2019年12月12日木曜日

農作物をよりタフに、世界で野生種探し活用へ、未来の食料供給の鍵

Source:https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20191206-00010001-nknatiogeo-sctch
12/6(金) 、ヤフーニュースより
気候変動に備え遺伝子の多様性を確保、報告書
 バンバラマメは落花生のように地下に実をつける豆類だ。西アフリカ以外ではほとんど知られていないが、厳しい気候ややせた土壌でも育ち、タンパク質を豊富に含む。温暖化が進む地球で、人類を救う農作物と期待され、世界中で植物を探すプロジェクトのリストに優先的に載せられた。

ギャラリー:農作物をよりタフに、世界で野生種を探す 写真5点

 グローバル作物多様性トラストなどが運営するこのプロジェクト「作物の近縁野生種(Crop Wild Relatives)」では、人類の安定的な食料確保に欠かせない28種の作物について、近縁な野生種の種子を集めることを目指している。これは、食料の供給を守ると期待される作物の遺伝子の情報を、より充実させるためだ。すると、異常気象や病害に強い農作物を開発できる可能性が高くなる。

 2013年から2018年までの6年間で、アンデスの山岳地帯から地中海の島まで、プロジェクトは100人以上の科学者を世界各地へ送り出した。彼らは25カ国に足を運び、厳しい原野にひっそりと生き残る植物のサンプルを4644採集。目標の80%にあたる371の種および亜種を探し当てたことが、報告書『A Global Rescue』で12月3日に発表された。

 未来の食材探しは、急を要する任務だ。食料危機はすぐそこまで迫っている。気候変動が原因とされる洪水や干ばつは、既に食料の供給と価格に影響を及ぼし始めていると、「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」は警告している。

 今後30年間で、世界の農作物の生産量は最大30%減ると推測する研究もある。水不足はさらに事態を悪化させ、私たちが摂取するカロリーの約半分を占める小麦、トウモロコシ、米の供給が脅かされようとしている。

 これらの3品目もターゲットに含まれた。他にも、ガラスマメやシコクビエなど、原産地以外では聞いたこともないような珍しい作物に加えて、大麦、ナス、ニンジン、調理用バナナもリストに記載された。

 このプロジェクトの目的は、現在食べられているものを完全に置き換えることではない。「私たちはみな、子どものころから食べ慣れている食物に親しみを覚えていますし、文化との関係性もありますから、完全に置き換えることは難しいです」と、グローバル作物多様性トラストの上級科学者であるハネス・デンペウォルフ氏は言う。

 むしろ、干ばつや塩分、病気に強い野生種から遺伝子を借りてきて、既存の栽培種を品種改良し、丈夫で適応力の高い作物に育て上げることを目指している。

 多くの作物を探そうとしているのは、激しい気候変動が起きたときでも、食材の幅を広げられるかもしれないからだ。なかには発展途上国でしか重要でないものもあれば、世界中で欠かせないものもある。

「10年後、20年後も今と同じように誰でもパンを食べているとしたら、それは今このプロジェクトによって小麦の近縁野生種が保全され、安定的な生産に成功したおかげかもしれません」と、デンペウォルフ氏は語る。
長く栽培すると作物は弱くなる
 種子の貯蔵や品種改良は今に始まったことではない。人間が栽培するようになると、長い時間をかけて作物の遺伝的多様性は失われる。その結果、病気や異常気象に弱い作物ばかりが残ってしまった。これからの不確実な未来を目の前にして、食料システムの回復力を取り戻そうと、科学者たちは自然界に残る多様な遺伝子に目を向けている。

 今回の探索プロジェクトは、そうした世界的な取り組みの一環として実施された。現在、世界各地にある1750の種子バンクに、膨大な量の種子やその他の植物の素材が貯蔵されている。なかでも最も有名なノルウェーのスバールバル種子貯蔵庫は、世界の種子の多様性を維持する究極のバックアップ計画だ。

 近年になって、種子貯蔵への取り組みはますます盛んになっている。現在、11の種子バンクにより組織的なシステムが構築され、ペルーはジャガイモ、フィリピンは米、そしてシリアは乾燥地帯の穀類というように、それぞれが専門分野を分担している。

 しかし貯蔵はまだ完全というには程遠い。そこで、まだ見つかっていない種子を探し出して貯蔵庫へ加える今回のプロジェクトが立ちあがった。
朗報と悲報
 西アフリカのバンバラマメは成功例のひとつだ。その近縁野生種は貯蔵庫には全く保管されていなかったが、今回ナイジェリアで17個のサンプルを掘り起こし、持ち帰ることに成功した。そのなかには、「見つけるのが極めて困難なもの」も含まれていた。

