Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/e30470055483d1527611bb04fc3f270805180787
野嶋 剛
毛沢東主義=マオイズムの革命思想は、1950年代から60年代にかけて中国から世界に向けて「輸出」された。その影響力はなお健在だ。マオイズムがもたらした世界に対する甚大な負の遺産を体系的に総括する一冊。
タリバンもマオイスト?
今年は中国共産党の結党100年という節目にあたる。コミュニズム(共産主義思想)が世界に与えた影響の大きさはいうまでもないが、現在、その政治的な影響力は失われつつある。一方、コミュニズムの派生物として中国の大地で産声を上げたマオイズム(毛沢東主義)は、文革期に世界各地へ伝播し、今日もなお本家コミュニズムをしのぐほどの生命力を維持している。 アフガニスタンで実権を握ったタリバンが毛沢東の著作を読んでいた、というニュースが、先般のカブール陥落の際に伝えられた。タリバンの成功の背後には「農村から都市を包囲する」という毛沢東の戦術論があった、というストーリーだった。実際のところ、タリバン自身が「毛沢東から学んだ」と証言しているわけではないが、米軍が強かったときはヒンドゥークシュ山脈に身を隠し、米軍の力が弱まったとみるや、農村を拠点に都市へ攻め込んだ戦い方は、毛沢東の『持久戦論』をなぞっているように見えたのも確かだ。 マオイズムとは何か。共産主義思想の中国的な発展形式として、毛沢東は「人民戦争」と呼んだ闘争方法を掲げた。革命的な戦闘では反乱とゲリラ戦を重視し、政党と人民が一体になった革命遂行を志向した。
世界で猛威を振るったマオイズム
文革期に輸出されたマオイズムの国際的影響は甚大だった。ネパールのゲリラ「マオイスト」にあるように、アジア、南米、アフリカ、欧州など世界各地でいかにマオイズムが猛威を振るったかが本書を読めばわかる。これまで、マオイズムの国際的影響を体系的に取り上げた研究は少なく、本書によってその世界拡散とそれがもたらした災難の深刻さが明らかにされた。 著書の程映虹氏は中国出身の研究者で、1994年に渡米し、デラウェア州立大学歴史学科の教授として共産主義運動史に関する著書を複数発表しており、本書はその集大成である。 中国共産党結党100年を迎え、習近平・国家主席は前例なき三選に向けて個人への権力集中を強めている。習近平主席に率いられる中国の統制強化がしばしば「毛沢東時代への回帰」「文革の再来」と取りざたされる今日だからこそ、手に取ってもらいたい内容だ。 本書の本文では触れられていない日本へのマオイズムの影響についても、日本版に付された劉燕子の「訳者あとがき」、福岡愛子の「補論 日本人の文革認識」、宮原勝彦の「文化大革命の日本への影響」で、手厚くフォローされている。日本共産党と中国共産党との対立や日本の新左翼運動の暴走・壊滅にも関係したマオイズムと日本との浅からぬ関係にも興味が尽きない。
【Profile】
野嶋 剛 ニッポンドットコム・シニアエディター。ジャーナリスト。大東文化大学特任教授。1968年生まれ。上智大学新聞学科卒。在学中に、香港中文大学、台湾師範大学に留学する。92年、朝日新聞社入社。入社後は、中国アモイ大学に留学。シンガポール支局長、台北支局長、国際編集部次長などを歴任。「朝日新聞中文網」立ち上げ人兼元編集長。2016年4月からフリーに。現代中華圏に関する政治や文化に関する報道だけでなく、歴史問題での徹底した取材で知られる。著書に『ラスト・バタリオン 蒋介石と日本軍人たち』(講談社)、『認識・TAIWAN・電影 映画で知る台湾』(明石書店)、『台湾とは何か』(ちくま新書)、『故宮物語』(勉誠出版)など。
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