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現在、日本では約170万人の外国人が働いている*1 。街なかの店舗、建築現場、工場、企業のオフィス……外国人の就労がダイバーシティ社会をかたちづくり、企業経営者や管理職には、その適切なマネジメントが必要とされている。多人数の外国人の雇用で躍進している老舗企業が山形県の山形市内にある――スズキハイテック株式会社。「新・ダイバーシティ経営企業100選」(令和2年度・経済産業省)にも選ばれた同社は、どのように外国人の従業員に向き合っているのか。「HRオンライン」が現地を取材し、代表取締役の鈴木一徳さん(5代目社長)に話を聞いた。(ダイヤモンド社 人材開発編集部、撮影/HRオンライン) *1 厚生労働省 「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和3年10月末現在)より 【この記事の画像を見る】 ● ボリビアと中国出身の元留学生から雇用をスタート 2022年に創業108年目となるスズキハイテック株式会社*2 (以下、スズキハイテック)――山形市内で、表面処理技術のめっき加工を事業ドメインにしている同社の外国人雇用は、海外進出をきっかけに始めたものだという。 *2 スズキハイテック株式会社 所在地:山形県山形市銅町2-2-30、業種:表面処理業、創業:1914年(大正3年)、代表者:鈴木一徳(代表取締役) 鈴木 海外での事業展開として、当社は、2012年に中国の企業と技術提携し、2014年にメキシコに工場を造りました。ご存じのとおり、メキシコはスペイン語圏ですが、当時は、日系企業がさかんに進出していたこともあって、通訳者不足で、スペイン語を話せる日本人を探すことが困難でした。そして、考えあぐねた結果、「スペイン語圏の人で日本語を話せる外国人がよいのでは?」と――つまり、「スペイン語を話せる日本人ではなく、日本語を話せるスペイン語圏の人を探そう」と。ちょうど、山形大学の工学部に在籍するボリビア出身の留学生が県内の私の知り合いの会社でインターンシップをしていました。そこで、社長さんからその方をご紹介いただき、大学の就職担当者と一緒にお会いして、「将来、あなたをメキシコに派遣したいので採用したい」と伝えました。もともと、ご本人もボリビアにいたときは化学のエンジニアだったので、当社の事業内容にマッチしており、2015年の10月に入社いただきました。また、ちょうどその頃、山形県内の外国人留学生を対象にした企業説明会があって、当社も参加してみたところ、「私は山形大学で学んでいますが、採用してもらえませんか?」という、中国人の留学生に出会いました。 そうした経緯で、2015年に、ボリビアと中国出身の留学生が入社し、当社の外国人雇用*3 がスタートしたのです。 *3 スズキハイテックの外国人従業員(元留学生)の在留資格は「技人国(技術・人文知識・国際業務)」(2022年4月現在)。 創業以来、顧客からの受注をもとに生産を行っていたスズキハイテックだったが、外的環境の変化で業績が頭打ちとなった。そのため、外国人人材を迎え入れることで新たな風を起こし、受託一辺倒だったビジネスモデルの転換を諮る必要があったと、鈴木さんは述懐する。 鈴木 2006年に25億円あった売り上げが、リーマンショックや東日本大震災の影響もあって、私が社長に就任した2015年の創業101年目には経営数字が大幅にダウンしていました。それまでの受注型から開発主導型に転換しなければ、会社が回復する活路はなく、事業の転換には従業員たちのマインドチェンジが必須でした。受注に頼るのではなく、商品を開発し、自ら営業に行くこと――そのマインドチェンジとアクションのきっかけになったのが外国人の雇用だったのです。事業規模を縮小する選択肢もありましたが、スズキハイテックの次の100年を考えたときに、外国人の方たちと仕事をすることで当社の気風を変えたかった。仲間に加わった中国とボリビア出身の二人は至ってポジティブなマインドで、先輩従業員である日本人と開発案件を推進していったのです。 鈴木一徳 kazunori SUZUKI スズキハイテック株式会社 代表取締役 1975年、山形県山形市出身。東京理科大学工学部工業化学科卒。