2020年10月26日月曜日

「海外から来た人には英語だと思っていた…目から鱗です」医学部生が、ある授業で学んだこと。“やさしい日本語“の大切さとは

 Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/9ef3094469ad8d171a8c4085f18dec254037f079

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BuzzFeed Japan

「常用している薬はありますか?」「精密検査が必要ですので、まず採血をしましょう」ーー。あなたが医療現場で働いていて、日本語に不慣れな外国人が患者として来院したら、このような少し難しい日本語が入り混じった文章を、どう伝えますか?医療通訳者に通訳を頼むという手段の他に、もしその患者さんが日常会話レベルの日本語が理解できれば、「やさしい日本語」に言い換えて、伝えることができます。医師の「卵」である、順天堂大学医学部の4年生たちが、やさしい日本語の言い換えについて、授業で学びました。【BuzzFeed Japan / 冨田すみれ子】

9月末に「やさしい日本語」の授業を受けたのは、順天堂大学医学部の4年生、137人。 約3年前から医療現場でやさしい日本語を広める活動をしている、同大学医学教育研究室の武田裕子教授から、やさしい日本語の概要や言い換えなどを学び、留学生とロールプレイをしました。 同大学によると、医学教育の一環として、やさしい日本語を授業に取り入れるのは、国内の医学部で初めての試みといいます。

医療現場で「やさしい日本語」が必要とされている理由

なぜ、医療現場で今、やさしい日本語が必要とされているのか。 それは、日本に住む外国人の増加と、在留外国人の大半が「日常会話レベルの日本語を習得している」という実情にあります。 「やさしい日本語」とは、日本語に不慣れな外国人などに対して使われる、シンプルで分かりやすい日本語です。より簡単な言葉や理解しやすい文法などが使われます。 日本で暮らす在留外国人のうち、人口がもっとも多い国籍は中国(構成比27.7%)で次いで韓国(同15.2%)、ベトナム(14.0%)、フィリピン(同9.6%)、ブラジル(7.2%)、ネパール(3.3%)です(2020年3月現在)。外国人向けに英語が使われることも多いのですが、日本には多様な言語を母語とし、英語が分からない人たちも多く住んでいます。 一方で、法務省の外国人住民調査では、日本に住む外国人の約8割が日常会話レベル以上の日本語ができることがわかっています。

BuzzFeed Japan

もっとも、重病の検査結果の詳細を伝える時などは、医療通訳者を通してコミュニケーションが取られることもありますが、日々の風邪での受診などでは、基本的な日本語を理解する人が約8割いるため、「やさしい日本語」でのやり取りが役立つことが期待されています。 また、日本に在住する外国人も様々な言語を母語とするため、全ての言語の医療通訳を揃えることは難しいという現状もあります。

理解しやすい簡単な言葉で、一文一文を短く

この日の順天堂大学での授業では、医療現場で使う言葉の、やさしい日本語への言い換えの練習などを行いました。 例えば、記事冒頭で出て来たフレーズはこのような言い換えになります。 「常用している薬はありますか?」→「あなたは、毎日、薬を飲んでいますか?その薬はなんですか?」 「精密検査が必要ですので、まず採血をしましょう」→「くわしく調べます。まず血をとります」 「常用」や「精密検査」「採血」など、難しい単語は、日本語が日常会話レベルの話者でも理解しやすい簡単な言葉に言い換えます。長い一文は、短く区切ることで、理解しやすくなります。 口語の場合は、ゆっくり分かりやすく発音し、名詞は実物を指差して話すことなどもポイントです。 授業内では、言い換えのコツを学び、外国人留学生を相手に、日本語を母語としない患者とのロールプレイをしました。

英語じゃない外国人とのコミュニケーション、「目から鱗」

ロールプレイでは、患者役の外国人留学生が捻挫をしたという設定で、やさしい日本語での病態や処方の説明に挑戦しました。 授業を受けた医学生は「やさしい日本語」という概念に驚き、こう感想を述べています。 「これまで『海外の人にも対応できるように英語を』と言われて学んできた中で、日本語を簡単にして伝えようとする『やさしい日本語』は目から鱗でした」 「ロールプレイを通して実践してみたことで、人によって理解している言葉と理解していない言葉がバラバラなため、伝わり方にも差があることがわかりました。一人一人の背景や日本語レベルをよく見てコミュニケーションを取ることの大切さを感じました」

留学生「このような医学部での教育、外国人の一人として安心」

外国人患者役を務めた留学生は、実際に外国人として日本に住む経験をもとに、こう語っています。 「外国で一人、母語ではない言葉で医療を受けるのは不安です。そのため、医学部で今回のような教育が行われていることを知ることができて、外国人の一人として安心しました」 「ロールプレイで学生たちは、言葉を言い換えてくれたり『これはわかる?』『あれはわかる?』というように尋ねてくれました。わからない時は携帯で実物を示してくれたり、絵をかいたり、ジェスチャーを使ってくれて、回を重ねるごとに私にもわかる言葉を的確に選んでくれるようになりました」

「『日本語の引き出し』を開け、相手がわかる言葉を探す」

医療現場でのやさしい日本語を巡っては、国立国際医療研究センター病院が医療関係者を対象に、やさしい日本語(医療)サポーター養成講座などを開いています。 しかし医学部の教育などでは、まだまだやさしい日本語の授業は広まっていません。 順天堂大学でも、正規の授業として、やさしい日本語を医学部生が学ぶのは初めてのこと。しかし、授業を担当した武田教授は「学生たちの柔軟性と発想の豊かさに驚かされました」と話します。 「言い換えに四苦八苦しそうな医療現場の言葉も難なく伝わりやすい短い文章に置き換えていて、SNS文化の影響を感じます」 「学生たちは、出身国や日本語レベルの異なる留学生を相手に、伝わる言葉は一人ひとり異なると実感できたようです」 武田教授は、BuzzFeed Newsの取材に対し、言い換えには「難しいスキルは不要ですし、正解があるわけでもありません」と語ります。 重要なのは「自分の中の『日本語の引き出し』を開けて、相手がわかる言葉を探すこと」。 また、近い将来、医療現場で働き、外国人の患者とも接する可能性が大きい医学部生が、やさしい日本語を学ぶ大切さについては、武田教授はこう述べます。 「授業前後のアンケートで、日本語を母語としない方の診療に対する不安が減り、積極的に役立ちたいと考えるようになったことが明らかになりました」 「英語が苦手だから外国人診療は避けたいと考える医療者が少なくないなか、学生の時に『やさしい日本語』に出会う意義は大きいと改めて思いました」

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