2018年5月31日木曜日

中印関係「雪解け」は一時的

Source:https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180529-00010000-wedge-asia
5/29(火) 、ヤフーニュースより
 中国の習近平国家主席とインドのモディ首相は、4月27~28日に、中国の武漢で非公式な首脳会談を行った。インド政府の発表によれば、要点は次の通りである。
 両首脳は、中印両国が経済大国、戦略的主要国として同時に興隆することが、地域と世界にとり重要な意味を持つと考える。平和的、安定的で、バランスの取れた中印関係が、現在のグローバルな不確実性の安定化にとり有益なファクターである、との見方を共有する。中印2国間関係の適切な管理は、地域の発展と繁栄に資するものであり、「アジアの世紀」の前提条件となる。

 両首脳は、中印国境問題に関する特別代表の作業への支持を表明し、公平、合理的、相互に受け入れ可能な解決を追求する努力を強化するよう求めた。中印国境地帯全域の平和と静穏の維持が、両国関係全体の発展において重要であることを強調。国境問題の管理における、両国軍間の信頼醸成、相互理解、予測可能性を高めるための戦略的ガイダンスを発表。国境地帯における偶発事態を防ぐべく、両国軍にさらなる信頼醸成の実施を指示した。

 両首脳は、2国間の貿易と投資を、均衡的で持続可能なやり方で前進させることで合意した。文化的、人的交流の促進についても議論し、新たなメカニズムの構築を模索することで合意した。

 両国は、戦略的対話を強化する必要につき合意。かかる戦略的対話は相互理解に役立ち、地域と世界の安定に貢献する。

 中印はそれぞれ、成長と経済発展を通じて世界の平和と繁栄に大きな貢献をしており、今後とも世界の成長のエンジンであり続けるだろう。開放的、多極的、多元的、参加型のグローバル経済秩序は、あらゆる国の発展追求を可能にし、世界中の貧困と不平等の除去に貢献する。

 気候変動、持続可能な発展、食料の安全、感染症との戦い、テロ対策など、グローバルな問題で、両国は協力する。

出典:‘India-China Informal Summit at Wuhan’インド外務省

 今回の非公式首脳会談は、毛沢東ゆかりの地である武漢で開催され、両首脳は、船上でお茶を飲み、インド音楽を聴くなどして、友好ムードを演出したという。中国外務省は、習近平が「今回の会談で両国関係の新たな1ページを開きたい」と語り、モディが「今回の会談は歴史的意義を持つ」と述べた、と発表している。両国とも、何らかの形で経済関係を好転させたい意図があることは、上記会談の要点からも見て取れる。しかし、中印関係が緊張する戦略的構図に何ら変化がないのであるから、武漢での首脳会談で演出された「雪解け」は、あくまでも一時的なものにとどまると考えられる。

 中印関係を緊張させる第一の要因は、1962年の中印国境紛争の原因ともなった、ヒマラヤにおける国境問題である。昨年だけをとってみても、次のような小競り合いが起こっている。6月に中国がブータンのドクラム高原に道路を建設し始めたことに対抗し、8月にはブータンの擁護者であるインドが部隊を派遣、中印両軍がにらみ合った。12月末には、インドが実効支配するアルナーチャル・プラデーシュ州で、中国による道路建設に対し、インド軍とインド・チベット国境警察が出動し、中国側の作業員を追い返すなどしている。

 中印間の緊張の大きな要因には、国境問題に加え、中国のインド洋への進出、中国とパキスタンの関係緊密化がある。両者はともに、最近中国が強力に推進している巨大経済圏「一帯一路」構想とも関連している。

 「一帯一路」のうち「一路」に当たる「海洋シルクロード」は、歴史的にインドの影響下にあったインド洋を舞台にしている。中国は、インド洋沿岸国へのインフラ投資を強化している。スリランカやモルディヴへの港湾建設は、その典型的な例である。また、中国はインド洋に海軍を積極的に展開し、インドに強い警戒感を与えている。

 そして、「一帯一路」には、インドの宿敵パキスタンが含まれる。この点は、インドにとって極めて重大である。インドとパキスタンは、カシミール地方をめぐって常に一触即発の状態にあるが、「一帯一路」の主要構成要素と位置づけられる「中国パキスタン経済回廊」は、そのカシミール地方を通過する。インドが強く反発するのは当然である。

 したがって、インドは「一帯一路」への警戒を隠さず、上記首脳会談の直前の4月24日に北京で開催された上海協力機構(SCO)外相理事会のコミュニケで、参加国中唯一「一帯一路」への支持を表明していない。「一帯一路」にはネパールも含まれるが、武漢での会談後の5月11日にはモディ首相が、親中派が政権の座についているネパールを訪問し、両国の関係強化で一致するなど、巻き返しを図っている。

 そして、インドは、中国のインド太平洋地域における影響力の増大に危機感を抱き、日米豪に接近している。日本が掲げる、自由、民主主義、市場経済、海洋の自由といった価値を基本に据えた「自由で開かれたインド太平洋戦略」は、インドにとっても魅力的に映ると思われる。中印関係が劇的に好転する要因は見当たらず、インドと日米豪との接近は続くことになろう。
岡崎研究所

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