Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/e39faf7132dba63835aadece923503f971141eb7
飲食店コンサルタントの三ツ井創太郎です。今回は8月に2021年12月期第2四半期決算(21年1~6月)発表を控える、日本マクドナルドホールディングスの業績や取り組みを分析します。 【画像】好調な店舗の業績 日本マクドナルドの21年1~6月における全店売上高は、前年対比110.2%でした。さらに既存店の業績を細かく見ると、売上高は同109.3%、客数は同105.8%、客単価は同103.4%です。全店売上高、既存店の売上高・客数・客単価全ての指標で前年を上回っています。 「昨年はコロナ禍で売り上げが低迷したから、今期は前年比を上回っているのでは?」と思われる方もいるかもしれません。しかし、実は日本マクドナルドの既存店売上高は15年第4四半期から21年第1四半期まで22四半期連続でプラスとなっています。 利益面はどうでしょうか? 既に発表されている21年12月期第1四半期決算(21年1~3月)の実績を確認していきます。 日本マクドナルドの21年1~3月の経常利益は約91億円で、前年同期の約74億円を大きく上回る結果となりました。利益増加要因は何といっても売上高の増加です。一方、同社の店舗がコロナ禍の影響を全く受けていないかと言うと実はそんなことはありません。コロナ禍に伴う営業時間の短縮や、ソーシャルディスタンスによる稼働席数の減少などにより、店内飲食売り上げは前年比で減少しています。しかしながら、テークアウト、ドライブスルー、デリバリーなどの店外売り上げが大きく増加し、業績をけん引しています。 緊急事態宣言の延長など、全国の飲食業界はまだまだ厳しい状況です。では、日本マクドナルドの好業績の裏側にはどういった取り組みがあるのか? 同社が掲げる4つの戦略を分析していきます。
人材への積極投資を行う「ピープル」戦略
コロナ禍における日本マクドナルドの業績に大きく寄与したデリバリーやドライブスルー。こうした店外売り上げの付加は店舗にとってメリットがある反面、実はデメリットもあります。 コロナ禍直後にはマクドナルドに限らず多くの飲食店がデリバリーやテークアウトにチャレンジしました。しかし、コロナ禍発生から1年以上が経過した今でも、上手に店外売り上げを獲得できているお店は少ないのが実情です。この要因の一つに「オペ―レーション負荷」という課題があります。 具体的なお話をすると、店外売り上げの注文が集中する時間帯は、店内売り上げのピークタイムと重なる場合が多いのです。店内と店外で集中するオーダーを、アルバイトスタッフを中心にこなしていくのは、かなり大変なオペレーションとなります。 皆さんは全国のマクドナルドには何人のクルー(アルバイト)がいるかご存じでしょうか? 全国のクルーの人数は17万人を超えます。17万人のクルーに対して、急増する店外オーダーに対応するオペレーションを満遍なく教育していくことが、どれほど大変なのか。皆さんも想像ができると思います。 日本マクドナルドでは、新たなオペレーションなどをいち早く全店レベルに落とし込むために、タブレット型のトレーニング教材である「デジタルCDP」などを開発。オペレーション教育を推進してきました。さらに、最近ではスタッフの多国籍化を踏まえ英語、ベトナム語、ネパール語、ポルトガル語、中国語の5カ国語にも対応できるよう機能を強化しています。 同時に、教育施設である「ハンバーガー大学」も、コロナ禍直後にいち早くオンライン化に切り替えています。こちらは21年1~3月ですでに5920人が受講しています。 同社では、こうしたコロナ禍に伴う新たな店舗運営形態(ニューノーマル)に対応するための人材採用・教育面への投資を積極的に行っています。その証拠に、20年12月期決算を細かく分析していくと、労務関連費率は28.9%とコロナ禍前より1.4ポイント増、金額にして約26億円上昇しています。
幅広いターゲット層を獲得する「メニュー・バリュー」戦略
マクドナルドの強さの一つにメニュー戦略があります。マクドナルドではハンバーガー、デザート、ドリンクなどを合わて年間で100アイテム以上の期間限定メニューをリリースしています。また、この期間限定メニューは、決してやみくもに開発されている訳ではありません。獲得したいターゲット層を明確に定めた上で、綿密に開発企画が練られているのです。 最近の期間限定メニューを例にとると、マクドナルドの中では高価格帯に分類される490円価格帯に肉厚のパテを使用した「サムライマック」などのグルメ系ハンバーガーを投入しました。一方、100円、150円、200円というラインアップで数種類のハンバーガーが選べる「ちょいマック」や、平日のランチタイム限定で400円からの「バリューランチ」を展開しています。このように、低価格帯と高価格帯の両方において同時にキャンペーンを打ち出すことで、幅広い客層の獲得に成功しています。 