Source:https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20191105-00057958-jbpressz-soci
11/5(火)、ヤフーニュースより
長野県軽井沢町に、日本の教育関係者の間で大きな注目を集める学校がある。学校の名前は「ユナイテッド・ワールド・カレッジISAK(アイザック)ジャパン」(以下、UWC ISAK)。3年制の全寮制国際学校(インターナショナルスクール)である。
UWC ISAKは、国際バカロレア・ディプロマ・プログラム認定校でありながら、卒業時には日本の高校卒業資格も取得することのできる国際高校だ。加えて、日本で唯一のUWC(ユナイテッド・ワールド・カレッジ=世界18カ国の非営利国際学校の集合体)加盟校でもある。
代表理事は小林りん氏。大学卒業後、モルガン・スタンレー、国際協力銀行、ユニセフなどを経て2014年に同校を設立した。6年目を迎えた今年(2019年)は、84カ国・200人の生徒が在籍している。
UWC ISAKの教育理念は「自ら成長し続け、新たなフロンティアに挑み、共に時代を創っていくチェンジメーカーを育む」。小林氏は、どんな分野でもどんな立場からでも、新しい価値観を生み出せる人、ポジティブな変革を生み出せる人材を育てたいという思いで学校づくりに挑んできた。
2019年9月13日、独立系グローバルM&AアドバイザリーファームであるGCAが開催した会員制クラブの特別セミナーに小林氏が登壇し、特別講演を行った。その特別講演およびGCA代表取締役 渡辺章博氏とのパネルディスカッションから、未来を切り拓き社会を変革するリーダーに求められる資質・能力とは何かを探ってみたい。
■ 小林氏が語るUWC ISAK誕生の経緯
《学校設立を目指した理由は、私の原体験にあります。高校時代に奨学金をいただいてカナダへ留学し、メキシコシティに住む友達とスラム街を訪れる機会がありました。それまでも経済格差や貧困問題は十分理解していたつもりでしたが、友達のすぐ先にある現実の格差、機会の不平等に圧倒され、同時に大きな憤りを感じました。自分は多くの縁や運に恵まれてきた、それを自分のためだけではなく、より多くの人のために使うべきではないか。そのときはまだ漠然としていたものの、強い使命感を感じた17歳の夏の出来事でした。
2つめの大きな原体験が、ユニセフ在職当時のフィリピンでの教育支援活動です。フィリピンでは初等教育は無償ですが、貧困層の子供たちは、生き延びるために学ぶ時間を惜しんで働いている。そういった子供たちのために、ユニセフが夜間や週末に学校を開校しています。高校時代の体験から、貧困層の子供たちに教育機会を提供する仕事には、大いにやりがいを感じていました。しかし、マクロレベルで見ると、30万人いるといわれるストリートチルドレンのうち、ユニセフが救済できる子供は9000人。貧困層救済だけで根本課題が解決できるのだろうかという疑問も持ち始めました。
UWC ISAKは、国際バカロレア・ディプロマ・プログラム認定校でありながら、卒業時には日本の高校卒業資格も取得することのできる国際高校だ。加えて、日本で唯一のUWC(ユナイテッド・ワールド・カレッジ=世界18カ国の非営利国際学校の集合体)加盟校でもある。
代表理事は小林りん氏。大学卒業後、モルガン・スタンレー、国際協力銀行、ユニセフなどを経て2014年に同校を設立した。6年目を迎えた今年(2019年)は、84カ国・200人の生徒が在籍している。
UWC ISAKの教育理念は「自ら成長し続け、新たなフロンティアに挑み、共に時代を創っていくチェンジメーカーを育む」。小林氏は、どんな分野でもどんな立場からでも、新しい価値観を生み出せる人、ポジティブな変革を生み出せる人材を育てたいという思いで学校づくりに挑んできた。
2019年9月13日、独立系グローバルM&AアドバイザリーファームであるGCAが開催した会員制クラブの特別セミナーに小林氏が登壇し、特別講演を行った。その特別講演およびGCA代表取締役 渡辺章博氏とのパネルディスカッションから、未来を切り拓き社会を変革するリーダーに求められる資質・能力とは何かを探ってみたい。
■ 小林氏が語るUWC ISAK誕生の経緯
《学校設立を目指した理由は、私の原体験にあります。高校時代に奨学金をいただいてカナダへ留学し、メキシコシティに住む友達とスラム街を訪れる機会がありました。それまでも経済格差や貧困問題は十分理解していたつもりでしたが、友達のすぐ先にある現実の格差、機会の不平等に圧倒され、同時に大きな憤りを感じました。自分は多くの縁や運に恵まれてきた、それを自分のためだけではなく、より多くの人のために使うべきではないか。そのときはまだ漠然としていたものの、強い使命感を感じた17歳の夏の出来事でした。
