2026年10月20日火曜日

【ネパール土石流】「中国が教えなかった」が原因ではないが 国境超えたデータ提供を

 Source:https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/6b88045651e43ab0a290322251bfb246a143936e

大和大学教授/環境学者/防災士
カンボジアのトンレサップ湖。メコン川の下流に位置する(筆者撮影)

洪水が国境を越えるのに26分

 私自身、ガンジス川、インダス川、メコン川などアジアの国際水資源を研究していることもあり、8月にネパールと中国・チベット自治区の国境地域を襲った巨大な洪水による土石流は引き続き関心を持っています。その災害の詳細が明らかになってきました。

 ロイターによると、8月26日午前8時32分ごろに洪水が発生。その約26分後、ネパールの水文担当者に洪水発生の連絡が入りました。ところが、国境付近の観測所からデータが届かなくなり、下流の観測所も次々とデータを送れなくなりました。洪水そのものによって観測設備が破壊されたとみられています。

 ネパール当局が携帯電話を通じて住民への警報を発信したのは午前9時13分ごろでした。国際総合山岳開発センター(ICIMOD)によると、その後約67万9000人にSMSによる警報が送られ、さらに下流の地域では避難に役立ったとみられます。

 しかし、国境に近い集落にとっては遅すぎました。これは、早期警戒の難しさを象徴しています。

国境超えた観測網を

 今回の洪水については当初、中国・チベット側から流れてきたとの見方もありましたが、その後の分析では、ネパール側のランタン地域で発生した氷・岩石崩壊が引き金になった可能性が高いとされています。

 つまり、「中国が情報を出していれば今回の洪水を防げた」と結論づけることはできません。そもそも氷河や岩盤の突然の崩壊を事前に正確に予測すること自体、現在の科学技術では非常に難しい問題です。

 しかし、だからこそ重要なのが、国境を越えた観測網です。ヒマラヤでは、一つの斜面崩壊が河川をせき止め、天然ダムをつくり、それが決壊して下流へ巨大な洪水を引き起こすことがあります。

中国に協力を求めていた

 ロイターによると、大洪水の約3カ月前の5月27日、ネパールと中国の政府関係者や専門家がカトマンズに集まり、洪水、気象、氷河災害などについて協議していました。

 ネパール側は、氷河湖の把握、ハザードマップ作成、観測・早期警戒などで協力を強化することを求めていました。

 中国側はチベットで大雨が予想される場合などには情報を提供していましたが、ネパール側によれば、雪崩、河川水位、地滑りなどについて恒常的に情報を交換する仕組みは十分ではありませんでした。今回の災害後、中国側は気象・水文情報の提供を続けると表明しています。

「情報」が人命を救う

 気候変動によって洪水や干ばつ、氷河災害などが激しくなる時代には、もう一つの資源が重要になります。それが「情報」です。

 特にヒマラヤは、中国、ネパール、インド、ブータン、バングラデシュなど多数の国の水源です。上流の氷河や雪、河川に何が起きているのかを各国が別々に監視するより、観測データを共有し、共通の早期警戒システムをつくった方が合理的です。

 ところが現実には、水資源は国家安全保障とも密接に関係するため、水文データの共有は必ずしも簡単ではありません。 ネパールは今回の災害後、中国国境付近に地震センサー、カメラ、衛星通信などを備えた新たな早期警戒システムを整備する計画を進めています。

 しかし、一国だけの観測網には限界があります。これからの「水の安全保障」で問われるのは、どれだけ水を確保できるかだけではなく、どれだけ情報を共有できるかではないでしょうか。

<参考文献>天野健作『アジアの水覇権 中国・インドの資源紛争を解く』(博論社)

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