また、子ども向けメニュー「ハッピーセット」のサイドメニューにおいては、フライドポテトに加えて、えだまめコーン、ヨーグルト、サイドサラダを追加。「子どもの健康を気にする母親層」からの支持を得ることにも成功しています。 その他、フィレオフィッシュの白身魚には持続可能な漁業で獲られた水産物に認められる「MSC認証」を取得した「天然アラスカ産スケソウダラ」を使用しています。また、コーヒーに関しては、森林や生態系を守り、労働者に適切な労働条件を提供する「レインフォレスト・アライアンス認証」を取得した農園が栽培するコーヒー豆を100%使用しています。さらに、ハッピーセットのおもちゃをリサイクルする取り組みを行うなど、環境に配慮した企画にも注力しています。 こうした取り組みが、従来のマクドナルドには来店していなかった「健康や環境意識の高い消費者層」の新規獲得に大きく寄与しています。
立地特性を踏まえた積極的な「店舗展開」戦略
日本マクドナルドの現在の店舗数は2921店舗(21年3月末時点)です。同社は、店舗展開や店舗への投資に関して、立地特性等を踏まえて大きく4つの戦略を打ち出しています。 <マクドナルドが打ち出す4つの店舗投資戦略> (1)新店:新たな場所で新たな店舗を出店 (2)リロケート:近隣のより良い立地に移転する (3)リビルド:同じ場所で建て替えを行う (4)改装:既存店舗を改装する ここで20年の店舗投資実績と21年の店舗投資計画を見ていきます。 20年は144店舗の新規出店、リロケート、リビルド、改装を行っています。21年は前年を上回る170店舗以上に対しての店舗投資を計画しています。その50%以上がデリバリーやドライブスルーなどへの対応強化も含めた「改装計画」です。20年においては、コロナ禍の中でもこうした積極的な店舗投資を行った結果、コロナ禍前に比べて減価償却費が約7億円増加しています。
次世代を見据えたデジタル戦略
デジタル戦略を分析します。コロナ禍発生直後の20年3月23日の公式アプリアップデートにおいて「モバイルオーダー」機能をいち早く搭載するなど、積極的かつスピーディーなデジタルシステム開発を行ってきました。 筆者も実際にマクドナルドの公式アプリ使ってみました。 「オーダー」というボタンが設置されており、そのボタンを押すと自分が今いる近くのマクドナルド店舗が自動表示されます。このようなユーザー個人の情報などを踏まえた「パーソナライズドマーケティング」にも力を入れています。 筆者の世代(40代前後)は、マクドナルドと言えば、点線でちぎって使う紙のクーポンを連想すると思います。一方、アプリには「クーポン」ページもあり、時間帯別のさまざまなクーポンをデジタル上で見ることができます。 日本マクドナルドでは今後も決済方法の拡充を始めとしたさらなる機能強化を行い、利便性を高める方針を掲げています。そして、累計6600万ダウンロード(20年3月時点)を超えているアプリユーザーをさらに増やしていく計画です。 デリバリーに関しては、マクドナルドのスタッフが直接届ける「マックデリバリーサービス(MDS)」を強化しています。また、外部委託業者との提携を進めることで、デリバリー対応店舗を急激に増加させています。21年3月末時点で、デリバリー実施店舗数は「MDS756店舗」「Uber Eats1383店舗」「出前館1062店舗」「Wolt116店舗」です。全店合計では1629店舗となっています。外部業者との連携は、売り上げシェア拡大をする上では非常に重要な戦略ですが、一方で手数料増加というデメリットもあります。実際にマクドナルドの20年度におけるデリバリーや外部委託業者への手数料などの支払い額は12億円増加しています。 しかし、デリバリー市場は今後も成長が望める市場であることは間違いありません。同社としても47都道府県でのデリバリー導入を目標にさらなる投資を行っていく方針を打ち出しています。 ドライブスルーについては、リロケートやリビルド、改装などによりリキャパシティーを増強するだけでなく、「モバイルオーダー」で注文した商品を車に乗ったまま店舗の駐車場で受け取れる「パーク&ゴー」の拡大を行っており、21年3月末時点で全国の860店舗が対応しています。 コロナ禍という未曽有の状況の中でも「人材」「メニュー」「店舗」「デジタル」に積極的な投資を行うマクドナルド。20年決算においては、人材と店舗に対してコロナ禍前の19年比で58億円増となる投資を行っています。しかしその投資などの効果として売上高は19年対比で78億円増となりました。その結果、営業利益は19年の280億円に対して、20年は312億円と約32億円増加させることに成功しています。 時代の先を読んだ攻めの投資戦略が同社の好調な業績を支えているのです。 最後までお読み頂きありがとうございました。この記事が少しでもご参考になれば幸いです。 (三ツ井創太郎)
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