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ミャンマー人が都内の居酒屋やレストラン、コンビニなどで働く姿が増えています。出入国在留管理庁のデータによると、ミャンマー人の在留者数は2022年12月の5万6239人から2023年12月には8万6546人に増加し、2021年12月の3万7246人と比較して約2.3倍に増えています。 【この記事の他の画像を見る】 ミャンマー人の日本への来日が急増している理由の一つは、2021年2月1日に発生した軍事クーデターです。このクーデター以降、ミャンマー国内では民主化を求める抗議デモと武力衝突が続き、経済的混乱が深刻化しました。通貨チャットの急速な下落により食料や燃料価格が高騰し、観光客や海外投資が激減、外貨不足が顕著となっています。
■ミャンマー国内の経済活動が停滞 そのため、軍事政権は2021年8月に為替レート管理制を復活させたことも伴って、実勢レートとの乖離が進み、通貨価値はクーデター前の1ドル1300チャットから2024年9月には1ドル5200チャットと、約4分の1にまで下落する異常事態が発生しています。 このような国内情勢から、ミャンマーでは国内企業だけでなく外資系企業も撤退や事業縮小を余儀なくされ、経済活動が停滞しています。クーデター後、多くの大学が閉鎖され、大学生が卒業しても就職先がない状況が続いており、大学進学を希望する若者の数も減少しています。
2020年のコロナ禍以前には、大学受験者が90万人近くいたものの、2023年には16万人まで減少しました。大学受験者の減少だけでなく、大学を中退する若者や企業を自主退職する若者も増加しています。 将来の展望が不透明な中、家族の失職や経済的な理由も相まって、多くの大学生や若者たちは海外就職を目指すようになっています。 この層が、日本を目指すミャンマーの若者の急増に関係していると考えられます。日本への就労には語学力が求められますが、大学に通っていた学生や在学生、大学を目指す若者は勉強が得意で、語学を習得することがそれほど大きなハードルになっていません。
日本で働くミャンマー人は語学能力が高いと話す人は多いのですが、こちらの層を見てわかる通り、もともと素養の高い方が、新たに語学を学び海外就労を目指しています。 2024年3月末に出入国在留管理庁が発表した特定技能在留外国人数を見ると、ミャンマー人は1万5073人で国別では4位です。 資格別では、最多が介護分野の4730人で、次いで飲食料品製造業分野が2839人、外食分野が2219人となっています。サービス業が上位に来る理由は、このようなミャンマー国内における背景から来ているとも言えます。
■兵役法が若者の国外流出に拍車 ミャンマー国内の若者の海外渡航をさらに加速させた要因の1つは、2024年2月10日に軍事政権が発表した国民兵役法(2010年制定)です。この法律により、18~35歳の男性と18~27歳の女性が徴兵の対象となり、兵役期間は2~3年、緊急事態時には最長5年まで延長可能とされています。 徴兵を拒否した場合は最長5年の懲役刑が科される可能性があり、これを避けるために、さらに多くの若者が海外渡航を選択しています。
家族全員で夜逃げ同然に、パスポートを持たないまま陸路でタイへ逃れる事例が相次いでいます。トラックにすし詰め状態で危険な渡航を強いられるなど、過酷な条件で国境を越えるケースも多く、1万5000バーツ(約6万5000円)の報酬を支払えば、隣国タイに入国させる斡旋業者が複数いると言われています。 しかし、タイに入国しても、パスポートや労働許可証を持たない不法就労者となるため、就職できず、ミャンマーへも帰国できないまま、路頭に迷っているミャンマー人が少なくないと言います。
タイ労働省雇用局は、2024年9月19日時点で、同国で不法就労していたミャンマー人を累計19万3430人摘発したと発表しました。 これは氷山の一角で、Media Intelligence Group(MIグループ)が行ったタイにおけるミャンマー労働者の行動調査によると、現在タイには約680万人のミャンマー労働者が滞在しており、その多くが未登録労働者と報告しています。2021年時点で、タイの人口6617万人ですので、10人に1人はミャンマー人ということになります。
ミャンマーでは、徴兵制を避けようとする若者が増加している中、労働省は2024年5月1日以降、23歳から32歳の男性が技能実習生や特定技能生として海外で働くために必要な「海外労働身分証明カード」(OWIC)の新規申請を停止すると発表しました。この措置は、徴兵制の影響を避けようとする若者が海外での労働を目指す動きを抑制するためのものと考えられます。 ただし、4月30日までに申請を完了したケースについては、手続きが進行しており、6月以降もOWICの発給が続いています。そのため、技能実習生や特定技能生としての来日は今も継続されています。
