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〈ドンに訊く〉常総市にポツンと佇むカオススポット「亀仙人街」が“茨城七不思議”と呼ばれるようになった“意外な歴史” から続く 【写真】この記事の写真を見る(2枚) 賃金の未払いや人権侵害、劣悪な労働環境などを理由に職場を失踪する技能実習生は後を絶たない。技能実習生の立場を捨て、「浮遊する労働力」となった“逃亡実習生”たち。彼らはいったいどのような暮らしを送っているのか。 ここでは、フリーライターの室橋裕和氏が、数多くの外国人コミュニティが点在する国道354号線沿いを回りながら、各地の異国メシに舌鼓を打ち、現地の人々に取材を行った『 北関東の異界 エスニック国道―絶品メシとリアル日本― 』(新潮社)の一部を抜粋。逃亡実習生問題のリアルに迫る。(全2回の2回目/ 前編 を読む) ◆◆◆
生き抜くために「ボドイ」になる
逃亡実習生たちの最大目標は「稼ぐこと」だ。もはや雇い主や組合を気にする必要もないからと、犯罪もいとわなくなる。やはり実習先の農家から逃げてきたベトナム人男性フックさん(仮名)が言う。 「口座を売ったり買ったり、あとタクシーやってお金もらったり。盗んだものを買ってくれるベトナムのレストランや食材店もある」 タクシーというのは白タクだろう。それにギャンブルもやたらと多いそうだ。知人間のバクチにこっそりお金を賭けるのは日本人と同じだが、ベトナム人はその結果として多額の借金を抱えたり、取り立てるために拉致監禁したり、傷害事件になったりもする。農作物の盗難も多い。盗難車の無免許運転なんて珍しくもない。実習生時代は自転車だったが、逃亡したらクルマでかっ飛ばすのだ。2020年には、やはり354沿いの群馬県・太田市でベトナム人が豚を盗んで解体したとして逮捕される事件があったが、茨城でも根っこは同じだ。技能実習生の立場を捨て、「浮遊する労働力」となったベトナム人が、生き抜くため、それに稼ぐために手段を選ばなくなっている。
ビニールハウスの中で酒盛り
彼ら逃亡実習生は自らを「ボドイ(兵士)」と称し、日本各地でこっそりコミュニティをつくっているという話が話題になったことがあるが、茨城でも同じだ。フックさんがある動画を見せてくれた。 「これ、近くのビニールハウスの中」 50人ほどだろうか。20代、30代と思われるベトナム人の男女が酒盛りの真っ最中であった。みいんなボドイ、逃げ出した元実習生だが、中にはクルマ泥棒とか、無免許運転で当て逃げしたままのやつも混じっているという。その割になんだか堂々としている。フックさんが笑う。 「このすぐそば、警察署ある」 ボドイたちは警察上等なのか、そして警察は彼らの存在を知らないのだろうか。
「失踪したら、鉾田に行け」
やりたい放題ではあるのだが、一方で彼ら逃亡実習生は、地元の一部の日本人にとっては相変わらず「貴重な労働力」なんである。技能実習生という立場でもなく、日本の滞在期限をとっくに過ぎたオーバーステイだってたくさんいるのだが、それでもおかしなことに茨城の農村には仕事がある。雇っちゃう農家が多いのだ。浜田さんが言う。 「知ってますか。『失踪したら、鉾田に行け』って、ベトナム人の実習生たちの間で合言葉のように言われてるんです」 茨城県内でもとりわけ農業がさかんな鉾田などの地域では、逃亡実習生でもオーバーステイでも働き口がある。収穫や梱包、荷運びなどなど、農家の下支え的な仕事だ。技能実習生となんら変わらない作業なのだ。フックさんが笑う。 「私が働いてる農家、実習生もいる。私みたいなフホー(不法就労者)もいる」 ベトナム人というのは同じだが、かたや合法、かたやフホーの労働力が同居しちゃってるのである。
実習生よりも稼ぎが良い不法就労者
彼らフホーは、農家にとっては実はありがたい存在なのである。繁忙期だけ働かせることができるからだ。技能実習生の場合、基本的には3年間の契約で、当たり前だが雇用し続ける必要がある。その間コストがかかる。しかしフホーは、この作物の収穫期だけとか、夏の間だけとか、そういう使い方ができる。法律なんか関係ないので時間も無視してガンガン働かせても、そのぶんキッチリ給料を払えばいい。もちろんアシのつかないニコニコ現金払いだ。 フホーのほうも「いつ捕まって国に返されるかわからない」ので、いまのうちに稼ごうと、危機感を持ってマジメに働くのである。だから農家のほうは、実習生よりもむしろフホーを大事にすることがある。 「フホーを粗末に扱ったら、逃げられて通報されますからね。それもあってフホーのほうが立場が強かったりします」(浜田さん) 実際、フックさんは月によっても違うが稼ぎはだいたい25万円前後。「30万円、40万円くらい稼いでるフホーもいるって聞いた」。実習生よりぜんぜん割がいいのだ。そして農家としては、フホーはフレキシブルで便利な働き手というわけだ。
フホーは技能実習生よりも数が多い
