◆カトマンドゥ盆地(ネパール)上◆(1979年登録)
2015年、ネパール全土が大地震に襲われ、首都カトマンドゥをはじめ大きな被害があった。世界遺産の建造物も多くが破壊されて、修復困難なものもあるという。2011年に行ってみたが、当時と現在とでは状況は全く違うのだろう。
カトマンドゥのトリブヴァン国際空港には夜、着いた。急ぎ足で既に列が出来ているビザカウンターに。顔写真と申請書は用意していたが、その後に必要な入国カードをボックスから取って書きながら申請の列に並んだ。流れ作業で早く進む。係員にパスポートを奪われ、1人25ドルを支払うとビザのシールをペタリと張られた。間一髪で入国カードを書き終えて即入国審査。あわただしいネパール入りだった。
- ダルバール広場(旧王宮広場)の入り口
カトマンドゥの中心、ダルバール広場(旧王宮広場)に向かう道で、木造の家々の古さにびっくりする。昔のまま使われており、1階が商店になっている建物も多い。広場に入り、カトマンドゥ最古級、12世紀ごろに建てられたという「カスマンダプ寺院」に入る。「木で造った」という意味で、カトマンドゥの由来にもなったという。巡礼者の旅籠(はたご)としても使われていた木造の建物だ。信仰心が篤い国だと聞いていた。民族によって違いはあるそうだが、置いてある仏像とヒンドゥーの神の像を1つ1つ回ってお参りしていく。
- カスマンダプ寺院
- 巡礼者の旅籠(はたご)としても使われていた
白壁の旧王宮を背に広場を見渡す。左にはクマリの館があり、道を挟んでナラヤン寺院、真ん中に基壇が高くなっているシヴァ寺院は、ともに三重の塔だ。右にシヴァ・パールヴァティー寺院が目に入る。この広場には大小20ほどの建物があるという。しばし足が止まった。
- ダルバール広場の全景
ガイドに促されて「クマリの館」の門をくぐる。クマリはヒンドゥー教最高神・シヴァ神の妃ドゥルガー(パールヴァティーと同一神)の化身で、願いをかなえてくれる生き神。ネワール族の少女から選ばれ、月経が始まるまでこの館で暮らす。中庭に面した窓から時折顔を出すという。撮影は禁止で、残念ながら顔は見せなかった。「パタンにもいますので、会いに行きましょう」とガイド。クマリは1人ではないらしい。
- クマリの館
カトマンドゥ盆地には、主民族のネワール族の祖先が住んでいたが、4世紀にインド系民族が征服、13世紀にネワール族のマッラ王朝が治め、15世紀に3つの王国(カトマンドゥ、パタン、バクタプル)に分かれた。3王国が建築、彫刻など芸術で競い合ったという。
- 広場には木造建築が密集している
- 旧王宮外の広場は露天市場が開かれ、にぎわっていた
三重の塔になっている「シヴァ寺院」に上った。目の前に建つ旧王宮の真っ白い洋風の建物にはちょっと違和感を覚える。壁には英国国旗をデザインした透かしがあるのも、広場の雰囲気にそぐわない気がした。塔を下りて左に向かうと「シヴァ・パールヴァティー寺院」。2階の窓から夫妻の像が下界を眺めている。こんな発想は楽しい。
- シヴァ寺院基壇上から眺めた広場。正面が宮殿、右奥にクマリ館がある
- シヴァ・パールヴァティー寺院。2階の窓から夫妻の像がのぞく
旧王宮「ハヌマン・ドカ」に向かう。「ハヌマン」はヒンドゥーの猿の神で「ドカ」は門。門の名前が王宮全体を表すようになった。口にはあふれるほどの食べ物が押し込まれ、供え物に埋もれている人気者のハヌマン像がある門をくぐり中庭をのぞいてみた。閑散としていて、ただ広いという感じ。左にクリシュナ寺院の高い塔が見える。門の前には16世紀に建てられたジャガンナート寺院。柱などには官能的な彫刻が刻まれているので、興味のある方はじっくりと観察を。境内にはのんびりと牛が寝ていた。「野良牛」らしい。
- ジャガナート(左)とバンチャ・ムクヒ・ハヌマン寺院
- バンチャ・ムクヒ・ハヌマン寺院内部
- 広場には野良牛もいる
クマリの館に戻る途中、変わった石像があった。「カーラ・バイラヴ」という、シヴァ神が破壊神になったときの化身といい、頭蓋骨のネックレスや蛇を体に巻き、手には剣や生首を持っている。ただ、顔は意外とユーモラスで人気も高いようで、子どもも怖がらず普通にお参りしている。この像の前で嘘をつくと死ぬとされ、かつては罪人に像の前で自白させたという。閻魔大王? 人間界にとっては「正義の神」のようだ。
- 破壊神カーラ・バイラヴは人気の神だ
◇寄ってみました◇
行った時はネパール最大の祭り「ダサイン」の期間だった。ヒンドゥーのシヴァ神の妻の化身、女神ドゥルガーが阿修羅を退治したのを祝い、2週間続く。ドゥルガー像に人々が供えるのは食べ物がほとんどで、水牛、ヤギ、アヒル、ニワトリなどの雄を捧げて祝福してもらい、それを持ち帰って料理して家族らで食べるのが習わしという。「年に1度のごちそう。生け贄には生まれ変わりを願う意味もあって、次は水牛から人間になるかもしれない。阿修羅の乗り物の水牛は食べるけど、シヴァ神の乗り物の牛を食べない。牛を捧げても殺せないのでそのまま置いていく。だから、街には野良牛がいっぱいいるんです」とガイドは言った。
- 供え物で飾られたドゥルガー
ガイドの車がちょっと遅刻したが「お祓いしてきた」という。バンパーやタイヤに赤い粉がつけられていたが、正式にはドゥルガーに祝福してもらった動物の血で清め、安全を祈願する。「農具や刃物も事故がないように清めます」という。期間中、水牛、アヒル、ニワトリを「犠牲」にしているところを間近でみた。
- お祓いを受けてきた車
赤は幸福の色だという。期間中、額に赤い「ティカ」という、米粒を混ぜた染料を目上の者からつけられるので、街中は額の赤い人だらけ。特に子供たちは額いっぱいが赤くなっている。また、公園や空き地には4本の長い竹で組んだ高さ5メートルはありそうなブランコがつくられている。大地から足を離すのは縁起がいいそうで、子どもはもちろん、大人も乗っている。細いので大丈夫か心配だったが、意外と安定感があるブランコ乗りを久しぶりに楽しんだ。
- ティで額を真っ赤にした子供
- 竹で組んだブランコ
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