神奈川県横浜市にある、めっき業の別会社勤務を経て、1997年4月にスズキハイテック株式会社に入社。その後、一度退社し、大手企業でマネジメントなどを学び、2000年7月に再び同社に入社した。取締役技術部長、常務、副社長を務め、2015年8月に代表取締役(5代目社長)に就任した。 二人の留学生が入社した2015年以降、スズキハイテックの外国人登用はとんとん拍子に進んでいったのだろうか? 鈴木 まずは、最初の外国人従業員である二人を一人前に育てることに注力しました。外国人の採用と育成は当社にとって初めてのことだったので、二人が独り立ちしたら、次の外国人を採用しようと考えました。そうして、2年半後の2018年4月に、新たに3名の外国人が入社しました。ネパールの方2名とインドネシアの方1名。そして、当初の予定どおり、一期生となったボリビア人の従業員をメキシコに派遣し、中国人の従業員は本社に在籍したまま、中国向けビジネスの窓口になりました。二人とも立派に独り立ちしたわけです。新たな外国人3名が当社に加わり、商品をさらに開発していくことで、ポジティブなマインドが日本人従業員の間にも拡がっていきました。チャレンジする、成功する、商品化する、営業する、売り上げが伸びるというサイクルが回り出すと、「あっ、そういうことか……」と、みんなの理解が生まれ、会社全体の雰囲気が変化していったのです。
● 元留学生の外国人従業員は、全員が正社員に 日本に在住する外国人は、出入国管理及び難民認定法(入管法)で定められた「在留資格」の範囲で、国内での就労が認められている*4 。昨今、メディアでの報道が目立つ技能実習*5 の外国人も、スズキハイテックに在籍しているという。 *4 国内で就労可能な外国人は、「就労目的で在留が認められている者」「身分に基づき在留する者」「技能実習」「特定活動」「資格外活動」などにカテゴライズされる。 *5 2010年(平成22年)7月1日施行の改正入管法によって、技能実習生は入国1年目から「技能実習」の在留資格が付与されることとなった。日本で就労する約170万人の外国人のうち、「技能実習」の在留資格で就労する外国人は約40万人。 鈴木 インドネシアやバングラデシュ出身の留学生を正社員として採用し、彼らと話をしていたら、「自分たちの国の人たちをもっと日本に来させたい、その架け橋になりたい」と。そこで、「留学はお金もかかるし、なかなか難しいから、技能実習生として来日してもらい、当社が迎え入れたらどうだろう?」と、私は考えました。早速、インドネシア出身の従業員と一緒にジャカルタに飛び、技能実習の候補者を面接しました。その次に、バングラデシュ出身の従業員とダッカに行き、同じように面接したうえで、技能実習生として当社に来ていただくことにしました。 結果、元留学生の従業員が当社の外国人の方たちをコントロールする体制が出来上がっていき、現在は、元留学生だけではない外国人の従業員が当社のポジティブな社風を作っています。 元留学生たちは全員が正社員で、出身国は、中国・ボリビア・インドネシア・ネパール・バングラデシュ・フィリピンの6カ国です。技能実習生は、コロナ禍でなかなか来られない状況ですが、いま現在、インドネシアから4名、バングラデシュから6名の計10名が当社に在籍しています。元留学生たちは、自国の大学を卒業していたり、自国で就職してから日本に留学していたりするので、20代半ばから後半の方が多く、技能実習生たちよりも年上です。 いまでこそ、スズキハイテックでは外国人従業員が違和感なく活躍しているようだが、2015年に、ボリビアと中国出身の外国人が社内に現れたときに、日本人の従業員たちはすんなり受け入れることができたのだろうか? 鈴木さんが当時を振り返る。 鈴木 新入社員となる外国人二人に対して、入社前に私がじっくり話をしました。「日本人はあなたたちのことをすごく気にします。見えない壁を作ることもあります。それを、あなたたち自身で突破していかないと、組織に融け込めません」と。「まずは、挨拶や礼儀、自分からコミュニケーションをとることを徹底しましょう」と伝えました。また、「日本人はシャイな人も多いから、挨拶や声かけに反応しない人もいるだろうけど、決して無視しているわけではありません」と。 日本人の従業員は、彼らが積極的に話しかけてくるので最初はびっくりしたようですが、「中国ってどんなところなの?」「ボリビアはどう?」