なお日本での就労を希望する高度人材(ビザタイプ「技術・人文知識・国際業務」)については、2024年9月1日時点ではとくに制限は設けられていない状況です。 ■日本語能力試験の受験者数は世界2位 このような状況であっても、出入国在留管理庁によれば、2024年1月から6月までの半年間で2万9999人が来日しており、2023年の約2倍のペースで増加しています。 2023年度に実施された日本語能力試験(JLPT)には、ミャンマーからの受験者数が20万2737人に達し、中国に次いで2番目に多い国となっています。この数はベトナムの6万3482人を大きく上回っており、ミャンマーにおける日本語学習熱が他の国に比べても特異的に高いことがわかります。
2024年12月にミャンマーで開催予定の試験の受験申し込みはすでに終了していますが、申し込みを希望しながらも枠に達して申し込めなかった若者に多く出会いました。まだまだ、日本語学習への熱意が依然として高いことがうかがえます。 2024年7月23日に、大阪府・大阪市および大阪産業局が主催する「中小企業の経営者・人事担当者のための外国人材情報大交流会 in OSAKA」において、大阪産業局ビジネスサポートデスクの受託企業としてブース対応およびミニセミナーを担当しました。
大阪出入国在留管理局などの公的機関、大学、専門学校、日本語学校、大手人材派遣会社、監理団体など、産官学の51団体が参加し、約500人が来場する盛況ぶりで、大阪でも海外人材への注目度の高さがうかがえました。 同時に行われたミニセミナーでは、「深刻な人材確保は海外人材の活用で! 今注目されるミャンマー人材とは」というタイトルで、筆者が話をしました。40人の予定が100人を上回る人が参加するなど、注目度の高さがうかがえました。
関係者によると、日本語学校などの教育機関や企業で働くミャンマー人の評判は非常に高く、実際にミャンマー人を採用したいが、ミャンマーの情勢が不安定なことが心配となり、相談に来た人が多かったようです。大阪産業局の関係者とともに、ミャンマー人材への期待の高さに驚かされた1日でした。 2024年8月6日には、大阪商工会議所主催の「ミャンマー人材活用セミナー」にも登壇しました。完全オフラインでのセミナーにもかかわらず、定員100人に対して締め切り前にすでに満席に。当日の実際の来場者は80人以上となりました。
■ミャンマー人採用への関心が高い関西 ミャンマー人を実際に受け入れている企業の担当者として登壇した、大阪銘板株式会社の小泉八朗・取締役兼常務執行役員は、ミャンマー人を受け入れるに至った経緯をこう紹介しました。 「当初はベトナム人を採用していましたが、ベトナム人を採用する企業が日本全国で増えた結果、優秀な人材が全国に分散し、日本語を話せる人材を採用することが難しくなってきました。現場からは『日本語が通じず、仕事にならない。何とかしてほしい』という声が上がってきたため、2017年頃から、日本語が話せる優秀なミャンマー人に採用を切り替えていきました」
JICAが発表した2022年3月の「2030/40年の外国人との共生社会の実現に向けた取り組み調査・研究報告書」によれば、1人当たりGDPが3500ドルまでは経済水準の上昇に伴い出移民率(送り出し圧力)が上昇し、3500ドルを超えると出移民率が低下するという調査結果が報告されています。 技能実習生でいえば、1980年代から中国が、2010年代にはベトナムが主流となっていきましたが、いずれも来日当初は非常に評判がよかったものの、自国の経済発展とともに、日本語を話せる優秀な人材の採用が次第に難しくなっていきました。
現在、「ポストベトナム」と言われているミャンマー人の評判は非常によいですが、同じ道を歩むことが容易に想像できます。ミャンマーの場合、経済発展とともに緩やかに進むのではなく、政変によって急激な変化が起きているため、そのスピードはさらに速くなりそうです。 2024年9月2日付の日本経済新聞は、2023年に失踪した技能実習生の数は9753人と過去最多だったと報じました。失踪した技能実習生を国別に見ると、最多はベトナムの5481人、次いでミャンマーの1765人で、ミャンマー人は前年の2.9倍に急増しています。
