Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/e99e7b56f42d15309b8013734050c9caa1476073
乗客72人全員が死亡
1月15日、ネパールでイェティ航空のATR72旅客機が着陸進入中に墜落し、乗っていた72人全員が亡くなるという悲劇が起きた。 【画像】「事故現場」を見る 到着地で、ネパール中部にあるポカラ空港は天候も良好で、気象条件が原因でないことは明らかだったが、機体の異常を訴える通信もなく墜落している。 事故直後から、同機が大きく左に傾いて墜落する動画や、乗客が撮影していた機内の動画がネット上に配信されたが、それらの映像からも事故原因の推定は困難であった。そのため、機体の残骸調査やデータ・レコーダー(ブラック・ボックス)の解析が待たれていたものである。 なお、事故機の副操縦士は16年前に同社機の事故で亡くなった副操縦士の妻であり、夫の遺志を継いでパイロットになった女性であったため、センセーショナルに報じられて話題を呼んだ。機長は飛行時間2万時間以上の豊富な経験を持つ教官パイロットで、乗員の編成にも異常な点はない。 だが、この事故に関してネパールの調査当局が2月13日に発表した中間報告書(Preliminary Report)には、にわかに信じがたいパイロットの操作ミスが記述されていた。
信じられない誤操作
中間報告書によると、パイロットはフラップ(主翼の前縁または後縁に付けられた翼)を着陸位置(30度)に下げるべきタイミングで、フラップのレバーではなく、隣にある2本のプロペラ・ピッチの調節レバーを操作し、プロペラ角度を「フェザー」位置に設定していたというのだ。 プロペラのフェザーとは、エンジンが故障して停止した場合などに、プロペラが空気抵抗を発生しないよう、プロペラ角度を90度に固定することをいう。飛行中にプロペラをフェザーに設定すれば、たとえエンジンが回っていてもプロペラは推進力を発生しなくなる。飛行中にこのような操作をすることは、通常なら絶対ありえないことである。 フラップ・レバーの操作は機長の指示に従って副操縦士が行うが、彼女がプロペラ・ピッチ・レバーを操作してしまったのは、おそらく無意識によるものだろう。事故を起こしたATR72型機の場合、着陸後のエンジン停止の際にプロペラをフェザーにする操作を行うようだが、これを飛行中にやってしまったのだ。 こういう無意識の誤った行動は、日常生活でわれわれも経験することがある。料理に塩をかけるはずが、手近にあったソースをかけてしまうような現象だ。 飛行機の操縦では誤操作が重大な危険につながるため、レバーの形を変えるなどの工夫が施されているし、副操縦士の操作は機長が確認することになっている。しかし、コクピット音声の録音によると、機長も最後まで誤操作に気付いた様子がない。
異常操作に気付かなったパイロット
現在はまだ中間報告の段階なので、詳細の分析は最終報告書を待たなければいけないが、事故原因が誤操作であることは揺るがないと思われる。 飛行機に限らず、システムの操作系(ヒューマン・インターフェース)には、必ず誤操作への対策がなければならない。今回の誤操作でも、コクピットではエンジン推力が失われた警報としてチャイム音が鳴っており、その際には計器盤の警告灯も点灯したはずだ。しかしパイロットは、警報の原因を確認して適切な修正操作をすることができなかった。 報告書によると、誤操作に伴って警報音が鳴り、警告灯が点灯した後も、パイロットたちは通常の着陸前チェックに進んでいる。パイロットは警告灯の点灯を深刻に受け止めるべきなのだが、音声の録音からは、そのような形跡は見られないようだ。 その後、推力の異常に気付いたパイロットたちは「No power(推力が出ていない)」と会話しているが、プロペラの誤操作には最後まで気付かず、無意味にエンジンの出力レバーを上げるだけだった。 着陸の直前は低高度で速度も低く、パイロットがするべきことも多い。そうした中で異常な事態が発生すると、着陸前のチェックや操作を進めながら異常の原因を特定して対処するという、負荷の高い行動が求められる。そのなかで、パイロットたちは重大なミスを発見することができなかったのだ。 おそらく最終報告書では、パイロットへの適切な訓練の実施などが勧告されるだろう。しかし、だからといって機体側に問題がないとして思考停止するのではなく、将来の安全につなげるために、可能な対策を考えることも必要である。
人間が握る人命の安全
現代の航空機設計においては、人的ミスによる事故の防止は、ますます重視される傾向にある。機械的あるいは電気的故障による事故は、信頼性の向上によって大きく減っているが、人間が過失を犯す確率そのものは減らせないから、人的ミスによる事故の割合が相対的に大きくなっているからだ。 航空機の安全性を承認する耐空証明の審査基準においても、ヒューマン・エラーが起きないような仕掛け(フール・プルーフ)や、エラーをした場合でも危険に陥らない仕掛け(フェイル・セーフ)などが求められ、人的ミスによる事故を抑止するための改善が続けられてきた。 いうまでもないが、人間を相手にする以上、そうした対策には限界がある。人的ミスの撲滅を極限まで追求すれば、絶対にミスをしないコンピューターによる完全自動操縦に行き着く。航空機工学の分野では、コンピューターの故障やプログラムのバグよりも、 「パイロットの過誤による事故確率のほうが高い」 として、旅客機の「完全自動化」を検討すべきだとする見解もある。 しかし、完全自動化にはコストもかかり、なによりも利用者の不安が払拭(ふっしょく)できない。多数の命をコンピューターによる自動化に預けるということは、たとえ事故の確率が下がるとしても容認できないのが、人間の不思議な心理である。 従って、今回のような事故があっても、コンピューターによる操縦の補助や自動化が進むことがあっても、旅客機からパイロットが姿を消すことは考えにくい。人の命を預ける飛行機の安全は、 「人間パイロットが最終的な鍵を握るべきだ」 というのが、現代においても原則になっている。
ブースカちゃん(飛行機オタク)
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