2020年2月7日金曜日

「帰りたくない」と東南アジア各国を不法に「ハシゴ」する中国人─新型コロナウイルスが招く新たなる脅威

Source:https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200202-00000002-courrier-int
2/2(日) 11:00配信、ヤフーニュースより
刻々と感染拡大が伝えられる新型コロナウイルス──世界保健機関(WHO)は「国際緊急事態」に分類した。ここ数年、多くの中国人が海外旅行をするようになっていることで、世界ではその広まりを警戒している。特に影響の大きいのは東南アジア諸国だ。そんな中、ある現象が起きているという。

マレーシアなど東南アジア情勢に詳しいジャーナリストの末永恵氏が現地より伝える。

中国人が年間約3000万人が訪れる東南アジア諸国。リッチになった中国人の人気の渡航先では、春節だけでなく、一年を通し、中国人の旅行者であふれかえる。そんな光景がここ数年、一種の“風物詩”となっていた。

中国は、東南アジア諸国の最大の貿易相手国であり、最大顧客。各国がビザ緩和や撤廃などで“チャイナマネー”の獲得に鎬を削っている真っただ中に、今回の新型コロナウイルスが襲った。

東南アジアにも関連するその感染源について「中国の新型ウイルスは人類崩壊の序章か」(1月25日付)、さらには武漢からの海外渡航者や感染者がタイとともに多く(タイ19人、シンガポール18人。2月1日現在)、米中貿易戦争で疲弊する経済などへの影響が懸念されるシンガポールでの感染地現地取材ルポ「中国経済に依存-新型ウイルスが襲った観光立国・シンガポールの憂鬱」(1月29日付)を通して、同ウイルスの域内への影響や中国人旅行者の動向をお伝えしてきた。
しかし、こうした東南アジアにおける“中華的風景”もコロナウイルスにより、すっかり変貌してしまった。
中国人に人気の高い「奇祭」と「ドリアン」への影響
本来であれば、この時期、ヒンドゥー教の聖地で、マレーシアを代表する観光地「バトゥ・ケイブ(バトゥ洞窟)」には、中国人の観光客が殺到するはずだった。

彼らのお目当ては、毎年1月末から2月初めに開催される奇祭「タイプサン」だ。

舌や頬、背中、肩、胸など体中に串を刺した信者が、カバティと呼ばれる神輿を体に乗せ、練り歩く壮絶なもの。期間中、100万人が訪れる世界一危険なお祭りで、本家インドでも禁止されているいわくつきの奇祭は、中国人に人気が高い。
そして、もう一つ、忘れてならないのが、中国人が愛してやまない果物界の王様「ドリアン」だ。ちょうど、今がシーズン真っ盛り。

中国人観光客が殺到するまでは、バトゥ・ケイブでは、東南アジア独特の気候が産む、手頃な値段のパイナップルやパパイヤなどが売られていた。

しかし、中国人によるドリアン景気にあやかりたい“ヒンドゥー教の神様”が、王様の王様といわれる中国人の大好物の最高種「猫山王(ムサンキング)」を名物として売るようになると、SNSなどで広まり、中国人観光客の間で、“ドリアン聖地”としても瞬く間に有名になった。
しかし、筆者が1月31日に訪れると、聖地は見事にもぬけの殻、人もまばらだった。中国人の観光客が多かったことを改めて、思い知らされた。

ドリアンを売るバングラディッシュ人は「“コロナショック”だ。中国人相手のドリアンも、まったく売れず、あと半年ぐらいは、マレーシア政府が団体客を中国から受け入れないといってるので、大変だ」と嘆く。

「帰りたくない」中国人と「放浪滞在」
店の軒先には、聖なる動物と崇められているサルが、中国人に代わって、ドリアンをじっと見つめ狙っていた。
すると、中国人らしき女性2人が、ドリアンを物色し始めた。「どこからですか?」と聞くと、「上海からです」と答えた。シンガポールなど1ヵ月ほど東南アジアに滞在していて、大好きなマレーシアのランカウイ島から今日、クアラルンプール入りしたばかりだという。

