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「好き」か「嫌い」かハッキリ割れる街
人によって賛否両論がキレイに分かれる不思議な街、葛飾区新小岩。ある人は「一度住んだら出られなくなる」と言い、またある人は「もうあそこには戻りたくない」と言う――。 【画像】ザ・カオスな街「新小岩」駅周辺をチェック(8枚) ひと昔前までは「人身事故の多発駅」「23区でも有数の治安の悪い街」といった不名誉なイメージが付いて回る土地でした。ところが、近頃は不動産会社の「住みたい街ランキング」に名前が挙がるなど、明らかに印象が変わってきているようです。 果たしてこの街の実態はどのようなものなのでしょうか。 ●立地と歴史 新小岩は荒川・中川の東岸にあり、葛飾区の最南端に位置しています。ただ、地理的に見ても歴史的に見ても、お隣の小岩駅周辺と同じ江戸川区とした方が混乱が少なかったようにも思います。 事実、新小岩駅一帯はもともとは江戸川区の「小松」や「平井」という地名が付けられていたのですが、1965(昭和40)年になって駅名と同じ「新小岩」という地名が使われるようになりました。 ちなみに新小岩という駅名は、東京駅から見て小岩駅(明治32年開業)の手前にできた新しい駅という意味で付けられたそうですが、当初は乗客が乗り降りする駅ではなく、操車場や信号所だったそうです。旅客駅としての新小岩駅の開業は、1928年のことでした。 (新小岩には長くJRの車両所が置かれ、実は1997(平成9)年まで操車場としての機能を持ち続けていました。なお、信号場駅は今も稼働中です。) 旅客駅ができた当時の新小岩一帯は、農村地帯から工業地帯へと移り変わったところで、大同製鋼など大規模な工場がありました(現在の新小岩公園)。そもそも新小岩駅とは、そうした工場で働く人々の通勤の便を良くするために開業したという側面があるのです。 ただ、開業当初は江戸川区へ向いた南口しかなく、北側の工場からの請願を受けて1944(昭和19)年に北口が作られました。 その後第2次世界大戦をへて、荒川・中川の放水路が完成して治水面の不安がなくなると、昭和30年代に入って市街地としての本格的な発展が始まります。街の古老に聞いた話では、北口側の開発については蔵前橋通りの開通も大きな影響を与えたようです。
生鮮品も日用品もそろう商店街
こうして昭和40年代になって駅周辺の地名が新小岩に改められ、今の新小岩という街ができ上がりました。東京23区内では新参と呼んでいい新しい街ですが、現在では総武線の快速が停まるなど、名称の元になった小岩と比較しても負けず劣らずな交通の要所 兼 繁華街として成長したのです。 ●新小岩の商店街とその特徴 新小岩駅周辺の街の造りは分かりやすく、アーケード商店街「ルミエール」のある南口が中心的な商業地区になっています。 北側の商店街(飲食店街)は規模が小さく、これは歴史的に北口側が工場地帯だったことと、今では蔵前橋通りが通っているため、商業地区を広げられなかったという理由がありそうです。 ただし、蔵前橋通り沿いは商店街ではなくロードサイド文化が発達しており、レンタカーや中古車センター、大箱のレストランなどが点在しています。 ○南口の商店街について 南口は駅前ロータリーから伸びるルミエール商店街が人々の動線の軸になっているものの、そこと交差する一番通り・仲通りにも多数の商店や飲食店があり、江戸川区との区境に至るまで商業地区が広がっています。 この地区の商店街全体の特徴としては、非常に幅広い業種が維持できていることで、飲食店や生鮮品(鮮魚店・青果店)のほかに、お茶・本・靴・各種洋服・カバンや服飾品のお店など、生活に必要な日用品は大体そろえられます。 ルミエール内はチェーン店も目立ちますが、ローカル色の強いお店や純然たる個人店も多く生き残っており、独自の町並みを守れていると言えます。 こうした点から、新小岩にはちゃんと生きている商店街があると評価できるでしょう。
自家製弁当は200円台が当たり前
