Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/b11288c7fcdf8dda95c07c50e15f561f4f60ebad
労働人口の減少で企業の人手不足が進む中、日本で就業する外国人が増加する傾向にある。異なる文化的な背景を持ち、異なる言語を話す人々と共生していくには、どんな課題があるのか。その解決に、科学技術がどのように役に立つのか。「サイエンスアゴラ in 前橋 多言語交流DAY」が8月9日、群馬県前橋市の共愛学園前橋国際大学で開かれ、約100人が多文化共生について考えた。
親のために通訳「ことばのヤングケアラー」
イベント冒頭の事例紹介では、パキスタン出身のアジズ・アフメッドさんが最初に登壇した。群馬県は人口の5パーセント弱が外国人で、教育機関や行政の文書が理解できないという事例も生じている。アジズさんは前橋市のNPO法人「共に暮らす」の代表理事として、外国人へのきめ細かい支援を続けている。
アジズさんは9歳で来日し、日本の大学を卒業して起業した。そんな自らの経験を基に、外国人の親子が日本で暮らすときのハードルとして、「転居による移動が多い」「保護者の雇用形態が非正規、もしくはシングル家庭で、貧困である」「親が伝えるべき文化的な知識・制度や、それに対する理解が学べない」という3つを挙げた。はしの持ち方や、家の中では靴を脱ぐといった日本の習慣を学ぶ機会がなく、将来的に困難にぶつかるとしている。
アジズさんは、「理解のある親」「親しい友人」「外国人が共生するための情報を持つ先生」との出会いがあれば、外国人も自立して生活できると説いた。ただ、1つでも欠けると、生活が立ち行かなくなるのだという。
日本の学校では諸外国に比べて準備するものが多く、「小学校4年生のとき、彫刻刀が必要と言われた。彫刻刀とは一体何なのか分からなかった」とアジズさん。学校行事でスイカ割りを見た外国人の保護者が「食べ物を無駄にするな」と怒り出したのを目にしたこともある。外国人が社会や文化の違いをすべて理解するのは困難だろう。
アジズさんのように、子どもは来日後に日本語をどんどん吸収し、周囲との意思疎通に困らなくなる。ただ、親は日本語を必要としない職場で働き、家族との会話も母国語の場合、いつまでたっても日本語ができないことがある。
そんな親が病院や役所で言葉が通じずに困ったとき、子どもが間に立って通訳をする「ことばのヤングケアラー」の問題が生じている。通訳の際、子どもは親の意思を尊重しようとする。また、親にとって良くない話が出てくると、親を悲しませないようわざと通訳しなかったり、別の単語に変えたりするなど気をつかう子どももいる。
アジズさんはこのような子どもたちに自分の姿を重ねながら、「共に暮らす」の活動を展開している。雑巾や下敷き、赤白帽といった学用品を説明する動画を公開したり、高校進学の際に必要な手続きを解説したパンフレットを作ったりして、日本の社会で暮らしやすくするような支援をしているという。
外国人に距離を置こうとする日本人
続いて共愛学園前橋国際大学・国際社会学部長の西舘崇教授(国際協力学・国際関係論)が群馬における外国人の実態について紹介し、外国人向けの日本語教育には非常に大きなニーズがあると述べた。
西舘教授によると、各種統計を分析した結果、県内で働く外国人労働者の数が増えているだけでなく、働く場所も多様化していることが分かったという。その理由を尋ねた調査では、「人材不足」が8割、「優秀な人材を確保するため」が3割(重複回答可)と、人手が足りない部分を外国人が補っていることが浮き彫りとなっている。
一方で、外国人の増加に不安を感じる人たちも少なくない。西舘教授は「外国人に関するネガティブなニュースが流れると、それが一般的なことだと人々は受け取る。外国人は地元の人と交流したいと思っても、日本人は距離を置こうとしている」と話し、多文化共生のためにはコミュニケーションによる歩み寄りが必須だとした。
言葉の壁、自動翻訳技術でなくせる
前橋市で外国人の学習支援をする「日本語・学習支援教室 VAMOS」副代表の神谷敦子さんは在米経験があり、帰国後はもっぱら外国人に日本語を教えてきた。群馬に住み始めてからは、ブラジル、フィリピン、ペルー、イラン、ネパールなど、言語が全く異なる地域の出身者を集めて日本語や日本文化を教えたり、行政から手渡される各種文書を分かりやすく伝えたりと、幅広い支援を続けている。
