Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/c412b427ce80b28bcb646e97cca5b8c422694a56
2020年のノーベル平和賞を受賞したWFP(国連世界食糧計画)。日本国内での活動を支えるのが、認定NPO法人「国連WFP協会」です。世界での学校給食の普及や途上国での食糧支援などを広げるため、民間からの寄付を募ることが使命の一つです。事務局長の鈴木邦夫さんに、活動とともに寄付の重要性を聴きました。 ――WFP協会の活動について、教えて下さい。 WFP協会は、国内の民間からの協力を取りまとめ、国連世界食糧計画(WFP)を支援する活動に取り組んでいます。まずは、WFPの活動を多くの人に伝え、共鳴し納得してくれた人に寄付してもらい、途上国の支援に使われる仕組みになっています。そのために、WFPとは何か、どんなことをしているのかを知っていただく広報活動も続けています。 ――最近では、食品ロスを減らすアクションをSNSに投稿すると、1投稿あたり120円の寄付になって途上国の子どもたちに学校給食を届けるゼロハンガーチャレンジやチャリティーの一環としてエッセイコンテストも開かれています 一人でも多くの人に飢餓の問題を考えていただくチャンスをてこにして、WFPを知ってもらえるようにしています。フードロスの問題に気づいてもらいたいという思いで始めたゼロハンガーチャレンジも、今年で3年目を迎え、SNSのリアクションが増えました。毎年、協力してくれる人もいて、認知が広がった実感もあります。また、新型コロナウイルスの影響もあったかもしれません。食事を自宅で作って食べる人が増えたと思います。さらにネットの接触時間が延びていることも影響しているかもしれません。
食糧支援はコロナとの闘いにも必要
――新型コロナウイルスの影響で、社会貢献の見方を変えた人も多いのかもしれません その点は強く感じています。私たちは国際人道支援に取り組んでいますが、多くの人から「日本でも食べられない子どもがいる。足元を見ないでどうするんだ」と言われます。ただ、新型コロナウイルスは、一つの国で収束する問題ではありません。日本国内で感染者を減らしても、グローバル化が進んだ現状では、国際的に協調しないと解決できないのです。人類がコロナと闘う、そのために食料支援が非常に大きな力を持っていることを訴えています。 WFPの本部が分かりやすいメッセージを発しています。「ワクチンが開発されるまでは、食料が最強のワクチンである」と。何を言いたいのかを分かりやすく説明しましょう。ちゃんと食料を食べられる、栄養をとれる状況があってこそ、免疫力が人(の体)にそなわるのです。免疫力が低い状態で新型コロナウイルスに感染すると、非常に重大な結果を招きます。例えば難民キャンプで新型コロナが発生すると、たいへん危険な状況に陥ります。食べられるものが必ずしも十分ではなく、免疫能力が低下しているかもしれないからです。 衛生環境が劣悪で、医療体制も決して十分ではない場所もあるでしょう。そういった環境でコロナを防ぐためにマスクを配るのも大事です。その一方で、WFPの本部では「食料を食べて免疫力をつけてもらうことが、新型コロナに対して非常に有効な手段になるだろう」と訴えています。 ――世界では、今まさに食糧支援の必要性が高まっているのですね 深刻な食糧不足に直面している人は世界で1億3800万人いるという数字がありました。しかし、新型コロナウイルスの影響で、2億7000万人まで増えるとも言われています。このため、WFPは支援の拡大に動いています。
高まる寄付への関心
――そういったWFPを支援する一つの方法が遺贈や遺贈寄付だと思います。近年、社会の関心が高まっていると思いますが、寄せられる支援は増えているのでしょうか WFP協会で遺贈や遺贈寄付の支援を増やすには、まだ課題があります。取り組みは、これから本格化させなければなりません。実際に、遺言を執行して寄せられる寄付は、十分と言えないのが現状です。ただ、信託銀行などからの問い合わせは増加傾向にあり、相続財産からの寄付も増えています。今後、相続した財産を寄付するケースも増えるかもしれません。 要因は、二つあると思っています。まず一つは、相続税法の改正です。控除額が引き下げられて、相続税を納税しないといけない人が増えました。その結果、相続に関心を抱く人も多くなっているのかもしれません。 ――相続に関心を抱いた人が、遺贈や遺贈寄付にも目が向いていくということでしょうか 「人生の最後にいいことをしたい」とお話しされる人も増えているように感じます。