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「なぜ住所が分かったんですか?」「私どもの商売は情報ありきだからね」裏社会の住人が明かす禁断の“情報収集術” から続く 【写真】この記事の写真を見る(2枚) 土壇場での機転、前もって危険を回避する知恵、交渉で相手を丸め込む技術はビジネスの世界で重要なスキルといえる。しかし、一瞬の判断ミスや煮え切らない態度が命取りにつながる“裏社会”では、それらのスキルは表社会よりもはるかに重要になるのだ。 ここでは、作家・編集者の草下シンヤ氏が “裏社会”の住人に交渉テクニックを取材した著書『 裏のハローワーク 交渉・実践編 』(彩図社)の一部を抜粋。彼らの手口を紹介する。(全2回の2回目/ 前編 を読む) ◆◆◆
「無防備にさせてから、巻き上げればいい」
仕込みというのは大げさであればいいというものでもない。 ほんの些細なものだったとしても、相手が無防備な状況下にあれば、絶大な威力を発揮するのだ。 「本番バレたら100万円」 こんな張り紙を風俗店で見たことがある読者もいるだろう。 ほとんどの店舗ではただの「注意書き」であるが、中には悪質な店も存在する。 風俗美人局と言うべき形態のもので、そのシステムはしごく簡単だ。 「あと2万円出してくれたら、本番していいよ」 風俗嬢のほうから持ちかける。 客にしてみれば願ってもない提案である。 金銭的な折り合いがつけば、喜んで申し出を受ける客のほうが多い。 紙幣を受け取ると、本番行為に入る前に、風俗嬢はそれとなく壁の注意書きに目を向けながら言う。 「でも、この店は本番NGだから、絶対にお店の人に言ったりしないでよ。私、叱られちゃうから」 「大丈夫だって。言わないよ」 辛抱たまらない客は話もそこそこに彼女にのしかかってくること請け合いだ。
事の最中に2人の強面のお兄さんが
そして本番行為に及んでいると、突然、個室のドアが開かれる。 「こら! お前、なにやってんだ!」 そこには2人の強面のお兄さんが立っている。どう見てもカタギの人間ではない。 すかさず怖いお兄さんが怒鳴り声を上げる。 「妙な声が出てると思って開けてみりゃ、お客さん、それはマズいんじゃないの?」 まさに事の最中である。 客はドアのほうを向いたまま完全に固まっており、風俗嬢も真っ青な顔をしている。 「いつまで、そんな格好しとんのじゃ」 そう言って1人が彼女の髪をつかんで、客から引き離す。 いい音のする平手打ちを食らわせ、罵声を浴びせると、彼女は泣いて謝罪することしかできない。
そんな光景が繰り広げられているところで、もう1人の怖いお兄さんが注意書きを指差しながら、客に語りかけてくる。 「お客さん、どうしましょう? この店のシステム分かってますよね」 全裸の客は股間を抑え、情けない声を上げることしかできない。 「せめて服を着させてください」と言ったところで「人が真剣に話をしてるのに、なにが服を着させてくれだと。そもそも自分から脱いだものだろうが、そのまま話を聞いとけ!」とやられるだけだ。 そこに追い討ちがかけられる。 風俗嬢を責めているほうのお兄さんが、こう言うのだ。 「こいつ(風俗嬢)、本番に入る前に、うちのシステムを説明したらしいですよ」 実際は注意書きに目を向けて「本番NGだから」と言っただけだが、巧みに「システムを説明した」と言い換えられている。
全裸 VS 2人の怖いお兄さん
違うと反論しようにも震え上がった客は口から言葉が出てこない。結果、それを受け入れた形になる。 「すべて分かってやったってことですね。いい度胸してるじゃないか。それなら話が早い。銀行のカードと暗証番号をお願いできるかな」 これで一丁あがり。 この手口の肝はなんといっても「客が全裸である」ことだ。仮に服を着ていれば多少なりとも抵抗することができるかもしれないし、隙を見て逃げることも可能かもしれない。 しかし全裸ではどうすることもできない。「全裸 VS 2人の怖いお兄さん」という図式では交渉すらできないのである。 状況を打破したいと思ったら、怒鳴られようがつかまれようが服を身につけてしまうことだ。さすがに暴力に訴えてくることは考えにくいから、さっと下着だけでもはいてしまう。それだけでも大きく気の持ちようは変わってくることだろう。 仕込みは「張り紙一枚」という些細なものでも、使い方によっては、これほどの威力を発揮するのである。
タイに着いて初日に詐欺に遭う
このような手法は古今東西、さまざまな場所で見ることができる。 それは海の向こうも例外ではない。 筆者は2005年の年始に、タイからカンボジアまでを陸路で移動したが、その道中で2人の旅行者に会った。それぞれ個別に旅行していた大村氏(仮名)と佐藤氏(仮名)である。私たちは年齢が近かったこともあり、すぐに意気投合し、行動を共にするようになった。 ある日、昼食をとっていると、今回が初めての海外旅行であるという佐藤氏がこんなことを言い出した。