2つめの大きな原体験が、ユニセフ在職当時のフィリピンでの教育支援活動です。フィリピンでは初等教育は無償ですが、貧困層の子供たちは、生き延びるために学ぶ時間を惜しんで働いている。そういった子供たちのために、ユニセフが夜間や週末に学校を開校しています。高校時代の体験から、貧困層の子供たちに教育機会を提供する仕事には、大いにやりがいを感じていました。しかし、マクロレベルで見ると、30万人いるといわれるストリートチルドレンのうち、ユニセフが救済できる子供は9000人。貧困層救済だけで根本課題が解決できるのだろうかという疑問も持ち始めました。
【なぜ資金を集められたのか】
そんな時に出会ったのが、共同創設者の谷家衞さんです。アジアや世界から若者が集う学校をつくろう! 2人で意気投合してからも1年ほど逡巡し、ようやく2008年8月に決意を固め日本に戻りました。
踏み切った理由の1つは、谷家さんが投資で大成功されて20億円ほど資金が用意できると仰ってくださった力強い言葉に背中を押されたからでした。しかし、帰国の3週間後にリーマン・ショックに見舞われ、予定していた資金は一気に200万円に減ってしまいます。結局当初の一般財団法人設立資金は自分の貯金から100万円を足して300万円でこのプロジェクトをスタートすることになります。谷家さんがあらゆる人脈を駆使してご友人たちを紹介してくださいましたが、資金集めは難航しました。そんな時、仲間からのアドバイス「Early Small Success(初期に小さくてもいいから何かしらの結果を出す)」に従い、2010年、2週間のサマースクールを開校したのです。
理想を語ることと実現することは別次元です。想定外の多大な苦労がありましたが、結果が出ると、サマースクール参加者のお母さんが1000万円の出資を申し出てくれました。そこから半年で10人の出資者が集まり、学校設立に最低限必要な10億円を目標に、さらなる資金集めの活動をスタートさせるため、2011年3月3日に決起集会を開きます。
ところがその1週間後。今度は東日本大震災に見舞われ、寄付を募ることはおろか、企画中だった2回目のサマースクールの開催も危ぶまれる状況に陥ります。しかし予想外なことに、震災をきっかけに国家におけるリーダーの力や国際的発信力などの必要性が報じられ、私たちのプロジェクトがメディアなどの注目を集めるようになったのです。そこから約1年で10億円の資金が集まり、開校に踏み切ることができました。
【世界とつながるインターナショナルスクールへ】
2012年、ついに開校の目処が立ち、2014年の開校が決まりました。次に浮上した課題は、世界へリーチする手段です。世界には200以上の国や地域がありますが、サマースクール参加者の国籍は当時まだ40カ国程度、しかも口コミに頼っていたので各国の生徒の出身階層に偏りも見られました。また、奨学金で学ぶ生徒たちの卒業後の進路の確保も大きな課題でした。
それを解決するために加盟したのが、ユナイテッド・ワールド・カレッジ(UWC)です。UWCは、世界18カ国18校のネットワークを有し、164の国々で3500人を超えるボランティアが加盟校のために、社会経済バックグラウンドに依らない、時には難民キャンプやマイノリティ民族へアウトリーチしながら、生徒の募集や選抜などをやってくれます。また、UWC加盟校の卒業生のための奨学金制度「Davis United World College Scholars」を運営しており、アメリカで指定された99の大学に入学すると、大学とUWCから潤沢な奨学金が給付されます。当校在籍生徒の多様性は、日本で唯一、UWCに加盟できたことが大きな理由といえるでしょう。
【育みたいのは3つの力】
当校で育てたいのは、自ら成長し続け、新たなフロンティアに挑み、共に時代を創っていくチェンジメーカーです。そこで重要になるのが、「多様性を生かす力」「問いを立てる力」「困難に挑む力」という3つの力です。
世界にはさまざまな格差や境界が存在しており、そこには生活環境の多様性があります。当校は生徒の実に70%に奨学金を給付しているため、国籍数の多さだけでなく、社会や経済、政治や宗教などさまざまな背景を持つ生徒の多様性を内包しており、世界に渦巻く多様性が凝縮されたコミュニティが形成されているといえるでしょう。
また当校では、問題解決能力だけではなく、「そもそも何が問われるべき問題なのか」を見出す人材を育てていきたいと考えています。
ただし、変革には大きな難関が待ち受け、失敗や挫折もあります。そこで問われるのが「困難に挑む力」。問題に一つひとつ向き合うことは、最も大きく、重要な力といえるかもしれません。》(小林氏の特別講演を抜粋・編集)