国内のほかにも国際貢献や社会貢献、私たちのような海外での人道支援にも活用できます。税金として納めるよりは、そういった支援に使ってほしいという意識が強くなっていると思います。また、いわゆる「おひとりさま」の方が、亡くなった後に遺産が国庫に入るよりは、自分の意思で社会貢献につなげたい、と考えるケースも。 相続について相談したところ、税理士から「もめるかもしれませんよ」と言われ、「それだったら、寄付した方が良いかもしれない」と判断して、寄付をしてくれた人もいます。社会意識の高まりと税制の変更が背景にあるのではないでしょうか。
必要不可欠な民間支援
――日本国内で寄せられた寄付は、WFP全体で考えると、どのくらいのインパクトがあるのでしょう 実は、WFP全体の年間予算のうち、民間からの支援は5%に満たないんです。各国や国連機関の拠出が90%以上を占めています。ただ、いま、どちらかというと各国が内向きになりつつある現状があります。このため、WFPの本部から、民間からの支援を広げることが必須と言われています。 たぶん、ほかの国連機関の中でも政府系からの支援に依存している比率は、ずば抜けて高いです。なぜなら、オペレーションの規模が大きいからです。WFPの年間の活動予算は、2019年は8000億円ほどでした。ユニセフやUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)より多いのです。2019年には、世界88カ国で、16000人の職員が活動しました。食料を提供するのは、それだけ手間が掛かるのです。また、WFPは他の団体への支援もしています。新型コロナウイルスが世界で拡大した際、飛行機が飛ばなくなって国際物流が止まりました。WFPが最初に行ったのは、WHOのためにマスクや防護服を途上国に運ぶというオペレーションでした。輸送は、国連の人道支援の中で共通する課題です。飛行機を使うこともあれば、船を使うこともあります。ネパールで震災があった際、食料の輸送にヘリを飛ばして、ロバも使いました。もちろん、人も運びました。 そこまで、しっかりとした物流網を張り巡らせるには、輸送の専門家が綿密な輸送計画を立てないといけません。紛争地などで、一つのルートが使えなくなると、ほかのルートを準備しておかないといけません。ロジスティクス(輸送)とテレコミュニケーション(通信)がWFPの重要な仕事なのです。被災地に行った時、最初の仕事は通信を立ち上げて、何が必要で、どういう被害があるのかを把握した上で支援計画を立てることです。そうしないと、ミスマッチが起きてしまいます。 ――そういった活動に、遺贈寄付などの支援が使われているのですね。遺贈寄付しようとする人が、使い道を選ぶことはできるのでしょうか。 遺贈で寄付をお預かりした時、緊急支援、学校給食、母子支援、自立支援のいずれかを選んでいただくことはできます。もちろん、通常の寄付でも同様です。日本では、学校給食を指定するケースが大変多いのです。 わたしの推測も入ってしまいますが、日本という国の成り立ちが関係しているのではないでしょうか。明治維新以降、世界でも急速に大きな力を持つ国になった背景に、教育があることは自明の理だと思います。多くの人が、社会をつくる上での教育の重要さを理解されています。ことしはコロナ支援が多いですが、途上国への支援の中で学校給食を選ぶことは、未来に対しての明快なコミットになると、みなさん、お感じになっているのだと思います。 ただ、寄付では、まだまだユニセフや国境なき医師団といった団体さんと比べると少ないです。今後は、遺贈寄付を検討されている人に、寄り添う専門的な職員が必要だと思います。ただ、今でも顧問の税理士の先生を紹介することもできます。もちろん、遺贈寄付のご相談にはのれるよう、態勢は整えてあり、遺贈寄付を考えた方の大切な財産をお預かりする体制ができています。一つの明るい未来を切り開くために使わせていただくことをお約束できます。 (記事は2020年12月1日時点の情報に基づいています)
相続会議 松崎敏朗プロフィール
「相続会議」の編集部員。2012年に入社し、秋田、東京、沖縄、広島で勤務してきました。相続に関する取材は、これまで未経験。相続を通して、法律や家族関係の難しさを感じながら、取材と編集にいそしんでいます。ご意見、ご感想をお待ちしています。
相続会議 松崎敏朗
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