Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/31d568f81316fe03839e432d1be7a42d0e4cfbe7
■ 1 新海洋同盟の結成 (1)はじめに 軍事(防衛)戦略から作戦・戦闘に話は進んでいくのが通常の論旨の展開だが、我が国では、なかなか作戦・戦闘に勝つ教義(ドクトリン)や兵器(装備)そして編成に落ちてこない。 そのため、例え立派な戦略を立てても、戦いに勝てる決定的な兵器(装備)を充実させようという防衛力整備には繋がらないし、なぜ防衛費を2~3倍にしなければならないかという議論も出てこない。 一方、画期的な新兵器、すなわちゲームチェンジャーの開発が、作戦・戦闘の様相を一変させ、軍事(防衛)戦略に大きな変革をもたらす場合もある。 そのように、戦いには、戦場の大小に関係なく、決定的な兵器が必要で、これが戦いに勝つ編成とドクトリンに繋がる。戦闘の勝ち目となる兵器が曖昧だと作戦・戦略は絵に描いた餅となる。 例えば、中国の「DF-21D」のような安価なミサイルで、米空母を寄せ付けない非対称戦力による戦略を構築した中国は褒められるべきである。 米軍に費用対効果の観点から空母は使えないと言わせたのだから大したものだ。 第1次世界大戦時の戦闘機はまだまだひよっこであったが、第2次世界大戦の開戦当初、日本の爆撃機は英国の不沈戦艦を仕留め、航空機の時代を切り開いた。 英国で誕生した戦車は、歩兵支援が主任務であったが、ドイツは戦車を敵の後方の重要な目標に対して、ユンカース爆撃機と組み合わせスピードを重視した「電撃戦」の主役にすることで新たな時代を切り開いた。 過去の戦史を見ても、「新しい兵器」の出現や、装備はたとえ同じでも「運用を変える新たなチャレンジ」で時代を切り開いてきたのである。 米国も2015年に第3次相殺戦略を提示した時には、無人のステルス爆撃機や水中の作戦などが決定的な兵器となることを明示して、戦略を語っている。 もちろん、レーザ兵器、電磁波兵器などもゲームチェンジャーとして開発を急いでいた。 しかしながら決定的な兵器は、その兵器が戦場で技術的奇襲を発揮するまで開示されることはない。そこが勝ち目なのだから簡単にオープンにはしない。 日本では、あまりにも兵器で勝つということが疎かにされ、兵器(装備)への関心が低いため、政治家もマスコミも単に米国の高額装備を購入すれば戦に勝てると錯覚している。 ここでは過去の戦史を紐解きながら、米中対決の新構図を明らかにした上で、中国という新興「海洋国家」を如何にして封じるか、そして、果たして中国は老舗海洋国家が得意とする戦場へ出向くのかを明らかにしたい。
(2)海洋国家と大陸国家間の戦いに学べ 古来より、大陸国家と海洋国家の戦いは熾烈なものがあった。 その特色は、それが、意図的であろうとなかろうと、海洋国家は海洋で、大陸国家は陸上でそれぞれが得意とする戦場で決着を付けようとすることだ。 従って、自らが得意とする土俵に相手を乗せて戦わせることは至難の業である。 (1)古代ギリシャは、アテネを中核とする海洋都市国家群とスパルタを中核とする陸上都市国家の連合で、強大な大陸国家ペルシャを打ち破った。 アテネを中心としてサラミスの海戦でペルシャ海軍を撃破し、そしてスパルタを中心としてプラタイアの陸戦で完璧にペルシャ軍を打ち破った。 以後、50年間、海洋覇権を不動のものとして地中海を制圧し、繁栄を築き上げた。 ギリシャは本来、海洋国家だが、ペルシャ襲来に対して海戦、陸戦のいずれにも勝利したのである。 なぜペルシャは陸軍国でありながら海戦を挑んだのか。 それは海洋都市フェニキアの大型艦を中核としてギリシャの3倍の軍艦を擁して数的優勢がある上に、虎の子のギリシャ海軍を壊滅すればもはやギリシャは崩壊するしかないと考えたからである。 しかし、ギリシャは「海戦においては小回りの利く小型船」と「卓越した技能を持つ漕ぎ手」そして「陸戦においては少数精鋭のスパルタを中核としてペルシャよりも2倍長い槍」を駆使して勝利を収めたのである。 まさに、海洋技能者を中核とした運用の妙と、2倍長い槍を使うという兵器の優越で勝利を手にしたのである。 皮肉なことだが、アテネを中核とする海洋都市国家群の終焉は、陸軍国家スパルタがギリシャを裏切り、ペルシャの資金でアテネの熟練した漕ぎ手を引き抜くことでもたらされたものである。 今の中国に似ていないだろうか。 中国は米国を中心として科学技術を盗みながら、軍事力を向上させ、世界制覇を狙っている。