■ 環境が育てるチェンジメーカーの素養
パネルディスカッションでは、GCA代表取締役 渡辺章博氏が、いま求められるリーダー像、チェンジメーカーの育て方などについて小林氏に尋ねた。以下ではその一部をお届けする。
そんな時に出会ったのが、共同創設者の谷家衞さんです。アジアや世界から若者が集う学校をつくろう! 2人で意気投合してからも1年ほど逡巡し、ようやく2008年8月に決意を固め日本に戻りました。
踏み切った理由の1つは、谷家さんが投資で大成功されて20億円ほど資金が用意できると仰ってくださった力強い言葉に背中を押されたからでした。しかし、帰国の3週間後にリーマン・ショックに見舞われ、予定していた資金は一気に200万円に減ってしまいます。結局当初の一般財団法人設立資金は自分の貯金から100万円を足して300万円でこのプロジェクトをスタートすることになります。谷家さんがあらゆる人脈を駆使してご友人たちを紹介してくださいましたが、資金集めは難航しました。そんな時、仲間からのアドバイス「Early Small Success(初期に小さくてもいいから何かしらの結果を出す)」に従い、2010年、2週間のサマースクールを開校したのです。
理想を語ることと実現することは別次元です。想定外の多大な苦労がありましたが、結果が出ると、サマースクール参加者のお母さんが1000万円の出資を申し出てくれました。そこから半年で10人の出資者が集まり、学校設立に最低限必要な10億円を目標に、さらなる資金集めの活動をスタートさせるため、2011年3月3日に決起集会を開きます。
ところがその1週間後。今度は東日本大震災に見舞われ、寄付を募ることはおろか、企画中だった2回目のサマースクールの開催も危ぶまれる状況に陥ります。しかし予想外なことに、震災をきっかけに国家におけるリーダーの力や国際的発信力などの必要性が報じられ、私たちのプロジェクトがメディアなどの注目を集めるようになったのです。そこから約1年で10億円の資金が集まり、開校に踏み切ることができました。
【世界とつながるインターナショナルスクールへ】
2012年、ついに開校の目処が立ち、2014年の開校が決まりました。次に浮上した課題は、世界へリーチする手段です。世界には200以上の国や地域がありますが、サマースクール参加者の国籍は当時まだ40カ国程度、しかも口コミに頼っていたので各国の生徒の出身階層に偏りも見られました。また、奨学金で学ぶ生徒たちの卒業後の進路の確保も大きな課題でした。
それを解決するために加盟したのが、ユナイテッド・ワールド・カレッジ(UWC)です。UWCは、世界18カ国18校のネットワークを有し、164の国々で3500人を超えるボランティアが加盟校のために、社会経済バックグラウンドに依らない、時には難民キャンプやマイノリティ民族へアウトリーチしながら、生徒の募集や選抜などをやってくれます。また、UWC加盟校の卒業生のための奨学金制度「Davis United World College Scholars」を運営しており、アメリカで指定された99の大学に入学すると、大学とUWCから潤沢な奨学金が給付されます。当校在籍生徒の多様性は、日本で唯一、UWCに加盟できたことが大きな理由といえるでしょう。
【育みたいのは3つの力】
当校で育てたいのは、自ら成長し続け、新たなフロンティアに挑み、共に時代を創っていくチェンジメーカーです。そこで重要になるのが、「多様性を生かす力」「問いを立てる力」「困難に挑む力」という3つの力です。
世界にはさまざまな格差や境界が存在しており、そこには生活環境の多様性があります。当校は生徒の実に70%に奨学金を給付しているため、国籍数の多さだけでなく、社会や経済、政治や宗教などさまざまな背景を持つ生徒の多様性を内包しており、世界に渦巻く多様性が凝縮されたコミュニティが形成されているといえるでしょう。
また当校では、問題解決能力だけではなく、「そもそも何が問われるべき問題なのか」を見出す人材を育てていきたいと考えています。
ただし、変革には大きな難関が待ち受け、失敗や挫折もあります。そこで問われるのが「困難に挑む力」。問題に一つひとつ向き合うことは、最も大きく、重要な力といえるかもしれません。》(小林氏の特別講演を抜粋・編集)
■ 環境が育てるチェンジメーカーの素養
パネルディスカッションでは、GCA代表取締役 渡辺章博氏が、いま求められるリーダー像、チェンジメーカーの育て方などについて小林氏に尋ねた。以下ではその一部をお届けする。
【社会変革は身近な学校の変革から】
渡辺章博氏(以下、敬称略) 小林さんは、フィリピンで貧困層教育に携われていた経験から、グローバルリーダーの育成に着目されたのですね?
