10/16(金) 15:55配信、ヤフーニュースより

地球温暖化の影響により、産業革命前からの気温上昇が今後数年以内に1.5度を超える恐れが大きい――。そう警告する報告書を、国連環境計画(UNEP)が9月2日に公表した。1.5度は温暖化防止の国際ルール「パリ協定」の目標で、それを超過する温度幅と期間をどれだけ小さくできるかが問われると強調。温暖化をもたらす温室効果ガスを減らしながら、同時に、既に世界で頻発している極端気象による被害に備えることを求めている。
この夏、世界で極端な気象現象が相次いだ。国内では西日本が記録的な暑さに見舞われ、九州北部は少雨だった一方、千葉県などを記録的な豪雨が襲った。欧米でも熱波や森林火災が発生し、気候変動の被害をいかに減らすかが差し迫った課題となっている。11月にある国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)の第31回締約国会議(COP31)では、温室効果ガスを減らす対策を各国が実行に移せるかどうかが極めて重要な議題になる。
UNEPが9月2日に公表した報告書の表紙(UNEP提供)世界は「オーバーシュートの時代」へ
パリ協定は、産業革命前からの世界の平均気温の上昇を2度より十分に低く保ち、1.5度に抑える努力を追求することを定めている。長期にわたって1.5度を超えると極端な気象現象が増え、海面の上昇によって小さな島々が水没する恐れが高まる。また、人間の健康や世界の食料生産のほか、経済活動にも深刻な影響があるとされている。
ただ、1.5度までは安全という意味ではない。それを超えていなくても被害は既に生じており、上昇幅を小さく抑えるほど人間や生態系へのリスクを減らせる。
UNEPの今回の報告書は「Limiting overshoot」と題し、長期的な世界気温の上昇が数年以内に1.5度を超える恐れが大きい、と判断。世界は「オーバーシュート(目標超過)の時代」に入ったとした。そして、気候変動による被害を減らすためには、「今後の気温上昇をどこで止めることができ、1.5度を超過する期間をどれだけ短くできるかが重要だ」と明記している。
近年は世界的に高温傾向が続き、2024年は単年で1.5度を超えた。ただ、UNFCCC事務局やUNEPなどは、単年ではなく複数年の平均で気温上昇の傾向を分析している。今回の報告書は、パリ協定の下で各国が約束した温室効果ガスの排出削減目標について、排出量から森林などによる吸収量を差し引くことも含めて達成されるという最も楽観的なシナリオでも、「気温上昇のピークは約1.8度に達する」とした。
気温上昇が1.5度を超え、ピークを経て低下する経路と、自然や社会への影響を示した概念図。気温が下がっても影響の軽減には時間がかかり、元に戻せない損失もあり、気温低下後の影響の見通しには大きな不確実性が残る(UNEP提供)「1.5度超でも目標継続」など5点を明記
UNEPの報告書は、1.5度を超えた後の気温上昇をどこで止め、いかに早く下げられるかで世界の人々や自然が受ける被害は大きく変わると強調した。報告書とともに公表した解説書は5つの要点にまとめている。
第1は、オーバーシュートとは1回の「1.5度超」ではなく、数十年にわたる気温の推移として捉えられるという点だ。気温上昇がピークに達した後も低下を目指し続け、平均気温が「1.5度未満」で安定するまでの長い道筋・経路を想定している。
楽観的なシナリオでも気温上昇のピークと見込まれる1.8度から気温が下がるかどうかは、対策次第としている。ピークが高いほど、また、1.5度を超えている期間が長いほど、影響とリスクは大きくなる。どのような曲線をたどるかは、これからの温室効果ガスの削減量が左右するという。
南極域では氷床や氷河、氷山が溶け続けている(Photo by: Gonzalo Bertolotto、WMO提供)第2は、1.5度を超えても、目標を捨ててはいけないと強調している点だ。気候変動による極端気象の影響は一様な速さで増すとは限らず、互いに重なり合って加速する恐れがあるという。報告書は、アマゾンの森林の減少、永久凍土の融解、氷床の不安定化など、元に戻すことが難しい変化が起きるリスクを挙げ、気温上昇が大きくなるほど暑さや海面上昇などへの「適応」にも限界が生じ得ると指摘。迅速で持続的な削減を最優先の課題としている。