「俺、タイに着いて初日にヤラれちゃいましたよ」 詐欺に遭ったというのだ。 バンコクには茶色いチャオプラヤ川が流れており、佐藤氏は着いた初日になぜか川を見にいった。 船着場でたたずんでいると、身なりのいい中年の女性が話しかけてきた。彼女はマレーシア出身で、今から川をさかのぼろうと考えているところだという。 「一緒に船に乗って観光しませんか?」 普通ならば「予定があるんで」と断るところである。 佐藤氏は答えた。 「いいですね。ちょうど予定もなかったし」 エンジン付きのボートには運転手とその助手が乗っており、4人でのちょっとした船旅となった。
川の真ん中で「4000バーツ」を請求される
狭い路地を抜けたり、観光名所になっている寺院の脇を通ったりと、それなりに楽しめたようだが、いざ帰る段になって問題が生じた。 川の真ん中でボートが停まった。 料金を払えというのである。 最初の話では、たしか40バーツ(約120円)ということだった。 しかし助手は法外な金額を口にした。 「4000バーツ(約1万2000円)」 佐藤氏が理解できずにいると、同乗していたマレーシアの中年女性は「あら、そう」といった顔付きで、4000バーツを支払っている。 目の前でやり取りを見せられた佐藤氏は、ようやく「ヤラれた」ことに気付いたが、どうすればいいか分からずパニックになった。
このままどこかに連れていかれる恐怖
慌てて見回したが、川の真ん中である。岸までは100メートル以上あり、とても泳いで逃げ切れるとは思えない。岸まで行き着く自信もないし、ボートで追ってこられたら確実につかまる。 助手は鋭い眼差しで詰め寄ってくる。 「この女性は払ったじゃないか。お前も払え。4000バーツだ」 佐藤氏は「金を取られたくない」という気持ちより、「このままどこかに連れていかれたらどうしよう」と不安になった。初めての海外でこのような目に遭ったら、誰もが恐ろしくてたまらない。 結局、彼は要求通りに4000バーツを支払い、ボートを降りた。持ってきていた旅行費用の多くをここで失ったのである。 この話を聞いて私は同情するより、自業自得だと思った。旅先で声をかけてくる人間は「人がよさそうに見えれば見えるほど」注意しなければならないのだ。「マレーシアからきた」という中年女性の言葉も疑わしいものだ。 そのことは佐藤氏も理解しており、今後の旅に役立てたいと話していた。
たまたま顔を合わせた3人の旅行者のうち2人が同じ被害に
ふと横を見ると、もう1人の旅行者である大村氏はやけに神妙な顔をしていた。なにかあったのかと聞くと、彼は意を決したように口を開いた。 「俺も、それと同じのヤラれたかもしれません」 私と佐藤氏が唖然としたのは言うまでもない。それにしてもこんな偶然があるのだろうか。たまたま顔を合わせた3人の旅行者のうち2人が同じ被害に遭っていたというのは。 状況を聞くと、ほとんど同一の手口で、大村氏は3000バーツを請求された。しかし彼が佐藤氏と違ったのは「絶対に払いたくなかった」ことである。 彼は以前ベトナムに個人旅行したことがあり、その分、ぼったくりへの抵抗力がついていたのかもしれない。 彼は同乗者の中年女性が助手に払った3000バーツを引ったくり、それを彼女に返し、 「お前が払うとおかしくなる。俺が交渉する」 と言い張った。 強盗やぼったくりを相手に値段交渉するというのも妙な話だが、これはやり方次第で通用する。本来ならば「一銭も払ってやるものか」という気持ちだったが、日も暮れかかっているし、その後の予定も差し迫っていた。 その中で大村氏は値切りに値切って、なんとか200バーツまでまけさせた。 最後は相手のほうがぐったりした様子だったという。
200バーツを叩きつけて逃げる
しかも「金は後で払うから、先にボートを岸に着けろ」と言って譲らなかった。これは先程の風俗美人局の話に置き換えれば「とにかくパンツだけでもはかせろ」と言っているのと同じである。 交渉の結果、彼はパンツをもぎ取った。 岸にボートを着けさせたのだ。 ここで一瞬、金を払わずに逃げようかと考えたらしいが、重大なトラブルに発展するかもしれないと思い直し、200バーツを叩きつけて逃げた。相手は追ってくることはせず、被害を最小限で食い止めることができた。 この一連の話で最も落ち込んだのは、佐藤氏である。 「200バーツでよかったんですか。俺、4000も払っちゃいましたよ」 彼とはカンボジアで別れたが、その後、ベトナム、ミャンマー、ネパール、インドなどのアジア各国を回ると話していた。 私は帰国し、しばらくはメールのやり取りをしていたが、ベトナム以降ぷっつりと連絡が途絶えてしまった。無事にやっていればいいのだがと時折心配になるのである。 【前編を読む】 「なぜ住所が分かったんですか?」「私どもの商売は情報ありきだからね」裏社会の住人が明かす禁断の“情報収集術”
草下 シンヤ
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