小林りん氏(以下、敬称略) その通りです。もちろん貧困層教育はとても大事ですが、それだけで世の中が変わるのだろうかという疑問が生じました。全員は救えない、母数はどんどん増えていく。貧困問題の解決には、弱者救済と同じくらい、社会に変革を起こせるリーダーの育成が重要なのではないか。それぞれの国のそれぞれの社会が自分たちの力で制度を動かし、変化を起こしていくべきなのに、チェンジメーカーの育成は看過されていると感じたのです。
渡辺 小林さんが目指すリーダーというのは、エリート教育によって政治家になれる人物を育てるのではなく、従来とは異なる発想で社会を根底から変えられるようなチェンジメーカーを育成することですね。
小林 例えばフィリピンでは、財閥系でない1人の起業家が一代でフィリピン最大となる小売チェーンSM社をつくってチャンスと大量雇用を生む大会社に育て上げたことは、社会に大きな衝撃を与えました。あるいは、フィリピン独立を成し遂げた文豪、ホセ・リサールもチェンジメーカーといえるでしょう。変化というのは何も政治家や有名な大企業の経営者だけにしかできない話ではなく、何もない人でも必ずできることはあると思っています。
当校では、そういった人材を育成するために、まず身近な学校の変革から挑んでもらいます。
例えば、慢性的な長蛇の列に悩まされているカフェテリア。生徒たちは、カフェテリア全体のレイアウトを変え、ルールを変え、メニューの掲示場所を変えるなどして、長蛇の列の解消を実現しました。小さなことでも達成できると、次年度にはさらに大きなことに挑むようになります。2015年にはネパール大震災があり、ネパール人の生徒たちは、駅前で募金活動をしたいと言ってきました。私からのアドバイスは、きちんとニーズ・アセスメントをして、駅前募金が最適な活動なのか考えること。そこで彼らは実情を調べ上げ、ほとんどの救援物資・資金が首都カトマンズで止まっていて、深刻なダメージを受けた震源地近くの小さな村には行き届いていないことを突き止めました。
彼らはクラウドファンディングで400万円を集め、ラバに乗らないと行けない村まで資金を届けに行きました。現地ではボランティアの僧侶の人たちと合流し、学校やメディカルポストなどの再建に取り組みました。彼らの活動が当時のフィリピン大統領に表彰されことを機に、その活動をドナーレポートにまとめ、地元軽井沢のロータリークラブさんからも追加活動資金をご寄付いただきました。さらに昨年は、外務省の「草の根無償支援活動」にも申し込みました。高校生の団体としては異例ですが、それが認められて給付金を獲得。現地に移動式メディカルセンター「ドクターカー」を贈り、診療所のない山奥の村落に医療を届けることを実現しました。
変革への欲求はどんどん発展します。私はよく成功体験と同じくらい失敗体験が大事だと話しています。小さな成功体験をもとに「もっとできるかも、やってみようかな」と思うことは大切です。一方で、変革はうまくいかないことの方が多い。でも、「やって失敗したけど致命的ではなかったな、またやってみよう」と体感することも同じくらい貴重な体験だと思うのです。
【学校もリスクを取る覚悟を】
渡辺 企業リーダーの方々は、イノベーションしたいものの、優秀なはずの人材が力を発揮できないという実態を目の当たりにし、大きなフラストレーションを抱えています。チェンジメーカーになり得る人材の見抜き方や導き方をお教えいただけないでしょうか?
