2018年5月3日木曜日

「働く留学生」がこのまちを支えている

Source: https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180502-00218511-toyo-soci
5/2(水) 、ヤフーニュースより

コンビニ、外食産業、流通……。いつの頃からか、東京で働く外国人を見かけることは日常の風景になった。特に、日本人と接する機会の多い、接客業で働く外国人の多くが留学生で、その数は増え続けている。留学生を戦力とすべく、新たな試みを行う2つの企業の現場から、働く留学生を見つめる社会の「まなざし」を探る。
 最近、居酒屋やファストフード、コンビニなど、「接客業」で働く外国人の姿を見かけることが多くなった。地方の農家や自動車工場といった「東京の日常からは見えにくい場所」ではなく、「東京の日常の真ん中」で働く外国人たちの姿。彼らの存在は、変わりゆく東京や日本の未来を象徴しているかのようだ。

この記事の写真を見る
 データを見てみよう。現在、日本で働く外国人労働者の数は約128万人(2017年10月末時点、厚生労働省調査)。2008年の49万人から、ここ10年弱で、一気に2.6倍にまで増えている。地域別に見ると、東京都で働いている割合が全体の3割を超え、全都道府県でダントツの1位。隣接する神奈川、埼玉、千葉まで含めると、1都3県で全国の外国人労働者数の約45%を占める。

■学校で学びつつ、週28時間まで労働できる
 さて、彼ら外国人労働者の中でも、特に「接客業」で働く者の多くが、「留学生」であることをご存じだろうか。留学生は2017年5月時点で26.7万人。その数は5年前の16.2万人、10年前の11.8万人と比較して、やはり大幅に増えている。そのうち中国、ベトナム、ネパールなど、93%がアジア諸国出身だ。彼ら留学生は、日本語学校や専門学校、大学などで学びつつ、同時に「資格外活動」として週28時間まで労働することが認められている。
 東京に住む私個人の実感としては、留学生の存在が「接客業のアルバイト」として、日常の中で「あたりまえ」になったのは、ここ1、2年のことだ。果たしてその間、この国では何が起きていたのか。なぜ、最近になって突如として「働く留学生」が増えたのか。留学生の採用を進めていくうえで、学生側、企業側はどのような困難に直面し、どのように乗り越えようとしてきたのか。留学生の採用に現場で関わる人々に、話を聞いた。

 「弊社では、『シフトワークス』というアルバイト情報サイトを展開しているのですが、2016年頃から『人が採れない、どうしたらいいだろうか』という声を、企業側からよく聞くようになりました。その頃から、主婦やシニア層が注目され始めたのと同じように、外国人の採用にも目が向くようになってきたという流れがあります」

そう語るのは、株式会社インディバル、サービス推進本部の加藤寛康(ひろやす)さんだ。加藤さんは、昨年1月に留学生向けに特化した求人情報サイト「ニホンde バイト」を立ち上げた。サイトは日本語のほか英語、中国語、ベトナム語、韓国語など5カ国語に対応しており、日本語レベルに応じてバイトを探すこともできる。

 2年ほど前から始まった、深刻な人手不足。これが、留学生アルバイト急増の背景にあるようだ。特に居酒屋やコンビニなど、これまで日本人の若者や大学生を中心にアルバイトを集めてきた業界では、若い世代の人口減少の影響も大きいという。「ニホンdeバイト」で掲載しているアルバイトには、毎月延べ数千件の応募があり、現在もその数字は伸び続けているそうだ。
 留学生側に視点を向けると、彼らがアルバイトを見つける経路は、大きく3つに分けられる。日本語学校からの紹介、友人からの紹介、そしてウェブやフリーペーパー。宅配・運送業や工場での軽作業など、日本語が片言でもできるタイプの仕事は、日本語学校が斡旋していることが多く、「ニホンdeバイト」のような求人サイトでは、日本語をより必要とするサービス業のアルバイトを扱うことが多いという。

 求められる日本語レベルの低い順に、サービス業のアルバイトを挙げると、まずは居酒屋のキッチン、次に居酒屋のホール、そして最後にコンビニという順番になるそうだ。「コンビニは、たとえば宅配便の処理や公共料金の支払いといった多様な業務を覚えたり、スタッフ2人で回さないといけない時間帯があったり、とにかく求められるレベルが高いんです」。日本語でのコミュニケーションの必要性や業務の複雑さによって、仕事の難易度が上がっていくのである。
■ウェブからリアルへ。外国人スタッフも在籍

 「ニホンdeバイト」運営スタッフには、さまざまな国の留学生との会話に対応できるよう、20人もの外国人スタッフが在籍しているという。国籍は、ベトナム、インドネシア、中国、台湾、メキシコ、フィリピン、ネパールなど。さらに毎月数回、リアルな現場での「面接イベント」も開催しているという。「アルバイト情報サイト」という言葉のイメージよりは、だいぶ汗の匂いのする事業モデルのようだ。
「実は最初は、日本人向けサイトと同じように、ウェブで完結するビジネスだと思っていました。でも、事業を展開する中で、より踏み込んだ介在やサポートが必要だということがわかってきたんです」と加藤さんは言う。

