2021年11月9日火曜日

野口健 ネパールのタブーに挑戦した学校

 Source:https://www.sankei.com/article/20211104-Y2BYQ76TERKRDO6TTFCHV2BKM4/

先日、ネパールのポカラ郊外で再建していた小学校が完成した。この学校を初めて訪れたのは2年前。日本の子供たちが寄付してくれたランドセルを届けに行ったのだが、驚いたのはあまりに老朽化した校舎。多くの学校を訪れたが、その中でも特にひどい状態だった。

薄暗く、汚れきった教室には照明もなく、子供たちは窓の周辺に机を並べて何とか教科書を読んでいる状態。トイレは不衛生極まりなく、〝発展途上国慣れ〟している僕でさえ使用に躊躇(ちゅうちょ)した。

校長先生に話を聞くと、この地域は貧困層が多く、学校に通わない子供が多い。カーストの低い子供が学校に通うことに嫌悪感を示す村人も多いらしい。そこで校長先生自らが一軒一軒を回り、保護者に「子供を学校に通わせてほしい」とお願いした。子供を労働力として扱っている保護者も多い。つまり学校に子供を取られたくない。貧困や差別から学校に通えない子供を一人でも多く救おうと孤軍奮闘する校長先生の話を聞いて「ピン!」ときた。

この学校を誰もが憧れる「希望の学校」にしたい。なぜならば、さまざまなタブーと闘う校長先生の存在はこの国の教育システムに一石を投じると確信したからだ。残念ながらこのような状況におかれた学校はネパールに多い。全ての学校はサポートできないが、この学校を美しく再建すれば、一つのモデルケースとして注目される。そのためにも学校の再建には徹底して取り組んだ。

リフォームした校舎にはソーラーシステムを取り付け、全ての教室に照明を付けた。清潔な水洗トイレや新たに図書館の建設、ネパールの学校にはまずない人工芝の陸上競技場もつくった。建物の塗装も黄緑色にオレンジのラインを入れて華やかにした。

いるだけでワクワクできる環境にすれば子供が学校に戻ってくるのではないか。完成とともにネパールのメディアは「日本式の学校が完成した」と大きく報じ、文部大臣までが視察に訪れた。施設は完成した。これからは授業内容などプログラムに力を入れていきたい。

【プロフィル】野口健(のぐち・けん)

アルピニスト。1973年、米ボストン生まれ。亜細亜大卒。25歳で7大陸最高峰最年少登頂の世界記録を達成(当時)。エベレスト・富士山の清掃登山、地球温暖化問題など、幅広いジャンルで活躍。新刊は『登り続ける、ということ。』(学研プラス)。

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