2019年12月4日水曜日

どうする?在留外国人への日本語教育支援

Source:https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20191202-00010002-nipponcom-soci
12/2(月)、ヤフーニュースより
毛受 敏浩
4月に新たな移民政策を導入した日本。在留外国人の数は年々増えて過去最高になった。在留外国人とその子どもたちへの生活習慣や日本語教育の取り組みが試されている。今回の「移民」政策シリーズでは教育に焦点をあてる。
入管法改正ともに変わる取り組み
人手不足と人口減少が社会のあらゆる分野に悪影響を与えつつある中で、日本に住む外国人の存在が注目されている。少子化が進み、子どもの数が激減していく一方で、在留外国人の数は年間15万人以上増え続けており、過去最高を記録。そのほとんどが青年世代だ。彼らの活躍と定着が今後の日本の将来を左右すると言っても過言ではない。

彼らが日本で暮らす上で、最も重要な能力のひとつが日本語だ。しかし、日本に10年以上暮らしているのに読み書きが不自由で、いまだに緊急時の対応もままならない外国人も多い。日本では日本語教育に政府の関与がほぼない状態が長年続いてきた。一方、ドイツや韓国(※1)など、在留外国人に対して公的に自国語の学習や生活習慣のオリエンテーションを半義務化する社会統合プログラムを実施している国も多い。(※2)

(※1) https://www.ndl.go.jp/jp/diet/publication/legis/pdf/024307.pdf(韓国における外国人政策の現状と今後の展望)

(※2) http://www.bunka.go.jp/pr/publish/bunkachou_geppou/2011_08/special/special_04.html(海外における移民に対する言語教育:文化庁HP)
受け入れに変化の兆し
そうした状況が変化し始めたのが、昨年末、実施された入管法の改正だ。ブルーカラーの分野で初めて就業を目的とする在留資格「特定技能制度」が創設され、同時に政府は「外国人材の受け入れ・共生のための総合的対応策(以下、対応策)」を発表した。法律に基づく政策ではないものの、在留外国人を共生社会の生活者として政府が支援することを明示した点で画期的なものだった。

「対応策」では、ボランティア主体で行われている外国人に対する日本語教育について、「地域日本語教室」の拡充を図り、空白地域の解消を目指し、多言語ICT(情報通信技術)学習教材の開発により多様な学習形態のニーズへ対応することなどが盛り込まれている。

筆者が委員を務める文化庁の日本語小委員会では、これを受けて、2019年度に日本語教師の国家資格化を議論している。大学や民間の日本語教師養成学校で育成されてきた日本語教師の専門性をより高め、権威のあるものにすることで、日本語教育の質的向上を図る取り組みだ。また、日本語教育の標準化に向けて、乱立する日本語能力の資格試験を標準化し、欧州の基準である語学力基準「CEFR」に準拠していく方向で議論が進んでいる。
「日本語教育推進法」が政府の責務に
さらに、2019年6月に、大きな前進が見られた。「日本語教育推進法」の可決、施行だ。超党派の議員連盟を作りこの法律制定を主導したのが中川正春元文部科学相だ。本来、外国人の受け入れの基本となる抜本的な移民法制定が必要だとしながらも、緊急性が高く国会でも受け入れられやすい日本語教育の法律制定を優先したという。

同法の第一条には、「日本語教育の推進に関する施策を総合的かつ効果的に推進し、もって多様な文化を尊重した活力ある共生社会の実現に資する」と記されている。

重要なことは、外国人への日本語教育を「国の責務」としたことだ。基本方針の策定を文科相および外相に求め、閣議の決定事項とした。また地方公共団体は政府の方針に倣って基本的な方針を定めるよう求めている。

政府は依然として移民政策をとらないという前提は崩してはいない。しかし外国人を共生社会の生活者として認め、安定した生活および活躍の基盤となる日本語教育に着手したことの意義は大きい。
新宿から垣間見た現場のニーズ
現場では外国人の日本語教育を巡ってどのような声があるのだろうか?

筆者は人口の12%を外国人が占め、130カ国以上の人々が住む東京・新宿区の「多文化共生まちづくり会議」の会長をしている。区の条例で作られたこの会議では、日本人と外国人の住民代表20数人が数カ月ごとに集まり、在住外国人の抱える課題について議論している。

中でも、日本語教育についてさまざまな意見や要望が出されている。

まず、外国人の多くは真摯(しんし)に日本語を学びたいと考えているが、容易に実現できない現実がある。複数の仕事を掛け持ちしている人が多く、勉強する時間がとれないという声が多数あるのだ。新宿では、企業幹部としてゆとりある生活を営む外国人が暮らす一方、時間を惜しんで勉学や労働に従事する人も多い。さらに、小さな子どものいる母親も日本語教室に通いたいのに、子連れで受け入れてくれる教室は極めて少ない。外国人住民は増え、在留資格の複雑化が進み、ライフスタイルも多様化している現状を私たちは認識する必要がある。

一方、日本語を教える側にも悩みがある。これまで政府や自治体からの財政的な支援がなく放置されてきた中で、地域における日本語教育は、ボランティアに依存してきた。多くは中年以上の主婦層で、平日の昼間に教えたいと考えているが、高齢化も進み、担い手不足も顕在化している。急増する外国人の日本語学習のニーズに対する体制も十分に整備されていない。このままボランティア頼みでよいのかという声が聞かれる。