(2)日露戦争では、旅順港でロシア第1太平洋艦隊を壊滅させた後、バルチック艦隊を日本海で打ち破り、引き続きロシア陸軍を奉天会戦で打ち破った日本は海戦、陸戦共に勝利した。 この際、旅順港では日本陸軍が203高地を奪取し、陸軍の大砲でロシア艦隊を撃滅させたのは特筆される。 ロシアはバルチック艦隊と太平洋艦隊を合流一体化させ、数的優勢をもって日本海軍を壊滅すると共に日本陸軍の海上補給路を封鎖して勝利を追求しようとしたが、旅順港が早く陥落したことにより、各個に撃破されることになった。 旅順港のロシア第1太平洋艦隊との前哨戦である黄海会戦では、T字戦法を取ったが、距離が離れすぎて失敗に終わった。 しかし、後のバルチック艦隊との戦闘に当たってはこの教訓を生かして、修正したT字戦法と複数の工夫により撃滅することができた。 失敗を恐れず、正しく現実に向きあった柔軟な創造的・挑戦的思考が大きな戦果を生んだといえよう。 日本の勝利は「海軍の高度な射撃術」と「瞬発(時として過早破裂を招く危険を乗り越えて)の伊集院信管、少ない弾数でも船を沈める下瀬火薬(科学技術)」そして「陸戦での203高地における28センチ臼砲(大火力)の投入」などによってもたらされたものである。 日露戦争は、数的劣勢の海洋国家が大陸軍を擁する大陸国家の「海軍を負かすこと」によって勝利したものである。 大陸国家側のペルシャとロシアの失敗は、いずれも不得意な海を戦場として選んだのは、陸軍の決戦の前に、数的劣勢の海洋国家の息の根を止めるために敢えて海上決戦を挑んだからである。 (3)一方、陸軍国家でありながら海洋国家を打ち負かしたのは古代ローマである。 当初はカルタゴとの海上戦闘で負けたものの、当時はみっともないとして敬遠されていた船首に鍵フック「からす」を取り付け、カルタゴ船にこれを引掛けて、桟橋を伝って陸戦に持ち込む工夫によりカルタゴに勝利し、地中海の海洋覇権も掌握してローマの繁栄を確実なものとした。 どのような戦いにも、戦闘における勝ち目を追求した創意工夫があることを見逃してはいけない。それがやがて作戦・戦略の勝利をもたらすのである。 では、1995年に自らを大陸国家であると同時に海洋国家である宣言する中国をいかにして打ち負かすことができるだろうか。 太平洋を跨いで展開する米軍を尻目に、中国大陸からの援護を受け、中国寄りの戦場で待ち受ける態勢の中国軍を打ち負かすのは海洋国家群にとって容易なことではない。 しかし、中国にローマの成功の歴史を辿らせてはならない。 2020年半ばで中国海軍の隻数が米国を凌駕した今、中国の海洋国家としての甲羅が柔らかいうちに決着を付けなければならないだろう。 中国は、ローマの鍵フック「からす」のように、ミサイルで空母を沈める非対称戦を発展させ、米国よりも長い槍(長射程対艦ミサイル)でなりふり構わない手法で勝利を追求している。 さらに海洋人海戦術というべき情報戦、サイバー攻撃・電子戦、海上民兵を使った非正規戦を含むハイブリッド戦を仕掛け、恥も外聞もなく勝利を追求している姿を甘く見てはいけない。
(3)新海洋軍事同盟(海洋同盟2020)の結成 トランプ大統領は9月開催予定であったG7を11月以降の大統領選挙後に開催するとした。同時に、今のG7はもう古いと言及した。その通りだろう。時代は明らかに変わった。 なぜなら、今のG7の切り口は自由と民主主義のリーダ国であると同時に、米ソ冷戦末期の遺物である。 しかし、コロナ後は、明確に「倫理観を重視し、自由を尊ぶ国を代表して非人間的な中国共産党に立ち向かうか否か」が切り口である。 ア 海洋同盟2020を貫く大義名分 チベット、ウイグルでは民族浄化が行われ、奴隷労働により安価な製品を作り、他国の技術を盗み、中国国民に対しても悲惨な統治を続ける中国は正常な国家とは言えない。 もとより香港の住民に対する非人道的な対応や、台湾に対する威嚇、東・南シナ海における領土拡張など軍事力を背景として強制的に領土を拡大しようとする中国を、国際社会はこのまま放置してもいいのだろうか。 そしてコロナウイルスの惨禍を世界に振りまき、平然と「中国の素早い対応に感謝せよ」という逆転の論理は許しがたいものがある。 