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皆さんは「新大久保」という街にどのようなイメージを抱くだろうか? 映画『パラサイト』や配信ドラマ『愛の不時着』の影響で、第4次韓流ブームに沸くコリアンタウン? もちろんそれもそうなのだが、現在は人口の約35%が外国人で、多様な文化が入り混じった多国籍タウンでもあるのだという。そんな新大久保に移住し、約2年におよびさまざまな人々を取材した書籍『ルポ新大久保』(辰巳出版)が話題だ。著者の室橋裕和さんに話を聞いた。 【写真】イスラム横丁のハラル食材店「ナスコ」と「新宿八百屋」 ◆ ◆ ◆ 『ルポ新大久保』は新大久保に住んで書き上げたそうですが、室橋さんが新大久保に興味を持つようになったきっかけは? 「この本の前に『日本の異国』(晶文社)という本を出版したんですけど、取材で首都圏の外国人コミュニティーを回るようになりました。その中で新大久保が一番いろんな国の人間が集まっていて、ミックス感があるところにそそられたんです。新大久保で一冊本が成り立つかもしれないという感覚があったし、実際に住んでみたら面白いかなとも思いました。もともと取材で通い詰めているうちに、面白くなって『じゃあ住んじゃえ』という感じでしたね」 この本には室橋さんが新大久保で出会ったスーパーの店員、飲み屋のママ、留学生、起業家など本当にさまざまな国籍と背景を持つ人々が出てきます。なぜこのような構成になったのでしょうか? 「まずは、できるだけ幅広い人たちの声を聞きたいなと思ったんですよね。いろんな国のいろんな立場の人たちがいるので、留学生から勤め人、商売をしている人までなるべく多くの人に話を聞きたいということで取材を始めました。そういう人たちの話を聞きながら、自分で住んでみて感じたのは外国人目線だけではなく、日本人はどう思っているんだろうということでした。 やっぱり地元の日本人の声もどんどん聞かないとだめだなと思って、日本人にも話を聞いてみると『外国人とも上手くやっていかなきゃならないね』という人もいれば『外国人なんてとんでもない、冗談じゃないよ』という人もたくさんいるわけです。『共生』という言葉が一人歩きしているけれど、それが何なのかは僕自身もよく分かってないですし、耳障りのいい言葉だけを書いていてもしょうがないので、そういう人たちの意見もどんどん入れていきたいと思いましたね」 多国籍文化を内包する新大久保の一面として、ガールズバーやカフェ、スーパー、宗教施設、食堂などが紹介されています。意識的に取材したのはどんなところですか? 「楽しく読んでほしいというのが前提にあって、味覚という面から知ってもらうのは分かりやすいので、レストランや食材店はどんどん取材しようと思いました。あと、宗教が多様であるという面白さもありますよね。モスク(イスラム教寺院)があるのは聞いていたし、歩いていれば教会の多さは目につきました。ただし、媽祖廟(東京媽祖廟、航海安全の守護神をまつる社)があるのは住んでから知りましたし、ヒンドゥー教のお寺もあとから発見しましたね」 新大久保の中でも国ごとにコミュニティーの違いはあるのでしょうか? 「それはもちろんあります。どこかの区画に集中しているわけではなく、いろんなところに点在しているんですけれども、たとえばネパール人ならネパール人同志で集まりますし。ただし、コミュニティーにもいろいろあって、ヒンドゥー教のお寺なんかは国ではなく、ヒンドゥーというコミュニティーなんです。そこにはネパール人もいればバングラデシュ人もいるし、インド人もいます。また、商店街というコミュニティーもあって、日本人もいれば韓国人もいるし、ベトナム人もいる。いろんな形のコミュニティーがあるのかなという気はしますね」 室橋さんがおすすめしたい新大久保のスポットは? 「東京媽祖廟は分かりやすく面白いのと、イスラム横丁ですかね。あそこにある『ナスコ』というスーパーは都内では有数の充実ぶりで、特にスパイス関連の取り扱いは日本でもトップクラスみたいです。あと、ネパールにせよベトナムにせよ、何となく入りづらいようなレストラン。おしゃれでも何でもない街の食堂が、入ってみるとなかなか面白かったりするんです。店員は皆さん日本語が分かってフレンドリーですし、日本人向けでないガチなローカルフードがあります。集まっているのは地元の人ばかりで、日本人が全くいない店もたくさんある。海外に行けない今は旅行気分が味わえますし、そういう店をうろうろしてみるのも面白いかなと思います」 本の中でも触れていますが、コロナ禍で新大久保の街にも変化はありましたか? 「昨年の緊急事態宣言中は、コリアンタウン(新大久保駅から東新宿駅の間のエリア)のほうはゴーストタウンでした。かなりの数の店が閉まっていたし、学校も閉まったんですよね。あれだけたくさんいた韓流ファンの女の子たちがゼロになって、街を歩いている人は誰もいなかったです。このあたりは日本語学校や専門学校がすごく多くて、そこに通っている留学生たちがこの街の若さを作ってるんですけど、学校が一斉に閉まったので学生の姿も消えました。一時は街全体が死んでしまったような感じになりましたね。 全国的にも飲食店のテイクアウトが流行りましたが、新大久保では日本人の店よりも外国人の店のほうが対応が早かった。韓国をはじめ中国、タイ、ベトナム、ネパール、インドネシア、台湾といった店がわーっとテイクアウトを始めて、テイクアウトだけで海外旅行のような感じになって面白かったですね。あの時も時短要請は20時まででしたが、営業時間の範囲内でやっている店は多かったです。9月くらいからコリアンタウンのお客さんが徐々に戻ってきて、10月からは学校も開校し始めて新入生が少しずつ増えていたのですが、2度目の緊急事態宣言でどうなるのか。日本語学校や飲食店、留学生たちも持ちこたえられるのか心配です」 これから『ルポ新大久保』を読む人に、室橋さんからメッセージをお願いします。 「外国人に対して何となく反感を持っている人もいると思うんですけど、新大久保に来るとそういった人たちとけっこう自然に触れ合えます。そこらのレストランや食材店に行けば、店員や労働者、留学生などいろんな人たちがいるので、暮らしぶりを間近に見られるんですね。その姿を見ていると、単なる隣のおっちゃんでありおばちゃんだなというのがよく分かります。もちろんいいことばかりではないんですけど、本を通して『普通の人が普通に生きているよ』ということを知ってもらえたらいいなと思います」
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