Source:https://news.yahoo.co.jp/byline/konnoharuki/20200123-00159994/
人手不足が深刻な都市部のコンビニやファミリーレストラン、居酒屋などでは、いまや外国人労働者を見かけないほうが珍しくなっている。
先日話題になったセブンイレブンでの賃金未払い問題でも、影響を受けている外国人労働者は少なくないだろう。というのも、単純計算で日本にいる外国人留学生の9.5人に1人は、セブンイレブンで働いているからだ。
実際に、外国人労働者の数が増える中で、彼らに対する人権侵害や労働問題が増えている。私が代表を務める労働NPO・POSSEは今年、外国人労働者からの相談に専門的に対応する窓口「外国人労働サポートセンター」を立ち上げたが、日本全国から何十件もの相談が英語で寄せられている。
ではこういった状況において、私たちはどういったことができるだろうか。ここでは、外国人労働者が安心して働ける社会をつくるために、私たち周囲の人間ができることについて、「5つのポイント」を紹介していく。
「技能実習生」だけではない身近な外国人労働問題
日本では150万人を超える外国人労働者が働いている。日本は今年4月まで、公に単純労働に従事する外国人は受け入れないという姿勢であったが、実際には約30万人の留学生がコンビニやレストランなど単純労働に区分される仕事に就いており、また「技術・人文知識・国際業務」という在留資格に基づき、語学講師や事務職、エンジニアなどとして約20万人弱が働いている。
なお、「技術・人文知識・国際業務」はいわゆる高度人材とは区別される。日本人と同等の報酬という縛りがあるがそれは月給約20万円程度が想定されているため、いわば一般の日本人ホワイトカラー労働者と変わらない仕事に就いている。
よくメディアで報じられるのは、地方の農業や漁業、縫製工場などで「技能実習生」として働く外国人の実態だ。例えば、岐阜の縫製工場で中国人技能実習生が時給400円で土日も休みなく1日約15時間働きながら、有名ブランド「セシルマクビー」のワンピースなどをつくる作業を追ったテレビ東京「ガイアの夜明け」をご覧になった人も多いだろう。技能実習生は「技術を学ぶ」という建前で来日し、3年間転職もできずいわば「奴隷」のように働かせられている。
しかし、外国人労働者の問題は、こういった技能実習生にとどまらない。例えば、POSSEには「技術・人文知識・国際業務」の在留資格で通訳や翻訳に従事するフィリピン人労働者から、自身が働く企業にパスポートや卒業証明書を奪われて、転職ができないという相談が寄せられた。
詳しくは、こちらの記事(「早くパスポートを返してほしい」 実質的「強制労働」が可能になるシステムとは)をご覧いただきたいが、横浜市戸塚区の「アドバンスコンサル行政書士事務所」で働くフィリピン人女性が、在留資格更新手続きのために預けた自身のパスポートと卒業証明書を会社に返してもらえず、その上、数十万円の賃金未払いがあったため「辞めたい」と伝えたものの退職すら認められないという深刻な人権侵害が発生したという事件である。
就労に係る在留資格を持って日本で働く外国人労働者は、就職や転職の際にパスポートや卒業証明書を会社そして入国管理局に提出することが義務付けられている。そのため、このフィリピン人女性のようにそれらをどちらも会社が保管していると、仮にこの会社を逃げ出して次の就職先の面接を受けたとしても、採用されることはない。
代表者の行政書士はこのことを理解しているため、このフィリピン人女性を始めとする従業員からパスポートや卒業証明書などを「預かっている」のだと考えられる。
「パスポートを奪われる」といった被害の他にも、外国人労働者は日本人労働者と同じく、賃金未払いや長時間労働、パワーハラスメント、不当解雇などの問題に苦しんでいる。
例えば、東京都産業労働局によれば、2018年には外国人から2166件の相談が寄せられているという。相談内容としては、「賃金不払い」(全体の15.4%)や「解雇」(13.7%)、そして「退職」(9.7%)の順に多く、他にもパワーハラスメントが含まれる「職場の嫌がらせ」(6.5%)に関する相談が寄せられている。(平成30年東京都の労働相談の状況)
身の回りのコンビニや介護施設など、今や日本のサービス業のいたるところに外国人労働者がおり、違法状態に苦しんでいるケースも稀ではないのである。
被害を目撃したら、本人に代わって情報提供を
では、このようなパスポートを奪われていたり最低賃金以下で働いていたりするなど、職場の問題で困っている可能性のある外国人労働者を目撃した場合、どうすればいいだろうか。
