2018年5月31日木曜日

政府の無策でネパール大地震の被災者にのしかかる「借金地獄」

Source:https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180523-00021128-forbes-int
5/23(水) 、ヤフーニュースより

約9000人が犠牲者となったネパール大地震から3年が過ぎ、現地では貧困による「人身売買」が広がっているのだが、自国のみならず、被害者女性たちの多くが連れて行かれるインドでも、政府は「人身売買の撲滅」を訴え、取り締まりの強化をアピールしている。

とはいえ、それでも「人身売買」がいっこうに減る傾向にないのは、それだけ原因となっている貧困が深刻化していることでもある。

言うまでもなく、その背景にはネパール政府の無策さがある。大地震から3年を経て、ようやく住宅再建も本格的に動き出したように見えるが、工事のために高利貸しからの借金を強いられた人たちも多く、さらなる重圧が被災者たちにのしかかっている。

ネパール政府が「復興」を声高に言う一方で、その足元はもろく、放置すれば足場が崩壊するのは必至なのが実情だ。

支援金を得るために高利貸しから借金

地震の最大被災地であるシンドパルチョーク県の県都チャウタラへは、首都カトマンズから車で3時間以上、山道を走らなくてはならない。ネパールには車の通れるトンネルはなく、道路は急峻な山道を縫うように通っている。舗装のない道路では、大きな揺れの連続で何度も座席からひっくり返りそうになるほどだ。

ようやくたどり着いたチャウタラ近郊の集落では、あちこちで家の再建作業が進んでいた。集落にあるのは47世帯。とりまとめ役のトク・スレスタさん(48)によると、地震で全世帯の家が倒壊し、2人が死亡したという。

政府の援助が届かず、昨年夏までは住宅再建は手つかずだったが、その後から一気にペースが進んだ。「何軒かがまとまって共同で建築資材を購入し、安く仕入れることができるようになった。専門知識のある石工も指導してくれている」スレスタさんはそう話し、雨期の始まる7月までに再建が完了することに自信を見せた。
 
集落の世帯をグループ化するとともに、石工を養成して再建の指導に当たらせるといった取り組みは、国際協力機構(JICA)の支援で行われている。支援の対象地区では、再建の着工率が8割を超えた。

だが、そうした「モデル地区」でも、住民の不安は消えていない。集落に住む50代の男性は、住宅再建の費用として20万ルピー(約20万円)を借りた。利子は30%。男性の月収が約3000ルピーであることを考えれば、それがいかに無謀な借金であるかがわかるだろう。
不安をさらに煽る悪質な銀行員の存在も
「再建にかかるカネが足りなかった」というのが借金の理由だが、高利貸しに頼る以外、方法はなかったのだろうか。実は、ネパール政府は民間銀行などに対し、住宅再建費用には2%の低利子で融資するよう指導している。だが、実際はほとんど機能していない。「返済能力」をタテに融資を断るケースが相次ぎ、なかには借り手に賄賂を要求してくる悪質な銀行員もいる。
 
ネパール政府は、被災した家屋を再建するため、1戸あたり30万ルピーの支援金を用意している。これは、ネパールでは小さな一軒家を建てるのに相当する費用だ。

支援金は一度には支給されず、3段階に分けて手渡される。1段階目は書類審査で「(書類を)出せば誰でももらえる」(地元記者)というもの。ここで支給されるのは5万ルピーだ。2段階目は、家の基礎部分が建てられたら15万ルピー、3段階目は、屋根を掲げる段階になれば10万ルピーという案配だ。
 
「段階ごとのチェックをして、耐震性のある住宅を再建する」というのが政府の弁だ。しかし、実際には最初の5万ルピーは生活費に消え、さらに15万ルピーを得るため、それよりも多い金額を高利貸しから借り、建築資材を買うという現象が起きている。

今年7月が2段階目の申請締め切りのため、多くの人が借金をして期限に間に合わせようとし、それによって建築資材の値上がりも起きているというから、まさに悪循環だ。

再建に着手できていないのは21万戸

ネパール政府による統計では、地震によって倒壊した建物は約79万戸。今年4月現在で、このうち約69万戸が1段階目の支援を受け、2段階目まで進んだのは約32万戸、3段階目までになると約9万戸に減っていく。

実際に再建に着手できていない家屋は、統計では約21万戸にのぼっている。7月に向けて、これらの数字は大きく変化することが予想されるが、その背景に借金まみれの構図があれば、けっして「復興が進んでいる」とは言えないだろう。

ネパールでは昨年12月に新憲法の下で初めての総選挙が行われ、野党統一共産党(UML)などの左派連合が勝利し、今年2月には新首相が就任した。大地震後、実に5回目の首相交代となる。新憲法では、2年間は首相の交代ができないことになっており、政府当局者は「これで安定した政治状況のもとで、復興のスピードアップを図れる」と自信をみせた。

選挙前には行政機能がストップし、シンドパルチョーク県などの山間部ではまったく機能していなかったと言っていい。それだけに新政権に対する期待も多いが、貧困層にのしかかる借金は、いずれネパール社会では大きな問題となることは間違いない。

連載 : South Asia Report
佐藤 大介

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