また、外国人からは、日本語教育に加えて、直接の生活指導が求められている。例えばネパール・コミュニティーの代表は、昨今、ネパールから来日する若者は、首都カトマンズにさえ行ったことのない地方出身者が増えており、まして慣れない日本の生活での不要なトラブルを防止するために、来日直後に生活に関するオリエンテーションの実施が不可欠だと主張する。

新宿区役所では多言語での生活ガイドブックを渡してはいるものの、対面のオリエンテーションまでは実施しておらず、自治体でもそうした例は聞かない。在留外国人が多様化する中で、政府・自治体は、生活を営みながら新たな習慣を学ぶ外国人に届く日本語教育、来日時のオリエンテーションを制度化する必要があるだろう。
子どもの教育の改善は、待ったなし
大人に対する日本語教育に増して重要なのは、子どもたちへの日本語教育だ。義務教育への就学義務がない外国人の子どもへの教育はどうなっているのだろうか?

公立小中高校等で日本語指導を必要とする青少年の数は、2018年5月1日現在で、5万0759人と過去最多になった。17年度に公立高校などに在籍し、卒業した外国出身者ら日本語指導が必要な生徒3933人のうち、中途退学者は378人だ。日本人のデータ(※3)と比較すると、中退率は7.4倍に上る。同様の比較で、就職者における非正規就職率は9.3倍、進学も就職もしていない人では2.7倍と外国人の青少年教育は深刻な現状であることが明らかになった。

東京都内や静岡県浜松市など外国人の多い地域では、クラス内に外国人児童が存在することが当たり前になっている。先生が日本語を覚えさせて、日本人の子どもの学習レベルに追いつくように奮闘している。外国出身の子どもを別クラスに集めて教える「取り出し授業」では、加配された教師と通訳が学校と連携して取り組む例もある。

外国人の子どもたちにとって、日本語を学ぶ上で漢字は大きな壁だ。日本人の子どもですら、毎月書き取りを繰り返して新しい漢字を覚えていくのに、年度の途中で来日した子どもはゼロから覚えなければならない。幸い子どもの吸収力、柔軟性は高く、能力のある子どもは付いていけるが、小学校中・高学年以上で来日するとハンディは大きくなる。日本語が読めないと、他の教科の教科書も読めず、全ての学力低下に直結しかねない。高学年になると、日本人の子どもたちが塾や習い事などで忙しいため、新たに日本人の友達を作ることも難しくなる。いじめも深刻な問題だ。

何より、外国人の青少年にとって最大の壁は高校受験だ。例外はあるものの外国出身の生徒は、日本語で受験をしなければならない。一方、数は限られているが、東京や大阪などでは、一部外国出身生徒の高校受験に特化して取り組む制度や支援組織などもあり、外国人の子どもの教育を中心に取り組む非営利団体(NPO)も徐々に増えている。

海外から日本に移住した青少年にかかるストレスはかなり大きい。状況への配慮がなければ、不登校につながりかねない。そもそも外国人の子どもは、日本人と違い、小・中学校が義務教育ではないため、ドロップアウトすればそのまま放置されるケースも多い。

彼らを放っておいてよいはずはない。外国人の子どもに対する教育が不完全である現実を認識した上で、政府の一貫した方針のもとに、地域社会の外国人コミュニティー、NPO、日本語教師などのリソースを結びつけ、教育の充実と就業にまで配慮した対応が求められる。

(※3) 日本人で公立高校在籍者219万2688人のうち中退者は2万8513人
専門的な受け入れ体制を
横浜市では、来日したばかりの子どもが通う日本語支援拠点「ひまわり」を独自に設置しており、浜松市では「外国人の子どもの不就学ゼロ作戦事業」を実施するなど、先進的な事例がみられる。しかし、自治体にとっては外国出身の子どもへの教育は未開発分野である場合が多い。

韓国では外国人の子どもたちが学校に入る前に基本的な韓国語や生活習慣などを学ぶ「レインボー・ユースセンター」と呼ばれる施設が、国内25カ所に設置されている。日本ではそのような取り組みはまだなく、施設面だけではなく、教員の研修や通訳といった専門性のある職員の配置などもようやく緒に就いたばかりだ。

在留外国人の数はすでに270万人を超え、広島県の人口に匹敵するまでになった。日本語教育というインフラの充実なしには、彼らの活躍は期待できない。現場のニーズに合った柔軟な取り組み、政府、自治体、NPOの連携による「誰一人取り残さない(No one will be left behind)」取り組みが求められている。
【Profile】
毛受 敏浩 MENJU Toshihiro
公益財団法人日本国際交流センター執行理事。兵庫県庁で10年間の勤務の後、1988年より同センターに勤務。草の根の国際交流、移民問題を中心に幅広い分野を担当。慶応大学、静岡文芸大学で非常勤講師を歴任。内閣官房地域魅力創造有識者会議委員、新宿区多文化共生まちづくり会議会長などを務める。著書に『限界国家 人口減少で日本が迫られる最終選択』など。文藝春秋2018年11月号「亡国の移民政策」座談会が年間読者賞となる。

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