2015年11月9日月曜日

エベレスト渋滞と排泄物問題の原因!? “登頂ツアー”創始時代の遭難事故が3D映画に!

Source: 日経トレンディネット 11月6日(金)、ヤフーニュースより
 1996年にエベレストで実際に起こった遭難事故を題材にした、サバイバルアドベンチャー映画『エベレスト 3D』が公開される。

【詳細画像または表】

 『ターミネーター:新起動/ジェニシス』(2015年)でジョン・コナーを演じたジェイソン・クラーク、『ナイト・クローラー』(2014年)のジェイク・ギレンホール、『ミルク』(2008年)でアカデミー賞にノミネートされたジョシュ・ブローリン、『アバター』(2009年)のサム・ワーシントンら、演技派・個性派と呼ばれる俳優たちによる迫真の演技と、実際にエベレストで撮影した3D映像で話題になっている。

 世界最高峰のエベレストは標高8848m。山頂では風速が時速320kmを超え、気温はマイナス26度まで低下。気圧も地上の3分の1まで下がり、肺では空気中の酸素が血液にうまく取り込めなくなる状態になるという。

 長く留まれば肉体と意識の機能、両方が停止してしまう、まさに死の領域(デス・ゾーン)。そんなエベレストを舞台に、過酷な自然環境にも関わらず山頂を目指そうとする人間たちと、容赦なく降りかかる大自然の猛威が描かれていく。
“エベレスト商業登山”で起きたトラブル
 物語はニュージーランドで登山ガイド会社アドベンチャー・コンサルタンツ社(AC社)を営むロブ・ホール(ジェイソン・クラーク)が、世界各国から8人の顧客を集め、1996年に彼らと一緒にエベレスト登頂に挑む姿を中心に進む。

 AC社は1992年から4年間で19人の顧客をエベレスト登頂に成功させるなど、エベレスト商業登山の道を切り開いてきたパイオニアでもある。今回の登頂ツアー(AC隊)でも、アウトドア雑誌でこの登頂体験を記事にする予定のジャーナリスト、ジョン・クラカワー(マイケル・ケリー)、米国人医師で10年の登山経験のあるベック・ウェザーズ(ジョシュ・ブローリン)、登頂目前で引き返した1年前の雪辱をはたすために参加した登山家のダグ・ハンセン(ジョン・ホークス)、七大陸最高峰の完全制覇を今回のエベレストで達成予定の日本人女性・難波康子(森尚子)らを顧客に、エベレスト登頂へと挑むことになっていた。

 標高5364mにあるベースキャンプで、約1カ月間にわたって入念に準備した一行は、いよいよ、そこから3500m上の頂上を目指して出発。スコット・フィッシャー(ジェイク・ギレンホール)率いるマウンテン・マッドネス社のツアー(MM隊)と協力体制を組みながら、順調に第4キャンプ(標高7951m)までたどり着く。

 過酷な冒険に挑み、ようやく訪れた頂上アタックの日。固定ロープの不備や参加者の体調不良などによりスケジュールが大幅にくるう中、数人がなんとか登頂に成功する。一方で、嵐が接近し、天候が急激に悪化する事態に。さらにトラブルがいくつも重なり、ベースキャンプへの無事帰還に黄信号が灯ってしまう。
エベレストでの撮影は、命の危険を感じる過酷な現場
 映画は前半から見どころ満載だ。エベレストにとっては、ほんの入り口程度にある吊り橋を渡るシーンでさえ、2棟のワールド・トレード・センター間に渡したロープ上を命綱なしで渡るという『ザ・ウォーク』(日本では2016年1月23日公開)の綱渡りシーンに匹敵するほどのハラハラドキドキ感が伝わってくる。

 ほかにもハシゴを渡して谷を渡るシーンや登山中の滑落シーンなど、普通にそびえ立つエベレストのシーンも含めて、3Dならではの迫力映像に引き込まれていく。

 撮影は実際にエベレストでも行われた。多くの場面は標高4876mの山中で行われ、キャストは高山で命の危険を感じながら撮影に臨んだという。メガホンをとったバルタザール・コルマウクル監督は、「水が凍結する。部屋に暖房がない。電気毛布にくるまって眠る。あまりに寒くて小便のためにベッドから抜け出すのが大変。出演者にはアシスタントも手伝いもついていない。自分の衣装を持って撮影現場まで歩いていくんだ」と、通常のハリウッド映画とは大きく異なる撮影現場の風景についてコメントしている。

 また、冒頭にも記したとおり、ハリウッドきっての演技派・個性派俳優たちによる演技合戦も見どころだ。普段は脇役出演も多い彼ら名優たちが、過酷な現場で繰り広げる迫真演技も注目だ。ちなみに登山はしないが、彼らの妻役でキーラ・ナイトレイやロビン・ライトらの女優陣も出演している。
登頂ツアーが引き起こした「渋滞」「排泄物」問題
 エベレスト登山については今、さまざまな問題が指摘されている。

 初めて登頂を成功させたのは、1953年、ニュージーランド出身のエドモンド・ヒラリーとシェルパのテンジン・ノルゲイだ。日本人では1970年に松浦輝夫と植村直己が初めて登頂に成功している。

 だが、1985年に富豪のディック・バスがガイドの全面サポートを受けて登頂して以来、お金さえ出せば、富豪やアマチュア登山家でも登頂を可能にするガイド付きの登頂ツアーが増え、大勢の人が登山を希望する山へと変貌を遂げてきた。

 本作に登場するAC隊やMM隊も、そうした登頂ツアー隊の1つ。顧客たちは1人6万5000ドル(今の日本円にして約788万円)を支払えば参加できるというもの。そして、こうしたガイドツアーの存在自体が、エベレスト登頂挑戦者の数を劇的に増やすと同時に、さまざまな問題を投げかけているのだ。

 その1つが、頂上付近での渋滞。登山客が増え、天気予報の精度も上がったことから、山頂を目指す日時がバッティングし、頂上付近での渋滞を引き起こしている。しかも、渋滞が起こっているのが8000mを超えた山の上とあって、登山者たちは寒さなどで体力を消耗してしまう。

 また、自分が持ち込んだゴミは自分で持ち帰るのが原則となっている山だが、登山者たちの残す排泄物も大きな問題となっているという。
映画が描くのはエベレストの商業化の始まりの時代
 日本でも近年、テレビ番組の企画などで芸能人によるエベレスト登頂へのチャレンジが続いている。彼らの挑戦に関しては、プロの登山家などからも疑問の声が上がっている。

 そうした背景もあってか、ネパール政府は2015年9月に、エベレスト登山に関して標高6500m以上の山の登頂経験がない人や、重度の障害のある人、高齢の人の登山を禁止することを検討している旨を発表している。

 この映画が描いているのは、まさにそうしたエベレストの商業化の始まりの時代でもあることを心にとどめておきたい。

 なお、本作では最後に、この遭難事故で亡くなった人たちの写真が映し出される。この映画が実話に基づいていた作品であることを改めて実感させてくれる演出になっている。『エベレスト 3D』監督:バルタザール・コルマウクル 出演:ジェイソン・クラーク、ジョシュ・ブローリン、ロビン・ライト、サム・ワーシントン、キーラ・ナイトレイ、ジェイク・ギレンホール 配給:東宝東和 公開日:11月6日よりTOHOシネマズ 日劇ほかにて全国公開 『エベレスト 3D』:公式サイト

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