ただ、ちょっと面白いと感じたのは、精肉店が見当たらなかったことです。これについては各エリアに大小さまざまなスーパーマーケットがあるため、精肉店という専門店が生き残りづらい状況があったのかもしれません。 ○新小岩相場 “貨幣価値”の面では都内でもかなり安く、庶民の街であると言えそうです。中でも1人前200円台が当たり前というお弁当屋さんが複数あったことに驚きます。 生鮮品もお総菜も際立って安いのですが、それでも生鮮品は亀戸エリアの方が安く、総菜は十条エリアの方が安いと、突き抜けたナンバーワンになり切れないところが新小岩らしさなのかなと感じました。 ただ、これについては亀戸の八百屋や十条の総菜店の値付けの方がおかしいのだという言い方もできそうです。 ●エスニック天国 近年の新小岩を語る上で欠かせないのが、「エスニックの名店」が数多く集まっていることです。特にタイ料理やインド料理(ネパール・バングラデシュ含む)の店が目立ちますが、個人的に注目したいのは中華料理店の多様さです。 中華料理とひと口に言っても地方によって全く特色が変わるのですが、新小岩にはそうした文化圏の違う中華料理屋が点在しており、プチ中華街といった様相になっています。 一例を挙げると、駅近くの薄暗い路地の中に回転火鍋のお店があります。これは席につくとまずスープを選ばされ、1人用のIHコンロでお鍋を温めつつ、回転寿司のように回ってくる具材を取って好きにゆでて食べるというシステム。 具材はひとつ80円程度で、お肉を頼むと数百円という価格帯。このお店はアクティビティー(レジャー要素を含む活動)として面白く、デートで使うにも最適でしょう。
良いエスニック店の選ぶコツは
こうした新小岩エスニックのお店の良し悪しを見定めるために、私は可能な限り外から店内をのぞき、日本人率の低い店に突入することを心掛けています。 たまに日本語が全く通じない店を掘り当てる事もありますが、大体は異国情緒溢れるおいしい料理にありつけるので、ぜひオススメしたい手法です。 ●交通機関 ○主な都内の鉄道駅への所要時間 ・東京駅:15分 ・秋葉原駅:17分 ・上野駅:23分 ・品川駅:26分 ・新宿駅:29分 ・池袋駅:36分 ・渋谷駅:39分 鉄道駅は中央・総武線の各駅停車と、総武快速の2系統が停車します。 総武快速に関しては、東京駅から数えて新日本橋・馬喰町・錦糸町・新小岩と4駅めで、新小岩から先は市川・船橋と千葉県に入ってしまいます。亀戸や小岩には停まらないことから、新小岩駅の重要性や利便性の高さが伝わるのではないでしょうか。 新小岩駅の1日の乗車人員は7万7000人を超えており、これは他路線と乗り換えのない総武本線の駅としてはトップクラスの数字です。 北口側にも南口側にも大きなバスロータリーがあり、北は葛飾区、南は江戸川区の各方面へ乗客を運んでいます。 ちなみに駅の北東部にあるロータリーは、元はJRの操車場だった場所で、施設の規模縮小に伴って作り変えられ、飽和状態だった南口ロータリーの路線の一部が移されました。
亀戸や西船橋より安い物件も
駅周辺では都営バス・京成バス・京成タウンバスが運行しており、南北3箇所にある停留所から、一之江駅・葛西駅・西葛西駅・船堀駅・篠崎駅・瑞江駅・堀切菖蒲園駅・綾瀬駅・青砥駅・亀有駅・金町駅……などなど、23区の東側の街を網羅しています。 東京23区の東部地区は鉄道網に少々難があり、中央・総武線を中心として、中川を超えた北を走る京成線(本線・押上線)や常磐線、京葉道路や首都高小松川線のさらに南を走る新宿線や東西線は五線紙のような位置関係になっており、交わることがありません。 よって、これら各路線の中間にある住宅地の住民が電車移動する場合は、必然的にどこかの鉄道駅からバスを使い、南北の移動をすることになります。 新小岩駅のバスロータリーは、そうした人々の生活を支える最重要の交通拠点となっているのです。 ちなみに、江戸川区役所の現在の最寄り駅はこの新小岩駅となっており、ここでも葛飾区と江戸川区が入り交じるカオスさを醸し出しています。 ●家賃相場 新小岩駅周辺の家賃相場と、その他の総武線沿線の家賃相場の比較は次のようになっています。(参考:HOME'S/単位=万円) ・ワンルーム:6.58(亀戸8.45、市川6.32、西船橋6.66) ・1K:7.34(亀戸9.19、市川6.93、西船橋6.96) ・1DK:7.78(亀戸10.05、市川7.29、西船橋8.14) ・1LDK:10.08(亀戸14.13、市川9.88、西船橋10.45) ・2DK:9.64(亀戸11.45、市川8.19、西船橋8.09) このように、同じ23区内の亀戸駅周辺の物件よりも、千葉県の市川駅や西船橋駅の物件の方が、相場が近いということになります。特に開発の進む西船橋駅と比較すると、間取りによっては新小岩の方が安いという結果になりました。 このことから、新小岩は金銭的な面でとても住みやすい街であろうことがうかがい知れます。 ●犯罪発生率 次に、一部で「治安が悪い」と囁かれている新小岩駅一帯の、実際の犯罪発生率を調べてみましょう。今回も警視庁が公開している『犯罪情報マップ』を参考にします(2019年度の犯罪発生件数)。
気になる「治安」、その実態は?
