哲学者の話をするときも、日常から想像できる事例を交えながら説明してくれて、とても勉強になったそうです。

日本人の学生にとっても、チュー先生の授業は人気だったようで、日本人の男子学生は「人気投票すれば、上位3位に入る」と話しました。

「情熱的に教え、学生一人一人をきちんと見つめて、面倒見のよい先生です」

そして、署名サイト「チェンジ・ドット・オルグ」では8月にチュー先生を応援するページ「上智大学での教授に対するハラスメントを止めさせよう!Stop the Harassment at Sophia University」が作られ、現在、1500筆以上の署名が集まっています。
日本の教育現場を考えよう
今回、チューさんの提訴と、学生の反応を見て感じたのは、外国人研究者の立場の弱さです。

日本では、「高学歴ワーキングプア」「貧困ポスドク」などの言葉を目にする機会が増えています。博士号を取得しても、なかなか正規雇用をしてくれる大学が見つからず、非常勤や任期付きのポストで不安定な生活を維持しながら、教育や研究に励む研究者が増えている現状があります。

さらに、外国人研究者の場合、在留資格やビザの更新問題などがあるため、常勤雇用を得られない場合、日本に滞在することもできなくなります。実際チューさんは契約の打ち切りにより、在留資格が更新できず、現在は短期滞在在留資格で日本に住んでいる状態です。

雇用を巡って裁判にまで発展してしまった今回の件。署名サイトまで立ち上げた学生たちの行動を目の当たりにし、日本の大学が抱える働き方の課題も合わせて突きつけられている気がしました。

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