小林 チェンジメーカーは環境が育てるものだと思います。しかし、大組織ほどチェンジメーカー的な人材を嫌います。トップはイノベーションが必要だ、多様性が必要だと言いますが、入社試験では変わった人を採りません。たとえ異色の人材を採用しても、失敗=減点という仕組みの中では彼らもリスクを避けるようになってしまう。
渡辺章博氏(以下、敬称略) 小林さんは、フィリピンで貧困層教育に携われていた経験から、グローバルリーダーの育成に着目されたのですね?
小林りん氏(以下、敬称略) その通りです。もちろん貧困層教育はとても大事ですが、それだけで世の中が変わるのだろうかという疑問が生じました。全員は救えない、母数はどんどん増えていく。貧困問題の解決には、弱者救済と同じくらい、社会に変革を起こせるリーダーの育成が重要なのではないか。それぞれの国のそれぞれの社会が自分たちの力で制度を動かし、変化を起こしていくべきなのに、チェンジメーカーの育成は看過されていると感じたのです。
渡辺 小林さんが目指すリーダーというのは、エリート教育によって政治家になれる人物を育てるのではなく、従来とは異なる発想で社会を根底から変えられるようなチェンジメーカーを育成することですね。
小林 例えばフィリピンでは、財閥系でない1人の起業家が一代でフィリピン最大となる小売チェーンSM社をつくってチャンスと大量雇用を生む大会社に育て上げたことは、社会に大きな衝撃を与えました。あるいは、フィリピン独立を成し遂げた文豪、ホセ・リサールもチェンジメーカーといえるでしょう。変化というのは何も政治家や有名な大企業の経営者だけにしかできない話ではなく、何もない人でも必ずできることはあると思っています。
当校では、そういった人材を育成するために、まず身近な学校の変革から挑んでもらいます。
例えば、慢性的な長蛇の列に悩まされているカフェテリア。生徒たちは、カフェテリア全体のレイアウトを変え、ルールを変え、メニューの掲示場所を変えるなどして、長蛇の列の解消を実現しました。小さなことでも達成できると、次年度にはさらに大きなことに挑むようになります。2015年にはネパール大震災があり、ネパール人の生徒たちは、駅前で募金活動をしたいと言ってきました。私からのアドバイスは、きちんとニーズ・アセスメントをして、駅前募金が最適な活動なのか考えること。そこで彼らは実情を調べ上げ、ほとんどの救援物資・資金が首都カトマンズで止まっていて、深刻なダメージを受けた震源地近くの小さな村には行き届いていないことを突き止めました。
彼らはクラウドファンディングで400万円を集め、ラバに乗らないと行けない村まで資金を届けに行きました。現地ではボランティアの僧侶の人たちと合流し、学校やメディカルポストなどの再建に取り組みました。彼らの活動が当時のフィリピン大統領に表彰されことを機に、その活動をドナーレポートにまとめ、地元軽井沢のロータリークラブさんからも追加活動資金をご寄付いただきました。さらに昨年は、外務省の「草の根無償支援活動」にも申し込みました。高校生の団体としては異例ですが、それが認められて給付金を獲得。現地に移動式メディカルセンター「ドクターカー」を贈り、診療所のない山奥の村落に医療を届けることを実現しました。
変革への欲求はどんどん発展します。私はよく成功体験と同じくらい失敗体験が大事だと話しています。小さな成功体験をもとに「もっとできるかも、やってみようかな」と思うことは大切です。一方で、変革はうまくいかないことの方が多い。でも、「やって失敗したけど致命的ではなかったな、またやってみよう」と体感することも同じくらい貴重な体験だと思うのです。
【学校もリスクを取る覚悟を】
渡辺 企業リーダーの方々は、イノベーションしたいものの、優秀なはずの人材が力を発揮できないという実態を目の当たりにし、大きなフラストレーションを抱えています。チェンジメーカーになり得る人材の見抜き方や導き方をお教えいただけないでしょうか?
