2019年12月12日木曜日

「法律で体罰禁止」に納得できない日本の親、世界の常識との深刻なズレ

Source:https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20191212-00223163-diamond-soci
12/12(木) 、
 厚生労働省が「体罰」に関する指針案を発表したところ、日本の親たちから非難が続出している。要は「ときに厳しく体罰でしつけないと甘ったれになる」ということなのだが、これは世界的なトレンドからは大きく逆行した考え方だ。世界では今、親の裁量に任せると命を落とす子どもが後を絶たないということで、法律で禁止する国が急増しているのだ。(ノンフィクションライター 窪田順生)

● 体罰禁止の厚労省指針案に 親たちから非難が殺到

 今月3日、厚生労働省が「体罰」に関する指針案を発表した。来年施行される改正児童虐待防止法に先立って、何をしたら体罰で、どこまでがセーフなのかということを示すため、以下のように「アウト」の具体例を提示したのである。

 (1)口で3回注意したが言うことを聞かないので、頬を叩く
(2)大切なものにいたずらをしたので長時間正座させる
(3)友達を殴ってケガをさせたので、同じように殴る
(4)他人の物を盗んだので、罰として尻を叩く
(5)宿題をしなかったので、夕ご飯を与えない

 これに対して、世の親たちから批判が殺到しているという。中には、ここまで厳しく体罰禁止をされたら、親になりたくないという人も増えるのではないか、なんて意見もある。彼らがそこまで「体罰禁止」に反対する理由はザックリ分類すると、以下のような2本柱に集約される。

 ・単なる罰で叩くのはいけないが、愛情を込めて叩くのは問題ない
・「これは本当に悪いことなんだ」と子どもに理解させるには、ある程度の「痛み」が必要

 「その通り!こんなバカな法律はすぐにやめるべきだ」と大きく頷いていらっしゃる方も多いことだろう。この国では長らく、「ワガママで甘ったれたガキは鉄拳制裁で更生させる」というのが、理想の教育とされてきたからだ。

 わかりやすいのが、40年前に放映が開始された「機動戦士ガンダム」だ。戦うことをゴネる主人公アムロ・レイが指揮官であるブライトに頬を打たれ、「親父にもぶたれたことないのに!」と怒った際に、ブライトが放ったこのセリフだ。

 「それが甘ったれなんだ!殴られもせずに一人前になった奴がどこにいるものか!」

 令和の今も愛される国民的アニメのやりとりからもわかるように、日本では子ども、特に男の子が親に殴られることはむしろ必要で、“大人の階段を上る通過儀礼”のように捉えられてきたのだ。
● 体罰を禁止しても 非行に走る子どもは増えない

 そのような意味では、「体罰禁止」に反対される方たちの戸惑いや憤りはよくわかる。我が子をアムロのような「甘ったれ」にしたくない、という親心がそうさせているのだろう。

 しかし、そこまでの心配には及ばないのではないか。「体罰禁止」になっても、ほとんどの子どもは人の道を外れることなくスクスクと育つ。体罰でしつけられないがゆえに、人を傷つけたり万引きを繰り返したりというような問題行動を起こす子どもがドカンと増えるなんてことはないはずだ。

 なぜそんなことが断言できるのかというと、「体罰の法的全面禁止」は既に世界58カ国で支持されており、それらの国では、日本の親たちが心配するような問題は起きていないからだ。

 日本では「体罰禁止」と聞くと、「理想論だ」とか「親の大変さをわかっていない」などとボロカスだが、世界には親から体罰を受けることなく、育てられて立派な大人になった人たちがたくさんいる。

 もちろん、ハナからそうだったわけではない。

 先ほど「日本では」という言い方をしたが、「悪い子どもに手をあげてこそ良い親」という考え方は、多かれ少なかれ、どの国にも存在していた。しかし、今の日本のように、「しつけ」名目で我が子を血祭りにあげる親が後を絶たないということで、法制化に乗り出したのである。

 口火を切ったのは、「やはり」というか北欧・スウェーデンだ。日本では親に殴られたことのないアムロが「甘ったれ」だと視聴者をイラつかせていたまさにその頃、以下のような「子どもと親法6章1条」が制定されたのである。

 「子どもはケア、安全および良質な養育に対する権利を有する。子どもは、その人格および個性を尊重して扱われ、体罰または他のいかなる屈辱的な扱いも受けない」(NPO法人 子どもすこやかサポートネットHPより)

 これをきっかけに、同国では「体罰をする親」が劇的に減った。スウェーデン児童福祉基金およびカールスタット大学の調査では、1960年代に体罰を行う親は90%以上だったが、80年代には30%強、2000年代になると10%程度まで減少している。