といった雑談をきっかけにコミュニケーションが膨らんでいきました。元留学生なので、日本語が上手なこともプラスでした。やがて、ボリビア人の従業員は同僚の日本人女性と結婚し、メキシコへの赴任の際には、その女性従業員が扶養家族として当社を退職しました。夫婦で渡航したのです。総務課からすれば、「あれっ?退職者が出てしまった……」という結果ですが、「(メキシコに)奥さんを連れていきなさい」と、私が背中を押しました。外国人の就労観において、「単身赴任」は理解しづらいものですから。やがて、二人が日本に帰ってきて、奥さんも当社に戻るかもしれません。そのときは彼女もスペイン語が堪能になっているだろうし、それをもとに新たなビジネス展開もあり得るでしょう。
● 外国人へのアンコンシャスバイアスがない理由 新規事業であるMEMS(微小な電気機械システム)の設備をはじめ、スズキハイテックの社内フロアには精密機器が立ち並び、開発チームのメンバーである日本人と外国人従業員が一体となって働いている。相応の技術と知見がなければ、外国人がチームに加わることは難しいようにも思えるが……。 鈴木 外国人の従業員は、入社時においては、めっき加工の知識や技術はゼロです。入社後に実際の仕事を通じて習得し、先輩たちとともに商品開発に携わっていくのです。日本人のベテラン従業員の気持ちが、外国人従業員の新鮮なモチベーションに融合し、「やれるぞ!やれるぞ!」という姿勢でチームが一丸になっていく。たとえば、インドネシア出身のペトルスさんは大学で博士課程を出て、ロジカルな考えで物事にアプローチできる力を持っていますが、めっき加工の技術については日本人の従業員が一から教えました。 もちろん、当社の外国人は男性だけではありません。技術者として働く女性や産休・育休中の方もいます。 「外国人は時間にルーズ」「外国人は日本語が不自由」――外国人の就労で切り離せないのが、一緒に働く日本人の“アンコンシャスバイアス”だ。「外国人って○○だよね」といった偏見が仕事の壁を作り、コミュニケーションの距離を生んでいく。しかし、「HRオンライン」が見学取材したスズキハイテックの職場は日本人と外国人従業員の笑顔にあふれ、両者間のぎこちなさが微塵もないものだった。 鈴木 まず、私自身が輪の中にどんどん入っていき、外国人の方と積極的にコミュニケーションをとっています。その姿を、社内のみんなが見ているのでしょう。出身国にかかわらず、普通のコミュニケーションが普通のものとして受け入れられればいいですね。現在、当社は、138名の従業員のうち、外国人従業員が37名なので、外国人の存在が当たり前です。「外国人」は言葉上では存在しているものの、たぶん、日本人従業員の頭の中での意識は薄いでしょう。属性を気にせず、みんながそれぞれの個性にしっかり向き合っています。技能実習生たちの日本語はカタコトですが、先輩の外国人従業員に倣って、日本人に話しかけることをまったく恐れず、嫌がりません。組織に融け込もうとしている彼ら彼女たちの姿には感服します。 「外国人に対しては言語を気にしなければいけない」と考える人も多いでしょうが、日本人のみんなは、正社員の外国人にも技能実習生にも、日本語で遠慮なく話しかけます。相手がカタコトだろうと気にしない。外国人の方たちは日本語ばかりを耳にするので、日本語が自ずと上達していく。ただし、雑談レベルではない「仕事における日本語」をきちんと理解しているかどうかのチェックは欠かせません。曖昧なやりとりによる間違いや誤解は避けなければいけませんから。 振り返ってみれば、最初に留学生の二人が入社し、彼らが積極的にいろんなことを経験したうえで後輩たちが入ってきました。いまは、そこに技能実習生も加わっているかたちで、人材登用を計画的に行っていることが功を奏していると思います。外国人従業員が一気に増えず、徐々に増えていったことが良かったのかもしれません。