・新小岩1丁目 全刑法犯:156~413件 侵入・窃盗:6~12件 車上ねらい:4~6件 オートバイ盗難:2~3件 自転車盗難:50~103件 粗暴犯:40~84件 万引:37~97件 その他 ・新小岩2丁目 全刑法犯:26~67件 自転車盗難:10~23件 粗暴犯:5~13件 その他 ・松島3丁目 全刑法犯:26~67件 自転車盗難:10~23件 その他 ・西新小岩1丁目 全刑法犯:68~155件 車上ねらい:2~3件 自転車盗難:24~49件 粗暴犯:5~13件 その他 ・西新小岩4丁目 全刑法犯:26~67件 侵入・窃盗:3~5件 車上ねらい:2~3件 自転車盗難:10~23件 その他 (上記以外の地域の犯罪発生件数はごく少数。) こうして実際の数字を見てみると、犯罪発生件数が特に多いと言えるのは、商業地区の中心地である新小岩1丁目だけということが分かります。 次いで数が多いのは西新小岩1丁目ですが、ここは新小岩駅の北口にあたり、パチンコ屋や飲食店が固まっているエリアです。 この繁華街要素の強い2か所を除くと、実はほとんど犯罪が発生していない土地であることが分かるはずです。一見して件数が多いように思える地域も、内訳を見てみると自転車盗難が頻繁に起こっているだけで、凶悪犯罪の類はほとんど見られませんでした。 新小岩1丁目の粗暴犯などの多さは確かに気になるところですが、それにしても盛り場の治安が悪いのはどの土地も同じですから、新小岩駅の一帯だけが特に荒れているという事実はないと言ってしまっていいように思います。
ただし自転車盗難には注意
比較対象を挙げると、総武線沿線の錦糸町駅と亀戸駅周辺の2019年度の犯罪発生件数は次のようになっています。 ・156~413件:江東橋3丁目 ・68~155件:錦糸2丁目、錦糸4丁目、江東橋4丁目、亀戸2丁目、亀戸5丁目、亀戸6丁目 この両駅に関しては、駅を取り囲むように複数のエリアでそれなりに犯罪が発生しているので、これらと比べると新小岩はそこまで大荒れではないと言えるでしょう。 犯罪に巻き込まれたくないならば、ルミエールを中心とした夜の盛り場に注意し、自転車は駅周辺の駐輪場に止めるといった配慮をしておけば、特に問題なく過ごせるのではないでしょうか。 ●メリット・デメリット まずメリットとしては、ルミエール商店街と南北各エリアに点在しているスーパーマーケットのおかげで、買い物場所に困ることがほとんどないという点です。 サミットやSEIYUといった大手どころから、もう少しローカルでお値段の安いスーパーまで選択肢が多く、それ以外にルミエール内の鮮魚店(2軒)や、仲通りや江戸川区寄りに固まっている青果店が数軒と、生鮮品の売り場は数多く用意されています。 これらに加えて総菜店や激安の弁当屋なども複数あり、生活スタイルに合わせていかようにも買い物ができる街だと言えるでしょう。 飲食の面では、ファストフードなどのチェーン店のほかに、居酒屋から洋食からひと通りの選択肢がそろっています。中でも前述したエスニックに関しては唯一無二のお店が多くあるので、そういった素養のある人に特にオススメできます。 また、小さい子どもにとってどうかという面で考えてみると、川が近いせいもあって空の広い土地ではあるのですが、意外なことに駅周辺には遊具のある手頃な公園が不足しています。 ただ、これについては新小岩駅から出ているバスに乗ると、奥戸や船堀方面の優れた公園(北沼公園や江戸川区自然動物園など)へ遊びに行けるので、全く何もないという訳ではありません。アシスト機能付きの自転車があれば、バスに乗らず行かれるところもあります。
どちらかと言えば単身男性におススメ
デメリットとしては、利点でもある駅周辺の商業地区が“痛しかゆし”で、酒場やパチンコ店などが1か所に固まっているため、そのエリアの治安だけはどうしても悪くなってしまいます。 ほかの繁華街にも共通する欠点ですが、盛り場では酔っ払いが暴れるといった事件の件数が多いため、夜は特に注意が必要でしょう。 また、駅一帯は各エリアに過剰なほど自転車駐輪場が完備されているのですが、これはそれだけ自転車利用者が多いという証しです。 ということは、必然的に自転車盗難件数も増えてしまいますので、管理はしっかりしておきたいところです。特にアシスト機能付きの自転車は1台10万円前後しますから、もし万が一があったら泣くに泣けません。 間違っても「酔っ払いの多い時間帯にその辺に野ざらし」という止め方だけは避けるべきでしょう。 総合的な評価では、男性の単身者に特に向いている街だと言え、駅周辺のパチンコ店や居酒屋といった盛り場の様子を考えると、女性のひとり暮らしに向いた街だとは言いづらいというのが正直なところです。 子育て環境としては、駅近くはなるべくならば避けたいところですが、そこ以外はほとんど犯罪の起こらない安全な街なので、家族で住む分には問題なさそうです。
荒井禎雄(フリーライター、放送ディレクター)
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