 このスウェーデンの世界初の取り組みは、当初はそこまで国際社会で注目を集めなかったが、2000年代に入ると欧州へ広がり、2010年代に導入する国が急増。アフリカ諸国、ニュージーランド、南アメリカ、モンゴル、ネパールなども加わって、2019年についに58カ国になった。
● 体罰を野放しにすると 命を落とす子が続出

 では、なぜ日本の親たちが「愚策」と切り捨てる「体罰全面禁止」を受け入れる国がここにきて急増しているのか。

 この国際的なトレンドを否定的に見る人は、「そんなもん、プラスチックストロー廃止とかと一緒で、環境やら人権やらに対して意識の高い国だってアピールができるからでしょ」と、一種のパフォーマンスのように受け取っているかもしれないが、そうではない。

 親の「良心」に任せてこの問題を放置していると、凄まじい勢いで子どもが殺されていくため、藁にもすがるような思いで導入しているのだ。その代表がフランスである。実はあまりそのようなイメージがないかもしれないが、かの国も、日本に負けず劣らずの「児童虐待大国」なのだ。

 フランス政府が2018年に発表した統計によれば、1週間に1人から2人の子どもが親の虐待で命を落としている計算になるほどで、虐待の通報窓口にかかってくる電話の数は、なんと年間約46万6000件。1日平均だと1300件近くに上るという。

 ちなみに、日本全国212カ所の児童相談所が児童虐待相談として対応した件数は15万9850件(平成30年度の速報値)。過去最多を記録したが、フランスは日本の約3倍である。一概に比較できるものではないが、フランスでもかなり深刻な社会問題だということがうかがえよう。

 なぜこうなってしまったのか。NHKの「BS1ワールドウオッチング」の「深刻化する児童虐待 試行錯誤するフランス」(2019年4月5日)によれば、こんな理由があるという。

 《もともとフランスは、児童虐待の取り組み自体は歴史がある国で、100年以上前から法整備が進められてきた。その一方で、子どもへの体罰に関しては、教育やしつけという意識があり、なかなか議論が進まなかった》

 「海外では子どもの体罰が禁止されている」という話を聞くと、「ここは日本だ!日本には日本人ならではの教育方法がある!」とかキレる人たちが必ず出てくるが、似たような考えから「体罰」を容認してきたのは、日本に限ったことではないということだ。

 どの国もそれぞれの文化に合わせた教育方法を持っており、程度の差はあるものの「言うことを聞かない子どもには暴力でお仕置きを」という思想があって、それをつい最近まで子育ての現場で受け継いできたのである。

 しかし、そういう伝統だ、教育だ、と悠長なことを言ってられないほど、「しつけという名の虐待」が増えてきたという現実がある。このまま親に「愛情のある暴力」を恣意的に運用させる自由を与えていたら、屍の山ができるだけだということで、すがる思いで「体罰全面禁止」に舵を切るのだ。
● 職場で蔓延するパワハラや いじめも減らすことができる

 実際、フランスも今年、民法第371-1条を改正し、「日常にある教育上の暴力の禁止」の中に「親の権威は、いかなる身体的または心理的暴力も用いることなく行使される」(NPO法人 子どもすこやかサポートネットHPより)という文章が加えられている。

 日本人はどうしても「日本は他の国と異なる特別な国」という思いが強いが、殺人、強姦、窃盗など、異なる国や文化の中で共通する普遍的な社会病理というものがある。「児童虐待」もその中の1つだ。そう考えれば、世界58カ国が支持している「体罰全面禁止」という普遍的な解決策を日本も採用するというのは、それほど「愚策」だとは思えない。

 最初は確かに戸惑うかもしれないが、子どもを叩かない子育てが当たり前になっていくことで、犠牲者の減少などのメリットも増えていくはずなのだ。

 そこに加えて、「体罰全面禁止」を法制化することは、日本社会を悩ませているさらに大きな問題の解決につながる可能性もあるのだ。

 それは「パワハラ・職場いじめ」だ。

 いじめ相談をしていた小学校教師が、同僚をよってたかったいじめたり、日本を代表する大企業で「死ね」とか「殺すぞ」という恫喝によって、自殺する若者が後を絶たないことからもわかるように、「パワハラ・職場いじめ」というのも、日本が克服できない「病」のひとつである。

 実際、厚労省の「平成30年度個別労働紛争解決制度の施行状況 」によれば、職場でのいじめや嫌がらせは8万2797件と過去最多になっているという。

 しかし、これも日本に限った話ではない。どんな世界にもいじめは存在しており、スウェーデンなど幸福度の高い国でも、深刻な「職場いじめ」が報告されている。

 では、この人類普遍的な問題を、世界はどう解決しようとしているのかというと、ここでも「法制化」である。要するに、パワハラや職場いじめの全面禁止を法的に明文化しているのだ。

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