Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/9aad690448aa6e66095619a2cdb05cb1eafeb81d
顧客満足度ナンバーワン~1泊5000円以下の宿
大宮駅前の宿泊施設カンデオホテルズ大宮。エントランスを入っていくと人影はなく静かだ。フロントは13階。そこはチェックインを待つ人たちでごった返していた。カンデオホテルズの料金は一室2名で一泊9690円~(平日)。一人5000円以下で泊まれる。「日経ビジネス」の「顧客満足度ランキング」で2回にわたり日本一に選ばれた。コロナで客室の全国平均の稼働率が4割台まで落ち込む中、カンデオは驚異のおよそ8割となっている(2022年3月)。 料金はリーズナブルだが、客室は広めの設計。開放感を生む大きな窓の前には「小上がり」と呼ばれるソファが置かれている。ベッドは高級ホテル御用達のブランド「シモンズ」を採用している。 一番のウリは最上階の大浴場。露天風呂になっているところもあり、日本旅館のような気分が味わえる。女湯には体に優しい低温のミストサウナ、男湯にはしっかり汗をかけるドライサウナを完備。「サウナシュラン2020」で特別賞を獲得した。 眺めのいい場所で食べられる別料金(1430円~)の朝食も自慢。評判のパンは自家製で一番人気はクロワッサン。豆乳から作るこだわりの豆腐など、手作りの料理ばかりだ。期間限定の「炊き込みあなごめし」など、手の込んだ料理70種類をビュッフェスタイルで味わえる。宿泊客のおよそ5割が朝食を利用している。 程よい高級感をリーズナブルに提供するカンデオホテルズは全国に拡大中。現在、23施設を展開している。
カンデオ・ホスピタリティ・マネジメント社長・穂積輝明(49)がカンデオをスタートさせたのは2005年。きっかけは日頃から感じていた日本のホテルへの不満だった。 「日本にはただ寝るだけのビジネスホテルと、高いけど使いにくい高級ホテルしかなく、間がなかった。カンデオは唯一無二の四つ星ホテルと言っているのですが、そういう事業を立ち上げたい」と。 ホテル業界では、料金の安いビジネスホテルは三つ星。料金の高いラグジュアリーホテルは五つ星と言っている。その間のちょうどいいホテルがないと感じた穂積は、「唯一無二の四つ星ホテル」と謳い、カンデオを作ったのだ。 「ビジネスで初めて平日にカンデオに泊まりにきたお客様が、週末に家族を連れてくる。お父さんがちょっと誇らしげに家族を連れてくるホテルがいい」(穂積) そんなホテルは想定していなかった客の心も捉えた。この日、カンデオホテルズ東京六本木に現れたのは都内で働く女性二人組。カンデオにハマった女性が、この日が初めてという同僚を連れてやってきた。泊まりのホテル女子会だ。 窓の外には東京タワーが目の前。ホテル内で夜の飲み物とツマミを買い出しに。こだわりの品ぞろえに迷いながらもスパークリングワインやクラフトビールに手が伸び、二人で合計7000円分を買い上げた。乾杯の前には最上階の東京のど真ん中で夜景を楽しむ展望風呂へ。湯上りは備え付けのパジャマでウロウロするのもOKだ。こうした女性客がインスタで次々に写真をアップしている。
進化することをルールに~京町屋を使った最新モデル
お値打ち価格で提供する快適な客室の陰には、穂積の時間をかけた研究があった。 これまで穂積は世界2500軒以上のホテルを訪問。そこで快適と感じた部屋の広さや気持ちのいいデザインなどをチェックし、それをカンデオに生かしてきた。 客室の設計では窓を可能な限り大きくし、ソファやベッドなどの家具は低めに。柱部分に鏡を貼り、外の景色を写り込ませる手法も。こうした工夫で実際の広さ以上の開放感をプラスしている。 コロナ禍で廃業するホテルが多い中、カンデオはこの2年で3施設を増やしている。新規の店舗を開業するにあたり、穂積には欠かさず続けていることがある。 