中国との戦いは、単なる覇権争いではなく、「自由を尊ぶ人間社会」vs「国民を抑圧する非人間的独裁社会」との戦いであるということを明確に理解することが重要である。 コロナ禍で明瞭になったことは、日本を含む先進国家も中国の非人道性を知りながら、そこから経済的利益を貪ってきたということだ。 臓器売買などはその典型だ。 これに対する痛切な反省の下に、日本などは、米国を中核とする自由な世界で人間らしく生きるのか、中国が支配する世界で家畜のように生きていくのを是とするのか、どちらかを選択しなければならない。 20世紀後半にユーラシア大陸の西、ナチスドイツから始まった非人道的独裁主義は、ソ連に共産主義として転移し、そして最終的にユーラシア大陸の東に中国という軍事・経済的に強力な共産党一党独裁国家として復活した。 世界はいよいよ非人間国家との最終決戦の時を迎えていると腹をくくる必要があろう。
イ 海洋同盟2020の中核国家 米軍は、ドイツから駐留米軍9500人を削減し、一部ポーランドへ、残りを撤収することを決め、さらに駐イラク米軍も3500人撤収する予定である。 これは、単に欧州、中東からの撤退ではなく、対中国に戦力を振り向けることを示している。 結果、インド太平洋軍に数千人規模が再配置されることになる。台湾やフィリピンにも配置されるかもしれない。 その観点からトランプ大統領はG7のメンバーについて日米英仏独伊加に加え、ロシア、インド、豪州、韓国を加えることを提案している。 (1)インド、オーストラリアは日米と共に対中「自由で開かれたインド太平洋構想」の軍事的、経済的な海洋同盟2020の中核となるだろう。 米国のビーガン国務副長官は中国に立ち向かうため米日豪印による安全保障対話の枠組みクアッドに台湾、比、英、仏を加えることを考えている一方、クワッドの拡大会議をニュージーランド、韓、越を入れ10月にデリーで開催することを明らかにしている。 ゆくゆくは、これをインド太平洋版NATO(北大西洋条約機構)に発展させたい考えのようだ。 (2)韓国は中国に傾倒し、反日・反米である以上、正式なメンバーとはなり得ないが、最小限、北朝鮮対処の壁として、また、サムソンのような企業が中国支援にならないように釘を刺すために参加させることに意義はある。 (3)ロシアは微妙な立ち位置にあるが、少なくとも中国問題に決着をつける間はクリミアの問題などは棚上げにしてもいいのではないだろうか。中露の分断こそ喫緊の課題だ。 G7にロシアを加える最も大きな利点は、準軍事同盟といわれる中露を分断し、核保有国としてのロシアが中国の背後を狙い、米、印、英、仏の核兵器を加え多方向から中国を包囲する態勢ができれば、中国に対して決定的な核抑止を発揮できるだろう。 さらに、ロシアは中国よりも優先してインドに戦闘機、「S400」防空ミサイルなどを売却しており、今後、インドの重要性を考慮すると、印露の関係強化は日米豪にとって有益である。 また、インドを通じてロシアと共闘できるかもしれない。 (4)インドは、中国軍による北部国境やネパール、ブータンへの侵入の脅威を受けているが、同正面では、大きな戦略的利益は挙げられず、膠着状態に持ち込むのが精一杯であろう。 むしろ、インド洋正面では、中国海軍に対して優位に立てる地政学的利点が多々あり、そのため、対中共闘を目指す日米豪などの友好国との協力を深めつつ、海上での軍事能力・態勢を強化することで、脆弱な立場にあることを中国に思い知らせる戦略へとシフトすることが今後の課題といえよう。 同時に、中国の背後に位置するロシアとの関係強化は、インドの優位性向上に大いに資することになろう。 (5)空母と核戦力を保有する英国は、香港問題で中国に裏切られたことから、日米印豪と共に行動するだろうし、実質、米英同盟へ回帰するだろう。 また、同じく空母と核戦力を保有するフランスも太平洋に利権を有することから、海洋同盟2020への参画が国益にかなうと判断するだろう。
