Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/8c02e2790b8792cd3bb0720dacdfa610f36ac4dc
エシカル消費とは、社会的課題の解決を考え、課題に取り組む事業者を応援する消費行動のこと。近年、実践する人が増えているという。 【写真】女性たちがエシカルする様子はこちら
* * * 「できるだけ自然に寄り添って生活し、できるだけ環境に負荷をかけないようにしています。衣服は新品を買わず、古着か、オーガニックのコットンや麻でつくるブランドのものを買っています」 こう話す20代の反田遥南さんは「異文化が好きで海外生活にあこがれていた」という。学生時代はフィリピンの大学に留学し、貧困地域で調査活動なども経験した。大学を卒業後はシステムエンジニアの仕事などを経て、自然に寄り添って米や野菜づくりをするブラウンズフィールド(千葉県いすみ市)が運営するカフェで働いている。 日本の街中には、流行に敏感で低価格のファストファッションがあふれている。そうした衣類は、海外の縫製工場で働く低賃金の労働者に支えられていることが多いと反田さんは言う。また、流行のある衣服は大量のロスが発生しやすく、捨てられることが多いとも。 反田さんは生産地への特別な思いから、ある衣料ブランドを選ぶ。「タイのツアーに参加し、村を巡らせてもらった。山岳民族が、自然の草木で染めていました」と話す。そのブランドの衣服を購入することで、村にはお金が入る。自然素材なので、着古した後に捨てるときも環境に負荷をかけないという。 日常で何か買うとき、反田さんは「目の前のものだけで考えず、その背景にあるものを考える」と話す。流行で選び、大量に買うのでなく、直しながら長く使うことを基準に考えている。 コーヒー好きの野口裕貴・エクネス(福井県鯖江市)専務取締役は、1日に数杯を楽しんで飲んでいる。コーヒー豆はハンドミルで挽き、電動ミルを使わない。以前はペーパーフィルターでこして飲んでいたが、いまは有田焼のセラミックフィルターなど、洗って何回も使えるものにする。使用済みコーヒー豆は乾かし、トイレなどの消臭剤に活用している。「ごみを出さないようにしている」と話す。 コーヒー豆はフェアトレードでないものが多いと聞き、野口さんは、有名なコーヒー店やメーカーの商品で環境などに配慮したものを選ぶ。フェアトレードとは、正当な対価を生産者に支払い、必要以上の農薬を使って環境を破壊せず、生産者の労働環境や生活水準のほか、自然環境にも配慮する、公正で公平な取引のことをいう。
フェアトレードのコーヒー豆は、安価なものに比べ「4~5倍くらい値段が高い」という。 こうした消費行動を野口さんが考え始めたのは、数年前に趣味で始めたサーフィンがきっかけ。「海でごみが多いことに気づき、休日に子どもを連れてごみ拾いをしていた」と話し、社会的な課題に関心を持つようになった。 野口さんが働くエクネスは、コンサルティングやダイレクトメールの手書き代筆などをする。最近はロボット代筆が多くなっている。 エクネスは昨年春ごろ、全国の提携農家から規格外の野菜を引き取り、顧客へ通販も始めた。同じころ、従業員向けにエシカル手当の支給も始めた。野口さんによると、従業員は家族も含め、古着を買って領収書を会社に提出すれば月額最大5千円が支給される。野口さんは、新しい服が大量廃棄されている問題を指摘し、会社が持続可能なファッションを従業員に推奨しているという。最近の若年層は、こうした会社の取り組みに関心が高く、求人募集には共感した人がたくさん応募してくると話す。 東京でファイナンシャルプランナーをする阿部理恵さんは最近、エシカル消費を意識するようになったという。家計相談をしていた昨年、相談者が取り組んでいたSDGsに興味を持った。SDGsとは、国連が2015年に採択した持続可能な開発目標のことで、消費者の安全確保や適正な取引実現など17の目標がある。 阿部さんは、化粧品のファンデーションをオーガニックなものに替えてみた。メイク落としにオイルなどを使わず、石鹸で洗い落とせる。「値段は若干高いけど、長く使えて、あまり気にならない」と話す。環境に優しい化粧品は値段が高くなるが、「自分のなかに許容範囲があり、年間にどれぐらいまで寄付できるか。化粧品は高くなっても数百円」という。 ■資産運用でもSDGs投信 オーガニックなファンデーションは、従来品に比べ薄くしか化粧できないが、コロナ禍のマスク生活で化粧をあまりしなかったため、「化粧している感じはある」と阿部さんは話す。次の買い替えでは、別のメーカーで自然に優しいものを探してみようと考えている。 資産運用でも、阿部さんはSDGs関連投資信託に「せっかくだから」と投資した。「今後もいろいろ試してみたい」と話し、オーガニック食品など体にいいものや、環境に優しい洗剤なども、次の買い替えで考えてみたいという。
