Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/ecd843d4df96ed33347866e9876e347f66e6b7ca
(作家・ジャーナリスト:青沼 陽一郎) 東京オリンピックが終わった。そして、東京をはじめ日本には新型コロナウイルス感染患者が溢れた。 7月23日に開幕した東京オリンピックは、大会期間中に国内の新規感染者が急増。28日に東京都の新規感染者がはじめて3000人を超えると、31日には4000人を突破。8月5日には過去最高の5042人を記録して以降は4000人を下回ることがない。首都圏としても同様の増加傾向を示し、全国的にも増加に歯止めがかからない。 ■ すでに事実上の医療崩壊 こうした状況を受けて、政府は8月2日から埼玉、千葉、神奈川、大阪に緊急事態宣言を発出。オリンピック開幕前から発出中の東京、沖縄の期限を31日まで延長する。それでも過去にない感染者数の増加に、政府は8月3日に入院対象者を重症及び重症化のリスクが高い患者に限定し、あとは自宅療養とする方針を打ち出した。それだと、肺炎の症状を引き起こし呼吸困難な中等症の患者も、自宅に留まって療養することになる。 さすがにこれには反発が相次ぐ。与党内からも批判が噴出すると、政府はすぐさま「中等症患者で酸素投与が必要な者」「投与が必要でなくても重症化リスクがある者」を優先的に入院させる重点対象として加えたほか、菅義偉首相が「症状が悪くなったらすぐに入院できる体制をつくる」と表明して、修正に躍起になった。 そもそも、感染爆発による医療崩壊は入院対象となる重症者、中等症の患者が医療ベッドを埋め尽くしてしまうことにある。そこから中等症を除外してしまおうというのだから、「医療崩壊は起きていない」という言い訳にはなっても、事実上の医療崩壊に達したことを裏付けている。 それどころか、感染患者が増えたからこれまでと同じ手厚い治療は受けられませんよ、と断言したことにかわりなく、いままでの感染対策が功を奏さず、政府としての責任を放棄したに等しい。 なぜ、このようなことになったのか。
■ 五輪前から始まっていた「感染者急増」 新規感染者数は、その1週間から10日前の感染状況を示したものだから、今回の急増はオリンピック前からはじまっていたことになる。オリンピック選手、関係者は「バブル方式」によって隔離され、競技会場も首都圏はすべて無観客となったことから、オリンピックが感染拡大の起源になったとは考え難い。菅首相は大会期間中に8月2日からの緊急事態宣言のエリア拡大と期限延長を決定した7月30日の記者会見でこう述べている。 「大きな要因として指摘されるのが、変異株の中でも世界的に猛威を振るっているデルタ株(インド型)です。4月の感染拡大の要因となったアルファ株(英国型)よりも1.5倍ほど感染力が高く、東京では感染者に占める割合は7割を超えている、このように言われております。全国的にデルタ株への置き換わりが急速に進むにつれ、更に感染の拡大が進むことが懸念されます」 インド型と呼ばれるデルタ株のまん延がこれだけの感染者を招いたとする。 しかし、そのデルタ株の脅威はずっと以前から指摘されていたはずである。変異株についての懸念は、他でもない菅首相がこうした記者会見を開いて国民に呼びかける度に言及し、水際対策の強化を語っていたことだ。たとえば、1月に発出した緊急事態宣言を2月に1カ月延長し、さらに3月22日まで2週間延長することを決めた3月5日の記者会見では、こう断言している。 「変異株については、地域的な広がりは確認されていないものの、昨年末以来、19の都府県で確認されており、引き続き十分な警戒が必要です。今月から変異株が短時間で検出できる新たな方法の検査を全ての都道府県で実施し、国内の監視体制を強化いたします。同時に、水際の新たな措置として、全ての帰国者、再入国者に対し、14日間待機中は、携帯電話の位置情報に加え、毎日、ビデオ電話で状況を確認する体制を整えます」