「緩和」と「適応」を同時に
第3の要点として、温室効果ガスの排出を減らす「緩和」と、温暖化の影響に備える「適応」を同時に進める必要があると指摘している。気温上昇を抑えるためには、世界全体の二酸化炭素(CO2)排出量を実質ゼロに近づけるとともに、メタンなど他の温室効果ガスも大幅に減らす必要がある。いったん1.5度を超えた気温を再びそれ以下に下げるには、CO2の除去量が排出量を上回る「実質マイナス」を長期にわたって実現する必要がある。これは容易ではない。
気温を再び下げることができたとしても、それまでの間に世界の人々は甚大な被害を受けるリスクがある。現在の適応策は将来の被害を抑えることを目指しているが、道のりは厳しい。排出削減が不十分だと影響はより深刻になり、適応策だけでは対処できない場合が増える。報告書は緩和策と適応策を切り離さず、並行して進めるよう強く求めている。
インド洋の小さな島々からなるモルディブは、海面上昇により国土が水没する恐れがある(Photo by:Ahmed Naiil、WMO提供)第4は、大気中のCO2を取り除く技術の重要性だ。報告書は、上昇してきた気温を再び下げる道筋では「CO2除去」の実行・拡大が必要とみている。植林や土壌管理によって炭素の貯蔵量を増やす方法のほか、大気からCO2を直接回収する技術などを挙げている。ただ、CO2除去はあくまで追加手段との位置付けだ。温室効果ガスの排出削減が極めて重要だと強調している。
第5点として、一度失われた動植物の生息地や人間の暮らしの基盤が、気温の低下とともに回復するとは限らないと指摘している。1.5度を超えると小さな島々が水没する恐れが高まるとされる。将来、気温を下げることができても、海水面や氷床、生態系などは変化の速さがそれぞれ異なるため、気温が低下しても、何が、いつ、どのくらい回復するのかは未解明だ。
これら報告書が提示した5つの要点はいずれも重い課題だ。
直ちに必要な対応から長期的な備えまで、温室効果ガス削減という緩和策と気候変動の影響への適応策を並行して進める道筋を示した概念図。両者の支え合いによって、気温上昇の抑制と被害に耐える社会づくりにつながる(UNEP提供)農業から暮らしまで、広がる被害
気象庁の異常気象分析検討会によると、2026年夏の西日本の平均気温は、1946年の統計開始以降で3番目の高さだった。最高気温40度以上の「酷暑日」は延べ36地点で観測され、2010年以降で最多となった。一方、九州北部の8月の降水量は、1946年以降で最も少なかったという。
世界に目を向けても、熱波や干ばつ、森林火災など極端な気象現象が相次いだ。8月下旬にネパールと中国の国境付近で発生した大規模な土石流や水害被害について、国際研究グループの世界気象アトリビューション(WWA)は9月17日、温暖化による永久凍土の融解や氷河の縮小などが斜面を不安定化した可能性を指摘した。
こうした極端気象による被害は、猛暑や豪雨、干ばつといった気温や降水量の異常にとどまらない。作物の品質低下や収穫量の減少などの農作物被害のほか、居住環境の破壊、発電や物流への影響など、人々の暮らしに関わる広範な分野に広がっている。
リンゴは高温環境で育つほど着色不良になる(農業・食品産業技術総合研究機構提供)
ミカンは温度や湿度が高いほど浮皮の傾向が強まる(農林水産省/農林水産技術会議提供)日本では、8月の千葉豪雨が農業の基盤を傷つけた。千葉県によると、9月15日の時点で農林水産関係の被害は33市町村で約82億円に及んだという。農地・農業用施設の被害が69億円近くを占め、水稲のほかニンジンやネギなどの野菜にも冠水被害が確認されたとしている。
高温による農業被害は、既に大きな問題になっている。農林水産省が2026年3月に公表した「地球温暖化影響調査レポート(速報)」では、25年はコメの登熟(とうじゅく)期の高温によって、粒が白く濁る白未熟粒(しろみじゅくりゅう)が発生したという。トマトの着花・着果不良、イチゴの花芽形成の遅れ、ブドウやミカンの着色不良も確認されている。
