Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/42ff8f285f0a7ae7904e3a8e21b1eb4bd9e01aa3
日本政府は昨年秋から現在まで、外国人政策の見直しを急速に進めている。在留資格「経営・管理」の要件厳格化、永住許可制度の見直し、在留資格変更・更新や永住許可にかかる手数料の大幅な引き上げ――。わずか1年ほどの間に、外国人が日本で暮らし、働き続けるためのハードルは大きく高くなった。しかし、その影響を受けるのは外国人だけなのだろうか。製造、建設、小売、外食、物流、介護など、すでに日本社会のさまざまな場所で外国人が働き、私たちの生活を支えている。政策の厳格化を介護現場はどう見ているのか。関係者の声を拾った。(日中福祉プランニング代表 王 青)
● 人手不足なのに? 永住許可の厳格化
2025年10月、在留資格「経営・管理」の許可基準が大幅に見直された。事業規模の基準の一つだった500万円以上の資本金・出資額は、原則3000万円以上へ引き上げられ、日本国籍や永住権取得の常勤職員の雇用など厳しい要件が加わった。
今年に入ると、永住制度の見直しや在留資格の更新手数料など、幅広く変更した。
・国籍を取得(帰化)するための在留年数は従来の5年から10年に
・永住許可を取得する収入要件として、日本人世帯の平均年収以上(目安として年収575万円、月収換算で47万9000円※厚労省「国民生活基礎調査」)
・将来の年金受給見込み額について、厚生年金に30年間加入した場合の水準などを参考に審査する方向で見直しが検討
・永住許可の手数料が現行の1万円から20万円へ20倍に
・在留資格変更・期間更新の手数料は現行の6000円から最大7万5000円(12.5倍)に
厚生労働省によると、日本で働く外国人は約257万人。労働者のおよそ27人に1人にあたる。2009年には約112人に1人だったことを考えると、その増加は著しい。
筆者は東京から新幹線で夜遅く京都に着くことが多い。午後11時に近づくと、京都駅周辺の飲食店の多くは閉まっている中で、助かる店がある。その店の店員は全員外国人だ。また、最近よく利用している成田空港周辺の駐車場でも、外国人スタッフが重いスーツケースを丁寧に積み下ろしてくれる。コンビニも同じだ。
いまや外国人労働者は、日本人が当たり前だと思っている「便利な生活」を支える存在になっている。
その現実がより鮮明なのは介護現場である。
筆者は仕事柄、介護事業者と接することが多い。そこで日本人経営者の口から度々聞く言葉は「外国人スタッフはうちの宝物」である。
現在、日本の介護現場における人材不足は極めて深刻であり、厚生労働省の最新データによると、2026年度には約25万人、団塊世代がさらに高齢化する2040年度には約57万人(不足率約21%)が不足すると試算されている。どこの施設もスタッフの確保に頭を抱えており、事業存続の危機にさらされている施設も少なくない。さらに、台湾や韓国、シンガポールなども外国人介護人材を奪い合う現状である。
社会福祉法人伸こう福祉会(神奈川県川崎市、遠藤健 理事長)は、今、18カ国から168名の外国籍のスタッフを採用し、介護現場全体の20%を占めている。国別ではインドネシア、ベトナム、中国、ネパールなどが中心で、年齢層は低く、20〜30代が多い。法人所属の施設の中で、外国人の職員が全体の半分を占める特別養護老人ホームもある。
外国人の採用を担当する国際部特命部長の林燕さんは次のように語った。
「当法人で働く外国人スタッフはが非常に優秀です。特に東南アジア圏出身のスタッフは、『お年寄りを敬い、家族を大切にする』という文化があるので、利用者さんにやさしく接していて、利用者本人や家族からも感謝状を贈られたりして評判が良い。そして、持ち前の明るい性格で施設全体が明るくなり、利用者さんの笑顔も増えた」