以下では、「私たちができること」について、5つのポイントを整理していこう。
(1)労働法は平等に適用される
まず大前提として、日本の労働法は、人種や国籍さらには在留資格の有無(いわゆるオーバーステイの人も含めて)を問わず、すべての労働者に適用される。そのため、最低賃金以下の仕事やサービス残業といった賃金未払いは、日本人であろうと外国人であろうと(留学生や技能実習生を含めて)労働基準法違反にあたる。労働法において、日本人労働者では違法だが、外国人労働者では合法ということは一切ありえない。このことを認識することは極めて重要だ。
(2)とにかく話を聞いてみる
そして、被害に遭っている可能性があれば、とにかく話かけてみて、話を聞いてみてほしい。仮に相手が日本語を流暢に話せなくとも、いまではスマホの自動通訳機能などを使えば、多少の会話は可能である。それこそ「社長 ひどい」、「賃金 未払い」などと単語レベルで翻訳していけば、ある程度どういう問題かは把握できる可能性が高い。
(3)「やさしい日本語」
そんなとき強力なツールとなるのが「やさしい日本語」である。外国人とのコミュニケーション手段として、なるべく平易なことばをつかい、文法も受け身や過去形など「変化形」を避けてやろ取りする技術だ。今、外国人が増加する中で急速に注目を集めている。相手の母語を話すことができなくとも、「やさしい日本語」を心がければ、かなりの程度のやり取りができるといわれている。
(4)普通に見える場合でも問題を抱えている
ただし、問題を抱えていたとしても、その外国人労働者が常にSOSを発しているとは限らない。明らかに困っている場合に声をかけるというのは一つの方法だが、そうでなかったとしても職場の問題について尋ねてみることをおすすめする。それこそ、大学生であれば同じクラスの留学生にアルバイト先の状況を聞いてみるのがよいだろう。また、普段使っているコンビニで働く外国人に、きちんと賃金を受け取っているかを尋ねてみるのもよい。
さらには、自身が働いている職場で、自分には問題がなくとも、同僚の外国人労働者に彼らの労働条件について確認してみることも重要だ。外国人にだけ手当が支給されていなかったり、不当に賃金が低くされていたりすることは珍しくない。このような形で、まずは実態を把握するところから始めてほしい。
(5)SNSの積極活用
その上で、もしそういった相談に自分自身で解決策をアドバイスできればよいが、それはなかなか難しいだろう。そういった場合には、やはり労働問題の専門家に相談することを外国人労働者に促してほしい。例えば私たちの「外国人労働サポートセンター」であれば、メールで無料相談を受け付けている。もし外国人労働者自身がメールを送ることができなくとも、相談を聞いた方が代わりに情報提供していただければ、より詳しく話を聞いて、調査を行ったり相談呼び込みのためにアウトリーチ活動に取り組んだりすることもできる。
また、自分自身が労働問題に詳しくなくとも、通訳ボランティアという形で外国人労働者と専門家の間に入り、問題解決に関わることもできる。いまではフェイスブックなどSNSで相談が寄せられることもあるためメッセンジャーでのやり取りを翻訳する取り組みや、当事者と支援者、そして通訳の三者で電話会議を行って実態を把握するということができるようになっている。
相談先の不足と「個人の取り組み」の重要性
一方で、外国人労働者への対策を、行政も行っている。だが、日本の相談窓口にたどり着くまでには大きなハードルがある。
そもそも、相談窓口自体に限りがある。まず東京都の場合、日本語であれば6つの窓口(飯田橋、池袋、亀戸、大崎、国分寺、八王子)で対応可能だが、英語ではその内の三箇所(飯田橋、大崎、国分寺)、中国語では一箇所(飯田橋)のみで相談可能であり、かつ、日時も平日の午後2時から4時までと限られている。
日本語を話すことができれば夜間でも相談可能だが、そうでない場合は、相談のためにわざわざ休みを取らなければいけない。また、英語や中国語以外のベトナム語やネパール語、インドネシア語などでの常設相談窓口は東京都にはないため、これらの言語を母語とする労働者の相談先は、さらに限られてしまっている(スペイン語、ポルトガル語、韓国語、タイ語、ベトナム語の通訳を派遣する制度はあるが、事前予約が必要)。
外国人の受け入れがますます拡大していく中で、今後、外国人労働者の権利を守るという草の根レベルの取り組みが非常に重要となる。私たちにできることから始めていきたい。
メール:supportcenter@npoposse.jp
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