 「大手の求人サイトにとっては、本気でやるほど大きな市場ではないかもしれません。手間やコストもかかりますから。実際、新しい事業者が、できてはなくなっていくという状況で、本当にこのビジネスが成り立つのかどうか、うちも含めて、まだ、どこも『正解』を見つけていないのではないでしょうか。だからこそ、チャンスだとも思っています」
 留学生向けのアルバイト情報サイトの利益を圧迫する要因としては、コミュニケーションや翻訳などで手間やコストがかかることに加えて、求人サイトに支払う費用を、日本人の採用に比べ低く抑えようとする企業側の姿勢もあるという。以前よりは、外国人の採用に積極的な企業も増えてきたが、いまだに外国人というだけでお断りという店も少なくはないそうだ。

 「外国人を雇う上で一番大事なのは『マインド』です。コンビニや居酒屋チェーンの本社が、外国人を積極的に採用する方針でも、現場の店長との意識のギャップがあることも多い。一緒に働く上で、日本での常識が通用しないことにイライラしたり、きちんと教育できずに放っておいたら、うまくいくものもいきません。今、留学生アルバイトに頼っている業種は少なくありませんから、雇用者側の意識を変えていくことが、とても重要だと思います」。
 留学生アルバイトを受け入れる側の姿勢の重要性は、実際に彼らを積極的に採用している企業の側からも聞くことができた。

 中国出身の金美香(きんみか)さんは、「はなの舞」などの居酒屋を全国展開するチムニー株式会社に2011年に入社。2018年2月、外国人の正社員やアルバイトを積極的に活用するために新設された、グローバル人財開発部の課長に任命された。金さん自身も、2004年に留学生として来日し、焼鳥屋などでのアルバイト経験もある。今は外国人の正社員を20人(現在は1000人中10人)、アルバイトを1000人(現在は9000人中600人)に増やすことを目標に、奔走している。
金さんはある日、現場のスタッフから、留学生との働き方の「コツ」を教えてほしいと言われたことがあるという。「コツなんてありません。愛情を持って育てようと思うかどうかが大事です。アルバイトをしている本人が『何で怒られているかわからない』と常にドキドキしている状態では、すぐに辞めてしまいます。『仕事が楽しい』と思うように育てることが大切です。そうすれば、自分の友だちを紹介してくれたり、さらに人が増えていきます」
 チムニーでもやはり、「2年前くらい」から、日本人を採用するハードルが高くなっている状態が続いているそうだ。事業の構造上、アルバイトを雇えなければ新店を出すこと自体が難しい。小規模の店舗でも、ホールとキッチンを合わせて、毎晩6人はアルバイトが必要になる。新しく採用した留学生アルバイトは、各エリアにある「教育母店」で2週間から1カ月ほどトレーニングを受け、その後、各店舗に配属される仕組みを構築した。留学生のメインの採用経路は日本語学校と専門学校で、特にベトナムは、現地で日本語学校を経営する「仲介業者」の存在が大きいという。その業者が留学生に対して、ビザの手配から、日本での学校や住まい、働き口などまで手配する。そのため、4月を中心に新しい留学生をまとめて採用することができるのだそうだ。また現在、来日しているベトナム人留学生には、2、3年前に来日した世代が呼び込んだ兄弟や友だちも多くいるという。
■課題は、卒業後の就労ビザの問題

 アルバイトが増えれば、「卒業後は正社員に」という流れも当然増えてくる。しかし金さんは、「それには課題が大きくて。就労ビザの問題です」と答えた。取材時の4月時点で、留学生アルバイトを経て、正社員の採用内定を出していた20名のうち、まだ3名しかビザが下りていない状況だという。「入管にビザが下りなかった方の再申請をしているのですが、入管はパンク状態で審査が長引いています。品川の入管に向かうバス停の前にも、長い列ができていました。一生に1度しかない入社式に出られないのは、かわいそうですよね」
 正社員として内定した方が申請しているのは専門的・技術的分野での就労ビザだ。留学ビザと異なり、いわゆる「単純労働」で働くことはできない。飲食店の接客業務は、この「単純労働」に当たるとされているため、アルバイト時代と同様の接客業務をすることはできない。従って、彼らは何らかのデスクワーク型の「専門的業務」に携わる旨を申請した上で、入管から承認を得る必要があるのだ。

 金さんによると、3月に学校を卒業した留学生たちは、7月までは留学ビザが有効だという。しかしその間、週28時間までのアルバイトは認められておらず、就労ビザが下りるまでは収入を得る道が閉ざされてしまうそうだ。今後、留学から就労へのビザ切り替えが増えていくことを考えると、「留学ビザが有効な間は、アルバイトでの就労を認める」といった見直しの検討も必要かもしれない。
 今回おふたりの話をうかがい、改めて感じたのは、深刻な人手不足の中で、「働く留学生」を「自分たちにとって都合のいい存在であってほしい」と安易に考えがちな日本企業側の傾向と、実際に彼らをアルバイトとして採用する上で直面する「それではうまくいかない」「ならばどうやったらうまくいくか」というリアルな学びの現状だ。

 加藤さんと金さんは、それぞれ自らが得た学びを、周囲の企業やスタッフに広めようと腐心しているように感じられた。「日本人が採用できないから、外国人でも採用するしかない」という企業レベルの発想。そして「単純労働は留学生などに例外的に認めるが、就労ビザでは単純労働は認めない」という国家レベルの発想。両者は違うことを言っているようで、どこか同じまなざしや論理を共有しているように思える。
 「違うけれど同じ人たち」と共生していくためには、謙虚さとリスペクトを持って、私たち自身のまなざしをみつめ直していく必要がありそうだ。当然ながら、文化も制度も自分たちの意思でつくり直せるし、いつだってつくり直していい。そのことを、忘れないようにしよう。
望月 優大 :ライター・編集者

0 件のコメント:

コメントを投稿