2018年5月3日木曜日

最近日本でよく見かけるネパール人労働者たちはGDP世界172位の貧困国から来ている

Source: https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180426-00168423-dzai-bus_all
4/26(木) 、ヤフーニュースより
 3月後半から2週間ほどネパールを訪れ、カトマンドゥとポカラに行ってきた。忘れないうちに、旅の感想を書いておきたい。

 下はカトマンドゥのトリブバン国際空港から見た朝日。北京では同じような夕日を見たが、このように太陽を目視できるのは大気が濁って光を反射しているからだ。カトマンドゥは盆地で、都市化が急速に進んでいるため、近年、大気汚染が深刻な問題になっている。

 実際、カトマンドゥの街を歩くとマスク姿の地元のひとをたくさん見かける。大気汚染の最大の原因は古い車やバイクの排気ガスで、道が狭く常に渋滞しているため、さらに汚染が進むのだという。

 カトマンドゥの人口は100万人を超え、2030年代には300万人になると予想されている。それに対してインフラは脆弱で、1日に何度も停電するため道路に信号機を取りつけることができず、主要な交差点では排気ガスのなかで警察官が手信号で車を捌いている。それ以外の交差点は早い者勝ちで、先に車を突っ込んだ方に優先権がある。これでは交通事故が増えるのは当然だ。
友人と談笑するために不合理に銀行に並ぶ若者たち
 朝9時ごろ、ホテルを出て街を歩いていると、建物の前に長蛇の列が出来ているのを見かけた。ネパールでは男女が同じ列に並ぶことはないらしく、手前が女の子の列、向こう側が若い男の子の列だ。

 そのほかにも2カ所、同じような長い行列に遭遇した。彼らが入っていこうとしているのは、どれも同じ銀行の支店だった。

 そのあと、片言の英語を話すタクシーの運転手に訊いてみたのだが、彼らはネパールの地方からカトマンドゥに働きにきている若者たちで、ラーマ王を祀るラム・ナワミ(3月25日)やネパールの旧正月(4月14日)のために故郷に送金しようとしているらしい。しかしこの行列では、送金するだけで1日がかりになってしまうだろう。

 翌日、ヒマラヤを空から眺めるマウンテン・フライトに行くために朝5時半にホテルを出たのだが、この銀行の前にすでに何人かの若者が立っていた。10時開店とすれば、5時間ちかく並ぶことになる。

 その後、ATMから現金を下ろすために別の銀行に寄ったのだが、そこには行列はできていなかった。どうやら、送金手数料の安い一部の銀行に出稼ぎの若者たちが殺到しているようだ。

 しかし、これはどう考えても不合理だ。実家にいくら送金するかはわからないが、送金手数料のちがいはせいぜい数百円だろう。だったら、送金は近所の銀行でさっさと済ませて働くなり、デートに行くなりしたほうがずっとマシだ。さらに、この銀行の看板を見るとスマホで送金できるような説明がある。いったん設定すれば、何時間も並ぶ必要はなくなるだろう。

 しかし行列する若者たちを見ると、友人と談笑したりしてみんな楽しそうだ。だとしたらこの行列は、彼らにとって年に何度かのイベントなのかもしれない。
壊れた橋を直さず、川底を走るクルマやバイク
 ポカラはネパール最大の観光地で、ヒマラヤ・アンナプルナ山系の白く輝く山並みと美しい湖とが織りなす風光明媚な街として知られている。アンナプルナへのトレッキングの拠点としても有名だ。

 ポカラの初日は、ヒマラヤを眺めることができる山間部のホテルに泊まることにした。ポカラ空港でタクシーの運転手と交渉したら2000ルピー(約2000円)といわれ、ずいぶん高いなあと思ったらそれもそのはずで、4WDでなければ走れないような悪路を普通車で上っていく。いちばん驚いたのは道路が川にぶつかって、車がそのまま水のなかに入っていったことだ。

 それが下の写真で、オートバイが細い川を渡ろうとしていることがわかるだろう。しかしなぜ、こんな不便なことになっているのだろう。

 その理由は、付近を散歩していてわかった。ここにはもともとちゃんとした橋があったのだが、それが壊れてしまった。それで仕方なく、川に下りていく道をつくったのだ。

 しかしそれでも謎は残る。どう見ても、橋を修理するのがそれほど大変とは思えない。だったらなぜ、さっさとやらないのだろうか。

 ホテルにこの村出身のスタッフがいたので訊いてみると、「ネパールはみんなのんびりしてるからねえ」という返事だった。「でも、雨季が始まると川は渡れなくなるから、それまでにはなんとかなってるよ」

 ポカラから1泊2日でトレッキングに行ったときも、同じような光景に遭遇した。下の写真ではバスや車がダートロードを走っているように見えるが、じつがここは道路ではなく川底だ。本来の道路は川の左手を走っているが、そこが工事中なので乾季のあいだは川底を交通路に使っているのだ。
日本からの仕送りで建てた家「ジャパンハウス」
 ポカラで最初に泊まった山のホテルは、電気は太陽光発電、レストランは自分の農場で育てた有機農法の野菜、朝はしぼりたての水牛のミルクが届けられるというネイチャー指向で、宿泊者のほとんどは欧米からの旅行者だ。そんなこともあって、ホテルの近くを散歩していると、村人から英語で話しかけられる。

 彼らの話では、この村からはたくさんの若者が日本に出稼ぎに行っている。村にはところどころ、ほかよりも立派な家があり、それは「ジャパンハウス」と呼ばれている。日本からの仕送りで建てた家だという。