1ヵ月の間に中国は大変なことになっているよ、というと、静かに頷き、「仕事があるのでもうすぐ中国に帰国します」と話し、「でも、本当はウイルスのほとぼりが冷めるまで、中国には帰りたくない。マレーシアなど東南アジア域内を周って、引き続き滞在したい」と続けた。

彼女らがいう“延長滞在”というのは、東南アジアに不法滞在をしている外国人労働者の間で、「NO ビザ」の国を梯子し、各国の法整備の隙間を潜り抜け、域内を「放浪する滞在」のことだ。
東南アジアの優等生とよばれてきたマレーシアやシンガポールなどでは、外国人の労働者が不可欠。特に、ローカルが就きたがらない、工事現場、レストランやホテル、さらにはメイド(家政婦、高齢者の付添人、ベイビーシッターなど)につくのは、インドネシア、バングラディシュ、フィリピン、インド、中国、カンボジア、ネパールなどからの出稼ぎ労働者が多い。

そして、特にマレーシアでは、その多くが違法労働者だ。彼らの人口は、今では最大のマレー系に次ぐもので、中国系の人口を抜いてしまった。“勢力拡大で市民権”を獲得したようなものだ。

実は、彼らは、観光目的で入国し、その猶予期間が切れる前に今度は隣国へ移動。さらに、そこでビザが切れる前に第3国へと移動して違法就労している。
それはまるで環状線のように、マレーシア→タイ→フィリピン→シンガポールといった具合に、このルートを繰り返しながら、法整備をすり抜けていく。

入管制度が厳しいといわれるシンガポールでもフィリピンからこの手法で入国する人も多く、「労働者不足のシンガポールも甘く見ている」(外国メディア)ところもあるらしい。

今回、新型コロナウイルスですでに海外に滞在している中国人の間で、ウイルスが猛威を振るう母国・中国に帰るのを嫌い、東南アジア域内を放浪する、こうした不法滞在を決めこんでいる観光客も多いのだという。

先の上海出身の女性たちも、「お金があれば、マレーシアなど東南アジアに残りたい」という。
犯罪シンジケートも巻き込む可能性
一方、東南アジアでは、昨年末、インターネットで中国の富裕層を狙った「中国版振り込め詐欺」の大規模な違法シンジケートが次々に摘発された。

マレーシアでは、10月末、中国人約700人が、フィリピンでも9月と10月に1000人以上の中国人が詐欺容疑で逮捕され、インドネシアでも11月末に同様の約90人が逮捕された。


中国本土の富裕層を狙った投資や振り込め詐欺を勧誘するもので、逮捕された中国人はいずれも「パスポートも、ビザもなく、不法就労だった」(マレーシア国家警察)という。

マレーシアのコールセンターでは、毎月約700ドルの報酬が違法中国人労働者に支払われ、詐欺の実績に相まった報酬も提供され、2000ドル近くが支給された中国人もいたという。



また、インドネシアの場合、警察官、税関職員を装い、捜査を対象にした銀行口座への振込みを指示する悪質な違法詐欺行為で、大規模な東南アジアを舞台にした中国を拠点にする犯罪シンジケートの実態が明らかになった。



さらに、インドネシアの国家警察は、逮捕された犯人の中国人らは、全員が観光ビザ(1ヵ月間有効で、延長可能)でインドネシアに入国し、滞在期限が切れる前に出国する「放浪滞在」で、東南アジアの第三国に逃げるか、各国の法整備の隙間を巧みに欺いていたことが明らかになった。


東南アジアでは、中国で違法な賭博も大規模に展開されており、犯人の中国人らは、いずれも不法滞在の違法労働者だ。

前述の上海の女性たちは、「お金がないので」と、中国に帰国することを決めたようだが、こうした形で放浪する中国人女性を売春などの犯罪に巻き込むシンジケートも摘発されている。

東南アジアには、「パパイヤビーチ」と呼ばれる、お店の看板はマッサージ店だが、裏は売春宿を経営する違法ビジネスもはびこっている。

新型コロナウイルスが蔓延する祖国・中国に帰国せず、放浪する中国人を狙った同胞によるさまざまな犯罪も懸念される。新型ウイルスの猛威は、東南アジアで「増殖する」中国の大掛かりな犯罪シンジケートも巻き込むやっかいな”新たな病”をも引き起こす危険性も含んでいるようだ。

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