小林 チェンジメーカーは環境が育てるものだと思います。しかし、大組織ほどチェンジメーカー的な人材を嫌います。トップはイノベーションが必要だ、多様性が必要だと言いますが、入社試験では変わった人を採りません。たとえ異色の人材を採用しても、失敗=減点という仕組みの中では彼らもリスクを避けるようになってしまう。
学校でも同じようなことがありました。ネパール震災支援の際、「クラウドファンディングをマネーロンダリングに悪用されたらどうする」「見たことのない金額の現金を高校生に渡して大丈夫か」と反対する人もいました。私は、それが起きてしまったら考えようというタイプ。教育機関としてどこまでリスクを取っていくかという判断は難しく、企業ならなお難しいでしょう。でも、本当にイノベーションが必要だと考え、多様な人材が必要だと考えているなら、今まで以上のリスクを取る覚悟が必要なのではないでしょうか。
渡辺 もしも小林さんが日本の普通高校でリーダー教育をすると仮定した場合、何をしますか?
小林 当校は、チェンジメーカーの育成には「多様性を生かす力」「問いを立てる力」「困難に挑む力」という3つの力がとても大事だと考えています。その力を培うために、まず多様性の根幹である個性を伸ばしてあげたい。価値観や考え方は人によって違いますが、教育現場では1つの問いに対して1つの解という確定的なことに限定してしまいがちです。私は、生徒が自ら問いを立てることを奨励し、複数の解やアプローチを認めてあげることが重要だと考えています。
渡辺 チェンジメーカーの育成を目指す貴校では、入学試験でもリテラシー基準などを設けているのでしょうか?
小林 多くの卒業生が世界の名だたる大学に進学していますが、入学時は学力試験を行わず、小論文と面接で3つの力のポテンシャルを見ます。例えば去年は、「あなただけに見えていて、世界の他の人には見えていない真実(unconventional)とは何ですか。その理由を説明してください」という質問を設けました。問いを立てる力がある生徒は、こういった問題に答えてきますし、そのユニークな視点やロジックには驚かされます。
【世界の優秀な人材を引きつけるもの】
渡辺 当社(GCA)は、従来の株主のための企業価値から脱却した「社会の成長に寄与するM&A」への取り組みを宣言しましたが、小林さんは、社会そのものが変わるような変革を起こすためにはどのような価値基準が必要になるとお考えでしょうか?
小林 近年の統計では安定志向の学生が多いと分析されていますが、若い優秀な人ほどミッションドリブンな会社への就職志向が強まっているように感じています。全世界的な傾向として、数値目標を追う会社よりもミッションが強い会社に優秀な人材が集まりつつある。会社側は、必要とする人物像はもちろん、会社が社会に対してどういうミッションを負っているのか、を明確に表していくことがとても大事になっていると思います。
渡辺 そういった人材を集める「磁力」は、今や数値的な価値だけではないということですね。大変なご苦労をされて設立された素晴らしい学校をサステナブルなものとするために、小林さんにはぜひこれからもご活躍いただきたいと思います。そして、貴校からたくさんの素晴らしい人材が世に送り出されることを楽しみにしています。
◎小林 りん 氏
ユナイテッド・ワールド・カレッジISAKジャパン代表理事。経団連からの全額奨学金をうけて、カナダの全寮制インターナショナルスクールに留学した経験を持つ。その原体験から、大学では開発経済を学び、前職では国連児童基金(UNICEF)のプログラムオフィサーとしてフィリピンに駐在、ストリートチルドレンの非公式教育に携わる。2007年に発起人代表の谷家衛氏と出会い、学校設立をライフワークとすることを決意、2008年8月に帰国。1993年国際バカロレアディプロマ取得、1998年東京大学経済学部卒、2005年スタンフォード大学国際教育政策学修士。世界経済フォーラムから2012年度に「ヤング・グローバル・リーダーズ」として選出される。2013年には、日経ビジネスが選ぶ「チェンジメーカー・オブ・ザ・イヤー」受賞、2015年に日経ウーマンが選ぶ「ウーマン・オブ・ザ・イヤー受賞」、2016年に財界が選ぶ「経営者賞」受賞。イエール・ワールド・フェロー2017。
◎渡辺 章博 氏
GCA代表取締役。1959年生まれ。中央大学商学部会計学科卒。1982年、単身米国に渡り、KPMGニューヨーク事務所にて日本企業の米国進出のためのM&A業務に従事。1994年に帰国、KPMGコーポレイトファイナンスの共同代表としてM&A案件のアドバイザリーや企業価値評価・買収監査等のサービスを提供。2004年4月、GCAを創業。米国・日本公認会計士。一橋大学ロースクール、神戸大学ビジネススクール客員教授。
渡辺 もしも小林さんが日本の普通高校でリーダー教育をすると仮定した場合、何をしますか?