「必ず前の店舗よりも進化させるというルールなので、どんどん進化しています」(穂積) ファンを飽きさせないように、必ずどこかはバージョンアップさせると決めているのだ。 例えば、客室は少しずつだが大きくした。また朝食会場は、最初は1階だったが、その後、最上階に移し、現在はテラス席も。建てるたびに進化しているのだ。 その最新版は2021年6月にオープンした、京都の大通りから一本入った道沿いにあるカンデオホテルズ京都烏丸六角。中をのぞくと文化財のような日本らしい空間が広がる。築130年の京町家をホテルの一部として活用しているのだ。 「京都はホテル激戦区で、築浅の質の高いホテルがたくさんある。その中で差別化するということを徹底的に考えました」(穂積) 京町家部分は自由にくつろげるラウンジとして客に解放。その奥が宿泊棟になる。料金は一人一泊3600円~(平日2名利用の場合)というプランまで作った。
こだわりの朝食はビュッフェスタイルではなく、京都らしい小鉢料理が詰まった2段重ねの「京のおばんざい朝御膳」。鰆の西京焼きなど旬の食材を使った14品のおばんざいが目とお腹を満たしてくれる。メニューは日替わりで3種類あるから連泊しても楽しめる。 朝食は大好評だが、ランチやディナーは出していない。そこには穂積の信念があった。 「ホテルは域外からお客様を集める集客が役割。集客したら地域につないでレストランでお金を落としていただくことが、我々ができる地域貢献だという考え方です」(穂積) だからホテル周囲のおいしい店は厳選の上、客に紹介している。「とりくら」もお勧めの一軒。全国から取り寄せた地鶏の石焼きは、遠赤外線効果があり、旨味の強い鶏肉がふっくら焼きあがると言う。こうした店をカンデオは宿泊客に教えているのだ。 「店としても普通にうれしいですよ」(「とりくら」伊藤雅喜店長)
元リクルートの江副氏に感化~社内ベンチャーでホテル開業
熊本空港の近くにあるカンデオの一号店、カンデオホテルズ大津熊本空港。市の中心部からは、およそ20キロ離れているが全国から客が押し寄せてくる人気施設だ。 この周辺には電子機器の工場が集中。出張してくる人たちがカンデオを重宝している。仕事で忙しい日々を過ごした後は、屋上の大浴場が束の間の癒しになっている。 建設を決めた時、周囲にまだ工場はなかった。穂積は情報を集め、将来性を見込んでこの地を選んだのだ。1号店だけでなく新規にホテルを作る時は徹底的に情報収集。それも自分の足で回るのが穂積流だ。 「現場に行って同じ場所で30分ぐらい人の流れを見たりします。『新幹線の改札口から人はどっちに流れるか』とか、『何時に何の目的で人が出てくるか』とか。変なおっちゃんですよね」(穂積)
1972年、京都府生まれの穂積。父親は広告代理店のデザイナーで、その影響により小さな頃から建築に興味を抱く。 「父の書斎に建築関係の本がたくさんあり、小学生ぐらいの時に、美しい建物を作ることに興味を持ちました」(穂積) 京都大学で建築を専攻し、大学院を卒業すると不動産開発企業「スペースデザイン」に就職。経営者はリクルート創業者の江副浩正氏だった。入社式の日、新入社員たちに江副氏はこう述べたという。 「『我が社を3年以内に辞められない人は三流です』とおっしゃったんです。『3年で独立できるような力をつけなさい』という意味です。それだったら頑張ろうと。スイッチが入ったように働きました」(穂積) 江副氏によって植えつけられた起業家精神。就職して4年後には将来の独立のため、資金調達の経験を求めて不動産ファンドに転職。そこで社内起業のチャンスがあり、ホテルの運営を提案した。 考えたビジネスモデルは、まず集客できるホテルを企画。次に賛同するオーナーを募り、建設費を投資してもらう。後はカンデオが運営しながら家賃を払うというものだった。 「マーケットを調べた2004年、2005年は、日本中のビジネスホテルが満室だった。