● 入社予定の外国人たちの、出身国に住む親に対し… 多くの外国人の就労観や慣習、生活スタイルは日本人とは異なるものだ。留学経験を経て、日本に馴染んでいるとはいえ、外国人が職場で働き始めてから「こんなはずじゃなかった……」と思い悩むこともあるのではないか。 鈴木 入社志望のある外国人の方には、面接や工場見学の段階で私が十分に話をします。たとえば、ムスリムの方には、当社の勤務中ではお祈りの時間をご遠慮いただいていること、ラマダンができないことなどをお話しします。「職場は安全第一で、万が一、あなたがラマダンで無理をして仕事中に倒れたりしたら大変なことになりますから」と説明し、ご理解いただきます。そして、当社の決まり事を知ったうえで入社の意思が変わらなければ、スズキハイテックのメンバーに加わっていただくことになります。ただ単に「ダメ!」ではなく、ダメな理由を伝えることが大切ですね。 当然、それぞれの食文化は尊重しています。無理やりに「食べてください!」とは言いません。現在はコロナ禍で実施できませんが、忘年会だったり、歓迎会だったり……会社にはみんなが集まって飲食する機会があります。そのときに当社が提供する食べ物には出来る限りの配慮をします。 外国人が入社し、日本人と一緒に働くにあたり、鈴木さんは、外国人の誤解や日本人の偏見を最善の手を尽くして減らしている。そして、その目線は、従業員となる当人だけではなく、それぞれの出身国に住む親たちにも向けられている。 鈴木 コロナ禍前の話ですが、バングラデシュにもインドネシアにも中国にも行きました。時間的な都合からボリビアだけは行けなかったですね。いずれはご挨拶に行こうと思っていますが……。留学生は山形にある当社を知り、自らの意思で職場を選び、私たちと一緒に働くことを決意したわけですが、お父さんお母さんは、自分の息子や娘が日本にせっかく留学したのなら、就職先は世界的に名の通った企業であることを望んでいます。「山形のスズキハイテックって何の会社? めっきって何?」と、心配なさるでしょう。情報をなかなか得られないし、この場所を見に来ることもなかなかできません。ですから、可能な限り、私のほうで各国に伺い、直接にお話をしよう、と。それで、ご両親が納得するかどうかは分かりませんが、ほんの少しでも理解してほしい。「努力ゼロ」よりは何かをしたほうがよいはずで、親心を察しながら、「どうか安心してほしい」という思いで渡航しました。 一般的に、日本の企業・団体において、就労期間があらかじめ定められた技能実習生はもちろんのこと、さまざまな在留資格で働く外国人人材の雇用は、「終身雇用」「年功序列」といった日本型の雇用スタイルには馴染まないようにも思える。外国人人材との出会いと別れ――鈴木さんは、「従業員の離職はしかたがないこと」とも語る。 鈴木 日本人の従業員同様、外国人の方に、当社で少しでも長い期間働いていただきたいという気持ちが私にはあります。せっかく出会ったわけですから。でも、「ずっと、いてくれ!」ではなく、「いてくれたらいいな」くらいの気持ちです。親の介護のためなど、故郷の国に帰らなければいけないときが外国人従業員にはあります。よく、「(外国人が)辞めたらどうするんですか?ずっと辞めないんですか?」と聞かれますが、日本人だって辞めるときは辞めるわけだし、「人は何のために仕事をしているか?」と言えば、私は、きれいごとではなく、自分の幸せのためだと思っています。すべては一人ひとりの幸せのため。だから、辞めることがその人にとって幸せなら、それでいいんじゃないですか?一期生の中国の方は、結婚を機に日本を離れる決意で退職し、私たちは「中国で働くあなたと何かのビジネスを一緒にできたらいいね」という気持ちで別れました。技能実習生たちともよくそんな話をしています。「バングラデシュに戻って、仕事でつながれそうなときはいつでも連絡して。手伝えることは何でもするよ」と。
● “お互い”の理解と“お互い”の尊重と共有が大切 外国人を採用する際に重要なことは「理解と尊重と共有」だと、鈴木さんは言う*6 。その確かな実践がスズキハイテックの現在をかたち作っているようだ。 *6 経済産業省の令和2年度「新・ダイバーシティ経営企業100選」ベストプラクティス集より 鈴木 “お互い”の理解と“お互い”の尊重――つまり、お互いの立場をお互いに分かり合うことが大切です。外国人と日本人がそれぞれ持つ宗教観や風土、文化といったものをお互いに尊重しなければいけません。そして、「手を取り合って、できることを一緒にやりましょう」というのが当社の姿勢です。理解し、尊重し、共有することをサイクルとして回していきたい。もちろん、「理解と尊重と共有」は、日本人同士でも当たり前のことです。 ダイバーシティ&インクルージョンは、さまざまな人材が集まりやすく、人事制度の運用が組織立って行われる大企業で実現しやすいとも言われる。