 バンバラマメは現在、主に西アフリカの小さな農家で栽培され、高温や干ばつにも強く、栄養の少ない土壌でもよく育つ。生のまま食べたり、炒ったり加工して他の食材に混ぜることもある。これが、人類の未来を救う夢の食材のひとつとなるだろうか。

 南アジアや一部の東アフリカでよく食べられているガラスマメも干ばつに強く、食料難のときに収穫が期待される。ただし、多量に摂取すると成人の場合膝下に麻痺が起こり、子どもの場合、脳に障害が出ることがある。今回パキスタンで毒性の少ない野生種が見つかり、品種改良でより安全な種が作られる可能性がでてきた。

 さらに、東アフリカのシコクビエ、インド亜大陸のキマメのほか、ペルーとエクアドルではジャガイモの野生種3種が見つかった。既に多くの種子が貯蔵されているリマの世界種子貯蔵庫にも、これら3種のジャガイモはまだ貯蔵されていなかった。

 ポルトガルで見つかった野生のニンジンは、塩分の多い乾燥した土壌でもよく育ち、バングラデシュとパキスタンで栽培できるよう研究が進められている。アルメニアからキプロス、レバノンにかけては、栽培作物に壊滅的な被害を与えるうどんこ病に耐性のある野生のカラスムギが、ケニアでは種子貯蔵庫に含まれていなかったナスの野生種4種が発見された。

 だが、朗報ばかりではない。時には、救助が間に合わなかった例もあった。野生の米を採集しにネパールへ行ってみたものの、環境破壊のせいでそこでは米が絶滅していたことがわかった。「この仕事がどんなに重要で切迫しているかを思い知った出来事でした」と、デンペウォルフ氏は振り返る。

 冒険に満ちた探索でもあった。ナイジェリアでは、イスラム過激派の反乱や洪水を回避し、幻の野生米を求めて訪れたエクアドルでは、ヘビ対策でつま先が金属製の長靴を履かなければならなかった。イタリアでは、塊状になった地下の茎(塊茎)まで食べられるエンドウマメを探していた地元の研究者が、あきらめかけていたときに電車の窓から目当てのものを発見した(研究者は次の駅で電車を降りた)。

 数々の貴重な発見に加えて、普段なら目もくれないような雑草にも、新たな希望を見出したという。「雑草の興味深い点は、人間の影響を受けることなく道端で生き延びてきたという事実です」と、英国のキュー植物園にあるミレニアム種子バンクのプロジェクトコーディネーターを務めるクリス・コッケル氏は語った。
野生種はまだたくさんある
 採集された種子のうち、3分の1は地元の国で保管され、残りはキュー植物園の種子バンクへ運ばれて厳重に保管される。種子バンクは、要請に応じて種子サンプルを配布する。コッケル氏は既に、9カ国の遺伝子バンクへサンプルを送り、さらに3点の発送準備が整っているという。

 遺伝子バンクの研究者はこの種子を使って、人々になじみのある味と見た目を保ちながらも、野生で身に着けた生存能力の高い品種を開発する。まず、野生種と栽培種をかけ合わせて、優れた性質を残し、必要ないものを取り除くという気の長い作業を行う。近縁の野生種が発見されている19種の作物について、既に開発が始まっている。しかし、農家が使える認定品種が出来上がるまでには10~20年、またはそれ以上の歳月がかかる。

 種子の貯蔵・品種改良には批判的な意見もある。種子貯蔵庫だけではすべての種を救済できないという指摘や、自然の分布域から種子を持ち出すことで、種子バンクは小規模農家よりも研究者の方を優先してしまうのではないかという懸念もある。これに対してグローバル作物多様性トラストは、種子バンクの在庫を増やすことだけが目的ではないと主張している。国連の食料・農業植物遺伝資源条約の下、トラストは収集した種子を共有している。

 プロジェクトの種子採集作業はこれで完了した。プロジェクト自体も来年に終了となるが、現在、資金を出したノルウェー政府との追加資金交渉が行われている。

「種子の収集という点では、まだ表面をわずかにかすっただけです」と、コッケル氏は言う。これまでに集められたものだけがすべてではない。まだ見つかっていない数多くの近縁種が、野生のどこかに隠れている。
文=Anita Makri/訳=ルーバー荒井ハンナ

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