小林 当校は、チェンジメーカーの育成には「多様性を生かす力」「問いを立てる力」「困難に挑む力」という3つの力がとても大事だと考えています。その力を培うために、まず多様性の根幹である個性を伸ばしてあげたい。価値観や考え方は人によって違いますが、教育現場では1つの問いに対して1つの解という確定的なことに限定してしまいがちです。私は、生徒が自ら問いを立てることを奨励し、複数の解やアプローチを認めてあげることが重要だと考えています。
渡辺 チェンジメーカーの育成を目指す貴校では、入学試験でもリテラシー基準などを設けているのでしょうか?
小林 多くの卒業生が世界の名だたる大学に進学していますが、入学時は学力試験を行わず、小論文と面接で3つの力のポテンシャルを見ます。例えば去年は、「あなただけに見えていて、世界の他の人には見えていない真実(unconventional)とは何ですか。その理由を説明してください」という質問を設けました。問いを立てる力がある生徒は、こういった問題に答えてきますし、そのユニークな視点やロジックには驚かされます。
【世界の優秀な人材を引きつけるもの】
渡辺 当社(GCA)は、従来の株主のための企業価値から脱却した「社会の成長に寄与するM&A」への取り組みを宣言しましたが、小林さんは、社会そのものが変わるような変革を起こすためにはどのような価値基準が必要になるとお考えでしょうか?
小林 近年の統計では安定志向の学生が多いと分析されていますが、若い優秀な人ほどミッションドリブンな会社への就職志向が強まっているように感じています。全世界的な傾向として、数値目標を追う会社よりもミッションが強い会社に優秀な人材が集まりつつある。会社側は、必要とする人物像はもちろん、会社が社会に対してどういうミッションを負っているのか、を明確に表していくことがとても大事になっていると思います。
渡辺 そういった人材を集める「磁力」は、今や数値的な価値だけではないということですね。大変なご苦労をされて設立された素晴らしい学校をサステナブルなものとするために、小林さんにはぜひこれからもご活躍いただきたいと思います。そして、貴校からたくさんの素晴らしい人材が世に送り出されることを楽しみにしています。
◎小林 りん 氏
ユナイテッド・ワールド・カレッジISAKジャパン代表理事。経団連からの全額奨学金をうけて、カナダの全寮制インターナショナルスクールに留学した経験を持つ。その原体験から、大学では開発経済を学び、前職では国連児童基金(UNICEF)のプログラムオフィサーとしてフィリピンに駐在、ストリートチルドレンの非公式教育に携わる。2007年に発起人代表の谷家衛氏と出会い、学校設立をライフワークとすることを決意、2008年8月に帰国。1993年国際バカロレアディプロマ取得、1998年東京大学経済学部卒、2005年スタンフォード大学国際教育政策学修士。世界経済フォーラムから2012年度に「ヤング・グローバル・リーダーズ」として選出される。2013年には、日経ビジネスが選ぶ「チェンジメーカー・オブ・ザ・イヤー」受賞、2015年に日経ウーマンが選ぶ「ウーマン・オブ・ザ・イヤー受賞」、2016年に財界が選ぶ「経営者賞」受賞。イエール・ワールド・フェロー2017。
◎渡辺 章博 氏
GCA代表取締役。1959年生まれ。中央大学商学部会計学科卒。1982年、単身米国に渡り、KPMGニューヨーク事務所にて日本企業の米国進出のためのM&A業務に従事。1994年に帰国、KPMGコーポレイトファイナンスの共同代表としてM&A案件のアドバイザリーや企業価値評価・買収監査等のサービスを提供。2004年4月、GCAを創業。米国・日本公認会計士。一橋大学ロースクール、神戸大学ビジネススクール客員教授。
三田 宏
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