●これらを勘案すると、海洋同盟2020のメンバーは日米豪印のクワッドを中核として、第1列島線の要衝を占める日本、台湾、フィリピン(実態は米軍)、ベトナム、これに加え第1列島線へ展開する米陸軍・海兵隊が海洋同盟2020の第1線となるだろう。 そして、重層的に米国、インド、オーストラリア、英国、フランス、ロシアがこの第1線を囲むことになるだろう。 タイ、マレーシア、シンガポール、インドネシアなどが加わるともっと強力な同盟が結成される。 ●カナダはファイブアイズで有益だが、ドイツ、イタリアは敵対しなければ重要ではない。 しかしドイツは最近、中国依存を転換して、大国の覇権を受け入れない開かれた市場を重視するとしたインド太平洋外交の指針を閣議決定したことは良い兆候ではある。 このようにして、今後はG7にこだわることなく、海洋同盟2020として新たに出発すべきだろう。 ●この中で地政学的に最も重要な位置にありながら、日本は軍隊へも脱皮できず、平時ベースの防衛費を基本としていることから最弱点を形成している。 また、経済界は平然と中国への進出と投資を継続している。 こんな日本は、下手をすると自由主義国から軍事的、経済的にデカップリングされる危険があるだろう。 日本は、従来の米中両天秤外交からはっきりと決別し、同盟国の米国を中心とした自由主義国と運命を共にすることを明確に打ち出さなければならない。
■ 2 新興海洋国家の中国をどう打ち破るか まず大前提は、米国、インド、英国、フランスの核戦力で中国を完全包囲する態勢を構築することである。 この際、ロシアは中国包囲網に参画するか、中立であることが最小限要求される。 これに加え、パキスタンがインドに敵対しないように抑え込む外交が必須となるだろう。 いずれにしても、米印英仏は結束し、中国に対して強力な核による封じ込めの態勢を構築することが重要だ。 その前提で問題は、戦史で見るように、大陸国家が海洋に乗り出すには、海戦を得意とする海洋国家群の思う壺にはまる危険があることから海洋進出にあたっては慎重にならざるを得ないことだ。 わざわざ敵の得意な戦場へ出ていくことはしないだろう。 しかし、数的優勢や海洋国家の態勢未完に乗じた短期決戦などの勝ち目が見え、さらに海洋に出ざるを得ない事情があれば、海洋に乗り出すことを決心する可能性はある。 中国はどうであろうか。 (1) 中国は海洋決戦を挑むか 中国は次の理由により、2035年を目標として西太平洋まで、米国の軍事行動を封印するために海洋要塞を築き上げる行動に出るだろう。 その援護下に東南アジア、中東、欧州、アフリカなどの富を奪うだろう。 (1)中国は、2017年の中国共産党大会で、「中華民族の偉大な復興と中国の夢」を目指し、「中国を中心とした人類運命共同体を構築する」ことを宣言した。 平たく言えば、米国支配を終わらせ、中国を頂点とする独裁国家を樹立し、世界を制覇するということである。 これが、今の中国の固い決意であることは疑いようもない。 そして、中国共産党の存立の目的は、「国民に常に経済的発展と繁栄を実感させ、中国共産党の独裁政治を安定させること」にある。 決して国民の繁栄と幸福の追求ではなく、共産党による支配体制の維持・保全にある。 従って中国共産党の軍隊である中国人民解放軍は、全力をもってその目的達成のために戦争に勝つことを要求される。 防衛的な国土防衛ではなく攻撃的な侵略軍であり、遅かれ早かれ米国に代わり海洋においても覇権を追求する宿命にある。
(2)中国の14億の民に経済的繁栄を与え続けることは至難の業である。 1995年に大陸国家であると同時に海洋国家であると宣言した意味は、海上交通路からの絶え間のない食料や石油、富などの輸入ができなければ独裁政権は続かないということであろう。 旧ソ連は、バレンツ海、オホーツク海という東西2正面に海が開けていた。そして、米国は太平洋、大西洋の東西2正面に海が開けているが、中国は、東・南シナ海の東方に向かって1か所しか海の出入り口がない。 特に、第1列島線がその出口を制約しており、その先には覇権国の米国が存在し、太平洋を隔てて軍事的威圧を常に受けている。 そのように、敵性国家群の連なる第1列島線や第2列島線に囲まれ、中国の柔らかい3か所の経済的核心的地域(北京・天津、上海・揚子江流域、広州・珠海)も安泰ではない。 従って、中国の経済的繁栄の要を守り、最小限、海の生命線が通る東・南シナ海の聖域を守り、さらに有利な態勢をもって米軍を中国の近海で阻止、打撃するためには第1列島線の国々の無力化(属国化)、または軍事的占領は必須である。 これは日本や台湾などの意思とは全く無関係である。 現状は第1列島線の国々の連携は弱く、これらが結束し態勢が整える前に中国から軍事的行動を起こされる可能性は大きい。 