なんとも奇妙な共生関係が成り立ってしまっているのだが、だから鉾田やその近辺の鹿行地域では、そこらへんの農家にも飛び込みでフホーがやってきて「なんか仕事ないですか」と笑顔で尋ねてきたりする。僕なんか鹿行地域の某所で、一面の畑の緑があまりに見事で思わずカメラを構え、そばで農作業をしていたおっちゃんに「写真撮っていいっすか?」と尋ねたら、 「いいけどよ、奥のほうで働いてんのフホーだから。カメラ構えたら逃げっかもな。ワハハハ」 という返事でアゼンとしたことがある。それほどまでにフホーはカジュアルな存在なっているのだ。浜田さんの推測では、「茨城の技能実習生は1万5000人ですが、フホーはそれよりたくさんいるかもしれない」という。フホーにはベトナム人が多いが、ほかの国籍もいる。逃亡実習生もいれば、元留学生も、難民申請経由から移行した特定活動(編集部注:特定活動は原則として週28時間以内だが就労もできるし、故郷に帰れない難民たちが日本で人生をやりなおすための、ひとつの目標ともなっている資格)の資格も切れた人もいる。そんな連中をひっくるめて「非合法な労働力」という意味で「フホー」と呼んでいる印象だ。 彼らはおもに北関東一円から流れてくる。ほかに働き場をなくした立場でも、鹿行地域の農村なら仕事があると考えている外国人は多い。水海道で大量リストラに遭った100人のネパール人たちの中にも、あるいはこのあたりで土にまみれている人がいるかもしれない。 そんなフホーが技能実習生とともに、茨城特産の野菜や果物をつくっている。東京都内のスーパーマーケットでは茨城産の品が実に多いが、そのうちけっこうな部分にフホーが携わっているのだろうか。
トイレ休憩もストップウォッチで測る
「10年以上前だと思うけど、このあたりはもともと中国人が多かったんだよ」 鹿行地域の農家、倉田順二さん(仮名)は言う。同じ技能実習生でも、ベトナムではなく中国の人々が「主戦力」だったそうだ。 「でも、中国はだんだん経済成長してったでしょう。だから若いのが来ない。それに、扱いや待遇が悪くて逃げちまうんだ」 鹿行地域の中国人実習生については、残業代の未払いで裁判沙汰になったこともある。残業代が規定よりもはるかに安かったというものだ。2018年に下った判決では実習生側の訴えを認め、未払金の支払いを命じたが、これを受けて「そういや俺も」と残業代未払いを申し出る実習生が続発。だが農家の中には「安くてもいいから残業させてくれって頼まれたからだったのに、どうして」と、いまも疑問に思っている人もいる。 「中国は経済発展とともに労働意識も高まっていった。だからこういうことも起きる。それなら次は、なんの知恵もないやつがいい。それでベトナム人に移り変わっていったんです」
実習生が日本語を学ぶことをよく思わない農家
しかし実習生への待遇は変わらず劣悪なところが目立った。前出の浜田さんが言う。 「問題があまりに多いことから、技能実習法が新しく制定されて、2017年に施行されたんです。その前は、人間扱いされていないような実習生もたくさんいました」 技能実習法では暴行や脅迫といった人権侵害行為に対して罰則を設けたこともあったし、実習生の置かれた実情をクローズアップする報道も増え始めたことから、全国的にコンプライアンス意識は高まっていった。 「でも、このへんは昔のままなんだ」 倉田さんが言う。 「最低賃金も雇用契約書も守らない。今月は半分休みでそのぶんは給料払いませんとか、それじゃ実習生だって生活できないでしょ」 以前は「知恵」をつけさせないためにスマホを取り上げる農家もあった(現在は違法)。SIMカードを売っているエスニック食材店に農家から「やめてくれ」と抗議が来たりもした。 それにいまも、実習生が日本語を学ぶことをよく思わない農家がある。言葉を覚えたらいろいろな情報を集められる。もっと待遇のいいところに逃げられるかもしれない。日本人に何か相談するかもしれない。それを恐れている。茨城でも外国人の増加を受けて、自治体や民間でいろいろな日本語教室が開かれているのだが、ここに実習生の姿はない。ある日本語教室の方は、「オープンしたときに農家もだいぶ回ったんですが、いまのところ実習生は誰も来ません。農家のほうから『行くな』と言われている場合もあると聞きます。そんな暇があるなら働けと」とため息をつく。
「就職しに来たわけで、奴隷になりに来たんじゃない」
フックさんが実習生として働いていたのは「体罰あり」の農家だった。ことあるごとに暴力を振るわれた。 「風邪ひいて熱があるのに、いちごのハウスで作業やらされた」 夏場のビニールハウスの内部は40度を超えることもあり、ほとんどサウナだ。熱があるのにそこに叩き込まれた。トイレに行くときも、ちょっと水を飲もうと手を休めたときも、農家のオヤジがすっ飛んできてストップウォッチで時間を測る。そのわずか数分のぶんを、給料から差っ引くのだ。なんともせせこましいのだが、「それは外国人だから、じゃない」と倉田さんが話す。 「日本人の働き手に対しても、そういうことをする。私は一時期、別の農家で働いてたことがあるんだけど、本当にしんどかった。就職しに来たわけで、奴隷になりに来たんじゃないと思ったね」 僕は群馬で聞いた話を思い出していた。外国人を酷使するような工場は、日本人従業員にもきつく当たる。どうやら農家でも同じようなところがあるようだ。
室橋 裕和/Webオリジナル(外部転載)
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