健康被害も大きい。救急医療が専門の日本医科大学の横堀將司教授は9月18日にあった防災学術連携体の速報会(オンラインン会見)で、今年の5月1日~9月13日の熱中症の救急搬送が7万5848件に上ったことを紹介。特に、関東甲信地方が梅雨明けした後、7月下旬のまだ暑さに慣れていない時期に搬送が目立ったという。年々、熱中症警戒アラートの件数が増えていると指摘し、「今年の夏は熱中症に地震や水害といったいくつかの災害が複合的に影響を及ぼしたという特徴があ
欧米でも農業などに被害
欧州でも、暑さと水不足が穀物生産を圧迫した。ロイター通信は9月2日、欧州委員会の8月下旬の見通しとして、2026年の欧州連合(EU)のトウモロコシ収穫量が過去3年間の平均を2割ほど下回る見通しであると伝えた。高温や土壌の乾燥、水不足が続く産地では、農家の経営や作物選択にも影響が出ているという。
干ばつは物流と電力にも波及している。同通信は8月11日、ライン川とドナウ川の低水位によって貨物輸送が大きく制限され、冷却上の問題から欧州の複数の原子力発電設備が停止または出力を抑えていると報じている。
米国では、豪雨が農業と加工業を混乱させている。同通信の9月24日の報道によると、中西部では晩夏の降雨で畑がぬかるみ、収穫機械を入れられなくなった。大豆の乾燥や成熟も遅れ、原料不足から一部の加工工場が操業を縮小したという。収穫の遅れが、家畜飼料や食用油などをつくる工場へ波及した例だ。
2026年7月の世界各地の異常気象の発生地図(NOAA提供)国連欧州経済委員会(UNECE)によると、7月下旬までに欧州で40万ヘクタール以上の森林などが山火事で焼失した。米国では185万ヘクタール近く、カナダでは約377万ヘクタールに上るという。米ワシントン州の森林火災で、900戸を超える住宅が焼失または大きな被害を受け、最大約6万4千人が避難命令の対象となったと現地から報じられている。
これらの全ての被害を「温暖化が原因」と断定するのは早計だ。しかし、農業、健康、住宅、物流、電力など多くの分野が極端な気象にさらされ、影響が分野を越えて連鎖する実態があるのは事実だ。UNEPの報告書が強調するように、温暖化の進行を抑える排出削減とともに、生産や生活の基盤をどう守るかが問われている。
「今こそ対策に力を入れる時」
今回の報告書は、今夏の国内外の自然災害と温暖化の関係を判定したものではない。また、1.5度を超過することで、ある日突然、世界が一変するとも語っていない。しかし、温暖化がさらに進むと、世界全体で極端気象などの危険が増すという見通しは明確に示した。
UNEPのアンダーセン事務局長は報告書公表時の声明で、「1.5度を超えてもこれまでの目標は変わらず、気温上昇のピークをできる限り低く抑え、超過期間を短くして、その後は速やかに気温を下げる努力が必要だ」と訴え、「気候変動への歴史的責任が大きい国ほど多くの行動を担うべきだ」と指摘。「今こそ温暖化対策に一層力を入れる時だ」と呼びかけた。
UNEPのアンダーセン事務局長(UNEP提供)COP31が11月9日からトルコ・アンタルヤで開かれる。UNEPは、温暖化への責任が大きい国ほど速く、意欲的に行動すべきだとも指摘している。だが、世界有数の温室効果ガス排出国である米国は今年1月、パリ協定から再び離脱した。トランプ政権は気候危機を前にしても対策に後ろ向きで、米国抜きで各国がどこまで気候危機の現実に向き合えるかが問われる。
今夏の日本や世界で観測・記録された極端気象や甚大被害を見ると、温暖化が背景となって複雑な世界の気象が変わってしまったことがはっきりしてきた。グテーレス国連事務総長はUNEP報告書公表に合わせて「人類は『気候破局(climate catastrophe)』を回避するための限界を猛スピードで越えようとしている。今こそ野心を高めて行動を加速させる時だ。1.5度をめぐる戦いは人類のための戦いである」と、国際社会の緊急対応を強く求めた。
私たち今を生きる世代は、気候変動への対応策を将来の世代に委ねる余裕はない。事態はそれほど深刻だ。
UNEPの報告書公表に合わせてメッセージを出したグテーレス国連事務総長(国連提供)内城喜貴/科学ジャーナリストった」と述べた。
今年の熱中症の発生状況などを説明する横堀將司教授(オンライン会見動画から。防災学術連携体提供)
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