これは面白い、いけると感じました」(穂積) ただしビジネスホテルとしては後発。穂積は差別化するアイデアを求め全国のホテルを回った。するとあるビジネスホテルの前で、部下がビジネスホテルへ、上司は高級ホテルへと別れる姿を目撃する。その会話を聞いて「ビジネスホテルと高級ホテルの間があれば両方の客が来てくれる」とひらめいた。 2007年に1号店を開業すると、その後、立て続けに8店舗をオープン。ちょうどいい四つ星ホテルのアイデアはリピーターを生み、2012年、顧客満足度ランキングで日本一に。これが成長の足がかりになりカンデオホテルズは拡大していった。
コロナ危機でも雇用を守る~カンデオ流人材育成術
だが、急成長を続けたカンデオをコロナショックが襲う。全体の売り上げは10分の1以下にまで激減。月々の返済に毎月6億円を持ち出す事態となった。 「当時、現金60億円を蓄えていたのですが、10カ月しかもたないというところまで追い込まれました」(穂積) コロナショックはホテル業界を直撃。倒産、廃業が相次ぎ、人員削減を行う企業も続出した。カンデオも非常事態となったが、その時、穂積は全従業員に向けてこんなメールを送った。「アルバイト、契約社員、正社員の全従業員のただ一人も解雇せず、この危機を乗り越えていきます」。何の見通しも立たない中で「雇用は守る」と宣言したのだ。 穂積の宣言で360人の従業員は結束。危機を乗り越えるためのアイデアを出し合うようになる。連泊の割引プランや若者向けの格安プランなど、200件を超えるプランが生まれた。これがリモートワーカーや医療従事者などの利用につながり、カンデオは危機を脱出した。
三重・亀山市の郊外に立つカンデオホテルズ亀山。フロントに入ったのは入社8年目の江湖瞳(40)だ。「最終学歴は専門学校、アルバイトで入社です」と言うが、現在は取締役だ。 その働きぶりを見てみると、フロントに入るだけでなく、清掃後の客室のチェックなど、店舗スタッフの負担を減らすべく、ずっと動き回っている。その一方で、取締役として全国23店舗の統括や人事も行っている。 「朝食も作れます。ずっと『いろいろな人の役に立ちたい』と思いながらやっていたら、ここにいたという感じです」(江湖) カンデオは採用に関して、年齢、性別、学歴、国籍、一切不問と宣言している。入社後もチャンスは誰にでもあり、頑張れば取締役にだってなれるのだ。 カンデオホテルズ大宮のフロントで、流暢な日本語で接客にあたるのは、入社8年目のネパールから来たアルパナ・マハルジャン(34)。彼女は上野と大宮、2店舗の責任者となった。 「海外から来ていくらやる気があっても、チャンスを与えてくれる会社がないとなかなか成長できない。チャンスをいただいて、『絶対に結果を出したい』という気持ちが強くなりました」(マハルジャン) 公平な雇用と人事制度のもと、従業員の3割に当たる外国人がチャンスを生かそうと働いている。 ※価格は放送時の金額です。
~村上龍の編集後記~ その昔、ホテル建設には莫大な資金が必要で、それを取り返すのに数十年かかる、だから大手企業しか参入できないと言われた。今、そんなことを言う人はバカしかいない。宴会場が基準だ。宴会場は泊まる人のためのものではない。綿密な情報集めと、スタッフのモチベーションが必要だ。ホテルにはちょうどいい広さというものがある。200平米の部屋は落ち着かない。カンデオの快適さは何百、いや何千というホテルが参考になっている。その粋を集めているのだ。 <出演者略歴> 穂積輝明(ほずみ・てるあき)1972年、京都府生まれ。京都大学大学院工学研究科修了後、1999年、スペースデザイン入社。2003年、クリード入社。2005年、カンデオ・ホスピタリティ・マネジメントを創業し、代表取締役社長に就任。 ※「カンブリア宮殿」より
テレ東プラス
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