2020年2月19日水曜日

新型コロナで「安倍政権の支持率急落」か…対応のマズさを検証する

Source:https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200217-00070481-gendaibiz-soci
2/17(月) 7:01配信、ヤフーニュースより
「桜を見る会」のせいではなく
 安倍政権の支持率が急落している。

 時事通信が6-9日に実施した世論調査で、内閣支持率は前月比1.8ポイント減の38.6%、共同通信が15、16両日に実施した世論調査では、前月比8.3ポイント減の41.0%だった。

新型コロナウイルス、実は「マスク着用」より先にやるべきことがある

 これについて一部マスコミは、「桜を見る会」などに対する安倍首相の国会対応を原因だとしている。しかし、筆者の見立てはそうでない。消費増税がもたらした景気への悪影響や、新型肺炎への対応が後手後手に回ったことが原因だ。

 一部マスコミや野党支持者はもともと安倍政権を支持していないので、彼らがこれまでと同様の批判を繰り返しても、支持率には大きな影響を与えない。支持率の低下は、これまで支持していた人が不支持に回ったときに起きるもので、多くの人が関心を持つ消費増税の悪影響や新型肺炎への対応は、支持から不支持への転換のきっかけになりやすい。

 特に新型肺炎への政府の対応について、筆者はもちろん、多くの人ががっかりしている。安倍政権は、これまで危機対応に関してはそれなりに上手くやってきた。例えば、災害や北朝鮮のミサイル発射への対応は迅速だった。

 ただし今回の新型肺炎は、そうではない。2月3日付けの本コラム「新型肺炎が日本経済と安倍政権の「致命傷」になってしまう可能性」(https://gendai.ismedia.jp/articles/-/70203)を見てもらいたい。

 このとき筆者は、日本政府の初動である「指定感染症」指定に潜む問題を取り上げた。1月28日に閣議決定、即日公布されたにもかかわらず、施行が2月7日となった対応の遅さ、また隔離・停留・検査・無症状病原体保有者への適用ができない2類指定となったことの緩さなどだ。
あまりにも後手後手
 中国政府による感染症の正式な公表は1月20日だったので、対応もその後から始めざるを得なかったのは仕方ないだろう。中国政府は初期段階で病気の拡大を隠蔽したので、責任は大きい。最近になって、習近平主席がもっと以前から肺炎対策を要求していたという信じがたい話も出てきている(https://www.asahi.com/articles/ASN2H7GZPN2HUHBI01N.html)が、これは中国共産党内での責任のなすりつけ合いだろう。

 しかしこうしたことを踏まえても、日本政府の対応もあまりに後手後手で褒められたものでない。

 今となっては悔やまれるが、もしも新型コロナウイルスが1月28日に1類指定感染症に指定され、即日施行されていたならばどうなっていたかを思考実験してみよう。

 各国は1月末から、中国からの移動制限を実施している。例えば1月29日には英国の航空会社が中国発着便を全便欠航し、オーストラリア政府も武漢からの帰国者を隔離した。アメリカは1月31日、中国への渡航経験のある外国人の入国を禁止した。こうした措置はオーストラリア、イスラエル、ニュージーランド、シンガポール、マレーシア、フィリピンなどでもとられた。

 さらに1月29日にネパールが、1月30日にロシアが、中国との国境を閉鎖した。同じ措置はモンゴルやカザフスタンでもとられた。

 こうした移動制限とともに、多くの国で中国に対するビザの制限も実施された。

 当然のこととして、中国と地理的に近い日本でも、上記のような移動制限措置がとられてもよかった。指定感染症として閣議決定をしていれば、当然それを根拠に移動制限ができたはずだ。

 しかし当初は、指定感染症に関する政令の施行が2月7日と10日後の見通しで、それまで身動きが取れなかった。結局はWHOの非常事態宣言を受けて、施行は2月1日に前倒しになったが、強力な移動制限措置はとられていない。2月1日に湖北省に滞在した外国人の入国拒否を決め、2月13日に同じく浙江省滞在者も入国拒否とした程度だ。

 この対応の遅さによる実害が、ダイヤモンドプリンセス号での船内感染だろう。もし1月28日に1類指定感染症に指定され、感染の疑いがある人の入国を拒否できていれば、ダイヤモンドプリンセス号の横浜入港も拒否できていた可能性が高い。

 というのも、ダイヤモンドプリンセス号は1月20日に横浜を出発し、25日に香港で下船した乗客が新型肺炎に感染していることがわかった。その後横浜に戻ったのが2月3日なので、拒否できたのだ。

 実際、感染者が乗船しているとされたクルーズ船ウエステルダム号は、日本やタイ、フィリピンなどで入港を拒否され、最終的にカンボジアに入港している。

 こう指摘すると、人道的に問題があると言われるかもしれないが、これが国際社会の現実だ。ダイヤモンドプリンセス号は、船籍はイギリス、運営会社はアメリカなので、日本に寄港させなくても日本が非難を受ける立場ではなかったのだ。
加藤厚労大臣の責任
 ダイヤモンドプリンセス号での感染拡大は悲劇であるが、国際社会から見れば、日本の移動制限があまりに緩かったため、日本で起きた事件とされてしまっているのが実情だ。もちろんWHOの統計では、ダイヤモンドプリンセス号での感染者は「その他」に分類され日本の感染者には計上されていないが、海外の受け止めとしては「日本政府の不手際」になっている。返す返すも残念だ。

 そしてはっきり言えば、今さら中国からの入国制限をしても手遅れだ。危機対応はタイミングが重要なのだ。

 政治家は、こうしたときに決断するのが役目である。制度はいろいろな法律、政令、規則などで成り立っているが、危機対応のときにそのままズバリ当てはまるものがあるとは限らない。もちろん、いろいろな可能性が想定されていれば問題解決は簡単であるが、そうでもない場合も少なくない。そのときこそ、政治家の出番である。有事にあたって決断を下し、結果次第で、選挙によって責任を判断されるのが彼らの仕事だ。

 そうした観点からみると、安倍政権、とりわけ加藤勝信厚労大臣の決断のなさは痛かった。1月28日に感染症指定政令の施行、2類指定、入国制限を行っていれば、事態は大きく変わっていたに違いない。

 加藤大臣は、安倍首相も次期首相候補として名前を挙げる政治家だ。元大蔵官僚であり筆者もよく知っているが、必要なときに適切な判断ができなかったのは、きわめて残念だ。
東京五輪までに終息するか
 なお先週に続いて、筆者の感染者数予測を掲げておこう。相変わらず、中国の発表している感染者数は過小である。キャッチアップするために統計操作をすると思っていたら、案の定、統計の取り方を変えて数字のかさ上げを行ったが、それでもまだ少ない。

 習近平主席の来日は事務的にはかなり困難であるはずだが、15日に行われた日中外相会談では、「予定通り準備中」として旗を降ろさなかった。

 自民党のある保守系議員は、習近平主席の来日が新型肺炎の終息宣言として政治利用されるのを懸念しているが、筆者もその通りだと思う。感染症への対策は政治的な判断ではなく科学的な判断で行うべきものだし、政治を科学に先行させるべきではない。

 筆者の予測では、WHOも4月までに終息宣言を出すのはまず無理だろう。7月の東京五輪開幕前までに終息宣言できるかどうかも、ギリギリか、やや苦しいと言わざるを得ない。
髙橋 洋一(経済学者)

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