Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/3b61dfd1998a2f0e4e465b89131ac3cf576937b2
配信、ヤフーニュースより
午前10時、都内企業を回って廃棄予定の食品を集めた2トントラックが店舗に到着。荷下ろしを済ませたら、仕分けと値付けの作業が始まる。ずらっと並べられた折り畳みコンテナを見るだけで、「この量が廃棄予定だったのか……」と絶句。 【写真11枚】お店の前には開店前から長い列が!代表の山中さんやワークショップに参加する子供たちも
この日、乳製品や加工食品を含むものの、そのほとんどは葉物を中心とする野菜。 コンテナはそれぞれ結構な重量だが、女性スタッフ3人がそれぞれ「よいしょっ」と持ち上げながら食材ごとに仕分け、棚に陳列し、値札をつける作業に取りかかる。13時の開店に向けて、時間との闘いだ。タイムキーパー役のスタッフが「いま12時です!」と伝えると、ますます作業はスピードアップ。 作業中のスタッフに陳列の工夫を尋ねると「それがないんです!(笑い)」と即答。 「強いて言うなら、賞味期限の順に並べないで、ドサっと並べてと言われています。その方が、宝探しみたいなワクワク感があるって。つい、おばあちゃんが見やすいようにきれいに並べたくなっちゃうんですけど」(スタッフ・小川理絵さん) 驚くべきはその値段。パン各種2個で100円、白菜1/4株60円、バナナ3本50円、実山椒(約200g)が100円……そのほとんどは、近隣のスーパーと比較しても半値以下。しかも、廃棄予定食品といっても賞味期限間近の商品だけでなく、過剰在庫や箱潰れ、規格外、誤発注が含まれるためか、想像以上にフレッシュな食品が多い印象。山積みになった小松菜も、葉は青々としていて茎はピンピン! 「今日は小松菜がめちゃくちゃたくさん入ってきたから、ニコニコセールにしよう」 代表の鶴の一声で、小松菜はもともと安かった1袋70円から2袋で70円という破格の値段になった。
大量生産&大量消費のど真ん中からの気づき
「その日によって入荷の種類も量も違うのがうちの特徴。全然品揃えがないこともありますよ。少ないときはお客さんも買わずにすぐ帰ってしまいます。かといって品揃えが豊富ということは、それだけ食品ロスの可能性が高い。売り上げが多いことはビジネスとしてはうれしいことだけど、そうやって喜ぶことにも当初は複雑な感情が湧きました。でもいまは、こうしてたくさん売った分、食品ロス削減ができているんだとプラスに考えるようになりました」
そう話すのは、廃棄予定食品だけを売る『iiMaquet』の代表・山中善昭さん。全身ブラックのスタイリッシュな出立ちで威風堂々としながらも、物腰は柔らかい。それもそのはず、山中さんは元百貨店マン。外商という、百貨店の売り上げの6割を占めている上得意客を担当する部署に長年従事してきた接客のプロでもある。 「西武百貨店に就職し、妻とも職場結婚です。16年間勤め、独立しました。バブル真っ只中の世代ゆえか(笑い)、モノが好きだし小売りも好き。特に本が好きだったので、妻と一緒にインターネットでの中古本販売を始めました。 最初は面白いようにうまくいって、本だけでなくCDやDVD、家電、食品、ベビー用品と、扱う商品も従業員も増えていったんです。でも競合会社が増えたことで仕入れが難しくなり、事業も傾いてしまった。それが50才のときでした」(山中さん・以下同) 破産寸前まで追い込まれたが、従業員が次々に辞めていったことで事業は踏みとどまった。夫婦ふたりで借金も返済できたが、今度は大きな無力感が山中さんを襲った。 「社会貢献をしてこそ企業価値があると考えていたので、これまでもカンボジアやネパールなどに図書室を寄贈していたんです。東日本大震災のときもミニ図書館を13か所に設置して回りましたし。 でも違うな、と。儲かったお金で社会貢献するのではなく、もっと直接的に社会問題を解決する事業じゃないと続かないなと。そんなときに知人に『もったいないからなんとかしてほしい』と声をかけられたのが、食品ロスをなくそうといういまの試みでした」 大量生産、大量消費の世界から180度の転身だった。
