Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/2b0c063b8ef48d53cf03d0628df9aabc79d713d4
一見、長年安定した黒字を続ける日本の経常収支ですが、お金の流れと内訳を丹念に分析すると、決して楽観視できない「日本の国際収支の実像」が浮かび上がってきます。本記事では、安田佐和子氏の著書『経済指標のキホン 数値から将来を読み解く』(すばる舎)より、海外との経済取引の記録から見えてくる、日本経済が抱える構造的な問題について解説します。
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日本の経常収支は「決して楽観できる内容とは言えない」
●日本の経常黒字は第一次所得収支の黒字のみに支えられ、貿易収支は赤字
●貿易赤字の背景には日本経済が抱える構造的な問題がある
●企業が「国境の外側」の投資を優先したことで国内投資は低迷
日本の経常収支は長年にわたり安定的に黒字を続け、対外純資産残高は2023年末まで33年連続で世界最大を維持していました。対外純資産残高の首位の座は2024年末にドイツに譲り、2025年には中国にも抜かれて世界3位となりましたが、それでも2025年末時点で561兆7,504億円と7年連続で過去最高を更新しています。
しかし、財務省が2024年7月に公表した「国際収支から見た日本経済の課題と処方箋」懇談会の報告書は「国際収支面から見た我が国の状況は盤石なように見えるが、その内容を子細に分析していくと、決して楽観できる内容とは言えない」と警告しています。
問題は経常黒字が第一次所得収支(証券投資、直接投資などから得られる利子・配当など)のみに支えられていることです。2025年の経常黒字は+32兆2,350億円だったのに対し、主要4項目のうち黒字は第一次所得収支(+41兆8,201億円)のみで、財貿易収支(-5,677億円)、サービス貿易収支(-3兆4,431億円)、第二次所得収支(-5兆5,743億円)はいずれも赤字でした。
貿易赤字の背景にある4つの構造的課題
貿易赤字の背景には以下の4つの構造的課題があります。
自動車に匹敵する黒字の担い手の不在
かつて自動車と並ぶ黒字の稼ぎ頭であった電気機器(家電、スマホなど)は2022年度に輸入超過となった。電動化・自動化のなかで自動車産業の国際競争力が低下した場合には貿易収支が一層悪化することは避けられない。
鉱物性燃料の輸入依存
原発稼働停止の影響もあって電源構成における化石燃料依存が高まっており、特に2022年度には地政学的緊張による資源価格の高騰を受けて貿易赤字は過去最大となった。
海外生産シフトに伴う産業空洞化
製造業は海外での生産割合を一貫して増加させており、その結果として日本企業の海外市場での収益の多くが第一次所得収支の黒字として計上されるようになった。
輸出企業と価格戦略の変化
企業は円安でも現地通貨建ての販売価格を引き下げなくなっており、産業空洞化とともに輸出量が伸びない要因となっている。
さらに、サービス貿易についても、好調なインバウンドを背景に旅行収支の黒字が過去最大規模になる一方、クラウドや検索サイト、オンライン会議等のプラットフォームのほとんどを外国企業が提供しているため、「デジタル赤字」が拡大しています。
「国境の外側」の投資を優先
第一次所得収支の黒字は、円安も一因に2021年から過去最高を更新し続けています。その内訳を見ると、2025年の直接投資収益は26兆2,050億円と証券投資収益の14兆2,304億円を大きく上回っており、企業の海外事業から収益の割合が高まっています。問題は、直接投資収益のうち海外拠点の事業拡大に充てられる「再投資収益」が約半分(11兆2,150億円)を占め、国内に還流していないことです。
こうした構図について、財務省の報告書は以下のように表現しています。
「国境の外側」での投資を優先する行動は、個別企業にとっては合理的な経営判断であったかも知れないが、その結果、日本の「国境の内側」では、
1.設備投資が抑制された結果、国内設備のヴィンテージが上昇し、新しい技術を一体化した設備の活用が遅れる
2.生産性が高い大企業が製造拠点を海外に移転し、これに伴い、大企業から周辺の中堅・中小企業へのイノベーション効果の波及が滞った
ことなどから、生産性や賃金が低迷したと考えられる。
日本国内の投資先としての魅力の乏しさは、他のデータにも表れています。財務省の報告書で紹介されている「対内直接投資残高対GDP比の国際比較」という表は衝撃的です(図表2)。
日本の対内直接投資残高の対GDP比は経済協力開発機構(OECD)加盟国で最下位、国連貿易開発会議(UNCTAD)の統計では198か国・地域中196位で北朝鮮(195位)の下になっており、日本よりも低い国はネパールとバングラデシュしかありません。この背景としては、(1)成長性・収益性で見た事業環境が見劣りすることや、(2)グローバル人材の不足を含め英語で事業を行える環境が十分に整備されていないことが指摘されています。
財務省はこれらの問題に対する処方箋として、
1.新陳代謝の促進・労働移動の円滑化による生産性向上
2.人的資本への投資、技術の開発・活用
3.国内投資・対内直接投資の促進
4.財政健全化
などを挙げています。
そして、「我が国が抱える人口問題や熾烈な国家間競争を踏まえれば残された時間は少ないが、改革を着実に実施し、市場経済のダイナミズムを強化すれば、競争力のある日本経済を取り戻すことは十分可能である」と主張しています。
このように、国際収支は単に海外の取引を記録した統計ではなく、丹念に分析すれば経済の実像を外から映す鏡のように用いることができるのです。
安田佐和子
経済アナリスト
ストリート・インサイツ
代表取締役
安田 佐和子



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