“従業員数300人以下の製造業”であるスズキハイテックはそうした大企業ではなく、「中小企業*7 」として括られるが、中小企業ゆえの「気づき」はあるのだろうか? *7 中小企業庁「中小企業・小規模企業者の定義」ページ参照 鈴木 外国人を採用して良かったと思うことはたくさんあります。当社には、入社後の教育や規定について、何となく曖昧な部分がありました。日本人の従業員だけなら、それでやっていけたでしょう。でも、外国人の従業員に、“グレー”は通用しません。当社の足りなかった部分が分かり、それを日本人の採用や教育にも落とし込めるようになりました。「いままではダメだったなぁ」と、中小企業ゆえの甘さに気づいたのです。 たとえば、メンバーシップ型の雇用では、教育プランを綿密に考えたうえで適性を見ていく必要があること。産休・育休については、当社では、ネパール人の従業員が妊娠して、「あっ、これは男性の従業員も育休をとらせないとダメだ」と理解しました。外国人女性は日本に親族がいないことも多く、産前も産後も夫の力がかなり必要です。日本人だって、近親者が子育てのフォローをしてくれるかどうかは分からないわけだから、パートナーである男性に育休を取らせる必要があります。また、人手不足の中小企業では有給休暇の取得率が低くなりがちですが、特に外国人にはしっかり休めることを伝えていく必要があります。同時に、日本人の従業員に対しても計画的に有休をとっていただく仕組みや社風が必要だと思いました。
● 背中で示すのではなく、繰り返し伝えていくこと 外国人の雇用における「理解と尊重と共有」、それをベースに実現しているダイバーシティ&インクルージョン――鈴木さんは、「外国人従業員たちの仕事に対するモチベーションの高さがスズキハイテックを好転させている」と解説する。 鈴木 あくまでも、私のイメージですが……当社で働く外国人の方たちは、「やりがい」を強く求めています。責任感があり、「一緒に働く仲間たちに認められたい」という欲求は、日本人の従業員よりも強い気がします。世間には、責任を与え過ぎることによって仕事が嫌になってしまう人もいますよね。しかし、日本の大学で留学経験があり、仕事の「やりがい」を求める外国人の方はそうではありません。何かを学びとりたい、責任を与えられたい、認められたいという思いが根底にあるのです。誰もが驚くくらい熱心に仕事をしますから、日本人の従業員たちはそんな彼ら彼女たちを見て素直に感動します。「すごい……自分たちも頑張らなきゃ」と。近年、当社の売り上げが伸びているのは、開発主導型になったからだけではなく、会社全体の空気がポジティブになったからでしょう。外国人従業員の存在で、みんなのマインドが変わりました。ある日本人従業員は、かつては心がすぐに折れてしまう感じだったのですが、いまは違います。リーダーの役割で外国人たちと一緒に働き、リーダーシップを発揮しています。仕事に取り組む気持ちがとても前向きになったのです。 スズキハイテックは、採用ホームページに、求職者の応募条件を「スズキハイテックに興味のある人」「スタメンで活躍したい人」と明記している。誰もが仕事のスターティングメンバーに成り得て、チームの中で活躍できるチャンスがあるのだ。そして、チャンスを好結果に変えるために大切なのが「利他の心」だと、鈴木さんは言葉を続ける。 鈴木 今年も新入社員たちに「利他の心」の大切さをもう何十回もメッセージしています。相手を思いやる心、配慮する行動は仕事をするうえでいちばん重要ですから。まずは、礼儀を身につけること。挨拶も「利他の心」に通じるので、社内で徹底しています。「利他の心」とは、「お互いを助け合う気持ち」です。日本人だけではなく、もちろん、外国人の従業員にも事あるごとに伝えています。「あなたが仕事で成功したければ、まずは人を助けなさい」と。「人を助ければ、あなたも必ず助けてもらえます」と。仕事を早く覚えたければ、挨拶をきちんとして、相手に一生懸命に話しかけること。そうすれば、相手はあなたを思って助けてくれるから――そんなことを、繰り返し言っています。 挨拶はできない人が悪いのではなく、その価値を教えないことが悪い。「外国人は礼儀がなっていない」と嘆く人もいますが、しっかり教えることが大切ですね。背中で示すのではなく、言って聞かせる。「日本人が当たり前に思っていることでも、外国人には当たり前ではないことがたくさんあるから、彼ら彼女たちがうまくできなければ、自分たちが悪いと思いなさい」と、私は日本人のみんなに話しています。たとえば、挨拶の重要性を外国人の新入社員に告げると、最初はニヤニヤしながら聞いていても、繰り返し言っているうちに本気度が伝わり、やがて、実践するようになります。