 ネパールからの出稼ぎ労働者というと、東電OL殺人事件で逮捕され、15年間の拘留ののちに無罪が確定したゴビンダさんが有名だが、2011年の東日本大震災で中国や韓国の労働者が帰国したあとはネパールやベトナムからの労働者が急増している。彼らは留学を名目に来日し、働きながら日本語を学んでいることになっている。日本に来るために100万円以上の借金をし、それを返済しつつ故郷に仕送りして立派な家まで建てているのだ。

 来日費用の100万円は、ブローカーと専門学校に支払われる。アジアでもっとも貧しい国に生まれたネパールの若者を、世界でもっともゆたかな国のひとつである日本で専門学校・日本語学校を経営したり、そこから給与を受け取っている「教育者」が搾取している。これは日本の教育業界の恥部だが、ふだんは立派なことをいっている教育関係者はこの理不尽な現実に見て見ぬ振りを決め込んでいる。
「フランスで死ぬのも、ネパールで死ぬのも、どこで死ぬのも同じ」
 せっかくポカラに来たのだからトレッキングを体験してみようと、地元の旅行会社で初心者向けの1泊2日のガイド付きツアーに申し込んだ。早朝にヒマラヤのビューポイント、サランコットまで車で行って日の出を見、そこから西に10キロほど平坦な道を歩き、オーストラリアン・キャンプと呼ばれるトレッキング基地まで登るコースだ。

 ポカラには世界じゅうからさまざまな観光客が集まってくる。わずか2日のトレッキング体験だが、面白いひとたちと出会った。

 下の写真はごくふつうの白人高齢者に見えるだろう。フランスからやってきたグループで、年齢は70歳を超えていると思うが、じつは筋金入りのマウンテンバイカーで、15日間にわたってアンナプルナの麓をマウンテンバイクでツーリングしているのだという。写真からはわからないが、全員、お尻から太ももにかけての筋肉がすごい。

 昼食時のレストランでたまたまいっしょになったのだが、午前中でツーリングは終わりらしく、男たちはウイスキーを回し飲みしている。そのなかの一人に「すごいですね」と声をかけたら、「フランスで死ぬのも、ネパールで死ぬのも、どこで死ぬのも同じだからね」との答えが返ってきた。

 昼食のあとは乗り合いバスで15分ほど移動し、そこからオーストラリアン・キャンプまで1時間半ほど山を登った。最初はたいしたことないと思ったが、かなり急な山道で最後は息が切れた(帰りはもっと大変で、段差の大きな階段を下ったら3日ほど筋肉痛が収まらなかった)。

 アンナプルナを一望できるオーストラリアン・キャンプにはいくつかのロッジやキャンプ場があるが、そこでサッカーをしている家族連れを見かけた。下の写真の男の子は5~6歳で、あの山道を登ってきたのかと驚いたら、実は彼らには1歳の赤ん坊もいて、母親が赤ん坊を背負い、父親が2人分の荷物を担いでトレッキングしているのだという。

 夕食のとき、一人で食事をしている中年の女性がいたので話しかけてみたら、彼女はイギリス人で、夫とネパールを旅行しているのだが、夫は本格派のトレッカーでアンナプルナのベースキャンプまで1週間かけて歩いているのだという。彼女はさすがにそこまでつき合えないので、ガイドを連れて近場のコースをトレッキングしているのだ。

 驚いたのは、「どれくらいネパールにいるの? 」との質問に「1カ月」とのこたえが返ってきたことだ。この夫婦は毎年長期の休みをとって、世界じゅうの山をトレッキングしている。最近はアジアが多く、去年はベトナム、一昨年はミャンマーの山を歩いたという。

 といっても、二人ともふつうの会社に勤める「サラリーマン」だ。職場はロンドンの南にある町の交通局で、そこで運行管理の仕事をしている。なぜ1カ月も休めるのかと訊いたら、クリスマスやイースターなど、ほかの職員が家族と過ごしたいときはすべて自分たちが働くという条件で会社と交渉し、認めてもらったのだという。「私たちみたいなのはイギリスでも珍しいんだけどね」とはいっていたが、有給休暇を消化することすらできない日本の会社ではありえないだろう。

 欧米からはるばるネパールまでトレッキングに来るひとたちが母集団だから一般化はできないものの、彼らと話していて感じるのは、「この世界に生まれた以上、生きているうちは思い切り楽しまなければもったいない」という価値観だ。旅行者同士がすぐに打ち解けるのは、この価値観を共有していることが暗黙の前提になっているからなのだろう。
ネパールの1人あたりGDPは732ドルで世界172位
 ポカラの周辺をトレッキングしていると、学校に通う子どもたちとよくすれちがう。小学生の男の子にガイドが英語で話しかけると、英語でこたえが返ってきた。ガイドの説明では、ネパールの学校は公立と私立があって、私立学校はネパール語の授業以外、すべての教科が英語で行なわれるという。

 教育にちからを入れているにもかかわらず、問題はそれを活かす仕事が地方にはほとんどないことだ。そのため多くの若者が、高校を卒業するとカトマンドゥに向かうか、外国で働こうとする。

 ネパールの1人あたりGDPは732ドルで世界172位、ミャンマー(1231ドル)の3分の2以下で、アジアではアフガニスタンと並んで最下位だ。

 故郷に仕送りするためにカトマンドゥの銀行に並んでいた若者たちも、日本のあちこちで見かけるようになったネパール人労働者も、こんな田舎からやってきたのだ。

 橘 玲(たちばな あきら)

  作家。2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部の大ヒット。著書に『「言ってはいけない 残酷すぎる真実』(新潮新書)、『国家破産はこわくない』(講談社+α文庫)、『幸福の「資本」論 -あなたの未来を決める「3つの資本」と「8つの人生パターン」』(ダイヤモンド社刊)など。最新刊は『橘玲の中国私論』の改訂文庫本『言ってはいけない中国の真実』(新潮文庫)が好評発売中。

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