■ 警戒を口にしながら水際対策に失敗 この時は、まだ英国型のアルファ株を念頭においたものだった。それがインド型のデルタ株についても触れはじめたのが、5月7日の記者会見だった。4月25日に2週間の期限で発出した3回目の緊急事態宣言を5月末まで延長したことによる。この時には文字通りインドで変異したデルタ株が同国内で猛威を振るっていた。 「感染の急拡大の要因とされる変異株について、国内の監視体制を強化し、新たな変異にも常に警戒を行ってまいります。インドにおいて感染者が急速に増大し、新たな変異株も確認されております。当分の間、インド、パキスタン及びネパールからの入国者に3回の検査と入国後6日間のホテルでの待機を求め、水際対策を強化してまいります」 さらにこの宣言を6月20日まで再延長することを決めた5月28日の会見では、こう強調している。 「警戒すべきは、変異株の影響です。いわゆる英国株の割合は全国で8割を超え、また、いわゆるインド株については海外渡航歴のない方からも確認されています。強い感染力を持つとされる変異株への置き換わりが進む中で、実施される対策が感染者数の減少につながるまで、以前より長い時間を必要としております」 その上で、さらなる対策を打ち出していた。 「変異株への監視を強化いたします。インド、パキスタン及びネパールからの入国者に対しては、これまで入国後6日間としてきた待機措置を強化し、本日から入国後10日間に延長するなど、水際対策を徹底します」 これに加えて、デルタ株の感染が急速に進むベトナムやマレーシアといった東南アジアからの入国者に対しても同様の措置をとったはずだった。
そして、予定通り6月20日には沖縄を除いて宣言を解除したはずが、ワクチン接種が進む一方で、再び東京都に緊急事態宣言の発出を決めた7月8日の記者会見では、こう述べてみせた。 「残念ながら首都圏においては感染者の数は明らかな増加に転じています。その要因の1つが、人流の高止まりに加えて、新たな変異株であるデルタ株の影響であり、アルファ株の1.5倍の感染力があるとも指摘されています。デルタ株が急速に拡大することが懸念されます」 これを受けて、東京オリンピックが無観客開催の運びとなった。 それでこの有り様だ。結局は、自ら掲げた水際対策の失敗に他ならない。 ■ 「国民の命と健康を守る」のではなかったか 国立競技場にはフェンスと壁が設置され、一般市民と選手、関係者を接触させない徹底した――というより異常な隔離措置までがとられての「安全・安心」なオリンピックの実施だった。 (参考)検問に遮蔽板、五輪会場周辺は「原発事故被災地」とうり二つ https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/66300 それが競技場の外で感染が急拡大する。オリンピック関係者の安全・安心は確保できたものの、「国民の命と健康を守る」とした首相の責務を果たせずにいる。
■ 「口から出まかせばかり」と批判されてもしょうがないレベル これだけの給料を支払います、だから働いてください、と約束しながら、利益が上がらなかったので給料は引き下げます、という経営者は失格であるように、感染対策、防疫措置が失敗しているのに医療体制を手薄なものにするとは言語道断である。言葉を換えれば、尖閣諸島を守ります、と言いながら、占領されたら国土として見放すようなものだ。 もはや、口からでまかせを言ってきたとしか言いようがない。記録に照らせば、言行不一致は明らかであり、国民との約束も果たせずに、もはや政治家としても資質が疑われる。 世界的にもデルタ株はまん延している、諸外国も状況は同じだ、などとは言わせない。陸地続きの国境と違って、海に囲まれた島国の日本は立地的にみても防疫事情は異なる。 オリンピックが終わって、あとに待つのは祭りのあとの寂しさどころか虚しさだ。菅首相が大会前に強調していたように、テレビで観た競技に感動して、自分もやってみたいと思う子どもたちがいても、不要不急の外出を避けろといわれたら、はじめる機会も奪われる。外国人選手たちの去った日本には医療施設から溢れ出た感染者だけが残される。なんのためのオリンピックだったのか。期間中はテレビ観戦で麻痺していた通常の市民感覚もこれから取り戻される。そこで受け入れざるを得ない現実こそ、あとの祭りに他ならない。
青沼 陽一郎
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