● 多様な人材とともに、山形から世界に向けて… 「利他の心」は、「従業員の離職」についての鈴木さんの考え方にも表れている。ともすれば、人手不足を恐れる中小企業は、「利社の心」で従業員を束縛する傾向もあるが、スズキハイテックはそうではない。 鈴木 従業員の離職を恐れるがゆえの会社側の姿勢は、かえって離職を招くのではないかと私は思っています。辞めてもいいじゃないですか。さっきも言いましたように、みんながそれぞれ幸せになればいい。A社を辞めても、B社で幸せになったら、それでいいですよね。私の場合は、「スズキハイテックに在籍していたことだけは忘れないでほしい」という考えです。会社側が離職を恐れ、過剰に何かをする必要はないと思っています。 一方、当社は中小企業なので、代表者である私が発信し続けることも重要です。小さな会社では、トップがきちんと社内外にメッセージする必要があるでしょう。メディアなどを通じて、社内のみんなが私の思いや考えを知ることで、自社への理解も深まりますし、社外の人たちも当社に関心を持ってくれます。 そしてもうひとつ、スズキハイテックを語るうえで見逃せないのが、「地方」という所在地だ。かつては「鈴木メッキ工場」という看板を掲げ、いまもなお、山形という土地に根ざしている“創業100年企業”であるスズキハイテック――その、地域との長く深い関わりを聞いた。 鈴木 地元での当社のイメージは、「町の中にずーっとあるめっき屋さん」だと思います。大正3年に、山形市内のこことは違う場所で創業したのですが、昭和19年に曾祖母が現在の地に移転しました。その曾祖母が2代目です。この辺りは住宅が多くなりましたが、昔は鋳物の町で、当社も地域産業の会社のひとつでした。現在の従業員には、近所で生まれ育った方もいます。 日本で働く外国人にとって、住環境はとても大切で、地方のこの町は物価も含めて暮らしやすいはず。地域住民の方々も、外国人である彼ら彼女たちを温かく迎え入れています。コロナ禍で、公民館などにみんなが集まる機会は減っていますが、コロナ前は、敬老の日には、外国人の方たちがご老人に母国の料理をふるまったりしました。企業が地域に貢献しながら、そこで働く人たちもその土地に馴染むことが大切で、お祭りでは外国人も日本人も一緒に神輿を担ぎます。そうした経験が、外国人の暮らしやすさにもつながっていくのでしょう。 「新・ダイバーシティ経営企業100選」(2020年)のほか、中小企業庁「はばたく中小企業・小規模事業者300社(海外展開部門)」(2016年)、経済産業省「地域未来牽引企業」(2018年)にも選ばれているスズキハイテック――“地方の中小企業”として、日本人と外国人従業員のチームワークで躍進し続けているが、これから先、創業150年200年に向けて、5代目社長の鈴木さんが持つビジョンはどういったものか。 鈴木 ビジネスモデルの面では、電気自動車関連の商品が好調なので、その事業を伸ばしながら、医療分野や宇宙分野の商品開発を手がけていきます。スズキハイテックのみんなで開発製造し、山形の地から世界に発信していく姿勢をこの先もずっと続けていきたいですね。 人材面で言えば、外国人の採用は、当人の入社希望あってのことなので、いまのところは未定です。ただ、商品の開発提案と多様性の重要さから、私たちのほうから門戸を閉ざすことはないでしょう。社内にいろいろな人がいるからこそ新しい発想が生まれるわけで、「多様性のある職場」の存続は会社の成長にとって不可欠です。たぶん、「多様性」は人を優しくします。外国人にかかわらず、シニアだったり、障がいのある人だったり……さまざまな人への配慮が優しい気持ちをつくっていくのでしょう。当社の今年の新入社員19名のうち、3名は障がいのある方です。 これからも、私たちスズキハイテックは時代の変化に適応しながら、みんなの力でさらなる成長を目指していきます。
福島宏之
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