沖縄県内を中心にミャンマー人技能実習生を受け入れているハロージャパン協同組合の島袋善徳代表は、沖縄県内でも複数のミャンマー人の失踪事例が出ていると打ち明けます。 ■能力により人材の二極化が進む それでも、全体としては「まじめでよく働き、他国の人材よりも日本語ができるというのが定評で、かつてのあいさつ程度の日本語力で来日して作業だけをしているというイメージからがらりと変わった」と述べました。 ミャンマー人材の二極化は今後さらに進むと予想されます。たんに「日本に行きたい」「日本語が話せる」人材と「ミャンマー人を採用したい」企業をマッチングするだけでなく、日本という環境や地域ごとの特性に適応し、正しく生活し、働ける素養を持つ人材かどうかを、来日前により厳密に選別することが今後いっそう求められるでしょう。
2024年9月、2025年4月の入学に備えてミャンマーで学生面接を行ったステップワールド日本語学院(沖縄県)の仲筋副校長は、「今回の面接では、昨年に比べて想定しているレベルに達した学生が集まらず、面接に至った学生が少なかったが5人が合格した」そうです。 また、以前の面接(徴兵の開始前)と比べて、日本に留学したいというよりもミャンマーから出たいといった、目的の曖昧な学生が多く、学歴や年齢も幅広い層からの申し込みがあったとのことです。
かつては、留学先として日本を選ぶ理由として、アニメなどの日本のサブカルチャーや文化に興味があることが挙げられていましたが、今回の面接ではどの学生も「日本は安全な国」という理由を挙げていたことが印象的だったそうです。 ただし、現在在籍するミャンマー人学生は、家庭学習の習慣が身についているようで、教員からの評価が高く「ネパールや他国の学生に比べて基本的に日本語能力が高いので、今後も受け入れていきたい」と意欲的です。
■沖縄の方言で会話する実習生も 沖縄県の医療法人社団輔仁会の宮迫尚矢主任は、2024年9月に初めてミャンマーを訪れました。同法人では2023年9月にミャンマーから2人の介護技能実習生を受け入れました。もともと2019年から毎年、フィリピンから受け入れていることもあり、職員・利用者とも外国人にはそれほど不安を抱いていない環境だったといいます。 宮迫氏は、「実習生らは日本語も理解しており、最近では利用者と沖縄の方言でも会話している姿も見られるようになり、施設で働く日本人スタッフや利用者からも、高い評価を受けているため、今年8月に2期生の面接を行った」と説明します。
面接も1期、2期生ともオンラインで行ってきましたが、知人がヤンゴンに行くということもあり、実際に自分の目でミャンマーの現状を確かめることにしました。また、内定者だけでなくそのご両親にもお会いしたいとも考え、ミャンマー訪問を決めたといいます。 「20代前半の娘を遠い異国で働かせることに不安はないかとご両親に尋ねましたが、誰もが口をそろえて『安全な日本に娘を送り出せてうれしい』と話しました。中には、紛争が続く危険な地域からヤンゴンまで来られたご家族もおり、その言葉の重みを強く感じ、身が引き締まる思いでした。ヤンゴンに行く前は、報道などの影響で『ミャンマーは危険ではないか』『銃声や空襲警報が鳴っているのでは』と周囲から心配されましたが、ヤンゴン市内では人々が日常生活を送っておられ、心配されたような危険を感じることはありませんでした。しかし、ご家族が住む地方の状況を聞くと、防空壕に入って避難していたなど、生々しい話もあり、ミャンマーの現状を改めて実感するとともに、日本では当たり前の『安全』というもののありがたみを感じました」
「ミャンマーの方々の覚悟や背景は、たいへんの一言だけでは終わらせることはできず、ネットやテレビでは伝わらないミャンマーの実情を、多くの日本人にもぜひ足を運んで感じてほしい」(宮迫氏) ミャンマー経済に詳しい、政策研究大学院大学の工藤年博教授は「ミャンマー国軍が権力を掌握した後、多くの高校や大学の教員が辞職し、高等教育を受けられない若者が急増している。雇用状況の悪化とともに、職場での技術習得の機会も減少している。このままでは、教育や訓練を受けられなかった若者世代が生まれる恐れがある」と指摘します。
「ミャンマーの若者を日本で留学・研修・就労させることは、将来のミャンマーの発展に不可欠だ」とも工藤教授は付け加えます。 ■将来のミャンマーの国づくりのためにも 現在もミャンマーに残るミャンマー人の日本語教師は、「私が日本に働きに行けば、私自身の人生は幸せになるかもしれません。しかしミャンマーに残れば、より多くのミャンマーの若者に日本で働くという希望を与えることができます。ミャンマーが回復するときには、若者が必要です。だから私はミャンマーに残り、若者たちを育成したいと思っています」
「ミャンマーの未来を危惧すると同時に、早く平和が戻り、国民が安心して暮らせるミャンマーに戻ることを切に願う」(仲筋副校長)
西垣 充 :ジェイサット(J-SAT)代表
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