メーカーや企業にも意識変革を期待
これだ!と神の啓示にも似た確信を得て、山中さんは2トントラックを借り、地元・滋賀県から上京。居酒屋やレストラン経営者に営業をかけ、たったひとりで挑戦を始めた。ただそれが驚くほどうまくいかなかったという。 「2tトラックの10分の1しか売れないことが続いて、売れないものは捨てにいっていました。もともと企業がお金を払って処分するところを、こちらはお金を払って受け取るのに、売り上げはほとんどない。しかも毎日深夜12時まで捨てる作業をして、また朝方から引き取りにいく。おれは何をやっているんだろうと思いました」 転機が訪れたのはその半年後。見るに見かねたあるレストランのオーナーが「うちの庭で一般消費者向けに売ったらどう?」と声をかけてくれたのがきっかけで週2~3回マルシェを行い、女性客を中心に評判を呼ぶようになった。 「オープンから4年。社会の風潮がずいぶん変わってきた実感がありますが、メーカーや小売企業からするとこうした廃棄予定の食品を売るビジネスはまだまだ異端。これからは『iiMaquet』に卸すことがSDGsへの取り組みと周知されるくらい、ぼくらも頑張りたいし、意識が進んでいけばと願います」
ユーザーの半数以上が食品ロスに関心
冒頭の店頭の様子に戻ろう。13時前。開店直前ともなると、いつもできるという行列は20mほどの長さに! 行列客に来店の動機を尋ねると……。 「正直、安さが魅力で。開店直後は品揃えも豊富だから、来るならオープン直後だと思って、この時間を狙ってきました」(20代女性) 「近所に住んでいるお友達から評判を聞いて通うように。同じ買うなら、食品ロスに貢献できる方がいい。賞味期限が切れたって、消費期限と違うでしょう。それほど味は落ちないし、主人も気づかないくらいよ」(60代女性) 「食品ロスって地球の問題だから、当たり前のことじゃない? 無駄なものを買うつもりはないです。わが家で食品ロスしてたら意味がないから」(40代女性) 話を聞いた半数以上が食品ロスに関心があり、来店していることがわかった。 「きっかけは“安いから買う”でいいんです。結果的に食品ロス対策につながっているのであれば」と山中さん。そこにはSDGsを振りかざすような雰囲気はない。 「正直言うと、始めたばかりの頃は“いいことをしているぞ”っていう気負いがありすぎて、お客さんにディスカウントショップ扱いされると悔しくなったり腹が立ったりしたこともあります。だけど、徐々に知ってもらえればいいと、最近思うようになりました。 というより、考え方をちょっと切り替えてもらえればいいのかな、とも思うんです。果物って見栄えは少し悪くなるかもしれないけど、完熟した状態がとても食べ頃ですよね。“いま食え”という言葉を『iiMaquet』という店名の綴りにも入れましたが、いま食べ頃のものがここで買えるって考えていただければOKかなと」 年間570万トンといわれる食品ロス(令和元年度推計)だが、同店だけで年間約300tの削減に貢献している。 「究極的にはこの仕事がなくなることが理想なのかもしれません。でもそれまではやるべきことがあるし、廃棄食品のみのレストランとか無料スーパーもやってみたいんですよ。まだ道のりが長くてちょっと恥ずかしいけど(笑い)」 その眼差しはまっすぐだ。 iiMaquet(アイアイマーケット) 【住所】東京都世田谷区野沢2-31-3(1号店)、同3-31-1(2号店) 【営業時間】13~19時 【定休日】日曜(営業することもあります) 撮影/深澤慎平 写真提供/TPC 取材/加藤みのり 取材・文/辻本幸路 ※女性セブン2022年6月23日号
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