東京の吉祥寺駅から繁華街を歩くと、ユニークな雑貨店「マジェルカ」がある。運営法人の伊藤みのり理事によると、ものづくりをしている全国50くらいの福祉施設から雑貨を買い取り、販売している。身体障害者や知的障害者の手づくりのカバン、陶器、小物などを店に並べる。 障害者が働く事業所は全国に2万以上あり、多くは企業の下請けや歩道の掃除などを行っている。パンやクッキーなども含め、ものづくりをするのは、そのうちの一部という。伊藤さんは「素敵なものをつくっているところもありますが、バザーなどで二束三文の値段で売られています」と話す。ものづくりや販売のプロが福祉現場にはおらず、一般市場に比べて控えめな価格をつけがち。販売は「バザーなどで、安くて当たり前というのがスタンダード」になっているという。 マジェルカは「福祉の分野でもフェアトレードで、適正な価格にしたいと、一般の市場でチャレンジしている」と伊藤さんは話す。大量生産の安価な商品と違い、「アート性のある手仕事の作品は一点もの」と強調する。店の商品には集中力の結晶のような、緻密(ちみつ)な刺繍や、豪快なセンスにあふれた織物を素材にした作品もある。「いろいろな手仕事にフォーカスして紹介している」という。「買ってあげる」ではなく、「素敵だから買う」となってほしいと伊藤さんは願っている。 マジェルカのように、障害のある人がつくる商品は、一般の市場で対等な競争ができない事情もある。伊藤さんは「福祉施設は小さくて、量産や計画的な生産ができません。少量のものを、すごく手間をかけてつくっています」と話す。 ■身近な素材で手工芸品づくり 一般の市販品と違い、一点ものの個性的な作品に高い価値を見いだす人がいても不思議でない。デンマークでは、障害のある人たちが手間や時間をかけて手づくりした作品だからこそ、一般商品の2倍の価格で販売していると聞いて、伊藤さんは驚いたという。こうした商品が「身近にあると知ってもらい、利用してもらいたい」と伊藤さんは期待している。
バングラデシュ産ジュート(黄麻)で編んだ籠などの手工芸品や、ネパール産コーヒーなどを日本で販売し、フェアトレードを推進するのがシャプラニール(東京都新宿区)。バッグやミニほうきなどのジュート製品を多く扱うほか、ネパール産の小銭入れ、石鹸やブランケットなども販売している。 日本には店舗がなく、ミニカタログを使った通販やネット販売となる。フェアトレード担当の小川晶子さんは購入層について「女性が多く、50代、60代がメイン」と話す。広報担当の長瀬桃子さんによると、購入するのは賛同者や、商品を気に入った人もいるという。 シャプラニールはバングラデシュが独立した翌年の1972年に設立された。現地で農業支援を始め、ネパールにも活動を広げた。市民による貧困のない社会を目指している。74年にはバングラデシュで洪水が襲った農村の復興に向け、働き先に恵まれない女性たちに収益機会を提供するため、身近な素材で手工芸品をつくり、日本で販売する支援活動を始めた。 ネパールでは持続可能な農業を目指し、コーヒーの生産や、日本での販売を支援する。コーヒー農園での栽培だけでなく、豆を乾かし、選定するなどコーヒー関連の仕事は多い。 小川さんは「地域の仕事づくりになる」と話す。現地では出稼ぎとそれによる人手不足の悪循環から、好循環につなげたいと期待する。 南アジアは労働環境の改善が遅れ、課題が山積みという。シャプラニールが扱う商品のつくり手は女性のほか、障害のある人もいる。行政や大きなNPO(特定非営利活動)法人の支援から取り残された人たちも含め、誰も取り残さない支援活動を展開している。 日々の消費行動は流行や安さを求めがちだが、消費行動の背景にある社会的な課題にも目を向けてみたい。(本誌・浅井秀樹) ※週刊朝日 2023年3月10日号
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