2019年12月27日金曜日

日本に住む外国人たちは、年末年始をどう過ごすのか?

Source:https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20191227-01632314-sspa-soci
12/27(金) 、ヤフーニュースより

 長ければ9連休。多くの人が休みとなる年末年始。一方で、日本に住みながら文化の異なる外国人たちは、年末年始をどのように過ごすのだろうか。外国人労働者や留学生たちに話をうかがった。
ただひたすらに寝ていたい?
「年末年始? うーん……とくになにもしないよ」

 こう話すのは、新宿・新大久保のベトナム料理レストランで働くアルバイトの留学生女子ミーちゃん。日本に来て2年、まだまだ舌ったらずで片言の日本語がかわいらしいが、クリスマスも大みそかも、明けて三が日も予定はないのだという。

 まだ若いのに「やることはないけど、寝たい。とにかくゆっくり眠りたい」なんて言うのだ。

 いつも学校とアルバイト先と家とを往復する毎日だから、年末年始くらいはなにも考えずにぼーっとして、facebookで家族と連絡し、あとはひたすらに寝たいのだそうな。実家は北部ハノイからバスで2時間ほど行った地方都市だが、帰郷はしない。この時期の航空券は高いからだ。

「ベトジェット(ベトナムのLCC)でも7、8万円はする。安いときなら3、4万円なのに」

 数万円の差額でも、仕送りもなく学費を自分で稼いで日本語学校に通う彼女たち留学生にとっては大金だ。航空券が高くなる年末にわざわざ帰るほどの余裕はなく、ミーちゃんも約2年ベトナムに戻ることなく日本で学び、働いている。
日本人が休むときにこそ働く
 ぎりぎりの暮らしをしている留学生たちの中には、年末年始も関係なくアルバイトに明け暮れる人も多い。そしてこの時期は、「稼ぎ時」でもあるのだ。

 外国人留学生は「週28時間」までのアルバイトが許可されているが、夏休みや冬休みといった長期休暇であれば、これが「週40時間」まで拡大されるのである。

 通常の週28時間では、明らかに生活は苦しい。時給1000円で週28時間、4週間働いても、月に11万2000円にしかならない。かといって規定を超えて働き、発覚すると「違法行為」とみなされ、留学ビザが取り消しになったり更新できなくなったりする。

「入国管理局の取り締まりはここ1、2年どんどん厳しくなっている。ビザ更新の際に源泉徴収票や預金通帳を提示させられるケースも増えている。稼ぎや貯金が多かったりすると詳しく調査される」(外国人のビザを扱う行政書士)

 留学生といえど、彼らの労働力をあてにする社会になってきているにも関わらず、法律の縛りは逆にきつくなっているのだ。

 しかし、学校が休みになる期間は、特例が認められるのである。このときを活用して、学費や生活費の足しに、母国の家族への仕送りに、少しでも働きたい。日本人の若者からはとうに失われてしまった勤勉さやハングリーさが彼らにはある。

 年末年始は日本人が休みを取るため、飲食店でもコンビニでも配送でも人出不足となる時期だ。そこを埋めているのが外国人なのだ。大みそかや元旦でも営業している業界では、彼らがいなければ回らない。
日本の正月は、正月ではない?
「そもそもカレンダーがふたつあるから」

 と話す人もいる。日本のカレンダーのほかに、母国の祝日が記されたカレンダー、ふたつの暦で外国人は暮らしている。そして西暦の年末年始にとらわれない民族も多い。

 たとえばベトナム人は「テト」という旧正月のほうが、より大きなイベントだ。ベトナムでは1月25日(2020年)が旧暦の元旦で、「帰国するならこの時期」という人もたくさんいる。西暦の年末年始に帰ったって、大都市ではカウントダウンのちょっとした騒ぎはあるけれど、実家はいつもとなにも変わらないしイベントもない。タイなら4月のソンクラーンのことを「正月」というのだ。

 日本に急増しているネパール人も、大切なのは9~10月のダサインだ。収穫祭でもあり豊穣の女神を祀るヒンドゥー教のお祭りで、留学生もこぞって帰国する。このとき里心がついてしまって日本に戻ってこないという問題も起きており、ネパール人を数多く受け入れている専門学校の中には、それなら自分たちでダサインの祭りを主催してしまおうというところまである。

 いずれにせよ西暦以外の暦も持つ民族にとっては、日本の年末ムードにあまり関係はなく「単に12月から1月に月が変わるだけのこと」なのだ。

 それに、どの国も日本ほどコマーシャリズムが肥大しておらず、季節の祭事をいちいち大規模な商業イベントにしないことも、この「そっけなさ」に結びついているのかもしれないと思った。家族と会えればそれでいいのだ。
バスを仕立てて仏像目指して宴会旅行!
 とはいえ、暮らしている日本が休みなのだから合わせて休暇を取ろうという外国人ももちろんいる。留学生はその間もアルバイトに励むかもしれないが、正規に就労していたり、起業していたりする外国人とその家族は、つかの間の休みを取る。

「旅行に行く人が多いですが、とにかく大仏が人気なんですよ」

 こう話すのは、ミャンマー人のマウン・ラ・シュイさん。彼はなんと浅草に店を構える純和風の店「寿司令和」の板長だ。日本で24年間、寿司職人として修業し、独立した苦労人なんである。

 ふだんから仕事漬けのぶん、「元旦と2日くらいは家族と休もうかな、と考えています」という。

 こうした休みのとき、日本に暮らすミャンマー人たちは、仏跡を目指すのだ。さすがは敬虔な仏教徒、大乗と上座部の違いはあれど、仏と対面して寺で過ごせば気持ちも晴れやかになるのだという。

「関東だと牛久や鎌倉ですね。友達が友達を呼び、それぞれの家族も加わって、100人くらいの人数になることもあります。バスを何台かチャーターして、車中で宴会しながら向かうんですよ」

 ちなみに「寿司令和」は大みそかも営業の予定だ。浅草寺への初詣の行き帰りに立ち寄れば、ミャンマーの寿司職人が握る寿司を堪能できる。ほかにも「とにかく雪を見たい」という外国人も、とくに南国からやってきた人には目立つ。寒さそのものがエンターテインメントでもあり、「国では着たことがない冬のファッションが楽しみ」と語る女の子もいる。

 日本に住む外国人はいまや、282万人に増えた(2019年6月現在、法務省による)。人口の2.2%を占めるまでになった彼らも、思い思いの年末年始を迎えようとしている。<取材・文・撮影/室橋裕和>

【室橋裕和】
1974年生まれ。週刊誌記者を経てタイに移住。現地発の日本語情報誌に在籍し、10年に渡りタイ及び周辺国を取材する。帰国後はアジア専門のライター、編集者として活動。「アジアに生きる日本人」「日本に生きるアジア人」をテーマとしている。おもな著書は『日本の異国』(晶文社)、『おとなの青春旅行』(講談社現代新書)『海外暮らし最強ナビ・アジア編』(辰巳出版)、『バンコクドリーム Gダイアリー編集部青春記』(イーストプレス)など。
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