神谷さんは「本来は保護者が担う学校とのやり取りを、スタッフが整理して伝えるなどの支援をしてきたが、支える人の人数が足りていない」と指摘する。運営費についても補助金頼みとなっており、強固な財政基盤がないという課題がある。
学習支援で来所する子どもの中には、日本の学校に進学するために入試の作文課題をAI(人工知能)に補助してもらいながら、入念に準備して対策している受験生もいる。もっと日本語を学びたいという意欲に、神谷さんは驚かされるという。
自動翻訳機やAIを使えば、外国人との双方向のコミュニケーションは、以前に比べると楽になってきた。NTTドコモなどの出資を受けて設立され、リアルタイムAI翻訳を手がける「みらい翻訳」の代表取締役社長、鳥居大祐さんは、実際の翻訳画面をスクリーンで見せながらAI翻訳レベルの現在地を示した。鳥居さんが話すとすぐに英語が画面に表示され、アジズさんが母国語のウルドゥー語で会話に加わると同時に翻訳された。
自動翻訳技術で言葉の壁がなくなりつつあることについて、鳥居さんは「ニュアンスを含めた翻訳はできないという課題があるが、会話はストレスなく支援できると思う。(ことばのヤングケアラー問題について)保護者と先生が会話する際に、子どもに通訳させなくていい技術だ」と話した。
流ちょうな日本語、必要ですか
シンポジウムでは、立命館大学生命科学部の山中司教授(応用言語学)も加わり、日本語にまつわる対話を繰り広げた。
アジズさんは日本語の難しさを語った。「『行けたら行くね』は『来ない』ですし、『大丈夫ですか?』に対応する『大丈夫です』は、レジ袋不要の際は『いらない』というノーの意味で、体調を尋ねられたときは『いいです』というイエスの意味になる。これを理解するまで時間がかかる」と話すと、多くの聴衆がうなずいていた。
西舘教授は、文化庁が示す日本語教育のレベルに「ほぼ全てのものを容易に理解することができる。自然に、流ちょうかつ正確に自己表現ができる」ということが書かれていることに触れ、「そもそも、国や文化の違いを認めましょうと総務省が呼びかけているのに、流ちょうに話すことが共生なのか」と疑問を投げかけた。
神谷さんは「自分のアイデンティティーに誇りを持つことも大切。流ちょうな日本語はどこまで必要なのかは疑問だ。近年、発達障害の疑いがある外国ルーツのお子さんもいて、学校内ではよくケアされていても、校外の(療育や放課後デイサービスなどの)支援にたどりつけないケースもある。障害のためにうまくコミュニケーションが取れず、日本人であれば支援級・通級でいいようなお子さんが、特別支援学校に行くケースもあった」と打ち明ける。
鳥居さんは「現場で困っている人をどうサポートするかがAIの役目。すごくいい道具があるからと、外国人との交流をなくすのは違う。外国語を学んだり、相手国の文化を知ったり『しなくていい』という風潮が広がる中で、多文化共生に一歩踏み出したくても踏み出せない人にとっては、機械というのはとてもいいツールだ」と語った。
山中教授はこれらの話を受けて、「日本社会は日本語を要求する社会で、良い悪いは別として、日本語ができないと社会が受け入れてくれない。『グローバル』と盛んに言われるが、(国際化とは)留学や外国人の受け入れだけではないはず。かっこいい話ではなく、地域の人とやっていくこと。多文化共生とは、地元の人がどう交流するかという話だ」と締めくくった。
食でつながる、花でつながる
この日の昼ご飯は「ハラール認証」を受けた牛丼だった。ハラール認証とは、食材や調理過程などがイスラム教の戒律に適合していることを認証する制度。群馬県内には認証を受けられる調理場がなかったため、特別に認証を受けた調理場を確保して準備した。通常の牛丼と全く変わらない味で、イベントに訪れた各国の人々のおなかを満たした。
午後のイベントでは、将来の夢や、身近な人への感謝などを花や紙を用いて表現するアート体験があった。
1日を終えて、外国語を学ぶことにどんな意義があるのか、何のために国際交流するのかと自問自答した。外国語を学べば、その国のことをもっと知ろうと思える。日本がどのような国なのかを理解するには、外国人との国際交流を通じて海外との違いや文化の差異を知ることが求められる。国内で外国人を排除することは、日本人が海外で排除されるリスクもはらむ――。いろいろな思いを、かみしめた。
滝山展代/サイエンスポータル編集部






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