「これまでは、施設長たちは外国籍のスタッフの採用に不安や抵抗を感じていましたが、今は、自ら外国籍のスタッフを入れたいと言うほど引っ張りだこになっています」
こうした外国人労働者は日本にとってありがたい存在であり、本来なら感謝されてもおかしくない。しかし、冒頭で触れた日本政府による一連の政策厳格化や、近年日本社会で高まる外国人への不満など、逆風が吹いている。
林さんは「外国籍のスタッフのみなさんは日本人と同賃金で、同じく納税し、社会保険に加入しています。なぜならそうしないと在留資格の更新ができないからです。それにもかかわらず、『外国人は日本の社会保障にタダ乗りし、ルールを守らない』と言われるのは、あまりにも理不尽です……」と嘆いた。
● 「無理ゲーだよ」 介護業界から悲鳴
厚生労働省が8月末に公表したデータによると、2025年の医療・福祉分野で働く外国人常用労働者は13.7万人となり、雇用の理由として約8割の事業所が「労働力不足の解消・緩和のため」と答えた。
医療・介護業界において特に危惧されるのが在留資格変更・更新手数料の値上げだ。本人負担が増えれば、日本で働き続けることをためらう人が出る可能性がある。人材流出を防ぐため、増額分を事業者側で負担する動きが出ているという。
SNSでは介護関係者から、次のような声が上がっている。
「これは無理ゲーだよ、介護業界も壊滅するんじゃないのか」
「今は給料を上げても日本人が来ない。助けてくれている外国人スタッフが日本から離れてしまったら、ますます人手がいなくなり、サービスが低下し、事故が起こる恐れがある
「閉鎖的、排他的な政策のしわ寄せは、結局、日本人自身に返ってくる」
東南アジアを中心に人材事業を展開する日本人経営者の知人は、日本の相対的な国力低下を懸念する。
「円安、物価高、実質賃金の低迷。それに外国人への厳しい視線や政策が重なれば、日本に来るメリットはなくなります」
「所得水準や購買力でもアジア諸国との差が縮まり、日本はもう、かつてのような豊かな『先進国』ではないです。また、日本人にとっても難しい収入要件を設定して永住申請条件を作ったら、若いときは働いて、年を取ったら帰りなさいと言わんばかりで、日本を選ぶ理由がなくなります」
そして、前述の知人は、日本人が見落としがちな論点を提示してくれた。
「移民に反対する人たちは、よくアメリカやヨーロッパ、シンガポールなどの国の移民政策に比べて、『日本は緩い』と主張しますが、今の日本の国力をアメリカなどと比べられるでしょうか」
一方、SNSでは「外国人なんだから日本人より厳しくするのは当然」「外国人が早急に日本から出ていけ!日本は日本人だけでいい」といった排外的な言葉が目立つ。
アジア・ヨーロッパから多くの国々が見学に訪れる神奈川県藤沢市にある介護事業者「あおいけあ」の代表である加藤忠相さんは、次のように警鐘を鳴らす。
「『外国人労働者なんて自分には関係ない』『介護なんて自分には関係ない』と思っている人もいるでしょう。しかし、いずれ自分や家族が介護を必要とします。外国人を排除した結果、社会のサービスを維持できなくなれば、その代償を払うのは結局、我々日本人自身です」
外国人政策について議論すること自体は排外主義ではない。外国人にも日本の法律や社会のルールを守ってもらう必要がある。そして、不法滞在への取り締まりや在留資格制度の適正な見直しは必要だと多くの在日外国人もそう思っている。
問題は、「外国人」というだけで一括りにし、日本社会を支えている人々まで排除する方向へ進んだとき、その先に何が起きるかである。
介護は一つの業界にすぎない。
コンビニ、外食、物流、建設、製造、農業――。日本社会の至るところで、外国人労働者なしでは成り立たない。
外国人が日本を選ばなくなったとき、困るのは誰なのか。これからどのような社会と生活水準を維持していくのか。これは日本人自身に突きつけられた問題である。
王 青

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