現在の中国の東・南シナ海での軍事力を背景とした行動の根っこはここにあり、決して話し合いの外交などでは解決しない。 (3)米国の大統領選挙の行く末や、コロナによる軍事力・予算の低下などの米国の軍事力の低下が顕著になると、中国の軍事行動は活発化するだろう。 また、米国が目指す新たな海洋圧迫戦略への転換には、2~4年が必要なため、これを中国有利と見るかもしれない。 軍事的圧力を増しつつあるトランプ大統領が再選されると、中国はいったん守りに入り、トランプ大統領の退任前後に攻勢に出る場合もあろう。 中国に比較的融和的とみられているジョー・バイデン氏が大統領に選任されると、それを好機とみて、東・南シナ海で戦端を開くかもしれない。 いずれにしても情勢は流動的で、中国の海洋における軍事攻勢は時間の問題でしかない。
(2)海洋同盟2020と中国との海洋決戦は不可避 ローマの時代に再度戻ってみると、陸軍国家であったローマがカルタゴの海洋覇権に挑戦するため、海洋進出を決めた経緯とも似ている。 それは、ローマとカルタゴの間にあるシチリアの取り合いであり、そこをカルタゴに取られれば、やがてイタリア半島の海洋もカルタゴの海になると考えたからである。 そしてローマは、シチリアとカルタゴの補給線を断たねばシチリア制覇は不可能と知ったのである。 シチリアが第1列島線であると考えるならば、今のところ米国との連携が保たれているが、中国は第1列島線を奪取しなければ、中国本土の安全は保てないし、第1列島線の国々と米国の連携を断たなければ、海洋覇権は握れないと考えているだろう。 中国の米軍に対する接近阻止・領域拒否(A2/AD)戦略はまさに米軍の接近を阻止し、第1列島線に対する兵力の展開や補給路を断つことだ。 そして、中国は短期高烈度決戦(Short Sharp War)を第1列島線の国々に仕掛け、これを奪取するか軍事的に無力化を図る考えだ。A2/AD戦略とShort Sharp Warは表裏一体の作戦・戦略であることを銘記すべきである。 そして、そのAD(領域拒否)は、第1列島線の国々の占領なしには成し遂げられないのである。 歴史は繰り返す。ローマが海洋へ乗り出す戦略環境と今の中国の戦略環境は大変、酷似している。 中国は、A2/ADで米軍の来援を拒否しつつ、短期高烈度決戦で最も突破したい日本、台湾、フィリピンに決戦を挑む可能性がある。 〇日本の尖閣、八重山諸島 〇台湾の東沙、金門・場祖島、澎湖諸島 〇フィリピンのパラワン島 〇台湾とフィリピンの間のバシー海峡の島々 これらに対する中国の攻撃が前哨戦となるだろう。もちろん、超限戦で日本などを早々と属国化するかもしれない。 このように、中国の戦いは、まず、第1列島線を奪取し、米国などの海洋戦力を止めまたは破砕して、その後、徐々に太平洋側に影響力を拡大しながら、東アジアの国々を支配下に置きインド洋からアフリカ、中東、欧州の覇権を目指すことになるだろう。 逆に中国が戦いを展開する戦場は、東・南シナ海とその島々、第1列島線上の国々であり、いずれも中国にとって本土に近い有利な戦場と映ることから、大陸国中国の海洋の戦場として決して不利ではないと考えるだろう。 一方、コロナ禍を引き起こした張本人であることと、その後の政治・外交の失敗により、反中国の結束は固くなりつつある。 その上、国内の災害や世界の経済の縮小、米国や世界の経済・金融への締め付けなど思いがけない反動から、中国の経済的繁栄は相当な打撃を受けているだろう。そして、長期化するかも知れない。 このため、中国国内の不安定な状況を打ち払うために他国への戦争を仕掛ける「非合理の合理」の理屈により、一挙に戦端を開く可能性は大きくなっている。 ■ 3 まとめ 米大統領選挙の行く末にかかわらず、中国と海洋同盟2020間の戦争の可能性は高まっていると言える。 その時、日本が米国と共に戦う意思を明確にしなければ、日本は米中戦争の戦場となり分割される危機もある。 偶発的な衝突は、ここ1~2年以内、本格的衝突は海洋圧迫戦略を基本とした米軍の最低限の準備が整う2022年頃以降だ。 日本にとって残された時間は少ないことを認識すべきだろう。
用田 和仁
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